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豆炭々炬燵
3156文字
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怪異と乙女と神隠し
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【化菫】大義名分を掲げし欲求
ふせったーで書いたのをやや清書した菫子さん宅に頻繁に泊まりに来る化野くんの存在がじわじわ彼女の領域内に溶け込んでいく、なんかノリと勢いのやつなお話。
※裸(広義)描写がありますがナニはないです。
次回→
https://privatter.me/page/66a1d6ef4146d
掃除洗濯炊事、家事全般が疎かな暮らしをいつからしていたのか呆れ気味に訊ねれば「君は如何なんだい?」と返された。
味気ない宿直室で寝泊まりしているとはいえ、可愛い乙にそんな可哀想な暮らしをさせるわけないじゃないですか。そう答えたらこの恵体、カンラカンラ笑いながら安っい発泡酒のプルタブを小気味よく開けやがる。
とっくに中身を飲み干し軽くなった缶がテーブル上に何本も練り歩き転がっているのをズラして空きスペースを確保する間も景気よく飲みやがって。
「飲み過ぎは体に毒ですよ」
「君の料理が酒に合いすぎるのが悪い」
夕飯を酒のあてに箸を進める花も恥じらう乙女とは言い難いその姿、まさにだらしない熟女の代表格。
しかしながら、僕の手料理を美味しそうに頬張るのを間近で眺められるのは贅沢この上ない。食欲や空腹を感じない身体でありながら如何もあなたが食べているのを見るだけで忘却の彼方へ置いてきた懐かしい感覚がぼんやり息を吹き返す。
「毎度ながら君が作ったのだから君も食べたまえ」
「菫子さんがアーンしてくれたら食べますよ」
「またそれか、ったく」
行儀悪く頬杖をテーブルにつき口を開ける。当初羞恥で頑なにやるのを拒んでいた彼女が今となっては小さく息を吐き、一口サイズに切り分けた煮魚を箸で摘まみ僕に差し出す。
慣れって恐ろしいですね。気付けばずぶずぶに身体と心に沁みつき、していなかった頃が思い出せなくなる。
菫子さんが照れ臭そうにしょうがない奴だと笑う手前、和やかな空気が舌先に伝わり幸福の味となって僕の身体の一部と化して行く。意味のない咀嚼が意味を持ち、あなたは僕の口腔内に差し込んだ箸で再び煮魚を突き自らの口に含む。
それ間接キスだって指摘したら顔紅潮させてくれますか。もしくは、きょとんとして肯定するまでになってくれてますか。
「親鳥から餌を貰う雛ってこんな気持ちなんですかね」
「餌付けがいやなら暇を出している手を呼び戻せばいい」
「家事全般を買って出る僕に対しての労いって事で」
「よく言う」
一人分の夕食を片付けほろ酔い気分の菫子さんを風呂場へ連行する。
程よい酩酊状態はいい。まともな指示を下せない思考は、素直に大人しく僕に従い魅力的な裸体を眼下に曝す羞恥心を麻痺させる。眠たげな眼で僕の裸を視界に収めても「裸だ」くらいの認識しか抱いていないのも都合がいい。
狭い浴槽に二人で入り浴槽の縁に腰掛けさせ、彼女の嫋やかな髪をお気に入りだというメーカーのシャンプーで洗っていく。美容室か床屋での決まり文句。痒い所は御座いませんかと問えば「ないー」と間延びした返事が浴室内に反響した。
丁寧にトリートメントを施し、セール品だったので買ってきましたと嘯いた僕好みのボディーソープをスポンジできめ細かな泡を立て為すがままな腕を取り滑らせる。
「気分は如何ですかお嬢様」
「うむ、くるしゅうない」
「
……
それ殿様だろ」
泡がなめらかな肌で弾ける音に耳をすませ、身構えず身を委ねてくれる菫子さんに僕の口角が上機嫌につり上がった。
腕、うなじ、背中──、そして前面にスポンジを走らせ漸く短太眉が困ったように下がり、到底隠しきれないほどにたわわに実っている胸を腕で隠し顔を背けた。
「今更でしょう? 手、退かしてください」
「うぅ~
……
」
「ほぉら」
お湯でない熱さから火照った頬。こちらの様子を窺い上目遣いで睨んでも威力半減ですよ菫子さん。
諦めて胸を隠していた腕を退かす彼女に礼を述べ、よくもまあここまで育った胸の重さを手で味わいつつ念入りに洗う。泡で滑り零れ逃げる胸を捉える指が埋まり、その肩凝り必須な重量感溢れる重みと直接触れなければ分からない柔肌に目を眇める。下乳なんか夏の時期じゃなくても菫子さんクラスであれば常時ムンムンのむれむれ。汗かぶれが起きないよう特に念入りに。
「恥ずかしいですか」
「当たり前だろ
……
」
「だったら菫子さんも僕の身体を洗えばいいじゃないですか」
それでお相子です。片手で数えきれなくなったやり取りの返答はいつだって無言。
奪われてしまったスポンジを目で追い、酔いが醒めてきたようで目に力が戻って来た菫子さんが僕を射抜く。濡れ揺らめく赤銅色の瞳を満足げに見つめ返した途端、ハッと目を逸らし慌ただしくスポンジがしゃわしゃわ動く音がカーテンで仕切られた空間に満ちる。
僕が洗い損ねた箇所を早々に洗い、泡をシャワーで流しカーテンを開け閉める彼女の背中を見送った。
嗚呼、今回も菫子さんの身体の隅々まで洗えずに終わってしまった。
…
だけど。
「あともう少し」
一緒に風呂に入る回数が増えるにつれ、恵体を洗える範囲が確実に広がっている。次の次辺りで全身を洗えるかもしれないと思っただけで、僕に抱く警戒心の薄さや信頼してくれる気持ちに胸の奥がこそばゆくなった。
浴槽の底に落ちているスポンジを拾い上げ、新しくボディーソープをしみ込ませ泡立て面白みも何も無い自分の肌の上を滑らせる。
「出ましたよー、って。あなたという人は」
碌に髪を拭かず乾かさずパソコンのディスプレイ画面と睨めっこしてはキーボードを叩く光景に特大の溜息が出た。
執筆活動もいいですが、それだと風邪をひきますよって言ったところで「君が乾かしてくれるだろう」と目すら合わせずのうのうという眉毛の態度に風呂上がりの湿った後頭部をガシガシ掻くのもやむなし。
新しいタオルとドライヤーを持ち彼女の後方に腰を下ろす。掛けている眼鏡がズレぬよう髪を拭き、ドライヤーで紅茶色の長い髪を乾かせば、ふわり舞う香りに思わず鼻を鳴らした。
それだけじゃない。菫子さんの部屋に入った時からする匂いを無意識に嗅いでしまう。
「──いい匂い」
胸中呟いた気でいた言葉が口から出ていたらしい。
そんな僕の言葉に菫子さんは何てない事のように首を捻り後方にいる僕を見上げ言葉を舌先に乗せ綴る。
「一緒の風呂に入ったんだ、君だっていい匂いだろう」
指摘され今の僕は彼女と同じ香りを纏っているのだと思い知らされた。目を見開いている僕を見詰め白い歯を見せ笑った菫子さんは顔を戻しまた軽快にタイピング音を奏で始めた。
ドライヤーのスイッチを切り、綺麗に乾いた菫子さんの髪の一房を手に取り鼻先に近付ける。風呂上がりの湿り気を帯びた匂いの奥、たしかに感じる菫子さん特有の香りに充足感を覚え、彼女に気付かれぬよう唇を落とした。
「いい加減ベッドで寝ましょうよ」
「客人と添い寝する気には到底なれないのでね。私はこっちでいい」
「詰めれば案外イケますって」
「しつこいぞ」
有無を言わせずお世辞にも寝心地が良いとは言い難い床の上に恵体を横たえる強情っぷり。電気が消えた暗い室内、此方に背を向ける部屋主に諦めた僕は菫子さんの匂いがしみ込んでいるベッドを今宵もまた独り占めする羽目になった。
一線を越えるのも吝かでない。据え膳だー、生殺しだー、という感情も無きにしも非ず。
だが、下心なぞ無しに同じ視線の高さで寝たいと思っちゃいけませんか。寝起き一番にあどけない寝顔をいっぱいに視界に収め目覚めたい、そう思ってはいけませんか菫子さん。あなたの匂いがする毛布を抱きしめてもあなたの代わりには到底なりやしないんですよ。
「(もっとも目を閉じて寝ている”フリ”をするのが関の山だが)」
夜明けを共に迎えたい。ささやかな願いが叶う日が来るまで、僕はきっとあなたの傍から離れず、叶っても離れることは無い。
ベッドにうつ伏せになり身を乗り出して手をゆるり伸ばし、完全に寝入っている菫子さんの頭を髪を彼女が起きるまで僕は心置きなく撫で続けた。
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