想いを淹れる

FF14の二次創作です。
時間軸は漆黒のヴィランズ(5.1)及び暁月のフィナーレ(6.0)クリア後を想定。
サブクエスト「小さな旅路」のネタバレを含みます。


 彼の手元で淹れたてのコーヒーの香りが生まれる。
 細く湯をまわし注ぎながら、アゼルはフ・ラミンから淹れ方の手解きを受けた時のことを思い出していた。
 大事なのは分量、温度、そして時間。
 それらをきっちり測りながら手順を進めていく。
 ドリッパーから少しずつ滴り落ちていく琥珀色。ごく浅煎りの豆を挽いた粉から抽出されるそれをしばし見守り、雫が落ちきるまでの間に茶請けの菓子を準備する。
 そして二つ並んだカップに満たしておいた湯を捨てて、空いたところに琥珀色を注ぐのだった。
「よし、イイ色だ」
 ひょんなことから今日は珍しい豆を手に入れることができた。新大陸のものらしい。
 時間もあるし、久しぶりにフ・ラミン直伝のドリップ法でコーヒーを淹れてみようか。
 そう思い立ち、道具の有無をオジカ・ツンジカに確認したところ「あるよ!」の声。
 以前バルデシオン委員会にいたコーヒー党が、ラストスタンドまで行かずとも済むようにと器具一式を持ち込んだらしい。
 ナップルームの奥深くから掘り出されたそれをオジカから受け取って、ついでに水場も借りて今に至る。
 彼の手には淹れたてのコーヒーが二つ。
 意外な趣味だと思われるかな。口の端に笑みが浮かぶ。

 あの時、フ・ラミンはこう続けた。

 美味しく淹れるコツの「時間」には、手順的な意味合いの他に、もう一つ。
 それは、コーヒーを楽しむ時間を素敵なものにしたいという想い。
 一人の時は、自分のために。
 誰かと一緒の時は、その人のことを考えて。
 手順通りに淹れるのはもちろんだけど、想う相手がどうしたら喜ぶかを想像してみるの。
 苦みのあるのが好き、酸味があるのが好き。
 濃いめが好き、華やかなのが好き。
 お茶請けはあれが良いか、それともこれが良いか。
 そういうことを試行錯誤する時間と、その結果に生まれる時間。
 そして、それの繰り返しが。
 コーヒーの味を深くしていくのよ。

 あれから手隙の時に一人で練習を重ね、時折石の家でフ・ラミン相手に上達具合を見てもらうこともあった。
 彼女の味にはまだまだ及ばないけれど、自分のそれも少しは深みを増しただろうか。
 この部屋の中で待つ「彼女」の顔を思い浮かべながら。
 そうだといいと、アゼルは願って扉を開けた。


END