ふみかぜ@壁打ち
2024-06-21 23:46:41
4312文字
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【6/30JBサンプル】小さく淡く、いとけなく【読切ドラロナ/ショタ化】

6/30ドラロナオンリー新刊のサンプルです、よろしくお願いします!/できてない読切ドラロナのゆるい短編/退治の最中に吸血鬼の能力で十年ぐらい若返ったロ様(ある程度の記憶あり)が、二百年ぐらい若返ったドちゃん(ほぼ記憶なし)と出会って一夜を過ごす話/通販はこちら→https://www.melonbooks.co.jp/fromagee/detail/detail.php?product_id=2447835


 ずしん、と腕が重くなる感覚に、彼は青い目を瞬かせた。
「え」
 乾いた銃声と共に放たれた弾丸。目の前で塵の山と化し、動かなくなる悪い吸血鬼。
 黒い手袋を嵌めた右手に握られた、リボルバー式の拳銃。それを手慣れた動きで構えて引き金を引いたのが自分であるという事実に、彼は静かに混乱していた。
「なんで……?」
 おかしい。これは夢? でも霧がかった空気のじめっとした気持ち悪さも、口の中がからからになる感じも、風で森の木々がざわざわしてる音も、足下に広がる雑草の青臭さだって、とてもリアルで現実感がある。
 それでも、やっぱり変だ。
「おれが、やっつけた、のか?」
 だってこんなの――兄貴みたいなヒーロー、吸血鬼退治人みたいじゃないか。
「っ、」
 強いめまいで立ってられず、彼は片膝を突いてうずくまる。姿勢が崩れた拍子に頭から落ちた赤い帽子を慌てて拾い上げ、目元を隠すように深く被り直した。
「はーっ、はーっ……
 落ち着け。今まで自分が何をしていたか思い出せ。確か、学校から帰った後、本を借りるために図書館とかに――
「ち、がう……たいじ、退治、そう、吸血鬼退治だ」
 埋もれかけていた事実の一端をどうにか探り当てた彼は、深呼吸をして立ち上がった。右手は拳銃のグリップを握り締めたまま、左手で懐を探る。程なくして使い込まれた手帳を発見して、すがるような思いでしおり紐が挟まれたページを開けば、彼の表情に安堵の色が浮かんだ。
「やっぱりそうだ。俺は……ロナルド。吸血鬼退治人、ロナルドだ」
 掴んだ確かな記憶に彼、ロナルドは一人頷く。改めてスマホのカメラ機能で随分と幼くなった、恐らく十一から十三ぐらいまで若返ってしまった自分の姿を確認した彼は、がしがしと頭を掻きながら溜め息を吐く。
「あー、まだ混乱してんな……厄介な置き土産を残していきやがって」
 今回の依頼は、人間の拉致監禁を繰り返してきた吸血鬼が標的。VRCで現在収監されている吸血鬼アンチエイジングの同族にあたるそいつは、他者の身体を若返らせ精神を退行させる能力を悪用して己の拠点に人間を持ち帰っている。受けた被害者は拉致監禁の末に衰弱、失血死した者も出ているため実弾の使用が推奨され、今し方ロナルドがトドメを刺したという訳だ。
 既に吸血鬼だったものの塵は空気の中へ散っていき、衣装や装飾品が遺物として残されているのみ。安くない銀弾を脳天にぶち込んだのだ、再生することはまず無いだろう。
「いつ戻るんだよ、これ……しばらく学校休むしか、違う違う休むのは仕事だ! くっそ、頭がこんがらがる……!」
 気を抜けば幼い頃の記憶に引っ張られそうで、ロナルドは振り払うようにかぶりを振った。
 そう、退治は終わったが問題はここからだ。元凶は倒されたというのに、ロナルドの若返りは解除されていない。精神も、「十代前半の木下日出男」の意識と入り交じって不安定な状態だ。時間経過で戻るのを待つにしろ解除条件を探すにしろ、単身で行動するのは流石に不味いだろう。この姿で挑む退治もネタにはなりそうだが、自分を頼ってきてくれた依頼人を不安にさせるのは本意ではないし、何より身内に知られるリスクが高い。
「兄ちゃ、兄貴には絶ッ対にバレたくねぇ……どうすっかな」
 幸い、身につけているものについては若返りと共にサイズが調節されている。ぶかぶかで歩くことも難しい、といったことはなさそうだ。後始末は吸対に任せて離脱し、何処かで潜伏しつつ戻る方法を探すのがベターだろう。
「問題は何処に隠れるか……んん?」
 行く場所のアテを探して手帳をぱらぱらとめくっていたロナルドの手が、あるページを視界へ入れたところでぴたりと止まる。少年のつぶらな青い目が、走り書きの文面を読みながら戸惑いに揺れていた。

(中略)

 右の拳を握り締めて、大きな扉をノックする。一度深呼吸してから、思い切って両手を押し、扉を開け放った。
「ロナルド様が来てやったぞ、吸血鬼ドラルク、――⁈」
 瞬間、ごん、という鈍い音が響く。目の前で小さな黒い影が扉のへりにぶつかったかと思えば、ばたんとシャンデリアの光に照らされた玄関ホールの床へ倒れ込んだ。
……へ?」
 想像していなかった出迎えに、少年はぽかんと口を開けて立ち尽くす。ヌーヌーと鳴きながらおろおろしているアルマジロへどんな言葉をかけたらいいかも分からなかった。
 仰向けに横たわったままの、今のロナルドより頭一つぐらい小さな人影。それは己の顔を両手で覆ったまま、子供特有の高い音調でか細い、鼻息混じりの泣き声を上げている。
「ぴす……いたいよぉ」
「え、あ、ごめん、大丈夫か?」
 思わず声をかけながら駆け寄って、手帳の内容から想像していたものとかけ離れた人影の正体をまじまじと見る。そこにいたのは、ぱっと見の年齢が七か八歳ぐらいの子供だった。典型的な貴族衣装や黒いマントは吸血鬼っぽいが、扉にぶつかったらしき箇所を押さえて泣くいたいけな姿は、仮にも退治人ロナルドが千体目の獲物に選ぶとはとても思えない。何というか、想定していたザコと方向性が違う弱々しさだった。――本当にこいつが、吸血鬼ドラルク?
「ど、どうしよう……えっと、吸血鬼相手でも冷やせばいいのかな」
「うぅ、未来の私が弱すぎてつらいよぴすぴす……あれ?」
 どう対処すればいいか困っていると、傍に来たロナルドに気づいた子供が顔から手を外して目をぱちぱちと瞬かせる。青白い顔の真ん中についていた扉のへりの跡が、映像を巻き戻すみたいにすぅっと消えていった。
 再生能力か、とついつい凝視してしまったロナルドを、小さき夜の住人も豆粒みたいな赤い目でじっと見上げる。見つめ合うこと数秒、がばりと身を起こした吸血鬼が右手を伸ばし、こちらの服の袖をきゅっと掴んだ。
「な、」
……赤い服と帽子」
 子供は立ち上がると両手でロナルドの衣服にぺたぺたと触れ、帽子を少しずらして上目遣いで顔を覗き込んでくる。居心地の悪い視線から逃れたいと思っても、いつの間にやら吸血鬼の肩へ上っていたアルマジロがこっちの腕を前足で掴んでフンフンと匂いを嗅いでくるので、うかつに動くと振り落としてしまいそうでろくな抵抗ができない。
「おい、何だよ」
「銀色の髪、青い目」
 淡々と呟いた子供はアルマジロと目を合わせて頷き合う。そして、ロナルドの頬を小さな両手で包むと、新しい玩具を見つけたかのように弾んだ声で言った。
「もしかして、あなたがバンパイアハンターのロナルドさんですねっ!」
「ヌヌヌヌヌン、ヌヌヌッ!」
 ロナルドくんだよねっ、と子供の頭の上で両手を振るアルマジロが言ってる気がした。吸血鬼一体とアルマジロ一匹の明らかな歓迎ムード。
「そういうお前たちは……吸血鬼ドラルクと、アルマジロのジョン、なのか?」
「はい!」
「ヌー!」
 元気な返事。ますます混乱してきたヒデオ少年は、どうにか落ち着いて話ができる場所へ案内を頼んだのだった。

 お茶とお菓子があるので、キッチンへ行きましょう。そんな提案に半信半疑のまま乗ることにしたロナルドは、背が頭一つ小さい吸血鬼に先導される形で城の奥へ足を踏み入れた。
――要するに、お前も若返ったってことか?」
「そうですね。今の私は八歳のドラルクです。たぶん……二〇〇年ぐらい戻っているんじゃないでしょうか?」
「にひゃく……数字がデカすぎて想像できねー」
 柔らかいカーペットが敷かれた廊下を歩きながら、ロナルドは溜め息を吐いて天井を仰ぐ。隣を歩くドラルクが、そんな反応を面白がるようにくすくすと笑い声を立てた。
「ロナルドさんは小さくなる前のこと、覚えてらっしゃるんですよね?」
「ん、まぁちょっと混乱してるけど。思い出そうと思えばできる感じだな」
「なるほど。若返った年数が少ないからでしょうか」
「かもな。あと四、五歳ぐらい縮んでたら危なかったかもしれねぇ……お前の方は、何も覚えてねぇの?」
「はい……ジョンのことはもちろん分かりますし、ゲームや調理道具みたいな、城に置いてある道具も感覚で使い方が理解できるのですが、記憶の方はずっとぼんやりしていて。お母様が明日の夜には戻れるだろうと言っていたので、あまり心配はしてませんけどね」
「ふーん……うん? もしかしてお前が小さくなったのって、おふくろさんが原因なの?」
「久々にオフが取れたので、子供向けテーマパークに私を連れて行きたくなったそうです」
「それで二〇〇年若返らせるとかアグレッシブすぎんだろ……楽しかったか?」
「はい!」
 なら別にいいか。自分によその家庭事情に口を出す筋合いもないだろう。
 と、そこで一つの疑問が浮かんだ。
「あれ、じゃあ何で俺のこと分かったんだよ。お前、こっちが名乗る前に『ロナルドさん』って言ったよな」
「ジョンに教えてもらいました!」
「ヌン!」
 ドラルクの頭の上に乗ったジョンが可愛らしく胸を張る。
「今の私は、とても面白くてカッコいい吸血鬼退治人とコンビを組んでいるんだよって。だから、会えるのをとても楽しみにしていたんですよ」
「ふ、ふーん……
 きらきらした上目遣いを向けられ、つい壁の方へ視線を逃がしてしまう。面白いはともかく、カッコいいと言われて悪い気はしない。ただ、無邪気な好意は何だかむず痒く、胸の奥がきゅうと締めつけられるような感じもして、今はそっけない態度を取ることしかできなかった。
「思ったより小さい人が来たのは拍子抜けでしたけど」
「それはお互い様だろうが」