ぎん
2024-06-13 13:59:11
3551文字
Public ザクアレ
 

Good luck you too.

ザクアレ
現パロオメガバース①




『もしお互い30までにフリーだったその時は俺を番として迎えてくれよ』

 そんな約束をした高校三年生。
あの頃はみんなヤンチャで、アオ、リンド、アイザック、アレンで旅行がてら夏休みに海に行った時の出来事がきっかけだった。

 男性・女性の性別とは違う、第2の性。α・β・Ωに区分される性別は、度々アレンを悩ませていた。周りがほとんどα性のグループに所属していたアレンは、ただ1人Ω性だった。
発情期というものが存在し、無差別にαを誘惑する社会的に冷遇される立場。αやβと違ってほとんど希少種に近いΩ性は、学校に1人や2人いるぐらいの確率でしか存在せず、中学最後の夏に診断されて以来、遠くの高校に進学し自分はαだと偽り生きている。
 幼馴染のアオはアレン自身がΩなのは知っており、アレンの嘘に気長に付き合ってくれる唯一の友達だった。アオもまた、中学でオメガで馬鹿にされ、両親から見捨てられ傷ついたアレンを見ていたから、せめて過ごしやすい環境でという事で同じ高校に進学した。
高校で一年過ごし、同じクラスだったアイザックとリンドと仲良くなり、彼らもまた親しい友達として毎年4人で旅行にまで行った。
そんな高校三年目の夏。突然アレンの第2の性がバレる事になるとは、思っても見なかった。

「おまっ!」

 海で遊んでいた時に具合が悪いと、先に宿に帰って行ったアレンを心配して、三人とも遊ぶのを程々にして宿に帰って部屋に入った時だった。
部屋中にむせ返るほどのフェロモン臭。大量の抑制剤を片手に、床に突っ伏し発情期を耐えるアレンが居た。発情期がズレる事なんてこれまで一度もなく、バレないと思っていたし、徹底していたのに。よりによって最悪な形でバレてしまった。

「アレン!」

 アオは慌てて声をかけ、テーブルにあったコップを手に取り抱き上げ、アレンに抑制剤を飲ませようとする。自身でも辛いのは当たり前だが、アレンのフェロモンにラットするほど野生的ではない。ゆっくり薬を飲ませれば、アレンも少し落ち着いたのか、ゆっくりと目をあけた。

「これはかなりキツいですね」
「頭が、沸騰しそうだ

 流石のアイザックとリンドも、アレンのヒートの匂いに顔を歪める。嗚呼、終わった。とアレンはぐったりとアオの腕の中で思考する。友達を騙していたのだ、もうこの4人では遊べないだろう、と。
 アオだって、ヒート状態の自分に付き合うのはかなりキツイはずだ。理性的であればあるほど、本能に逆らうのは死ぬほど辛いものがある。どうにかアレンのヒート状態を落ち着かせ、布団に横にさせながらアオはアイザック達に言う。

「アレンは、この第二性に振り回されずにお前達と友達になりたがっていた」

 アオは淡々とアレンの事を話す。

「アイツらは気にしないだろうが、俺が気にするから黙ってて欲しいと。俺は友人で居たいと」

 この性に振り回されるのがどれほど恐ろしいのか、αである自分達も理解していた。
 アオは続けて頭を下げる。どうか、友達でいて欲しいと。そんなの、頭下げる事でもないし答えは分かりきってるはずなのに。結局、アレンの突然の発情期により夏の旅行はおじゃんとなった。
 あれから何事もなく接してくれる三人に、アレンはただありがたくも申し訳ない気持ちになった。

「驚かせてごめんよ」

 と、後日あの日のことについて謝る。リンドは気にしないでと首を横にふり、アイザックはつれないな、そんなんで俺らが友達を辞めるとでも?と励ましてくれる。そして、アオは普段通りにスルーしてくれている。
 この3人の居心地が良すぎて、まだ友達でいていいか確認する。彼らは二つ返事でOKをくれた。心優しいαの友人達だった。
 二学期が始まり、いつものように屋上で昼ごはんを食べていた時だった。

「まさかアレンがΩだとは思わなかったなー」

 なんてアイザックは言って、屋上の金網に寄りかかりながら、惣菜パンを食べている。そんな様子をアレンは少し申し訳なさそうに地面に座り込む。

「俺らに黙っててよー、アオだけ知ってるなんて信用ないのなー俺ら」
「そんな事ないさ、俺がΩって認めたくないってアオに一方的に言って黙っててもらっただけさ」

 幼馴染の特権ってやつー?なんてアイザックはおちゃらけて言う。アオやリンドは購買に買いに行っていて今はこの場に居ない。アレンは自身のお手製のお弁当を食べながら、アイザックの顔を見る。高校一年からの付き合いだけど、俺でもわかる。少しだけ傷ついた顔だ。

「ごめんなザック」
「なにがー?」
「せっかくの旅行だったのにな」

 食べる箸が止まっていると、アイザックはアレンのほっぺを摘んで言う。

「ったく、そういう事じゃねーんだよなぁ」
「いひゃいって」

 ほっぺを揉みしだくアイザックに、少しだけ痛みに涙目になるアレン。目線がバチっと合うと、アイザックは続けてこう言った。

「お前がΩ性を嫌って、嘘吐かなきゃいけないなら、俺がお前の番になろうか?」

 その言葉に、胸が締め付けられる思いだった。嗚呼、自分を犠牲にしても友人を助けようとするアイザックの優しさが、苦しくて、こんな自分を受け入れてくれるザックが好きなんだと気がついてしまって、アレンははやる心臓を抑えてアイザックを見る。アイザックの手はいつの間にか頬に添えられていて、真剣な顔でこちらを見ていた。
 この性に振り回されることがなければ、俺はここでOKしていたのに。

「もしお互い30までにフリーだったその時は俺を番として迎えてくれよ」

 アイザックのこれからの出会いを、一時的な優しさだけで潰してはいけないから。返事は曖昧なものしかできなかった。頬を撫でる手に、無意識に擦りついてしまうぐらいには心を許してしまっている事にアレン自身気が付いてなかった。
 お待たせと、二人が購買から帰ってきた頃には妙な空気が流れていて、アオが購買のパンをアイザックに投げつけ、またいつもの日常に戻っていく。
 大学生になっても、アイザックとアレンは仲良く過ごしていた。大学の学部は違くても、会える時間があるなら二人で会っては一緒に過ごしている。
 あの頃と少し変わった所といえば、身体の関係が追加されたという事だろうか。
 発情期になれば、アイザックはアレンの事を抱いてくれる。うなじを噛まないように、わざわざ自身の手をアレンのうなじに当てる。自身のフェロモンを擦り付け、アイザックの匂いでいっぱいにしてくれる。アレンがΩだからと、変な奴らが集まってくるのを匂いで追い払ってくれる。
 アイザックの優しさに甘えて恋人でもないのに、甘い汁だけ吸っている。
 情事をしていても、お互い好きだとかそんな言葉が出てくることもなく、喘いで、乱れて。中に出して欲しいと心で思うのはΩのさがなのか、自身の本当の気持ちなのか、わからなくて、自分にはそんな権利はなくて。
 大学を卒業して、お互い社会人になって前みたいに遊べなくなれば、軽く連絡を取り合うぐらいにまで落ち着いて、たまに四人で飲みに行ったりもしたが、身体の関係は落ち着いていた。
 アレンは夢だったカフェを経営して、毎日忙しい生活を送っている。アイザックも仕事をしながら、自身のやりたい事に熱中している。
 高校の時に交わしたあの約束も、時間の経過と共に薄れていくものだと、アレンは少し寂しく思っていた。

「なあアレン!俺運命の番を見つけたんだ!」

 久々に会ったアイザックは、自身が見つけた運命の番について、嬉しそうに話してるような気がした。
 身体がすれ違った瞬間に理解して、発情してたからつい噛んじゃって、なんて話すアイザックにアレンはそうなんだと苦笑いを浮かべる。
出会い方はどうあれ友人に春が来たのは嬉しい話で、素直に心からの祝福を送る。
その相手が最近引き取った甥っ子だとはこの話の後に気がついた。俺は誰よりも甥っ子と友人の二人の幸せを願うひとでありたい。そう強く想う。
そして、俺の心を砕いたように、彼の心を砕いてくれるであろう友人の背中を押して

 Ωでも受け入れた俺の初恋の相手に幸あらんことを。

『Good luck you too.』