ぎん
2024-06-13 14:52:02
1037文字
Public うちよそ話
 

憧憬と恋心

ハイドとアレンのお話



これは憧れだ。あの時、あの戦場で命を救ってくれた恩人の、あの瞬間を今でも忘れることはない。
あたり一面に残る鉄臭さ、火薬の匂い。抉られた地面からにおう土臭さ。兄と必死にその戦場から逃げ回る幼少期の俺。
兄と共に帝国兵に追われ、穴倉に隠れていた時だった。コツコツと足音を響かせて近寄ってくる音がする。隠れた場所が悪かった。ここでは逃げることもできない。
兄は俺を抱き抱え、守ろうとしたのだが、その場で首が刎ねられてしまった。その場にコロコロと兄の首が転がっていくのを見て、死を覚悟した。
どうにか穴倉から逃げ出し、追いかけてくる帝国兵から逃げないと、でも何処へ!?

「追え!逃すな!」

――俺もここまでか。

その時だった。戦場には似つかない、甘い香りが鼻をくすぐった。横を通り過ぎる何かは
目の前に居た帝国兵の首を飛ばす。人だ。短髪のブラウン髪がフードの隙間から見えた。エメラルドのような瞳がチラッとこちらを見ると、またその隣の男の首を斬っていく。
目の前で起きていることがスローモーションのように見えて、鮮血で染まるその男に目が釘付けになった。

「邪魔だ。」

いきなり首根っこを掴まれたと思えば、後ろに放り投げられる。角の生えた、あまり見かけることのない種族銀髪が赤く染まり、まるで物語に出てくる"悪鬼"のようだった。

「アレン、この先に目的がある!」

そう言って俺を放り投げた男は戦地に消えていく。

嗚呼、なんて綺麗なんだろう。兄の首を刎ねた男を殺したあの男のギラついた瞳が、忘れられない。
戦場で見たあの宝石は特別綺麗に光って見えた。
その後、後続の部隊から保護され、俺は生き延びた。
そして、自分もあの人みたいにと思いそのまま裏の世界へ足を突っ込んでいくのだ。

ハイド・ウォーカー。義賊として、暗殺者として俺はあの人の側で尻尾を振るのだ。それが俺に出来ることだから。
恋人に向けられるあの笑顔が欲しいと思ってしまうのは、これは恋心なのだろうか。

「憧憬であって、恋心ではない」

そう、彼を遠くから見てきた俺は思うのだ。