MN*B
2024-06-23 02:52:55
22156文字
Public 蠱毒な夢術廻戦:pixivバックアップ
 

E.30 魂の再起

シリーズ中第47話になります。
注意書きは1ページ目、もしくはシリーズ概要の方にあります。

このシリーズの閲覧、ブックマークやいいねなど、ありがとうございます。大変お待たせしました。
ずっと、この解釈は良いのか。言わせていいのか。展開は…と、悩んでいました。でも、これでいいんだと思えたので、投稿します。

 
 今回、やっぱり暗いですし、ちょい夢っ気強いです。
アニメ一期分が終わるときにはこうすることを決めてたんですよ。ややこしくなっちゃうな~って思っちゃいたんですが、想像を越えてやべーことになってきした。

 次回、三つ巴。
投稿時期は未定です。気長にお持ちいただけると嬉しいです。

 
【今後の展開上の注意】
 敢えて言っておきますと、救済キャラが今後死なないとは限りません。原作で死んだはずのその先を歩めるだけで、その道が長く続くかは別の話なので。

 本当はこのシリーズの吉野順平だって、「助かった!命はあるけど表舞台からは退場!」で良かったわけです。むしろ、当初はその予定でした。原作沿いを謳っている以上、生かしたところで出番を生かし切れる自信もありませんでしたしね。
 ですが、書き手の思う吉野順平は、力を失ったくらいではのうのうと生きていくこともできなさそうで、力があるのであれば使うし、特に家族とか大切な人が関わるのであれば尚更。とういう解釈でして…。


#夢術廻戦 #オリ主 #オリキャラ #究極メカ丸 #与幸吉 #脹相 #虎杖悠仁
2024年5月22日 23:57



 赤い空。暗い森。夕焼けで燃える木々の中を走る。
 愉しい。そうだ、狩りだ。俺は今、狩りをしている。獲物の血の匂いが混じった空気、痛みで引き攣った息遣いを感じる。
 弱り、逃げ惑っている。絶対に逃がさない。甚振って、嬲って、どうやって殺そう。必死に逃げる息の根が止まる瞬間を思えば、魂が震える。

 追いついた背。立ち塞がろうとする玩具を薙ぎ払う。肌が焼けても魂は燃えない。俺を沸き立たせるのは魂の欲求だけ。その本能に従って自由に他者を蹂躙するんだ。
 それだけだ。それだけが嗚呼、こんなにも楽しい!

 ヒラリと翻ったところを斬りつける。引き倒し、踏みつけ、その羽化したての柔かい魂に手を伸ばす。翅を千切り、脚を捥いで、芋虫に戻すんだ。
 乱れた自分の髪が己の視界を遮る。それがノイズのようになって目の前の光景が掠れた。

――あなたは__
――あなたは__を_っている。
――あなたは列車を待っている。

 低く落ち着いた声がそう告げた。……そうだっただろうか。

 ポーンという丸い音が、俺の居る場所全体に広がって、俺の耳にも届く。
 冬の早朝に満ちる、冷たく澄んだ空気が肌を刺す感覚。人の営みが目覚め、動き出した騒めきが近づいてくる気配。
 俺は駅のベンチに座っていた。それで、__座って待っている。__走る。__誰かと
 電車になんとか間に合って、__乗って、__殺す。__殺さなくては、__殺さなきゃ、
 車内の乗客を一人残らず切り刻む。血を浴び、__探す。__声を聞く、__殺す。

 やっと見つけた姿に、息を呑んで。目の前に血が迫る__弾け、

 ――シャボン玉が舞っていた。足元は芝生になっていて、目の前を『弟たち』が楽しげに走っていく。
 遊具の上から、『兄』が息を吹いてはシャボン玉を生み出していた。……穏やかな空気が流れていた。

「ここは……

 俺はベンチに座っている。自然と、俺の斜め後ろに立っている『彼』をみた。その姿はまるで、こちらを観察するようでもあった。そして、俺はそれを知っていた。
 少し離れた位置に居る彼は平然として、当たり前のことのように言う。

「これはあなたの記憶であって、そうではない。……わかりますね?」

「これは、夢……?」

「アタリでハズレです。あなたはもっと賢いかと思っていましたが、私の思い違いのようですね」

 彼はこちらに歩み出てきて、俺の隣に座った。色素の薄い睫毛に縁取られた鮮やかな虹彩がこちらを見る。

「どうしてあなたはこんなことを。拒絶すれば、ここまで拗れることもなかったでしょうに」

……できなかったんだ。馬鹿だよな」

 俺は境界線を見誤った。相変わらず自分で墓穴を掘っている、自業自得だった。
 それを象徴しているのが、今みているものなのだろう。……でも、ここはどこなんだ。
 アスレチックじみた遊具があって、砂場や水飲み場がある。どこかの公園のようだったが、ここがどこなのか思い出せない。

 俺の裡にあるとは思えない光景を、俺は受け入れていた。こんな記憶を持っている覚えはないのに。

 暖かな日差しは心地良かった。でもそれは俺が動いていないからなのだろう。走り待っていた弟たちにとっては違うようだった。
 彼らは頬を高揚させ、息切れしながら水道へ走り寄っていく。数瞬後、蛇口を捻り過ぎたようで、水が暴れ出した。それを頭から浴びてずぶ濡れになっている。それで悲鳴をあげたかと思えば、けらけらと笑いあっていた。

 これが俺の願望なのだとすれば、ずいぶんと女々しいものだ。こんな執着を持っているつもりはなかった。
 知りたかったことも知り、欲しかった時間は与えられた。これ以上何を望むっていうんだ。

 俺は目の前に広がる光景から目を逸らし、伏せた。

……幸せになりたいなんて思わない」

 幸せとは何か、それを知っている人が幸せになればいい。幸せがなんたるかを知っている人こそ、それを甘受し享受して欲しい。……それが自分たちの総意だった。

 幸せを享受するのにも強さが必要だと思ってる。
 幸せを認めることができるのは強者の心理だ。信じる強さを持っている人間はどんな状況に置いても幸福を見出すし、何も信じることができない人間はどんな状況にも不幸を見出す。
 弱い人間にとって、幸せは自らに不釣り合いで、不幸せなら自らに言い訳ができて都合が良いから。――信じなければ、期待しなければ、愛さなければ、傷つかずにいられるから。
 そんな考えの人間が幸せになろうとしても、幸福になろうとする自分に耐えられなくて自壊する。

 【生きて】いくためには、【幸せに】なるには、無関心ではいられない。その上、死ぬつもりだなんて、――阿古屋あい 生きる】に相応しくない。
 だから、あの頃の自分 オレは引きずり下ろされた。だから、『強いものが生き残るべき』だった。

「俺は弱いと思ってたし、実際そうだった」

 長い袖に隠れた手を出し、両手のひらを見つめる。

「だけど、誰かを助ける力があるって自覚してから、俺は人を助けられるくらいには強いんじゃないかって思った」

 両手を組み合わせる。そのまま力を籠めた。限界まで、痛くなるくらいに。

「でも、そんなことはなくて。俺は自分の力に振り回されているままだった」

 力を籠めて握りしめたって、自分で自分を壊すことは叶わない。壊れたっておかしくはないはずなのに、自分が砕けるほどの力は籠められない。

「強いのは俺じゃない。俺の持つ力が強いだけなんだって……俺自身は未熟なままだ」

 両手を解けば、どちらも濃く血が通った色をしている。生きている者の色だ。それがどうしようもなく向き合いきれない。
 こんな俺が生き残ったって、どうしようもないのに。

「悔いているんですか。足掻いたこと」

「それは違う。なんというか、嫌気が差すんだ。自分の中途半端さに」

 可能性を模索することはあっても、自分がやろうとしたことに後悔はない。“あのとき、ああすれば良かった”が、あったとしても、そのときの俺がそうしたいと思ってした行動を否定する気はなかった。

「誰かを助けたいと願うのだって、俺の気持ちだ。そこに“助けなければならない”っていう義務感があるのも本当だ」

 道徳や社会倫理、ルールと枠組み。人の輪に加わるのであれば、最低限それに準じなければならない。人間が人であるために必要なものだ。
 そして、力ある者は力の使い方を誤ってはならない。人の輪の中に居たいのであれば。

「それを成し遂げられるだけの力だって持ってるはずなんだ。だけど、上手くいかない。……本当に大切なものから取りこぼす」

 何が強くなる、だ。力だけを磨いたところで中途半端になっただけだった。俺と揮うべき力、そのバランスが釣り合っていない感覚に苛まれる。
 実際、俺は何も成し得ないままだ。
 助けを求めていた手は掴み損ね、兄だって見つからない。きっともう見つけられない。

「見つからないんだ。俺にはわからない、どこにもいない……

 駅でみた人物が脳裏にチラつく。思い出すだけで息が止まりそうになる。
 顔は似ていたが、あれは完全に別人だ。俺の兄じゃない。それが分かった。
 それでもショックだった。兄からあんな目を向けられたことはなかったから。

「泣いてるのかぁ?」

 声がすぐ前から聞こえた。それにハッとして、いつの間にか深く俯いていた顔を上げれば、『弟』が心配そうにこちらを覗きこんでいた。

「俺は別に……

 気まずくなり、すぐに視線を逸らす。隣に居る彼が目に入って、つい口が滑る。

「泣いてたのは俺じゃなくってッッ」

 バチーン!と派手な音を立て、俺の口が塞がれた。彼の手で、だ。

「ア、兄者ァ!?」

 彼の突然の暴挙に弟は狼狽え、俺と彼の間でワタワタとし始める。

「失礼。つい」

 “失礼”とも思ってなさそうな謝罪をして、彼は俺の口元から手を離す。ついでに、その先を口にすれば只では置かないと、目線だけで牽制してくる。
 挙句、彼は一言二言添えて、弟に距離を取らせた。弟はこちらを気にしていたが、そのまま元の輪に戻っていった。


 彼は口を滑らせかけた俺に鋭い目を向けてから、気怠げに「全く……」と呟き、自身の唇に指を添えた。

「そんなことはない。それはあなたが一番よく分かっているはずです」

「俺にできたのは命を掬い上げることだけだ。それは救済とは呼べない。……あの子の母親は呪いに殺されてしまった」

「傲慢ですね。それはあなた一人で抱える問題ではなく、その後の彼を囲む環境が救いになるんです。あなたの行いは彼にとって、その救いの中の一つにすぎない」

……弟は今も死の淵にいる。思い出せば、足を踏み外すかもしれない。それでも俺は彼に思い出すための切っ掛けを渡した」

「選択肢を与えたんです。どの道を選ぶかは彼の選択だ。兄弟はそれを見守り、支えるだけです」

 彼の視線が前を向いた。つられて俺もそちらを見ると、視線の先で、話に挙げた彼が兄と話をしているようだった。

「道に間違いなんてことはありません。それは主観や結果論であり、そんなことが事前に分かるなら誰も苦労しませんよ」

 弟が笑っている。兄も笑っている。あんな風に笑う人だったっけ。
 最後に兄と会ったのはいつだったか。最後にみた兄の姿はどうだったか……なんでだ、うまく思い出せない。

「もしも兄弟がそう思うような道を歩まなければならないのであれば、それが修羅の道であっても、私は共にゆきましょう。兄弟一人に背負わせるなんてこと言語道断ですから」

 俺の横で語る彼がそう言い切り、俺は……それが少し羨ましかった。俺たちは自分自身のことだけですら背負えなかったから。
 その横からの強い視線を感じ、俺は彼のほうに向き直って、――バチリと目線が噛み合い、逸らせなくなる。

「私たち兄弟は孤独 ひとりではなかった。互いの存在を確かめ合い、150年の時を耐えたんです。人の身を得てからも、私たちは一つであって一人ではなかった。……それなのに、今さらどうして兄弟を一人にさせられますか」

 有無を言わせない眼が、言葉が、俺の弱さを射貫いてくる。

「共に在る。それだけであっても、それが尊いのだと。あなただって知っていることでしょう」

 芯の強さが、その瞳に表れていた。

 俺は返事に詰まって、その代わりに声もなく自嘲の笑いで顔が歪む。……応酬の果てに言い負けた。何をやってるんだ、俺は。
 思わず、負け惜しみじみた自虐が出る。

「アンタにこんなこと言わせるなんてヒデーよな」

 所詮これは、俺が作り上げた都合の良い“何か”だ。俺は相変わらず自分なんだと思い知らされる。

 視界の端にキャラメル色が掠めた。頬に知っている温度を感じる。彼が俺の頬に手を寄せていた。
 声をあげる間もなく、俺は強引に顔を上げさせられ、彼と目が合う。スマートに見えて割と力ずくだった。

「すべてがあなたの掌の上だとでも思っているんですか。本当に?」

 そのはずだ。どういう意味だ。だって……
 俺の思考が言葉になる前に遮られる。

「あまり悪いようには考えないことです。これが良いことだとも思いませんがね」

 シャボン玉が舞っていた。風に流されて、俺たちの間を通り抜けていく。穏やかな日差しは俺の目を焼かなかった。
 舞っているシャボン玉の一つが目の前で弾けた。思わず目を閉じて、瞼に飛沫が当たった感触が仄かに残る。

「本当に甘い人だ。だからこうして付け入られるんです」

 謝る気は毛頭ないのだと、喉の奥から笑っている。その声は嫌味にならない耳触りの良いものに聞こえた。それが不思議だった。
 その感覚に身を委ねて、ふと尋ねる。

「俺たちは同じバスに乗るのか?」

「さあ、存じませんね。船かもしれませんよ」

 そうかもしれない。
 くぐもった水音が聞こえ、全身が浸っているのがわかった。



 額から鼻筋、頬、顎、首へと液体が伝っていく。それと同じようにして身体中から雫が滴っている。その感覚に浸ったまま、意識を引き上げた。

「列車を待っている。望む場所には行けるけど、どこへ行くかは分からない……

 どうして、こんなことを思い出したのだろうか。いつか観た映画の一節を呟いたことに、そう思った。

 目を開ければ、薄暗い場所に俺はいた。身体に染みついていたはずの血の匂いは、いつの間にか波が引いたように遠ざかっていた。