憂依
2024-08-31 00:48:24
9625文字
Public
 

エドぐだ♀イド大喧嘩編抜粋

イドクリアしてからちまちま書いてる弊カルデアのエドぐだ♀がイドで大喧嘩する話の抜粋。イドは書きたいネタが多すぎて困る。
弊カルデアのエド高ぐだ♀三人CP前提エドぐだ♀で、イド本編を弊カルデアのエドぐだ♀ならこうなるだろうなあという感じで再構成したお話です。

うちのぐだは基本泣かないしみんなの前では見栄張って強がってる子なんだけど、巌窟王の前でだけ泣くし弱音を吐くし弱いところを見せます。ぐだが自分には涙も弱みも見せてくれないので高杉さんの巌窟王が嫌いな理由その4くらいになってます。
最後のくだりはここが巌窟王が作った特異点で、もうこの世界にぐだと巌窟王しかいないのが分かってて、感情めちゃくちゃになった故の突発的な行動です。直後に大後悔して巌窟王と仕切り直しで戦おうとしますけど、仲直りと最後のセックスをしてからモン伯戦をやります。(なんて??)

地の底まで続いていそうな螺旋を、立香は一人下りていく。
味方はいない。
供をするサーヴァントはなく、ついてきてくれたサーヴァントは退去し、何度も手助けをしてくれた黒い影も霧散してしまった。
簡易召喚で呼びだせるサーヴァントの影だけが、彼女に残された戦力だった。
だが、立香に不思議と恐れはない。その足取りは淀みなく、力強く一歩を踏み出していく。
つい先ほど絶命に至る傷を負ったばかりにも関わらず、彼女はただ真っ直ぐに前を見据えて、この先に待つ人物を目指していた。
彼女の胸を占めるのは、行き場を失った憤りと悲しみ。
なぜ、どうしてと、そんな疑問ばかりが頭の中をぐるぐると駆け巡る。

数時間前に別れた、ジャンヌ・オルタの言葉を思い出す。
先ほど別れた、ハサン・サッバーハの言葉を思い出す。
最後に見た、巌窟王の言葉を思い出す。

(たぶん、きっと、そういうことなんだろうな)

確信があるわけではない。
時々現れる見慣れた姿をしたシャドウサーヴァント達を、簡易召喚した影たちで打倒しながら、螺旋の世界を降りていく。
言葉はない。一人の彼女に、話しかける相手などいないのだから。
ただ、誰かの語る言葉が、頭の片隅をかすめていくばかり。
だから、彼女は考える。これまでのことを、欠けたパズルのピースを埋めるようにつなぎ合わせていく。
彼女の中で、推測は次第に形を成していく。後は、この先で待っている人物に対して、答え合わせをするだけだ。


――――そうして、どれほど下りたことか。
時間の感覚も曖昧な中、暗がりから湧き上がるように人影が一つ、彼女の前に現れた。

「一人か」

現れたのは、立香が会いに来た相手。
いつもとは違う見慣れぬ姿をした、見慣れた立香の愛する男……巌窟王エドモン・ダンデスが、そこには立っていた。

……キミが言うの、それ」

思わず、口から漏れたのは悪態だった。
これまで立香と共に戦ってくれていたジャンヌ・オルタもサリエリも景清も、巌窟王になにかを吹き込まれて立香の前から去っていった。
一人になった原因を生み出した巌窟王がそれをいうのかというわずかばかりの皮肉を、彼は気にもとめていないかのように自分の疑問だけを口にする。

「人理の寄越した影は」
……ハサン君は、もう消えちゃったよ。キミの差し金だったの?」

一瞬何を言っているのかと思ったが、自分に協力してくれていた輝星のハサンのことを指しているのだと気づいて、逆に問いかける。
最後まで自分の味方をしてくれた暗殺者は巌窟王の回復宝具を持っていた。
彼の口ぶりからも、巌窟王と以前から……もしかしたら、最初から繋がっていたのかもしれない。そんな思惑で問いかけるも、巌窟王は答えない。

「そうか。詐術師はどうだった」
……最後まで、思った通りの人だったよ。最初から信じてなかったけど。……ねえ、それ、今重要なこと? こっちは、キミに聞きたいことが山のようにあるんだよ。わたしに質問してくる以上、キミも、当然わたしの質問に答えてくれるんだよね?」

一歩、前へ進む。
巌窟王との距離を縮めていく。
いつになく、言葉尻に感情が乗ってしまう。己の内から湧き上がる感情を、立香は今この時だけは抑える術がない。
それでも、立香はまだ理性的だった。そうでなければ、彼女は問答無用で巌窟王の横顔に拳を叩きこんでいただろう。

「断るといえば、どうなる」
「答えないならいいよ。わたしが、勝手に喋るから」

一歩、前へ進む。
足が駆けだしそうになるのを抑えて、立香はじっと目の前に立つ男を見つめる。
彼女の瞳はいつになく爛々と怒りに燃えている。
それは、先日まで彼女の心を焦がしていたものとは全くベクトルが異なる怒り。その怒りの矛先も理由も、巌窟王は理解すらしていなかったが。

「キミがこの場所を作り出して、わたしに試練を与えてる元凶だって知った時。最初は、わたしを殺したいのかなって思った。キミが、わたしを苦しめて、追い詰めて、その果てに殺したいのなら、それもいいかもしれないってちょっと思った」

一歩、前へ進む。
巌窟王の纏う雰囲気が、わずかに硬くなる。それは自分のすぐ目の前にまで近づいてきた立香に対してか、立香が口にした言葉に対しての反応か。立香には分からないけれど、今の彼女には関係のないことだ。
彼女の歩みも言葉も止まらない。

「でも、そうじゃないってすぐに気づいたよ。キミがわたしを本気で殺す気なら、いくらでも機会があったし。手段を選ばなければ、いくらでもやりようがあったもの」

思い返す。
立香の前に立ちふさがった試練は、皆、一様に同じことを言っていた。

『明日を求めるならば抗え』

それは黒い影であった巌窟王が口にした言葉でもあった。

『旅路を、続けるならば。明日を、求めるならば。七つの試練を超え、七つの恩讐を砕け』

もし本気で立香を殺す気でいるのなら、死にたくないのなら抵抗しろ、というようなことをいう意味がない。
彼ら試練は立香が立ち向かう事を前提としたものだったのではないだろうか。そう考えた。
なぜなら、試練とはなにかを試すこと。
七つの試練。それは、いつかの監獄塔を思い出させる。
あの時もまた、巌窟王は立香が七つの試練を乗り越えるようサポートしながら、最後には立香を生かすために自分が七番目の試練となり、立香に倒される道を示した。
もし今回の騒動は、あの時の再演だとしたら。

「でも、キミはそうしなかった。わたしが戦いやすいように、試練を配置していた。そうして、最後にはこうしてわたしの前に……倒されるために、立ちはだかっている」

気が付けば、立香は巌窟王と触れ合うほどに近づいていた。彼の眼前、鼻先が触れあいそうなほどの距離で仁王立ちながら、立香は巌窟王を見上げた。

「キミが、あの三人を殺したんだよね。……バカだね、あの時、嘘でも違うって言えばよかったのに。でも、キミがそんな器用な事できる人じゃないって、分かってるからさ」

巌窟王が何も喋らないのをいいことに、立香はひたすら想いを吐き出していく。
体育館でカリオストロと対峙した際、現れた巌窟王はカリオストロの発言を訂正することはなく、立香の問いかけに応える事もしなかった。否定も肯定もしない彼の言動が、既にそれを真実だと雄弁に物語っていた。
互いの息遣いが触れあいそうなほどの距離で、仮面の向こうにあるであろう瞳を見据えながら、立香は告げる。

「全部、わたしのためなんだよね。それがどういう理由かなんて、全く分からないし、理解もできないけど。……でも、キミはいつだってそうだった。……キミはいつも、わたしのことを、助けてくれたから」

例え霊基や姿が変わっていても、立香にとっては彼は何も変わらない。ただ、彼女の愛した男だ。
それが、今はひどく立香の胸を締め付ける。
溢れ出しそうになる感情を押さえつけながら、立香は静かに訴える。

「でも、でもさあ。それって、本当にあんな方法を取らなくちゃいけないことだったの? あの三人を、必ず殺さなくちゃいけないことだったの?」

ピタリと寄り添った身体。触れそうなほどに近づいた顔。
だというのに、心だけが遠く離れているよう。
今まで、多くの時を共に過ごして、幾度となく体を重ねて、心を通わせてきたはずなのに。
いまはこんなにも、巌窟王が遠く感じる。

「黙ってたら何も分からないよ! わたしが傷つくことを分かってやったんでしょう?! だったら、仮面を外してわたしの目を見て、胸を張ってそうだって言いなよ! わたしのためにあの三人を殺したんだって、自信をもって言いなさいよ!」

弾劾する立香の叫びが、黒い螺旋に響き渡る。
彼女の瞳から、激情が涙となって零れ落ちた。
誰よりも信頼していて、誰よりも愛しているからこそ、立香は訴える。
あの三人を殺すことが、なぜ自分のためになるのか。理解できないし、理解もしたくない。
それでも、立香はなぜと問いかけずにはいられなかった。

…………
…………
 

――――しばし、沈黙があたりを支配する。
 
立香は、ただ真っ直ぐに巌窟王を睨みつける。視線を逸らすことなく、強く。
辛抱強く巌窟王の次の言葉を待つ立香に、先に折れたのは巌窟王の方だった。

…………なるほど。確かに、道理だ」

自分を睨みつける立香に根負けしたかのように、巌窟王はゆっくりと、暗黒の仮面を外した。
その顔は見慣れたいつもの顔ではなく。
顔の左半分は崩れかけ、割れた顔は昏い闇のように空洞が広がっていた。
そんな姿を見て、立香は、

――――ああ、好きなんだよなあ)

思わず、そんな場違いな思考が湧いて出てきてしまう。
何度見ても、自分の愛する人の顔はかっこいいのだと、いつも通りに思ってしまう。こんなひどい仕打ちをされても、立香の中の巌窟王への想いは薄れることはなく、彼女の心に根付いている。
そう考えてしまう己に、けして小さくなることのない巌窟王への想いに、瞳の奥が熱くなる。
一方、巌窟王は立香がそんなことを考えているとは思いもしないだろう。
彼はわずかに瞑すると、静かに立香に対峙した。

「ああ、そうだ。おまえの母が如きモノも、お前の妹が如きモノも、おまえの隣にあって微笑むモノも、すべて。私が殺した。全てはおまえに、復讐――――その力と意味を教えんがため。私が、この手で三人を殺したのだ」

言葉は、出ない。
確信していた事実を、改めて突き付けられただけのこと。立香の胸が悲鳴をわずかに上げるだけだ。
そして、巌窟王は立香の何故に応えるように語る。
復讐が持つ力の凄まじさを。それを達成した時の甘美を。
三人を殺され抱いた怨み、それを犯人の仲間と思われるニトクリス・オルタにぶつけた時に抱いた恍惚を、立香に味合わせる必要があったのだと。

――――復讐、お前にはどんな味だった?」
「それで? そんなことをして、いったい何の意味があるの。どんな大層なお題目があれば、キミが手を汚す理由になるの」

あの三人を殺すことが、一体なぜ自分のことになるのかと、繰り返し立香は問いかける。明らかに明言を避けている巌窟王の物言いに、立香が苛立ちを募らせていく。
彼女は怒っている。
彼の起こしたこの事件にでも、彼が殺害をしたことに対してでもない。
恋人の不誠実さにこそ、立香は最初から怒っている。
問いかけに対し、巌窟王は口元をわずかに歪め、告げる。

「いいや、おまえには分かる筈だ。本当は分かっているとも。――――決戦の地へと至る、おまえの魂が。復讐者となり得る炎を秘めていることを」

巌窟王のいつも通りの迂遠な言い回しが、今はひどく腹立たしい。こっちの質問には簡潔に応えろと眉間にしわが寄る。

「かの名探偵であればこう言うだろう。地球白紙化とはすなわち、魔神王のもくろんだ人理焼却と同じくして、おまえの故郷と、家族、友人……それらのすべてを含めた……一大殺人であるのだと」

そっと、巌窟王の指先が立香の頬を撫でる。
いつもと同じ触れ方。彼女の輪郭をなぞるように指先を滑らせながら、彼は謳うように訴える。

……そうとも。おまえは、知っている。分かっているさ。おまえの故郷、家族、知己、あらゆる命……お前の過去に属するすべては、既に、悉く! 白紙化という手段によって、皆殺しにされている! だからこそ! おまえは、望むだけで――世界最後にして、最大の、復讐者となるだろう! その復讐、その憎悪、恩讐の果て! 拒む者など在りはしないとも! 何故ならば! この白紙の世界にあっては! 最早――――オレたちこそが復讐の神である! たとえ――、たとえ、天上におわすお方が許さぬとしても。復讐の神たるオレ達が許そう。おまえの復讐を。おまえの憎悪を」

……なんとなく、彼の言わんとすることの輪郭が立香にも見えてきた。
ただの人でありながら、アレクサンドル・デュマの手により己の復讐劇が世界中に広まったことで、復讐者の代名詞となったエドモン・ダンテス。
だからこその、アヴェンジャー、巌窟王。
今、立香の身に起きていることは大枠で言えば同じなのかもしれない。
人理漂白により、人類はストームボーダーにいるカルデアのごく少数しか残っていない。今や、カルデアの意思こそが人類の総意となってしまった。
だからこそ、カルデアのマスターである立香の意思は立香が望むと望まざるとも人類の代表となってしまう。
その彼女が復讐者に身を窶せば、確かに彼の言う通り、立香は世界最後にして最大の復讐者と言えるだろう。
巌窟王の言い分には、確かな説得力があった。
立香自身そんな風に考えたことはなかったけれども、客観的に見れば彼女は復讐者になりえる素地が生まれているといえなくもない。

……ううん、違う。もしかしたら、わたし自身が気づいていないだけで、わたしは復讐を望んでいたのかもしれない)

立香はいつだって、自分の願いのために、自らが生きるために生きてきた。世界を救うだとか、人理を守るだとか、そんなものは立香の手には大きすぎて、とてもではないけれど背負いきれるものではなかったから。
死にたくなかった。終わりたくなかった。生きていたかった。ただその一念だけで、立香はこの長い道を走り続けてきた。
けれど。
その心に、他の想いが芽生えなかったかと言えば、それは嘘だ。
戦いの中で、立香は世界をこんな風にした誰かを恨んでいたかもしれない。
人理焼却を解決し、ようやく元の平穏な日常に戻れるはずだったのに、全てが台無しになり、再びマスターとして戦うことになった。
帰るはずだった場所も、ようやく再会できる筈だった人々も、大好きだった文化も、何もかもを再び奪われて、失った。
そのことを、その元凶となった真犯人に、報いを受けさせてやりたいと思ったことはなかっただろうか。
それも、復讐心というのではないだろうか。

(でも。仮にそうだとしても、あの巌窟王がわたしにそんなことを言う?)

立香に対して、復讐者に相応しいなどと、そんなことを思うだろうか。
彼はむしろ、全く逆の意見をもって、立香に問いかけているのではないかと。
だから、立香はやはりこう口にせざるを得ない。

「それを伝えたいのなら、わざわざキリエたちを殺す必要なんてないじゃない」
「ああ、そうだな。おまえであれば。――そう口にすると、思っていたさ」

それが分かっていながら、それでもキリエたちを殺したのだと、彼は言う。

「その言葉には一定の真実と意味がある。目的のために犠牲など、あってはならない。犠牲亡き成功こそが美しい。ああ、認めよう。…………だが。だが、だ。立香。故に問う。此処に我、巌窟王エドモン・ダンデスが――

一瞬、巌窟王は言葉を詰まらせる。
わずかに表情を曇らせたのを、立香の眼は見逃さない。だが、それは一瞬で掻き消え、代わりに彼は高らかに叫んだ。

――――否、否、否! 殺人者、巌窟王モンテ・クリストが今こそ問う! 藤丸立香! 明日を目指した旅路の果て! ――――南極、決戦の地へと遂に至った時! 貴様は果たして何を成す! 何のために! 旅を終えるのか!」

その答を聞きたいのだと、巌窟王は叫び、問いかける。
けれど。

……………………

立香はその問いかけに、応えられなかった。
返答に悩んだから、ではない。
全てを理解して、立香はようやく、自分が愛する男に裏切られようとしていることに気が付いてしまったからだ。

「いいたいことは、それで終わり?」

声が、震える。
視界が滲みそうになる。
それでも立香は、自分が愛した男を信じたくて、縋るように問いかける。

「もう、わたしに言うべきことは何もないの? 他に、わたしに言うことがあるんじゃないの?」

巌窟王は、答えない。
質問に質問で返してきた立香に応える気がないのか。返答以外は聞く気がないのか。

それが、全てだった。
それが、立香の限界だった。

(ああ、なんだ。結局)

がらがらと、足元が崩れていく音がする。

(最初から、わたしとの約束を守る気なんて、さらさらなかったってことなんだ)


――――それは、彼女を絶望へと叩き落すには、十分すぎるものだった。