【Δドラロナ】さよならヴェルダンディ

Δドラロナ結婚アンソロジー 寄稿作品
「昼も夜も君と共に」(たちひ様主催)
2023年6月25日JBF2023発行






……ん」
 随分と懐かしい夢を見ていた。ロナルドが夢現から目を覚まし体を起こすと、お気に入りのブランケットがずり落ちる。ぬくもりの残るそれを抱き寄せながら周囲を見回した。
……ドラ公?」
「おはよう、ロナルド君」
 衣擦れの音を立てながらドラルクは隊服に袖を通し、その上に真っ白な分厚い外套を羽織る。流れるような動作で頸の襟口に指を差し込んで、中から一筋に結った髪が引っ張り出されて背に落ちた。ロナルドはそれを見てようやく、先ほど見ていたものがかつての夢であったことに気がついた。
「今から、仕事?」
 普段は夜のうちに出ることが多いが、今は夜が明けて幾らか時間が経っている程度の太陽の高さだ。珍しいな、と思いながら見上げていると、ドラルクが不思議そうな顔で振り向いた。
……もしかして忘れちゃってる?」
「へ?」
「今日、私の退任式なんだけど」
「たいにんしき……
 あ、とロナルドの口から間の抜けた声が漏れる。そう、そうだ。今日はドラルクが、吸対を辞める日だ。そんな大切な日を、どうして忘れていたのだろう。自分が何の支度もしていないことにも気が付いて、ロナルドは軽くパニックを起こし掛けた。
「ああ、いいよ。大したことでもない。夜には帰ってくるから。君はお留守番しておいで」
 まるで子どもに言い含めるように告げるドラルクは着々と支度を進めていく。大したことじゃないわけがない。今やドラルクは、吸対のそーかんという、一番偉い役職になっていた。
……俺、行かないほうがいいか?」
「え?」
「吸対のそーかんの退任に、吸血鬼が行ったらおかしいよな……
「なんだ、久しぶりだなそういう感じは」
 ぎし、とベッドのスプリングが揺れる。ベッド縁に腰を下ろしたドラルクがふっと笑って、ロナルドの肩に下がる髪を一筋掬い取った。寝癖で絡んだそれを痛まないよう指先で丁寧に梳いて、再び肩に下ろす。
「ついてきてくれるのかね?」
「行って、いいなら……
「なら君の支度もしないと」
 手伝うよ、と言ってドラルクはクローゼットからロナルドの一張羅を取り出し始めた。外套に、ラペルドベスト。ドレスシャツにタキシードパンツ。見慣れたそれらがベッドの上に並べられていくので、順に手に取って身につけていった。
「俺、いつもの格好でいいのか?」
「君のこの格好は吸血鬼の正装だろう?」
「そうだけど」
「私も君も、今日まではいつも通りに出勤しようよ」
……うん」
 言われてロナルドはベッドから降りて、タキシードパンツに足を通しながら考える。そうだ。今日までは、今までと同じように。その思考の次には、自然と思い浮かぶ言葉があった。
 じゃあ、明日からは?
「昨日、昔の夢を見てね」
 ドラルクが何の気無しに話し始める。真正面でその顔はロナルドに比べてずっと変化してしまっていた。歳を重ねたことで髪が伸びただけでなく、目元には皺が刻まれているし、以前よりも細くなった首元は老いを否応無く感じさせる。最近は老眼が酷いと言って、時々眼鏡もかけるようになった。けれど、ロナルドの指に嵌まった金環と同じ色の瞳はずっと変わることがない。ドラルクの金色は、この三十年の間ずっとロナルドに向けられてきた。
「昔の夢……?」
 ロナルドの繰り返しの言葉にドラルクはうんと頷いて、ロナルドの左手を掬い取る。ドラルクの左手、その枯れ枝のような薬指にも同じく輝く金環が嵌っていた。
「今すごく、ロナルド君と結婚したいなぁと思ったんだ」
🌊WB