2024-06-30 18:50:51
3560文字
Public 作品解説・制作後記
 

モル緋ジューンブライド漫画 蛇足解説


『俺は凶街モルテ、人喰いの亡霊だ!普段は霊界的なところに住んでる俺だが、ある日現世から帰ってきたら知らん家に飛ばされた上に知らない女がいてさぁ大変!原因を探っていくと、どうやら冥婚の儀式を元にした呪術に引っかかった結果俺と結婚したと思い込まされてるらしい。は?
というわけで、どうにかしてこいつを現世に叩き返すぞ!!!!!!!クソが!!!!!』
(存在しないあらすじ)

 というわけでモル緋冥婚漫画になりました。どう考えても緋誕向けの話ではない。

 モチーフにしたのは現実にある風習の紅包とムサカリ絵馬で、漫画ではそれらを媒介とした新式の呪術によって冥婚が勝手に行われることになりました。
 緋色は認識を歪められてモルテは正気を保ってたところから、「死者の男に生者を嫁として送りつける」みたいな内容の呪術なんだと思います。とはいえモルテの知り合いや身内が現存してる感じでもなく、いわゆる「死んだモルテを偲んで嫁を見繕う」みたいな動機で行われたわけではなさそうです。
 そもそもモルテも巻き込まれただけかもしれない……何がしたいんだ呪ったやつは。

 現実的には穏やかな形の冥婚の風習もあり(どれほど現代に根付いているかは測りかねますが)、ホラーとしてどう扱っていいものかは悩みましたが……『意思あるもの同士が自分の意思と関係なく結婚させられる』ことに限定した怖さと『そもそも生きてるやつを殺してまで冥婚させるのはダメだろ!!』みたいなテンションで描くようにしました。冥婚の意図が死者の慰めだとしても、死者がそれを本当に望んでるかどうかは我々生者にはわからないですよね……
 この漫画のモルテはそのあたりどうかというと、結婚願望なんて微塵もなく緋色と生活することにも最初はものすごい不満を感じてました。独り身故の気楽で自由な生活を送ってきたところで急に知らない人間と夫婦生活を送るハメになったので……
 モルテは他者からなにかを強制されるのをすごい嫌がりそうですね(幻覚)

 でも緋色は明るくてノリが良くて優しくてモルテを真っ直ぐに慕ってくれるので、モルテも次第に絆されてはいました。
 ただ、緋色との仲が深まるほど、このまだ生きるであろう人間を何としても現世に返さないといけないという思いが強まっていったのだと思います。その分自分たちを呪った黒幕への怒りも蓄積されてますね。普段のモルテなら食べ物に乱暴に箸突き立てなさそうですし。

 漫画自体のページ数が短いのもあり、モルテから緋色への優しさが分かりやすくなるよう調整してました。(口調の柔らかさとか緋色の前では笑ってるところとか)
 緋色が現世に帰ってきた時の喪失感の描写が想定よりもしんどい感じに変わったので、その分緋色がモルテを好きになる理由が分かりやすい方がいいかな……という思惑もあります。


 この漫画内の霊界には黄泉竈食ひ(黄泉の国の食べ物を食べると黄泉のものに成り切ってしまうというやつ)があり、モルテはなるべく緋色には現世から調達した食べ物を食べさせるようにしてました。
 ただ、家の中でも霊界パワーで食材が補充されていくので、やむを得ず危険な食材を使うときもありました。ありがた迷惑。
 時間が経てば経つほど緋色は霊界に染まっていくため、現世に無事に返せる期間はそんなに猶予がない感じです。長くて一週間かも。


 緋色には『自分はモルテと結婚した』という記憶が植え付けられ、緋色が矛盾や空白に気づいた瞬間にそれらを補ったり上塗りするような記憶が植え付けられていました。
 例えば「モルテとどこで知り合った?」と聞けば「お見合いだよ!」と答えたり、「その歳で結婚を決めたの?」と聞けば「問題ないと思うけど……」と答えて時間の認識が2022年以前になる……みたいなことが起こり得ます。
 緋色に直接質問攻めすると、植え付けられた記憶同士が矛盾を起こして、余計な混乱を招く恐れがありました。なのでモルテは情報収集は現世に行って色々調べ回ってたと思います。幸い緋色には何か仕事してるように見えてたのでそんなに怪しまれなかったり……

 緋色は最後まで呪術の影響を受けた自覚がなく、現世に帰った後はモルテと過ごした日々を覚えてません。
 でも退院する日に家族から「お祝いに何か食べたいものある?」って聞かれて反射的に「からあげ」って答えて、でも自分が食べたいのはいつも家族が揚げてくれるからあげやお店やお惣菜のからあげじゃないことに気づいてどうにも切なくなる……という後日談があるかもしれない。


 この漫画における緋色の家族構成は母親・姉との三人家族という設定です。公式設定になさそうな部分を積極的に捏造していくスタイル。
 お父さんは緋色が小さいときにいなくなりました。おじいちゃんやおばあちゃんは健在で田舎に住んでるかもしれない。双子かどうかは特に決めてないです。姉は妹の唐揚げを積極的に奪いにくるけどお見舞いには毎日行ってるタイプの人です。
 要するに、この漫画の緋色ちゃんは女所帯の一番下っ端なので、モルテ的には緋色に何かあると両サイドの女傑が殺しにかかってくるような心持ちだったと思います。もし娘を溺愛する豪傑が居たらモルテの胃はいよいよ死んでた。
 モルテは人間がどういうときに喜んで怒って悲しむのかはよくわからなくても、感情的になった人間の強さ(怖さ)は理解しているという幻覚……

追記
 多分明言し忘れてるけど、この漫画ではモル緋は初対面です。この一件がなければ交わることはない二人でした。
 緋色にとっては元の家族と本来の自分の元に帰ってこれて後遺症もなくこの上なくいい形での生還なんですが、心にはずっとモルテの形をした穴が空いてしまったという。モル緋再開エンドください