みたむら
2024-07-09 00:04:17
15923文字
Public 同人誌発行物まとめ
 

「NEVER ENDING STORY」サンプル

FF16・ディオン×女夢主本1冊目です。


「NEVER ENDING STORY」本文サンプル


※Web用に読みやすく若干修正しています。
※体裁サンプルは3ページ目にてご確認ください。
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プロローグ

 私がこの世界に来てどれだけの時間が経っただろう。小さい頃に遊んだゲームの世界に、やっと終わりが見えてきた。
 最終決戦――ヴァリスゼアの空に薄気味悪い雲が私たちを覆う。空に漂うオリジン。これから私たちはオリジンに乗り込み、中で待っているだろうアルテマと最終決戦だ。
 最終決戦には、クライヴとジョシュア、ディオンが向かうことになった。ジルやトルガル、私も含めて隠れ家のメンバーは留まり、彼らを見送ることだけ。

(いよいよ、この世界もエンディングかぁ)

 これでアルテマによる苦難も終わり、このいかれた世界を作り直せる――そして私は元の世界に帰ることができる。
 街に拠点を置く仲間達も駆けつけ、クライヴたちと最後の談笑をする。私は、横で笑うだけ。結末を知っているだけに何も言えなかった。

(おそらく明日には決着がつくよね? 私もクライヴたちに挨拶しておかないと)

 私はクライヴたちに近づいて声を掛ける。

「クライヴ、念のために挨拶しておくね」
……ああ。この戦いが終わったら元の世界に帰れる、だったな。アンタも帰れるように、アルテマと決着つけてくる」
「うん、最後まで頑張って。ジョシュアも、ディオンもね」
「任せてよ。兄さんを守れるのは僕くらいだから」

 これまでもたくさん苦労したよ、と彼の弟が苦笑しながら言う。それに兄が軽く彼の頭にがつんと当てる。すぐにジョシュアが「冗談だよ、兄さん」と小さく笑う。
 ディオンは私の言葉に「勿論だ」と必要最低限のことしか言わなかった。ゲーム本編もそんな感じだった。リアルな世界でもそれは変わらないようだ。

(クライヴとジョシュアはともかく、ディオンはどうなるか分からないんだよね)

 聖竜騎士団に所属し、ザンブレク皇国の次期神皇と言われていた彼。オリヴィエという弟が出来たことで神皇になれなかった若き皇子。そして、私がゲームでプレイした時も、どこか悲しい最後を見届けた彼が目の前にいる。何も出来ないことが、こんなにももどかしい。
 ――ゲーム上では、バハムートでの使命を果たした後、海の中に投げ出されて消息不明。どこかで生きているかもしれないし、そのまま帰らぬ人になったのかもしれない。その先の物語は誰も知らない。
 談笑はそこまでに、彼らはオリジンへと飛び立つ。ディオンはバハムートに召喚し、クライヴとジョシュアが、彼の背中に乗る。
 私たちは飛んでいった彼らの背中に手を振る、涙を零す者など隠れ家のメンバーは彼らを見送った。
 ――私たちができることは、勝利すると祈り続けること。
 ジルがクライヴを想い、耐えていた涙を零しながら、愛する人の名前を呼んで泣いた。隣にいたトルガルも遠吠えして鳴く。
 私は、ジルに近づいて肩を抱いた。ジルは、甘えるように私に身体を預ける。

「本当は、行ってほしくないって言いたかった……!」
「そうだね。でも、帰ってくるって信じてるんだよね?」

 そう言うと、ジルは涙声ながらに頷く。
 クライヴとジルは通じ合っているけれど、あまり深いところまでは描かれていなかった。二人とも真面目だし、自分が我慢すれば……っていうタイプ同士だ。そしてジルが本音を私に吐いたように、前夜は一緒にいたにも関わらず語り合うことをしなかったんだろう。

「貴女も元の世界に帰ってしまうんでしょう? クライヴたちも貴女まで消えてしまったら私……!!」

 ジルは顔を手で覆い、泣いた。今度は私が彼女を慰める番だ。

「この世界に来て私はよかったと思ってる。クライヴたちやみんなに会えたことも。だから、この旅の記憶は一生忘れない。ジルも私のこと忘れないでね」
「うん……うん……!」
「ワン! ワン!」
「トルガルもね。ジルのこと頼んだよ」

 トルガルを撫でてやると、気持ちよさそうに目を瞑る。
 私たちはクライヴたちの帰りを待つため、各々の持ち場に戻る。街から駆けつけた者は戻っていく。そんな中、私はもうすでに見えなくなった彼らの姿をしばらく見ていた。

 * * * *

 突然ですが、私はこのヴァリスゼアの人間じゃありません。遙か遠い世界からやってきた人間――俗にいう異世界人です。私のいた世界は、今より技術がさらに進んで、貧しい人なんておらず、平和な毎日を送っている近未来。学校や仕事もがらりと変わって、学校は好きなものを極める場、仕事はしたいことをして働きたい時に働くこと。最低限の生活は国から支給され、野宿とか餓死とかそう言った問題がなくなった。
 様々な分野で技術も進んでいった。例えば旅行。
 昔は電車や飛行機、船などを使って高い交通費と長時間費やして出かけていたらしい。だが、私のいる世界は時間もうんっと短縮出来、交通費も全然安くなった。田舎でも日帰りで都会に遊びに行く、なんてことも出来るようになった。
 そんな中、さらに新しい試みをしていた。
 それは、短時間で海外や、月や火星などの遙か遠くの星にも行けるようになりたいと。今、それを可能にするための実験が行われていた。まずは開発陣のみで試験をし、うまく行けば一部の一般人も試験に参加することができる。
 その試験対象として私が選ばれた。まさか、私が選ばれるとは思ってなかったのだ。この計画は大変人気で、難関なのだ。
 早速計画について説明会に参加し、私は質問をしたのだ。

 ――異世界にも飛べるかと。

 それを聞かれた担当者は大きく驚いていた。なぜなら、行きたい外国旅行を短時間で行けるかどうかの実験だったので、異世界に飛ぶという二つも三つも先の課題を出されるとは思っていなかったためだろう。
 多くの開発側は無理だと難色を示していたが、最終的には元の世界に帰れないかもしれない、そして無事帰って来られたらレポートを提出すること。それを条件に異世界へ指定することができた。
 私はあり得ないことを想像するのが好きだ。妄想だったり、夢だったり。叶う叶わないは関係なく、それができたらどんなに楽しいだろうとか、嬉しいだろうとかを考えるのが好きなのだ。
 そして、私は小さい頃に遊んだことがあるゲームを思い浮かんだ。それが、この世界――『ファイナルファンタジー16」の世界だった。
 私が生きている世界とは真逆の世界だ。だからこそ体験したかったのだ。エンディングまでプレイして感動したのを覚えている。だが、腑に落ちない終わり方も感じる。
 エンディングを迎えたとき、主人公のクライヴやジルたちの姿は描かれていない。
 これに関しては賛否両論だったようだけど、ゲームとしてはよく出来ていたと高評価だった。私の中ではすごく楽しくて、もし異世界に行けるとしたらこの世界だと思ったくらいだ。

 そして、何とか無事にたどり着くことができた。クライヴたちを始め、主要人物と顔を合わせたり、困っている人をクライヴたちと一緒に協力したりした。
 そして今に至る。クライヴたちはオリジンの中でアルテマと戦っている最中だろう。
 私は、戦うことが出来ない。もし戦うスキルとかあれば一緒に行って――いや、無理だね。魔法はベアラーかドミナントじゃないと使えないから。どのみち隠れ家で帰りを待つしかない。

「これで元の世界に帰れたらいいんだけど」

 薄暗い曇り空を見上げながら、私は呟いた。

 * * * * 

 しばらくして、オリジンの姿が消えていくのが見えた。クライヴたちが勝ったのだ。時刻は真夜中、隠れ家のメンバーは一部を除いて部屋の中に入って寝入っている時間だった。
 私は、知らせようとジルたちがいる部屋へと足を運ぼうとした――が、誰かにぶつかった。

「ごめん、なさい……!」
「じ、ジル……?」

 ポロポロと涙を拭いながら私とすれ違うように外へと走って行った。そして後を追いかけるようにトルガルもやってくる。
 ジルもきっと何かを感じたのだろう。私は彼女の後を追いかけた。
 ジルは、ただ泣いていた。そしてトルガルも遠吠えする。

(確か、メティアが消えてしまったんだっけ?)

 彼女はクライヴたちの無事をメティアに祈っていたんだろう。それが消えてしまい、クライヴたちも帰らぬ人になってしまったと悟ってしまった。
 彼が戻ってくることは無かった。それはゲーム上でも同じだ。私は魔法使いでもない、普通の人間だ。ただ、この世界のことをたまたま知っていただけの人間。

……何だろう? 急に頭が痛い)

 ジルの泣いた声やトルガルの遠吠えが五月蠅かったからじゃない、それとは違う頭痛。体調は普通だったはずで、風邪も怪我もなかった。なのに、頭痛が私を襲う。
 私はその場に膝を折った。米神に手を支えるものの、痛みが治まらない。
 もしかしたら、元の世界に帰るための儀式だろうか?
 担当者が告げた元の世界に帰る方法――その世界の最後を見届けること、と名付けた。私以外の試験者は国内か海外なので何泊だとか何ヶ月とか簡単な課題だろう。私の場合は、ゲームの世界なのでエンディングを見たら帰ってきなさい(まずはそう設定したらしい)と言われたのだ。これがその前兆だというのなら、本当に私の旅はここで終わりなんだ、と嬉しいような悲しいような気持ちになった。
 頭痛が少し引くと身体を起こす。そして、私は自然と隠れ家を離れる。後ろでジルが呼び止める声とかトルガルが付いてくる気配とかあった気がするけど、今私は導くままに歩いていた。

「はぁ、はぁ……

 頭痛に怯えながらも何もない道を歩く。魔物と遭遇すれば、ジルに頼まれたのか、トルガルが私を守ってくれた。彼に「ごめんなんだけど、私に付いて来てもらっていい?」と尋ねると、「ワン!」と了承を得た。
 私はどこに行こうとしているのだろう。
 たどり着いた先は、何もない海だった。ただ静かに波打ち、目を閉じてゆっくり波の音を聞いていたい気持ちだ。

(何……海? 海の中……?)

 頭には何かモヤがかかったような景色が見えていた。それは今いる場所のとおり海辺だ。しかし、脳内に見せる姿は人影がいた。まるで、海の底に沈んでいるような、そんな光景。その人物は気を失っているのか、起き上がろうという気配はない。
 ハッと、現実に返る。目の前には海。その海は脳内と同じ海なのかは分からない。何かモヤモヤする。

(私、海苦手なんですよね……

 泳ぐのは大変苦手だ。学生時代嫌々水泳の時間をやった以来、海はおろかプールさえ泳いでいない。海に行くくらいなら山の方がマシだというくらい、海とは縁が遠い、はず。

「ワン?!」
「トルガルは周りに魔物とかいないか見張ってて」

 私は、トルガルにそう指示して海の中に入っていく。海はとても冷たくて、今すぐ上がりたいくらいだ。そして、服が海水を吸い上げているため、どんどん体が重くなっていく。
 そして、海の中に潜った。
 夜の海は暗くてよく見えない。だが、何となく分かった。
 その先には、一人の人間が沈んでいる。気を失っているのか、もう帰らぬ人になっているのか、引き上げないと分からない。
 私は、何とかして人を持ち上げて海上へと向かう。
 苦しいと思いつつ、最後の力を振り絞って地上へ顔を出す。そして、その人の顔を海の上に見せる。

……って、ディオン?!」

 全身ズタボロになった、聖竜騎士団団長が気を失っていた。そして、トルガルが舟に乗って私の所へと来ていた。……何という頭のいいワンちゃんなんだ。
 そして、私が彼を引き上げようとすると、トルガルも彼の服を口で掴んで、舟に上げられる。その後に私が小舟へと乗る。

「はぁ、はぁ……ありがとう、トルガル。おかげで助かったよ」
「ワン!」

 とりあえず重すぎるわ。私も彼の体重で死ぬかと思った。でも何故か、力が漲ったのだ。神様がきっと助けてくれたんだと思う。そして、神様が私にここにディオンがいると告げたのだろう。そのための頭痛だったのかも、と今なら思える。
 彼の胸元に耳を当てる。彼は僅かながら息をしていた。一歩遅ければ、本当に死んでいたかもしれない。私はしばらく休憩し、その後はディオンを支えつつトルガルの嗅覚を頼りに隠れ家へ戻ったのだった。

「おお、可愛いなぁ。この子はきっと強く生きていくぞ」
「ええ、クライヴさんが助けてくれた大事な子ですから。大事に育てていきます」

 隠れ家では、エッダさんとガブさんを始め出産祝いで軽く賑わっていた。
 帰りを待っていてくれたらしいジルは、私とトルガルの姿を見るなり慌ててこちらに走ってくる。

「トルガル! よかった、急に出て行くからどうしたのかと」
「ジル、タルヤさんを呼んできてくれる? ディオンが、まだ息してる」
「! すぐに呼んでくるわ」
「大至急でお願い」

 ジルは医務室へ走って行き、数分も経たない内にタルヤさんも一緒に戻ってくる。

「王子様が戻ってくるなんて。じゃあクライヴたちも?」
「ううん、私が見つけたのはディオンだけ。とりあえずベッド空いてます?」
「ええ。ガブ、いつまで赤ちゃんと戯れてるの。王子様を医務室まで運んできて」
「え? 何、帰ってきたのか?! じゃあクライヴとジョシュアも?」
「話は後、早く早く!」
「わ、分かった」

 お祝いモードから偵察のお兄さんモードに戻り、ディオンを私から交代してくれる。さすが男の人だ。軽々と支えている。

「何で、ディオンさんが?」
「分からない、ただ急に頭が痛くなって、ここに向かえって言われてた気がして、向かった先にディオンが海の中にいたんだよ」
「クライヴとジョシュアは?」
……ごめん、私が見た限りでは」
――そう」

 私が彼らも見つけられたらよかったんだけど、とあやまるとジルは「そんなことない。ディオンさんだけでも助かってよかったわ」と慰めてくれる。
 しばらく待ち、医務室からタルヤさんがこちらにやってきた。

「とりあえず、一命は取り留めたわ。アンタが見つけなかったら王子様、間違いなく死んでたわね。アンタの応急処置のおかげで生きてるわ。今はぐっすり眠ってるけど、声をかけるのは明日か、明後日くらいがいいでしょうね」
「ありがとうございます、助けてくださって」
「何言ってんのよ。アンタがシドに拾われた時からの友達でしょう? それに、今じゃ王子様も仲間だし助けられる命なら私だって頑張るわよ」
……うん」
「とにかく、アンタもそろそろ寝なさい。ジルとトルガルもね」
「ええ、そうね。おやすみなさい」
「ワウン
「おやすみなさい」

 ジルとトルガルは、自室に戻っていった。私も部屋に戻ろうとしたところでタルヤさんに呼び止められた。

「何ですか?」
「ちゃんと部屋で休むのよ。アンタはすぐ外に出かけたりするんだから」
「ははは。大丈夫ですよ、さすがにディオンのような男の人を抱き上げた後に動く体力は持ってません」
「それならいいけどね」

 そんなタルヤさんの言葉を背中で受け止めながら、自室へ向かう――が、歩みを止めた。
 私は、月を見上げた。いつも一緒にあったメティアはない。そして、日差しが昇ってこようとしていた。オリジンが消え、アルテマも消滅し、あの薄暗い曇り空は晴れていた。
 私はただ、薄く消えていく月を見ていた――ある〝決意〟を固めて。

 * * * *

 次の日、私はまだ眠たい体を何とか起こす。身支度を調えてディオンの様子を見に医務室へ足を運んだ。
 ディオンはまだ目を覚ましていないらしい。タルヤさんも、バハムートに顕現した時、既に体に無茶な負担をかかったんだろうという見解だった。息はしているので、生きているだけマシなのが幸いだ。

「で、アンタこれからどうするの?」
「どうするって?」
「いや、クライヴから聞いたんだけど、アルテマとの戦いが終わったら隠れ家を出て行くって」
「あー……
「ま、こんな大きい隠れ家だから、つまらなくなるくらいここにいたらいいんじゃない? たまに私の手伝いをしてくれたらなおよし!」
「まぁ、そうですね」

 私が異世界人だということを知っているのは一部の人間だけ。クライヴやジルには伝えているが、彼らには他の人に他言無用にと伝えている。なので〝ここを離れる〟に留めたのだろう。
 私はこの世界に来て、雑用を中心にやってきた。クライヴたちのようなドミナントでもなければ、ガブさんみたいに偵察とか討伐といった事も出来ない。なので、保護された人たちの治療補助とか料理を運んだりとか、荷物を運んだりとかで隠れ家を支えている――はず。というのも、それは別に私じゃないと出来ない仕事ではないからだ。でも、クライヴやジルから「十分やってくれている」と褒められるくらいなので、みんなの役には立っていると思う。

(今すぐ旅立ってもいいんだけど)

 私はふと、横のベッドで眠っているディオンを見る。今を思えば、何故彼を助けてしまったんだろうと疑問を浮かぶ。
 ゲームでも彼の消息は不明だ。誰かに助けてもらって生きていたかもしれないし、あのまま海の底に沈んであの世に逝ったかもしれない。今、私が未だにここにいるのは〝ディオンを助けてしまった〟からじゃないのか、と思ってしまう。ディオンを助けることでゲーム通りの終わりじゃない終わり方をしてしまったから、元の世界に帰れないでいるのではと。
 だから密かにいっその事、隠れ家を離れて元の世界に帰る方法を探す旅に出てもいいんじゃないかと思ったのだ。なんせ、ゲーム中にたまに出てくる小さな女の子――キエルも転々と薬を売っているシーンを見たことがある。そんな子でも軽く歩けるくらいには危険な世界ではないだろう。

(この世界に来たばかりのときは、ゴブリンに襲われてたけど、あれは例外だ、うん)

 とはいえ、助けた彼が起きる前に出て行くのも何か後味が悪い。ちゃんと無事な姿を見届けてからでも遅くないのでは、と思い口をついて出た。

「ディオンの目が覚ますまでは、ここにお世話になろうかな」
「あら、じゃあ私の手伝いもやってくれ。その代わり、いつでも王子様の様子を見に来てもいいからさ」
「あはは……ありがとう、ございます?」

 それは喜んでいいのか分からないが、医務室に立ち入りを許可してくれたという意味ではいいのか、と思い直す。

……せめて、貴方が目を覚ますまでは」

 そう小さく、彼の目を覚ますように祈りを捧げた。


 それから数日が経った時、果報の知らせがやってきた。
 タルヤさんから、ディオンが目を覚ましたとのことだ。
 私は祈りが届いてよかったと喜んだけど、同時にこの隠れ家を離れる時だということ。
 隠れ家のみんなと別れるのは寂しいが、いつまでもお世話になりっぱなしもよくないだろう。私も元の世界に戻らなければ、魔法が存在しない新しいヴァリスゼアに生まれ変われないかもしれない。
 タルヤさんは次の患者を診ないといけないらしく、長居はせずすぐに私の部屋を後にした。バタバタと走って行く彼女の背中を見届けてから、私は決意をした。

(今日、隠れ家から離れよう)

 必要最低限のものをカバンに詰め込み、貴重品があるか何度も確認する。そして、机に向かい、紙とペンを用意して手紙を書く。旅に出るという置き手紙だ。

「これでよし」

 手紙を置き、カバンを持って部屋を出る。そして、一目でも見ておこうとディオンがいる医務室を訪れる。
 ノックしようと手を伸ばすも、扉の向こうから話し声が聞こえていた。
 失礼ながら、彼らに気づかぬように少しだけ扉を開ける。
 話し声はディオンとハルポクラテス――語り部のおじいちゃんと談笑しているようだった。生きてくれてよかった、と語り部のおじいちゃんが涙声で言う。そんな彼を慰めるように、肩をポンポンと撫でている青年。
 実に絵になる――ではなく、折角の再々会を邪魔するわけにはいかないと、そっと扉を閉じた。
 実は、語り部のおじいちゃんは元々ザンブレク皇国でディオンの教師をしていたらしい。
 以前、クライヴにウォールードの地に咲く飛竜草を探してほしいという依頼をしていたのを覚えている。普段見る飛竜草は白いが、野生だと紫に咲くという。依頼した時は決戦が終わって帰ってきたら受け取ると、語り部のおじいちゃんの元で保管されていた。
 その紫色の飛竜草は机の上に飾られている。おじいちゃんがお花を持って見舞いに来たのだろう。

(ディオンも元気そうでよかった)

 苦手な泳ぎをしてでも助け出して正解だった。それに、顔を合わせてもお互いどう会話したらいいか分からないだろうし、かえって彼に気を遣わせそうなので、その足でとある部屋に向かう。その途中で、ジルと顔を合わせる。ジルも少しずつだが表情がいつもの可愛らしく美人な彼女に戻りつつあった。

「おはよう、ジル」
「おはよう。珍しいわね、いつもはもっと早く起きてるでしょう?」
「うん、ちょっと疲れてたのかも。今は元気だよ」
「それはそうと、そのカバン――
「ああ、まぁその……ね。言ったでしょ。ディオンが目を覚ますまでの間、厄介になるって」
「それは、そうだけど」

 ジルには早めに伝えていた。その時のジルは私のために泣いてくれた。クライヴとジョシュアがいなくなって辛いのに、貴女までいなくなるの!?って。
 正直言うと嬉しかった。私がいなくても十分やっていけるのに、友達とか家族のように泣いてくれる人がいるんだって知ってとても嬉しかった。私はこの世界の人間じゃないのにね。
 私は、ポケットに入れていた手紙をジルに渡す。本当は部屋に着いてから渡そうかと思ったけど、彼女に託そうと思う。

「ジル、私から多分最後の依頼受けてくれる?」
「ええ、もちろんよ。私に出来ることなら」
「これを、クライヴの手紙箱に届けてほしいんです」
「え?」

 ジルは受け取った手紙と私を交互に見比べながら疑問符を浮かべる。私はにっこりと微笑む。

「私だって隠れ家のメンバーなんだから、〝私からクライヴへの依頼の手紙〟があったっていいでしょう? みんなも出してるみたいだし」
「で、でもクライヴは――

 いないのに、と言いたいのだろう。確かに、クライヴはいない。隠れ家には(・・・・・)。
 隠れ家のみんながリーダーへ手紙を出してるのに、私だけ手紙の未提出なんておかしいじゃない。シドさんがいたときから一緒に旅をしてきたのに、私だけ体験していないのは。
 そう言うと、ジルは一つ頷いて「分かった、クライヴの手紙箱に入れておくわ。任せて」と微笑んだ。

「それじゃ、またね・・・ジル・・
「ええ、行ってらっしゃい」

 私はカバンを持って、隠れ家を離れた。ジルとカローンの店で番をしていたトルガルが聴覚で分かったのか、見送りに来てくれていた。

「さて……どこに行こうかな」

 海を渡り、大地に一歩踏み出す。隠れ家の匂いも好きだが、大地の匂いも嫌いじゃない。
 私は、隠れ家にこれから起こるであろうことにふふふ、とまるで欲しかった物がやっと手に入れた時の喜びのような笑いを浮かべていた。

(そろそろ、〝彼〟も帰れるくらいの体力は回復したでしょうね)

 私は、彼が残してくれた拠点を頼りに、地図を広げつつも道を辿って行く。
 こうして私の新しい旅が始まった――

* * * 中 略 * * *

第一章「再会」

 私は、転々と旅をしていく。そこに着けば「よく来てくれた」と言って歓迎してくれる。彼らには彼らの生活があり、苦難もある。それぞれの拠点で宿泊する代わりに、私ができることを手伝うという形で、町に泊まらせてもらえるようになった。
 仕事をこなし、元の世界に帰るための方法を必死で探すも見つからない。これ以上探しても見つからないと判断したら、次の町へ旅に出る――それの繰り返しだ。

 私は、オーレヴェル・ダウンズに足を運んでいた。そこには、かつてエーテル溜まりになったロストウィングにいた住民達が避難した場所として、そこに耕しているゴールトン農場でブドウ栽培しつつ町の建て直しをしていた。アルテマが消えたことによって、エーテル溜まりも消え、アカシア化になった魔物たちも消え、いつでもロストウィングに戻れるのに、気がついたら今の場所に愛着がついてそのまま再建をしているらしい。
 その道を歩いている途中にある森の中で、私はとてもヤバイ状況に陥っていた。

「え……ドラゴン」

 ドラゴンが私を捕まえようと、上空から下りて目の前に立ちはだかっていた。かつて、この世界に来た時にゴブリンの大群に襲われかけていたことがあった。あの時はシドさんの元でお世話になっていたトルガルがたまたま助けてくれたから今まで生きてこれたのだけど、今は私一人だ。

(ヤバイ。こうなる前に早く抜けないといけなかったのに!)

 もっと早い時間に町を出た方がよかったのかな。嗅ぎつけてくるの早すぎない?!
 ドラゴンって実は視力よかったりするのかな。あんな高いところからよく人間を見つけられるものだ。

「あ、あの……森を抜けたいだけで狩りをしに来たわけじゃないんですよ?」

 そう穏便に語りかけるも、ドラゴンは話を聞いてくれるはずもなく、私を襲いにやってくる。……ですよね! 私を食べようとしてるんですもんね!
 私は、必死で森の中を駆ける。最短ルートに行きたかったけど迂回ルートに入ってしまう。とりあえず、あのドラゴンの目を反らせて逃げ切らないと、元の世界に帰る前にあの世行きだ!
 走っては、どこかの岩陰に隠れたり、木に登って見えないようにしたりと逃げ隠れするけど、ドラゴンと人間とでは圧倒的な能力差がある。私の体力はすでに限界値に到達していた。喉もカラカラだ。
 そして、ドラゴンが先回りに飛んできて、私の前に立ちはだかる。ドラゴンの口から涎のような液体を零している。私を一気に食い殺す気だ。

(魔法のない世界って不便だな!)

 アルテマとマザークリスタルが消滅したことにより、人間でも一応クリスタルを使えば魔法を使えていた。それが出来ないので、本当にただの人間になってしまった。まだ、騎士団でも入っていれば武器で戦うことはできるが、私はそんなスキルは全くない。
 今まで、クライヴやジルたちが守ってくれていた。人がいなければトルガルが傍についてくれていたが、今はそれもない。やはり、ブラックソーンおじさんから何か剣をもらっておけばよかったな、と後悔する。
 ドラゴンは私に牙を向き、襲ってくる。その速さは人間よりも早い。多分、スポーツ選手でも間に合わないだろう。そんなレベルだったなら、運動苦手な私なんて鹿以下も当然だ。食われる運命しかない。

(ああ、私の旅はこれで終わりか――意外とあっけない終わり方だったな)

 でも、この世界に来てよかった。元の世界に帰るまでが旅なんだろうけど、全部が全部その通りになるわけじゃない。
 私は、痛みを出来る限り和らげるように、目を瞑った。

 ――が、痛みはやってこない。
 その代わり、何かの悲鳴の声が森中に響き渡っていた。

「はっ! やぁ!」

 悲鳴の声と、人の気配がなかったはずなのに、男性の声が近くで聞こえた。しかもその声はどこかで聞き覚えがある。
 恐る恐る目を開けてみる。その先には、あの元気だったドラゴンが倒れていて、その前には槍を持った白い騎士が立っていた。
 間違いない、あの聖竜騎士団団長を務めていた、そして私があるはずのない運命を狂わせた原因――ディオン・ルサージュだった。
 ディオンは、ドラゴンが動かないのをしばらく見届けると、こちらに向いて近づいてくる。

「ここにいたか。怪我はないか?」
「ディオン……どうしてここに」
「それは余が言う台詞だ。貴女に助けられたと聞いて、隠れ家内を探していたら旅に出たと聞いて駆けつけたのだ」

 見つかって良かった、とディオンは安堵のため息をついていた。
 まだ目を覚ましてそんな経っていないはずだ。もう少し安静にした方がいいだろうに、彼は急いで後を追いかけてきたという。タルヤさん曰く「王子様は頑固な方だから」というのも頷ける。

「助けてくれてありがとうございます。おかげで助かりました」
「助けた恩は返す。だが、連れもなく一人で旅に出るのは危険だ。あの犬……
「トルガル?」
「トルガルを連れて行けばいいだろうに、何故一人で旅を?」
「え、えっと……歩きながらでもいいなら話します」
「では、余が護衛しよう」
「それはとても心強いです」

 森は魔物で一杯だ。だから人の気配はないのだ。人間が通るときは日が昇っている時と決まっている。今は夕方であり、ディオンはともかく私がまた魔物に襲われたらたまったもんじゃない。

「私はとある事情があってクライヴたちと活動してるんですけど、あの戦いが終わったら隠れ家を離れることはクライヴとジルには伝えてあったんですよ。でも予定が狂ってしまって、ある方法を探さないといけなくなってしまって」

 異世界人だから元の世界に帰らないといけない。これをディオンには話したことがない。というのも、普段彼とはあまり会話しなかったし、彼にとっても私のことを知らない方がいいだろうと思ったからだ。
 ――彼には、最愛の人がいるから。ただでさえ、身内を殺害してしまったり、多くの民を殺してしまったという深い傷を負っている中で、さらに私のことを知ってもらおうというのは、無理難題だろうと思ったからだ。

「ある方法?」
「ええ、大事な物をなくしてしまって」

 嘘をつくのは心にグサっとくる。でもある意味間違ってはいない。元の世界に帰る鍵を探さなきゃならない。それは物なのか出来事なのか、全く別のものなのか分からないけど。

「心当たりはないのか? 最近向かった所とか」
「うーん、クライヴに着いていくことが多かったから、いろんな所に移動してたんですよね。だから、転々と旅をしてます。それが見つからないと、どうしようもない」
……諦めるという選択はないんだな」
「まだ諦める段階じゃありませんしね。旅は始まったばかりですし」

 そう言っていると、森が抜けてきたようだ。そして、遠くある家の煙突からもくもくと煙を吐いている。次の旅先――オレーヴェル・ダウンズに来たのだ。
 私たちは、そこにいる仲間と合流した。


「ああ、よく来たな」
「カンタンさん、お世話になります」
「ああ、いいってことよ。クライヴにはたくさん世話になったからな。だが、タダでは食わせんからな」
「はい、私ができる範囲内だったら仕事も頑張ります!」
「いい心がけだな」

 久々に見るカンタンさんは、まるでお父さんのように表情が柔らかくなっていた。今までは〝マスター〟として住民は親しんでいたが、黒騎士に襲われ、多くの同志が亡くなった。生き残ったベアラー達で、今度は家族として生きていくことを選んだのだ。

「それで……ディオン様もよく起こしいただきました」
「様は付けなくていい。余はもう、罪を犯した者だ」
「しかし――
「あくまで、彼女の護衛として接してくれればいい。ここにいるからこの町や貴方たちをどうこうするつもりはない。余が出来ることであれば、彼女と同様仕事もこなそう」
「え、でも――

 彼は私を町まで送り届けたら隠れ家に戻るだろうと思っていたので驚いた。しかも、私に相談もなくいきなりだ。私の視線に気づいたのか、彼は苦笑しつつ言う。

「またドラゴンに襲われると思うと、隠れ家に戻れない」
「え、ドラゴンに襲われたのかアンタ!」
「は、はい……もっと早くここに着きたかったんですけど、ドラゴンに目を付けられちゃって……ディオンが助けてくれたのでここまで来れました」
「アンタって本当悪運だけは強いな! シドが生きていた時から思ってたけどよ」
「あはは……私もそう思います」

 本当、面倒ごとや襲われることはごまんとあるが、何だかんだ運は味方についているようで、何とか生きている。

「ま、長旅で疲れただろ? 今日はゆっくりして明日から仕事をしてもらうからな」
「はい、よろしくお願いします」
「お世話になる」

 こうして、私とディオンは再建中のカンタンの村でお世話になることになった。
 仕事をこなしながら、元の世界に帰るための鍵を探す。だが、手がかりは見つからない。情報を集めるにしてもまぁ……何というか、ここは所謂ド田舎なわけで、そこに図書館のようなものでもあれば別だが、そう言ったものがあるはずもなく。この町のこと以外の情報はほぼ皆無という結果だ。
 そんなある日、狩りの依頼を受けた私たちは森の中で探索をしていた時、ディオンが話しかけてきた。

「少しいいか?」
「はい、どうぞ」
「その大切な物を諦めて隠れ家に戻るという選択はないのか?」

 それは彼にとってはふと思ったことだっただろう。もちろん、大切な物――元の世界に帰る方法を一緒に探してくれているが手応えがない。難儀していると必ず誰かが不満を投げかけるものだろう。彼の言い分は正しいと思う。

(諦める……それは元の世界に帰ることを諦めるということ?)

 私は異世界に行ってみたかっただけであり、異世界で一生を過ごしたいとは思っていなかった。そんなことは不可能だと思っていたからだ。
 例えば犬や猫は人間と同じような生活ができるかというと不可能だ。犬や猫にも彼らの世界があり、彼らの世界の中では人間はオマケのようなものだ。人間もまた犬や猫もオマケのようなもの。各々には各々の世界がある。だからこそ、ヴァリスゼアの世界で一生を過ごすという概念は考えたことがなかった。

……正直言うと、ディオンが言わなければ考えてもなかった選択でしたね」
「なかったほどの、大切な物なんだな」
「ええ。でも、今はやれることをやっておきたいんです。……よし、約束の薬草全部揃いました」
「では、戻ろう」

 カンタンさんから狩り取った肉と救急係から頼まれた薬草の任務が遂行し、町へと戻っていく。
 カンタンさんから報酬を受け取り、空いた時間を使って手がかりを探すが、鍵となりそうなものが噂でさえも流れてこない。
 私は、そろそろ別の町で情報収集するべきかと思い始める。
 次に向かおうと思ったのが『クリスタル自治領』だ。
 そこはかつてバハムートが暴走化し、街を破壊した。クリスタル自治領はどの領域の人も平等に扱われる。だから情報が流れてくるとなれば、クリスタル自治領が妥当だろうと思ったのだ。問題は――ディオンだ。
 彼はバハムートのドミナントだ。彼がバハムートに顕現して街を破壊し、民を殺生したのだ。ジョシュアの頼みで彼を隠れ家に連れて帰り、タルヤによる治療を施した。
 だが、当時ウォールードの王だったバルナバスとクライヴが対峙し、重傷を負っていた頃、ディオンは目を覚ました途端隠れ家を後にしたのだ。ゲーム上ではクリスタル自治領に足を運んでいたが、おそらくその通りだろう。現実を受け入れるためかもしれない。
 彼はもう十分償っていると思う。起こってしまったことは仕方ない、というのは他人事だから言える言葉かもしれないが、今更過去を変えることはできないのも事実だ。過去より、これからどうするかが大事だと私は思う。そんな彼にはそのことに傷ついてほしくない。

(どう切り出そうか……

 空いた時間、私は与えられた部屋で一人、考えてしまった。


*製本版を購入の上、お楽しみください。*