ぎん
2024-06-13 15:00:13
1006文字
Public うちの子話
 

ケスティル族の商人

ダヤンさんの話



私は、ケスティル族。アジムステップでは「沈黙の民」と呼ばれ、言葉は嘘の源であると教えられて来た。
言葉を持たない私は、"音"にして言葉を発することができないのだ。
故に、商談は筆談で行うことが多い。

「〜〜〜で、この値段で取引を行いたいのですが」
『高い。こちらには不利な条件ですね』

にこり、と相手に笑いかける

ダヤンには相手の表情が見えない。弱視なのだ。
声、室温、呼吸、エーテルの揺らぎで今目の前にいる人の感情、何を考えているのかを判断する。嘘は、全て見破れるのだ。

負けましたよ、全くダヤンさんには駆け引きが通用しない」

目の前の男が項垂れる。にこりと笑い返せば、目の前の男が苦笑いを浮かべるのが目に見えた。

ウルダハでの商談を終え、気分よく歩けば、普段連れている護衛も何処か逸れてしまった。
ウルダハは交易都市と呼ばれるだけあって人の往来は激しい。普段エーテルを頼って判断しているダヤンにとって、こう言った場所ではよく迷子になる。

眉を垂らし、困ったと言わんばかりの顔をする。そう言った時はカーバンクルの力を頼るのだ。
腰に下げた本に触れれば、キラキラと輝きを放ち、ダヤンのカーバンクルは姿を現す。
可愛しい見た目だが、カーバンクルは優秀だ。何も言わずに首を傾げて、そして走り去っていく。

(人々の話し声が聞こえる)

ダヤンにはこの喧騒が心地よくて好きだ。故郷の再会の市を思い出させるからだ。
「このクリクリチンケ頭ゴーグル野郎!」「茄子色のクソメガネ!」と喧嘩する声が聞こえる。
「これ食べたい!」「いいわよ」という母と子の会話。商売人が露店を広げ声を張り上げ物を売る。
値下げの交渉をする者や、逆にぼったくり価格で売ろうとする者。様々な人が行き交う、この熱気が大好きだ。

「ダヤン!」
「ーー」

どうやら自分のカーバンクルが見つけてきたらしい。少し残念だ。と首を横に振る。

「俺から離れるな!!」

息を切らし苦言を口にしようとする目の前のアウラの男にカーバンクルを掲げて見せる。無事だったんだから、いいだろうと言わんばかりに。
たまには逸れて、1人行動というものもいいものだ。