番外編.C

一ページ目必読
※MHパロ


衣食住の三つは、各地の環境よって大きく変わる。
クヤ村は谷間を広げて作られた村で、周囲は高い山に囲まれている。近場に鉱山があり、木製よりも石造りの家が多い。川は少し離れており海には面していないため、海産物は貴重品として扱われる。冬は非常に寒く、夏は少し暑い。土地も広くないため、米も主食にできるほど確保できない。このような理由から、クヤ村はジャガイモを主食としていた。

ソウゲツは、そんな村を出身とする料理人だ。G級ハンターとして狩猟する合間に、様々な手料理を研究している。そんな彼の協力者として、王国に拠点を置く料理人がいた。キズムと名乗るその少年は、ハンターを強化するモンスター料理を得意とする。彼の師匠は別の辺境でまた違うモンスター料理を研究しているらしいが、ソウゲツが会合したことは無い。


昼時。王国から少し離れた、ミラボレアス対策拠点のテント。ハンターキャンプも兼ねているそこに、キズムとソウゲツは集まった。今回の古龍狩猟協力として、ハンター料理の選別や研究に訪れたのだ。少年の後ろには、カラクリ義足の両脚で立つ男。


「わざわざありがとうございます、ソウゲツさん」

「問題ない。それでキズム、そっちが今回の……

「はい。こちら、特別指南役のゼフスさんです」


キズムが紹介した男は鋭い歯を見せ、怪訝な顔をするソウゲツに「どうぞヨロシク」と笑う。辺境の里出身のG級鍛冶師らしいゼフスは、アルドアたち主導狩猟部隊に武具を提供している強者だ。かつてはG級ハンターとして活躍していたこともあり、様々な機関から協力要請を受けていると言う。

そんな彼をキズムが連れてきたのは、彼が知る辺境の里でのみ作られていた郷土料理『うさダンゴ』を教授してもらうためである。他地方で作られるハンター料理よりも手軽、かつ少ない準備で作れる画期的な料理。ミラボレアスに挑むハンターたちの強化材料として挙がるのは、当然のことだろう。


「指南役っても、オレは料理人じゃねぇから専門のコメントはできねぇからな。そのへんは期待しないでくれ」

「実物を知っているというだけでもありがたいですよ! ボクだって専門は肉料理だし

「基礎レシピは入手しているだろう。まずは素体を完成させなければ」

「ん、じゃあまずはクシの扱いからだな」


そう言ってゼフスが取り出したのは、先が二股に分かれた竹串。ソウゲツとキズムがよく見れば、従来の竹串よりも平坦であることが分かる。ゼフスいわく、この二股の部分はうさ耳を模したものらしい。これに三つの球体状にした餅生地を刺し、そのまま齧り付いてもらう。サンプルの見た目も可愛らしく、キズムは興味深そうにクシを眺めている。


「餅生地に練り込む素材は、強化する内容によって変えるんですよね」

「そうそう。後は葛餡を垂らしたり、胡麻を付けたりするんだ」

「後で味付けできるのは良いな。葛餡の味も奥が深そうで面白い」

「甘いのが多いけど、材料によっては爽やかな味も考えられそうです」

「色変えには着色料を使わないほうが良さそうだな」


様々な用語を飛び交わして、『うさダンゴ』を作っていく。効率的な味の引き出し方を模索、同時に食事で得られる効果も試験する。見た目にもこだわり、最高に可愛らしくなるよう胡麻などの位置調整を繰り返す。滑らかな舌触り、餅生地と他素材の比率、色彩、大きさ、時間……料理人としての技術と知識を大いに使い、究極を求めていく。


没頭し続けて八時間と少し。
三人の疲労感覚がすっかり麻痺した頃、テントに入ってくる人物がいた。少し引いた顔の男は、ダイチという名で通っているG級ハンターだ。防衛戦を専門とする部隊に所属しており、人の住む国に向かうモンスターの対応を行っている。ミラボレアス討伐作戦では他モンスターを誘導し、決戦の邪魔にならないよう動く役割がある。


「熱心に取り組むのはいいが、そろそろ休んだらどうだ? 昼頃からぶっ続けで作業しているだろう」

「え? ……ああ、そんなに経ってたんですね。すみませんダイチさん、知らせに来てくれて」

「言われてみりゃ確かに疲れた。続きは明日にすっか」

「む、分かった」


分量を書き込んだ資料をまとめつつ、ソウゲツは夢想する。

前回のオオアラシでは遂に見ることがなかった、ミラボレアスと対峙する部隊の実力。G級の中でも狩猟に特化しており、各地を忙しなく飛び回っていると聞く。確かに武具は極めて質の良いものだし、指示や作戦も的確だ。彼らならミラボレアス相手にも臆せず、また正面から挑めると確信できる。

自分はそんな彼らと関わり、また支援する立場にいる。名誉なことは間違いないが、それ以上の重圧もある。自分たちが一つでも間違いを犯せば、致命的な失敗に繋がる可能性が存在するのだ。たかが料理、されど料理。人類の存続を決定する狩猟に費やすモノは、多すぎても損はない。


「(──まぁ、個人的な恩もあるしな)」


そんなことを思考しながら、ソウゲツは無意識に渇望を抱く。いつか自分も、その領域へ辿り着きたい。可能ならば仲間たちと共に、先征く彼らを追い越したい。誰よりも知り、何もかもを掴む。壮大なその夢は、人間として異常なもの。ハンターとして、人間として、この探求心は尽きることがない。彼もまた、探索者Investigatorなのだから。