むかしむかしあるところに一羽の鶴がいました。
鶴は特殊な性癖を持っており、「
番になる相手は頭のてっぺんの丸が大きいといいなあ」とやたらと思っては興奮していました。
タンチョウヅルはその名の通り、赤い頭が美しいものですからね。
しかし、鶴はあまりにもその丹頂の大きいのが好きなもので、もう仲間の鶴の間では「それはないわ」とか「さすがにそこまでデカいのはキモい」とか「エロ漫画の見すぎ」とか言われていて誰も番になってはくれませんでした。
実際、鶴はわりとエロ本を嗜んでおり、「デカ丹頂」とか「巨丹頂」とかいうニッチな性癖ジャンルの本を集めまくっていました。
同好の士も存在はしていたのですが、どの鶴も「まあ、好きだけど現実とは違うよね」とか「エロ本はエロ本だからね」とか言って、実際には普通の丹頂の番がいたり恋人がいたりして、エロ本の世界と現実の距離をほどほどに保っていたのです。

そうしているうちに鶴はその性癖のヤバさと思想の強さのせいで同好仲間からも見放され、鶴も鶴で性格がひねくれておりましたので、「お前らがそう思うんならそうなんだろう。お前らん中ではな」という感じでやみくもに仲間を見下すようになりました。
そんなとき、鶴が「絶対頭の丸、大きい相手いるから!」と思ってひとりでせかせかと沼のほとりを歩いていますと、見事に猟師のかけた罠にひっかかってしまいました。足に縄が絡まって少しも動けません。
鶴は藻掻き苦しみながら「頭の丸大きい相手が見つかる前に死ぬんだ
……やっぱりすごい頭のてっぺん丸い相手はエロ漫画の中だけなんだ
……」と思って辛くなっていると、ひとりの人がやってきて鶴の足にかかった縄を外しました。
その人はいかにも猟師といういで立ちで、鶴は「羽をむしられて食われる」と覚悟を決めました。
すると、その人は鶴の姿をまじまじと見て
「鶴かあ
……鶴は不味いからなあ
……逃がすかあ
……」
と言いました。
その人の顔を見た瞬間、鶴はもう時が止まったと思いました。
頭がとにかく丸いのです。鶴のような赤い頭ではありませんが、頭にお盆を乗っけたような、まるで丹頂が頭の上に立体化したような姿です。頭から丸の部分がはみ出しています。鶴は「丸がデカすぎる!!」と思いました。他の鶴なんてメじゃありません。こんなに頭のてっぺんが丸い人なんて他にいるでしょうか。
これはもう鶴界のエロ本の発想を超えています。

そのお盆みたいな頭は、鶴の新たな特殊性癖の扉を一気にぶち開けてしまいました。
猟師が何を言っていようがもうどうでもいいのです。
鶴が興奮していて何も言えないまま猟師はどこかに行ってしまいました。
仕方ないので鶴は飛んでその後を尾行しました。
あんなに頭が丸い人をみすみす見過ごすことはできません。
あの人はまさに理想の人です。
「絶対番になってもらうから!!」
性癖をこじらせた若者は誰も止められないのです。
猟師の家を突き止めた鶴は、機会を伺っていました。
夜になったら綺麗な娘に化けていい感じになるのが良いだろうと思いました。
完璧な作戦です。これであの頭が丸い猟師もイチコロに違いありません。
しかし、鶴が小一時間精神統一をして頑張った結果、眼鏡をかけた少しも垢ぬけない青年の姿になってしまいました。
鶴はオスだったのです。
こじゃれた娘なんかに化けられるわけがありません。
鶴は、ぎくしゃくしてしまった仲間のところに帰るわけにもいかず、芋眼鏡青年の姿で猟師のところにいくわけにもいかず、沼の水かがみに姿を映してしくしく泣いていました。
眼鏡をはずしてみたり、かけてみたり、顔を覗き見てみたり、沼の周りを歩いてみたりしていると、また猟師の仕掛けた罠を踏んでしまい、今度は宙吊りにされました。
猟師は、水や魚を求めて沼の周りに集まってくる動物を狙っているのでしょうか。
青年になった鶴は痛くて情けなくて辛くなってきました。
頭の丸がなんだというのでしょう。あんなのただの丸です。大きかろうが小さかろうがどうだっていいじゃないですか。普通が一番です。
鶴は悲しくて危うく現実を直視しそうになっていました。
しかしそうしてまた小一時間しくしく泣いていると、またあの猟師が来て、青年が罠にかかっていることに驚きながら縄を解いてくれました。
「お前見かけない奴だな」
「道に迷いました」
鶴は咄嗟にしおらしい出まかせを言いました。でも猟師のお盆のような頭を見ながら「やっぱり頭のてっぺんが丸いのは最高だぜ」と思って、先程まで直視しようとしていた現実のことなどさっぱりと忘れ、内心舌なめずりをしていました。
もう辺りは暗くなってきています。
「仕方ないからウチに来い」
猟師は少し考えると、鶴が下心しかないのに気づかず、親切にそう言いました。鶴は渡りに船とばかりにその後ろに付いていきました。
猟師が生活している小屋は貧しいものでした。猟師は「今年はデカい獲物がとれなくてなあ」と言っていました。
どうやら金に困っているようです。鶴は、猟師が食うに困っているにもかかわらず「鶴はマズい」と言って逃がされたことも忘れて「しめしめ」と思いました。ここはひとつ、猟師が寝ている隙にでも機織りとかして、ものすごい反物を作ってこの猟師を金持ちにしてやろうと思ったのです。そうすれば猟師は頭をちょっと触らせてくれるかもしれません。
鶴の美しい羽は高く売れるかもしれませんしね。
その夜、機織り機の前で小一時間唸り続けた鶴は「機織りって難しい~~」と思っていました。まず、自分で自分の羽をむしるのもだいぶ痛いので、「もうやりたくないなこれ」という感じでした。特殊性癖のためにでもやりたくないくらい痛いのです。
そもそも鶴は機織りなんてしたことありません。機織りしている鶴を見たこともありません。鶴にそんなことができるわけありません。
「なんで機織りするとか思ったんだろう
……」
鶴は今までご飯を食べたり仲間と遊んだりエロ本読んだりしていましたが、仕事をするというのはしたことがありませんでした。
エロ本ばっかり読んで性癖をこじらせた結果がこれです。顔が全部赤い鶴のエロ本はとにかく興奮したことしか覚えていません。

「おれのアホ~~~!!」
エロ本読んでるヒマがあったら他のことができたはずなのに。鶴には特殊能力がひとつもない代わりに、特殊性癖だけがあったのです。
人間に化けるのは一見特殊なようですが、そんなのは蛤だって鮭だって亀だってやります。鶴だって普通にやるのです。ただ、人間にバレることが少ないだけです。
鶴は仕方ないのでその日は普通に寝て、翌朝猟師に「行くとこないからお仕事ください」と言いました。
猟師は
「ワケありか」
と言って嫌な顔もせず、家の中の仕事を教えてくれました。鶴は頑張って仕事をしました。
これも丸い頭のためです。見ているだけでもいやらしいですが、あれに触れたらどんなに興奮するでしょう。鶴は猟師の頭を見るたびに生唾飲み込んでいました。
しばらくふたりは真面目に仕事をして過ごしていました。鶴は「この人と番になりたいなあ」と思っていましたが、猟師は芋眼鏡の青年に興味が無さそうでした。
鶴は「ちくしょう」と思っていました。エロ本の体現者がそばにいるのに、エロ本みたいな展開にはひとつもなりません。現実は思い通りにはいかないのです。
そんなある日、猟師は「いい獲物が獲れた」と言って、仕込んでいたどぶろくと一緒にそれを肴にして夕飯にしました。鶴も一緒にお酒をペロペロ舐めました。飲みつけなかったのです。
すると猟師が酒に酔って踊り始めました。
鶴は酔っぱらいながら「これエロ本で見たやつだ!」と思いました。
エロ本はだいたい求愛の踊りのとこから始まるものと相場が決まっています。
前振りの踊りの部分がエロいかエロくないかでそのエロ漫画の良し悪しが決まると言っても過言ではありません。
だから鶴はその踊りに答えて一緒に踊りました。
鶴は、エロ本以外で鶴が踊っているのをあんまり見たことがありません。
エロ本には詳しかったのですが、実際の行為には疎かったのです。
だから踊るのも初めてで、どうしていいのかわかりませんでしたが、とにかく必死に手足をばたつかせました。
猟師の踊りは面白くて、鶴は「熱烈な求愛をされている!」と思って、「今度こそ頭丸い相手と番になれる!」と激しく興奮したのです。
「お前、鶴?」
「えっ?!」
だから、酔っぱらった猟師がそう言うまで鶴は自分が鶴の姿に戻っているのに気づきませんでした。
「おれ、鶴になってる?!」
「鶴っぽく見える」
鶴は焦りました。せっかく求愛されたのに、鶴だったら嫌がられるかもしれません。綺麗な娘じゃない時点でだいぶ遠いと思っていたのに、人間だったからギリギリ求愛してくれたのでしょう。
鶴は急いで青年の姿に戻りました。鶴であることはバレましたがとりあえずです。
他にもっと頭が丸い人が見つかればいいのですが。鶴にはそんなアテもありません。
鶴は辛くなりました。
またしくしく泣いていると、猟師が呆れて言いました。
「もしかして、あのとき助けたからか!?」
「ちがうの! 頭のところ丸いから!」
「おれの頭が?!」
猟師は自分の頭を撫でながら驚いていました。
そして鶴は焦ってうっかり自分の特殊性癖を口走ってしまったことが恥ずかしくなりました。
案の定猟師はもっと呆れたような顔をしました。
その顔を見て鶴はもっとしくしく泣きました。
「せっかく求愛してもらったのに、ごめんなさい」
「求愛した覚えはないが」
「ちがうの?!」
しくしく泣いていた鶴はショックを受けてえんえん泣き始め、猟師は面倒そうな顔になりました。
「エロ本で見るみたいな踊りだったのに!」
「鶴のエロ本はあんな踊りなのか!?」
「あんな踊りだよ!」
「おれの踊りエロ本なのか?! 鶴界では!」
「エッチだった
……頭も踊りも、ほんとに素敵
……」
「そうか~うーん」
鶴が泣きながらそう言うと、猟師は少し困ったような顔になりました。
それで、ふたりは酔った勢いでとりあえず身体だけの関係になりました。
来るものは拒まない、妙にストライクゾーンが広い猟師だったのです。
鶴は「猟師の頭の丸でかい!」と思っていましたが、足の間に付いているものもデカかったのでびっくりしました。鳥界ではピンとこない部分でしたが、人間にとっては大事なものらしく、鶴は「人間って面白い」と思いました。
それから猟師に頭の丸を触らせてもらいました。鶴は興奮して頭がおかしくなるかと思いました。
あと、猟師との交尾はエロ本で興奮するより気持ちよかったのでした。
「交尾すごい!」
「お前、仲間のとこに帰らなくていいのか」
「大丈夫! おれオスだから!」
メスの動物は、結婚しようとした人間に正体がバレると大概神様から叱られるものですが、なぜかオスはあんまり叱られたためしがありません。むしろオスはそのまま人間と結婚したり、逆にうまくすれば自然と人間になったりするのが相場です。
「ねえ、おれたち番になったってことだよね?」
鶴は猟師の腕の中でそう聞きました。エロ本みたいなことってほんとうにあるんだと思いました。
「酔った勢いで、押しかけて来たオスの鶴を嫁にしたのかおれは」
猟師はとりあえず手を出したにもかかわらず渋い顔になりました。でも鶴は一度契った相手を変えるつもりはありませんでした。だいぶ執念深い性格だったのです。猟師はかなり軽率でしたね。
「じゃあ、頭触らせて! 仕事するから!」
「頭触らせるくらいならまあいいか」
「あと、踊り見せて!」
「あれスケベなことなんだろうが!」
「うん、最高にエッチ!」
「特殊だなあ」
猟師は鶴が特殊すぎてさすがに引きました。でも鶴が満足すればいいかと思って頭を触らせたり、踊りを踊ったりして楽しく過ごしました。猟師が踊りを見せると鶴はうっとりしてそれを見つめたり、下手な踊りを踊ってみせたりするのです。
それまでも罠に鶴がかかったときは「鶴はマズい」と思って逃がしていましたが、それからも鶴は一応逃がすことにしました。美味しいとかマズいとか関係なく、なんだか食べるのは気が引けたからです。そして、鶴の話を聞くに、逃がしてやったからといって、猟師の髪型が好きで付いてきてしまう鶴はそんなにいっぱいいないだろうとも思ったのです。
オスだから大丈夫だろうとは思いましたが、鶴は一応神様に「人間になりたいんですが」と報告しに行きました。
神様は寝っころがってエロ本読みながら「ほんとは徳とか積まないとダメなんだけどなあ」と難しい顔をしましたが、猟師の頭が変な形をしているのを見て「なんかその頭、打ち出の小槌に見えなくもないから、それ触ってたら人間になってもいいってことにしとくわ」と適当なことを言いました。
ワノ国には基本的になににでも神様がいますが、鶴が相談しに行ったのは偶然、「適当な匙加減」の神様だったのです。
こうして鶴はゴリ押しで人間になりました。
人間になっても鶴は性癖をこじらせた上に、鶴のように一途を極めていましたので、猟師のお盆を乗せたような頭と面白い踊りがずっと大好きで、そのそばにいるのがとても幸せでしたとさ。
めでたしめでたし
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