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ゆ~
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全年齢
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嘘ドラロナ まとめ
過去作 まとめ
全年齢。
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その手をつないで
ロナルドは珍しく人の集まった施設に立ち寄ることが出来た。そこは元病院らしく、発電施設が備え付けられている。元はサナトリウムだったのだろう。こんな人里を遠く離れた場所に、百人近い人間が肩を寄せあい生活していた。
そんな辺境であっても吸血鬼の気配を纏う、というよりも内包する赤い退治人の噂は周知されていた。施設の門番は畏れを滲ませながらロナルドを追い払おうとしたが、一人の女性がそれを留めてくれた。
恐らくは孤児だろう子どもたちを多く擁すこの施設には、辛うじて日常が流れているようだった。ロナルドに一宿一飯を提供してくれた女性はこの施設を取り纏めるリーダーの様な立場らしいが、女性はそう呼ばれることにどうしても戸惑ってしまうとロナルドに吐露した。なんでも、吸血鬼の支配下に置かれた街から脱出した際に、実の娘を亡くしたそうだ。代わりのように子どもを集めて面倒を見ている。全て、命を賭して守ってやれなかった「あの子」への贖罪なのだ、と。
ロナルドがそれを聞いている間、日頃お喋りな「心臓」はずっと静かだった。吸血鬼を警戒している施設の中で、流石に朗々と話し出したり、塵を漂わせたりする気にはなれないらしい。実際、他の大人たちはロナルドを見ながらヒソヒソと何やら話し込んでいる。一度死んだこの身に吸血鬼を宿していることをロナルドの口から誰かに語ったことは無いが、それ以前からロナルドは吸血鬼ドラルクという、自称真祖で無敵の吸血鬼と行動を共にしていた。実際のところのドラルクは途方もなく貧弱でか弱い吸血鬼だったし、話を聞けばこの男の方にもそれなりの事情がある事が窺えたから、退治をしていなかっただけなのだが(それこそ、ロナルドのその判断が甘いと言われれば、甘いのだが)。結果、ロナルドはその身にドラルクの心臓を宿して、こうして退治人として吸血鬼になった兄を追う旅を続けている。
女性の方はそんなロナルド達の事情にはあまり関心がないようだった。匿ってくれた理由を聞けば、本当に何となくだよ、とだけ言う。あまり長居をしてはくれるな、というのも言外に伝えられて、ロナルドは案内を終えた女性と別れてからも施設の中で極力目立たない場所を探して歩いた。
しかし、不意に服裾を掴まれて、振り返る。
「ねぇ、あなたが退治人のロナルドなの?」
少しませた口調の幼い少女だった。腕の中に草臥れたぬいぐるみを抱いて見上げてくる少女に、ロナルドは少しばかり戸惑いながらも頷いて返した。
「こっちにきて」
少女はなんの躊躇いもなくロナルドの手を取って、何処ぞへと導くように先を歩いた。少女が行く先へ向かえば向かうほど、子どもの数が増えていく。ロナルドより半分ほどの年齢の男児たちの殆どが、何かしらの武器を携えているのも目に付いた。そういうものだと理解しているし、目を背けることもしなかったが、それでも、ほんの少し坂剥けたような気持ちになる。
案内されたのは彼らの寝床である病室とはまた異なる、大きな部屋だった。壁などを見ると薄汚れたパステルカラーの壁紙が見える。このサナトリウムの小児科か何かの遊戯室だったものなのかもしれない。そしてそこは、今でも子どもたちにとってそのように使用されているようだった。
少女が、退治人のロナルドが来てくれたと声高に部屋にいる子どもたちに告げる。途端に子どもたち十数人が目を輝かせて駆け寄ってきた。
「お兄ちゃんが退治人のロナルドなの?」
「あ、ああ」
「すげぇ! 銃見せて、銃!」
今まで何匹の吸血鬼を倒したの? 本当に朝は来るの?吸血鬼の心臓を持っているって本当?
子どもたちの屈託のない言葉の雨に晒されて、ロナルドはなんとか笑って返すことしか出来なかったので、かつて幼い妹を相手して得た杵柄で子どもたちに遊ぶことを提案しようとした、その時。
「ねぇ、吸血鬼ドラルクは本当にそこにいるの?」
凛とした声は、最初にロナルドをここに連れてきた少女の声だった。皆が静まり返って少女を見た後、沢山の双眸がロナルドに同時に向けられる。
「
……
ええと」
『私の名を呼ぶレディは、君かな』
途端に、ロナルドの体からするすると塵が宙を舞う。きゃあ、と悲鳴をあげる子どもに、好奇心から塵に手を伸ばす子ども。騒然とする遊戯室に漂う塵に向かって、おい、とロナルドは嗜めたが、塵は構わずその少女の元へも漂っていった。
『初めまして、お嬢さん。如何にも! 私が真祖で無敵の吸血鬼、ドラルクだ。お見知り置きを』
「
……
驚いたな」
『うん、まさかこんなものが今も残っていたとは』
子どもたちに取り囲まれながら二人が見たものは、古い映画だった。珍しいお客さんの為と、子どもたちによって開催された上映会に、ロナルドはぽかりと口を開けるばかりだった。
古びたディスクにレコーダーは、大人たちが危険を犯して探索した先で見つけてきたものらしく、その数は十本にも満たないが、だからこそ貴重な代物だった。
「一日一本だけ見ていいことになってるのよ。でも全部何回も見たから、もう飽きちゃった」
少女はそう言いながらも、再生が始まれば画面の向こう側の世界に夢中になっている。所々ひび割れている液晶画面に映し出されたのは、青い空に広い海だった。ここにいる子ども達の殆どにとっては未知のものだろう。それはロナルドにとっては既知のものだったが、しかし酷く遠のいた光景だった。大きな手に、笑顔。自慢の弟だと言った兄の肩越しに見た、あの風景。
『へぇ、懐かしい映画だな。これパニック映画だぞ』
「知ってるのか」
『封切りで見に行ったよ』
へぇ、とロナルドが言葉を返していると、ふと視線を向けられていることに気がつく。ドラルクの声はロナルドにしか聞こえない。「ドラルクと話をしてるの?」
「あっ、ああ。この映画を見たことがあるんだってさ」
「そうなの? エーガカンってところに?」
『そうだよ、お嬢さん』
ロナルドを介して少女に応えるドラルクはどこか楽しげに聞こえる。というか、吸血鬼はいつもどこか飄々としていることの方が多い。ドラルクが心底から焦ったり、怒鳴ったりする姿をロナルドは数回しか見たことがなかった。耳に焼き付いて離れない声がある。絶対に死なせるものかという悲壮な声。実はそれを覚えていることを、ロナルドはドラルクに伝えていない。
兄の愛情も、吸血鬼の慟哭も、見えたもの聞こえたもの全て、ロナルドの中だけに残る忘れることの無いワンシーンだった。
「
……
いつかこんなお空が見れるのかしら」
少女の目に映る空色を見返しながら、ロナルドは漂っていたドラルクの塵を一握握って、そうだなと頷く。少女がそれに喜んだので、ロナルドは子どもたちが寝静まった頃にでもここを経つことに決めた。
手の中の塵が、ロナルドの手を握り返してくれたような気がした。
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