MN*B
2024-06-20 01:52:07
8166文字
Public 蠱毒な夢術廻戦:pixivバックアップ
 

コーヒーとキャラメル

別名 『家入硝子のコーヒーテロ事件』

この小説は【蠱毒な夢術廻戦】シリーズの番外編です。
ページによっては夢要素なしの二次創作小説としても読めなくはないです。
その場合、主体キャラは家入さんで、視点は五条さんになります。

登場キャラには、伊地知さん、七海さん、伏黒が含まれます。
出てくるのが瞬なので、タグはつけてません。

 
コーヒーについての描写を一部細かく書いてますが、書き手は全然詳しくないので鵜呑みにしないでくださいね…。
でも、賞味期限が切れたやつは本当にヤバイんで真似しちゃダメですよ。

 
すーぐ伊地知さんと七海さんを出すのは、書き手の悪癖ですね。
いやでも好きなんですよ…小説内でえらい目にあってますけど…。

ちなみに、いつも書いてるシリーズのほうはこちらです。
https://www.pixiv.net/novel/series/1472305
 
表紙は、かんたん表紙メーカー様からお借りしました。



#オリ主 #家入硝子 #五条悟 #夢術廻戦
2021年3月7日 15:34




「嗜好品に金をかけないでどうする。嗜好品なんだぜ?」

そう言っていたやつは、食事はそっちのけで趣味に没頭しやすいタイプだった。
というか、面倒くさがりだったのだろう。好きなことには細かい手順を踏めるが、どうでもいいと思ったことは手を抜いて適当にやる。
あいつにとって食事はどうでもいいことで、美味いコーヒーを淹れることはどうでもいいことではなかった。


昔いたやつの思考を追うために、同じ銘柄のコーヒー豆と似た道具を揃えた。
全く同じ道具を揃えるのはさすがに手を出せなかった。コーヒーが好きでもないのに、ここまで金をかけてるのも変じゃある。

無駄な買い物をしたのかもしれない。少しばかりそう思った。



春休み。食堂にて。

 買い物へ行ってきたその日の夜、俺はさっそく買ってきた道具を使うことにした。
なんせ豆は鮮度が命。日が経つにつれ不味くなる。らしい。
自分の部屋でやっても良かったことだが、もし俺がコーヒーを嫌いになった場合部屋にその臭いが残るのもなんだかな。と思ってしまったのだ。

ヤカンを火にかけ、お湯を沸かしている間に、ドリッパーとサーバーを軽く洗い、フィルターをセットする。
紙フィルターは良質な豆への冒涜だ。と言われそうだが、いきなり布を使って且つ今後それを管理できる器量は俺にはない。

手挽きのコーヒーミルに、規定量のコーヒー豆を入れる。もちろん豆は焙煎済みのものだ。
ゴリゴリと、面倒くさがらずゆっくり、ハンドルを回していく。ここで急ぐと、摩擦熱で豆がダメになる。
細かさは中挽き本来この場合は中細挽きが適しているんだが、味が深く出るより浅いほうが俺は嬉しい。前のやつの好みとしても、あえて粗目で作っていることが多かった記憶がある。

あいつがもう少し生きてたら、生豆にも手を出してたかもななんて思いながら、豆を挽き終わる。
セットしておいたフィルターへ挽いた豆を入れたところで、ちょうど良くお湯が沸く。

本来なら細い注ぎ口が良いんだが俺はそこまで求めてはいない。ゆえに、そのままヤカンからお湯を注ぐ。
最初はほんの少しだけ注ぎ、コーヒーを蒸らす。20秒ほど待ったら、今度は何度かに分けつつお湯を注ぎ、コーヒーを抽出していく。
もっと正しい淹れ方があるんだが、注ぎ口のせいでダバダバとお湯を注いでいくしかない。コーヒー好きにキレられそうだ。

そう考えながら、抽出されたコーヒーがサーバーへ落ちてくるのを眺めていると足音が耳に入った。
その足音はこの食堂の入口まで来ると、扉を開けた。

「誰か居るのか?」

その人物家入さんは、そう言いながら食堂の電気をつけた。構えていたからマシだが、やはりサングラスなしだと眩しい。

「俺です、家入さん」

俺が目を細めながら答えると、彼女のほうは目を瞬かせた。

「青嶺か。真っ暗でも見えてるのは知っているけど、遭遇すると心臓に悪いな」

すんません」

俺の視界はほかの人とは違い、俺にとっては薄暗闇程度でも、周りからすれば真っ暗だったりするらしい。
見えるからといって明かりをつけないというのも、ほかの人から見てあまりよろしくはなさそうだ。
面倒くさがりなのは俺も変わらないのかもしれない。今度からは夜でもサングラスして、電気もつけるか。

家入さんは俺の謝罪を聞いて、緩く手を振った。

「いや、謝ることでもない。コーヒーを淹れていたのか?」

「まぁ、はい家入さんは、ここに何か用でも?」

「私も君と似たようなものかな医務室に置いているコーヒーが切れてね、こっちに残ってないかと思って来てみたんだ」

自販機でも良かったんだけどね、できれば熱いのが飲みたい気分なんだよと、少し疲れたように家入さんは話す。
彼女がコーヒーをよく飲んでいるのは知っている。医務室にいる間、飲んでいたのは大体それだったのを俺は見てきていた。

良かったら、これ飲みますか?美味いかは知らねぇけど」

ポタリと、雫が落ちるのも終わりかけのコーヒーを見て、俺はそう提案した。
カップにも寄るが2杯分くらいはある。二人で飲むには十分だろう。

彼女が、良いのか?と尋ねてくるので、俺は、不味くてもいいならと前置きして頷いた。

貰おう」

家入さんは神妙に頷いてみせ、俺が作業していたテーブルの向かいの席に座った。

それを見た俺は、適当なカップを2つ、棚から拝借する。
余っていたお湯をそのカップに注ぎ温め、中のお湯を捨てる。
その一段階を踏んでから、ドリッパーを退かしたサーバーから、淹れたてのコーヒーをカップへ注いだ。

カップの片方を家入さんへ渡す。

「どうぞ」

「ありがとう、頂くよ」

彼女がそれを受け取ってから、俺も席についた。
視線の先にある、俺の分のコーヒーからも湯気が立っている。見た目と香りからでは、良いのか悪いのかもわからない。

俺は黒い水面を見つめたあと、恐る恐る口をつけた………なんとも言えない。
苦味がある、酸味は控えめ、甘みはなくもない?買ったときの表記そのままの印象しかない。

よくわからなくて、俺は家入さんのほうをチラリと窺った。
彼女もちょうど一口を飲み終わったところらしく、開いた口から小さく息が漏れたのが見えた。
俺が様子を窺っているのに気がついた彼女は、表情を緩めてこちらを見た。

「美味しいよ。良い豆を使ってるね軽い飲み口で、飲みやすい」

少し疲れてたから嬉しい味わいだ。と、彼女は付け加えて、また一口飲んでいく。
俺にはよくわからないが飲めるなら良いか。

俺は、持ってきていた物の後ろに隠れたそれを、テーブルの中央へ掴み出した。

これ、五条さんから貰ったやつじゃあるんスけど、食べます?」

カサリと音を立てる包み紙に包まっているのは、小さなキャラメルたちだ。
課題のようなものになっているお菓子たちの一部ではあるが、こういう場合は許されるのではないだろうか。
それに、疲れたときには甘いものが良いともいう。

家入さんのほうを見れば、彼女はまた目を瞬かせてこちらを見ていた。

ダメなら別に……

それ以上なんとも言えなくなって、それだけをボソリと呟いてから、俺は視線をカップに落とした。

そうしていると、向かいから小さく笑い声がした。
視線を少し上げてそちらを見れば、家入さんが、すまない。と全然申し訳なさそうではない顔で謝ってくる。

「悟が言っていた通りだと思ってね悪い意味じゃないよ。ただ私たちは、お互いのことを知らないなと思っただけだ」

2か月一緒に居たのに、食の好みすら知らないのは我ながら淡泊だろう?と、彼女は薄く笑った。
確かに。俺には好みと言えるほどのものはないが、家入さんにはあるだろう。それについて、俺も全く知らない。

「私は甘いものは苦手でね。気持ちだけ受け取っておくよありがとう」

「あぁ、はい

俺はぎこちなく頷いて、テーブルの中央に置いたキャラメルをそっと引き戻した。
そんな俺に、家入さんは何気なく質問を投げかけた。

「君はコーヒーが好きなのか?淹れるのも上手いし、それにこんなに道具を揃えたようだが」

そう言われて、二人して眺めるのは俺が使った道具たち。
好きか。と問われれば、別にそうじゃない。ただ
視線を下に落とした俺の深い呼吸が、湯気と水面を揺らした。

前のやつがそうだったから、知ってるだけです」

そうか。君としての感想は?」

「よく、わかんね良いか悪いかも微妙、です」

真似をしてみたところで、誰かの気持ちまで追うことはできない。
ただ、わからないことだけがわかって、自分の中身が空っぽなのを感じる。

悲しい?」

「はい?」

唐突にそう投げかけられ、思わず聞き返しながら家入さんのほうを見た。
彼女は眉を下げて、違ったか?と呟いた。

「今の君は、そんな風に見えたから」

そう言われて俺は、自分の今抱えている感情に向き合った。
悲しい悲しい?それよりもきっと、

「虚しいんだと、思う。何かあったことだけがわかるから、何かを無くしたように感じる」

実際は、俺が無くしたものなんて、何もありはしないのに。

俺は先ほど引き寄せたお菓子を手に取って、その包み紙を解いた。

「キャラメルを口に入れた状態でコーヒーを飲むと美味いらしい。それを試すために揃え、ました」

その記憶を確かめるためだけに、こんなことをするなんて無駄というか、それこそ虚しいことだった。

俺は何かを埋めるように、キャラメルを口に運んだ。甘い。
そこへ、またコーヒーを口に含んだ。苦味と甘さが混ざり合うやはり、よくわからなかった。

家入さんはそんな俺を見て、そうかと一言だけ話した。


 俺たちは、無言のままカップを空にした。

「ありがとう。美味しかったよもっと自分の気持ちに自信を持っていいぞ」

家入さんはそう言いながら微笑んだ。
俺はその言葉に、少しだけ困ってしまった。

自信を持っていいってコーヒーを淹れる腕前じゃなくてか?まぁそれも、今回が初めてなわけだが。

家入さんはカップを持って立ち上がると、開いた片手で俺の頭を撫でた。なんでだ。
俺は固まったまま、目線だけを動かして彼女を見た。

「寂しそうに見えたからな、つい」

そう軽く言われたからかわれているのだろうか?
俺は釈然としないまま、彼女の手が離れるのを待ってから、席を立った。

片付けて寝ます」

「手伝うよ」

断ることもできず、シンクの前で二人並んで片づけをした。