MN*B
2024-06-23 02:13:53
8695文字
Public 蠱毒な夢術廻戦:pixivバックアップ
 

E.19 一転する視線

シリーズ中第36話になります。
注意書きは1ページ目、もしくはシリーズ概要の方にあります。

シリーズ一話目:その身に巣食うは蠱毒也て【 https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=14418288
前話:E.18 耳目一手の慾【 https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=16436192


 お久しぶりです。渋谷事変がアニメ化されるので帰ってきました。
よろしければまたお付き合いください。

 今回、初っ端からちょっと暗いです。いつも通りですね。青嶺の兄についての話がほんの少しだけあります。
青嶺って伏黒に兄の話なんてしてたっけ?と思われた方、大丈夫です。してません。本編内で描写してません。詳しく描写するとしても番外編でですかね。

 次回は、また一週間を目処に上げられたらいいなぁ、くらいに思ってます。
どれくらいの文字数になるのか未知数なので、気長にお待ちください…。
一週間以内に上げられなさそうな場合、ここに追記するか、X(ツイッター)かフィード辺りで改めてお知らせします。

追記:一週間じゃ無理でした。二話に分けるならプラス三日か四日、一話のままならもう一週間が目安です。分けるほどの文字数かというとそうでもなさそうなんですが…自分に負けたくないので頑張ります(一敗)。

 
虎杖のスマホ画面を見てみると面白かったです。そんでもってパロ元は紫じゃなくて黒で、虎じゃなくて豹ですよね。ちょうど放映2018年ですし…。

青嶺が換金所と景品でピンとこなかったのは、パチンコをして帰ってくる親族や知人友人がいなかったからです。育ちがいいを地でいく感じ。



#夢術廻戦 #オリ主 #五条悟 #伏黒恵 #釘崎野薔薇 #虎杖悠仁 #待ってました!!
2023年9月7日 04:20



 車が止まり、運転していた伊地知さんが「着きました」と後部座席のほうを振り向いてくる。窓から外を覗けば花屋が見えていた。
 ここに寄ると言い出した張本人は、俺の隣で黙ったまま目を瞑っている。

「ほら、起きろ」

「寝てないからな」

 じんわりと目を開けた衛は、心外そうに目を瞬かせた。
 任務上がりだったが、虎杖と釘崎の二人とは別れた後で、俺たちはまた別の目的のために移動している途中だった。



 車外に出て行った衛は、しばらくするとまた戻ってきた。少し時間がかかるらしく、そのまま車内で待つことになった。
 伊地知さんは運転席に居ながら、書類を散らばらない程度に捌き始めた。衛は何をするでもなく、じっと前を向いて姿勢よく座っている。このまま沈黙の時間が流れるのかと思われた。
 俺も手持ちにある小説を読むかと考えたとき、前触れもなく、衛がそっと口を開いて話を始めた。

「俺の兄貴は猫が好きだ」

 俺は何も言わずに、彼のことを横目で窺い見た。
 衛が自身の兄のことを口にしたのはこれで二度目。一度目は、ついこの間のことだ。そのときに、その兄が最近行方不明になったという話を聞いたばかりだった。

「だけど、本人が猫アレルギーだから飼うことはできなかった」

 伊地知さんも書類を捲っていた手がわずかに止まっていたが、すぐに何事も起こっていないかのように作業を続けた。……俺たちは口を挟まずに彼の言葉を聞いていた。

「この間の任務で、猫が死んでた。兄貴なら埋めると思ったから、俺もそうした。……俺は正しいことをしたと思うか」

 衛はそう言って、それでやっとこっちを見た。問いかけとするには答えを求めていない口ぶりだったが、サングラス越しに合う視線には迷いがあった。

「こうやって花を買うのも、ただの真似事に過ぎないんじゃねぇかって。そうすべきだという常識に従って動いていて、そこに俺の感情はない。それでいいのかって」

 善悪の指針が家族であり、自分の中の善性に疑惑を抱いている。それが今の衛の状態なのだろう。
 世の中にいる大半の人間は、お前が思うほど欲も理由もなく、善い行いをしているわけではないのに。……そう言ってやることもできた。
 けれど、そもそもこいつがそんな風に考えるようになったのは、俺が言った言葉が原因なのかもしれない。

  「対象が悪人であっても、お前は自分のために良いことをするのか」

 あの頃の衛は、納得したようにアッサリと頷いただけだった。それが今更、巡り巡って彼の中で呪い しこりになっている。

「こんなことしたって、どうしようもない。形だけの自己満足だ」

「それでいいだろ。冷徹な人間よりもマシだし、お前がそうしたいならすればいいんだ」

 そういう意味では俺もこいつとそう変わりはない。俺は自分が納得できる人間だけ 善人を助けるのだから。俺は俺の考えで呪術師をして 生きている。

「大体、形から入るタイプだろ、お前」

「なんだ、それ」

 俺が端的に「コーヒー」と付け加えれば、困惑した顔をされた。なんでそんな心当たりがねぇって表情すんだよ。
 衛は何かを考えてるのか黙りこんだ。その後で、「そうかもな」と小さな笑みを口元に浮かべた。
 それから、ふっと窓のほうを向いて、外を見た。

「他人の悪意で命が失われる、人が死ぬ。それは世界のどこでもいつでも起こっていることで、特別なことじゃない。変わったのは、俺が他者につけた価値……俺が大切なものを大切だと認めたこと」

 窓ガラスには薄っすらと衛の顔が映っていて、その向こうには店前に並ぶ色とりどりの花々と、街中を行き交う通行人の姿がある。

「大切じゃなければ傷つかないでいられる。無関心であれば傷つくことも減る。だけど……

 そこで一度、衛は言葉を途切れさせた。ここではないところに視線を向けている雰囲気を纏っていて、唇から細く息が漏れていた。

「無関心でいるのは虚しい。『何もない』があって、それを虚しいと思う感情がある。何もないはずなのに何かがあるんだ」

 いつもの迷子じみた寂しげな表情の中に、何かを思い出し懐かしんでいるのが滲んでいた。

「これから強くなれるかは俺次第なんだろうな」

 独り言の声量で呟かれたそれは、自身に言い聞かせているようだった。


 衛はおもむろに時間を確認すると動き出した。先ほどまでの話なんてなかったみたいな態度だ。
 しかし、衣擦れに紛れるようにポツリと落とされた声。

「つくづく思うんだが、名前ってのは呪いだなって」

 名前に苦手意識を持っている者同士だからこそ、零れた言葉なのか。
車から下りていく背中に向けて、俺は尋ねる。

「お前は何を守るんだ」

……なんだろうな」

 こちらを振り向いた衛はいつものようにすっとぼけていて、それで、俺の知らない顔で笑う。なぜか俺は、その表情が津美紀に似ていると思った。

  「誰かを呪う暇があったら、大切な人のことを考えていたいの」

 花束を抱えて戻ってきた衛を見て、俺はその言葉を思い出していた。