ぎん
2024-06-13 11:33:07
2339文字
Public うちの子話
 

黄泉つ竈食

薬師 カーミルのお話



「これは、僕の知り合いの経験した話やけど」

チョコボキャリッジに揺られ、ウルダハに向かう途中。この場所に似つかない薬箱を背負った男が話しかけてきた。彼はわざわざ薬を東方から運び入れて顧客のもとへ届けているのだと言う。
「旅の途中の雑談でも」とそう目の前の男はヘラヘラと笑いながら話を進める。

「昔、ソイツには死別した幼馴染がおってな、流行病に倒れ亡くなってん。ソイツは幼馴染に片想いしてたんやわ」

死んだ人を想って、毎日を過ごして。死んだように生きていた時やった。
ふらりと食卓から美味しい匂いがして、その匂いに釣られて行けば、目の前には食べ慣れた食事が並んであって、目の前に死んだはずの男が座ってたんや。
……そう、幼馴染が目の前に。

「なんや、変な顔して。ご飯できたで」

そう言って、笑って。目の前でご飯を美味しそうに食べちょる。

「なぁ、お前死んだんちゃうんか」

喧嘩別れをし、帰ってきたらと思えば流行病にかかり、死にかけてて、目の前で弱り、呼吸も浅くなって行く彼を泣きながら見守ることしかできなかった。ちゃんと、最後を看取ったのも自分やった。
間違いなく、自分の目の前で死んだ男が。なぜか今目の前で飯を食っている。
……不思議な光景よな。これは夢かとほっぺをつねっても痛みはある。匂いも感じる。
まるで、あの時がなかったかのように振る舞っている。

「なにいうとんねん、夢でも見たんか?」
……夢みてたんか?俺、てっきりお前が死んだと

そこまで言って、言葉に詰まる。
自分は何を見ているのだろうか、これは都合のいい夢なのかもしれない。確かにこの目で見たはずなのに。

「あの時喧嘩した話はもう終わったやろ、いつまで拗ねとんの、さ、はよ座って食べな」

そう促され、食卓につく。目の前の味噌汁は出来たてで食欲をそそるし白米は艶が出てて炊き方も普段通り完璧だった。大好きな大根のお漬物。いつも料理番の時に作ってくれる煮っ転がし。どれも、全部自分の舌が覚えている。

「なんや、俺の飯が食えんの?」

ケラケラと笑う様はあの時、一緒に過ごした時に見せた笑い方で、誰でもない本人に見えたのだ。

「ちゃうよ、ちゃう。食えるけど……
「ならほら、あーんしてやるから食え?」

………少し、躊躇う。だいぶ昔、小さい頃にこんな話をした覚えがあったから。

『なあ!ミル。よもつへぐいって知ってるか?』
『よもつ、へぐい?なにそれ』
『父ちゃんが言ってたんだ。死んだ人が出してくれるご飯は食べちゃダメだって。そしたら食べた人は死んじゃうんだって』
『ふーん』
『もし、俺が先に死んで、ミルの所にご飯作りに現れても、絶対食ったらダメだぞ!』
『え、やだよ。僕も一緒がいい』
『馬鹿かお前!俺とお前で、一人前の薬屋になるんだから。この店を守る奴が必要だろ!?』
『そう、だけど
『生きるんだよ。俺らは薬師。生かすために居るんだから』

あの時の、小さかったあの頃の。薬師を目指して二人で頑張ってたときの思い出が蘇ってきたのだ

「食べんよ」
……ミル?どうした?なんで?」
「心配で、出てきてくれたんかもしれないけど。俺はお前のところに行く気はないよ」

目の前の男は、俺の言葉に笑う。

「食べてくれたら、お前もあっちに連れてってやるのにさ」
「いいんよ。俺は生きて、この店とお前の残したものと、生きたい人を助けるから」

だから心配せんでも、大丈夫やで。なんて伝えてみれば、馬鹿だなぁなんて、笑って。目の前で消えていく。
魂は黄泉へ帰る。ここの言葉で言えば星海に帰る。最後まで、見送ったら。いつのまにかテーブルにあった食事は無くなっていて。

お腹すいたなぁ。生きるために飯作らんとな」

生きると言う選択肢を目の前でとったからには、最後まで生きていこうと想ったね。
もし、あの時。目の前の食事を食べていたら?
さあ、夢かもしれんから。目が覚めたら何事もなかったかのように毎日が始まるかもしれないなぁ。

なんでそんなこともわかるのかって?
友達から聞いた話やから。知り合いだったかな?

「兎も角、美味しい飯とおいしい話には裏があるっちゅーことやな。ウルダハで活動するなら、うまい話は我慢して乗らんほうがええでぇ?」

目の前の男はヘラヘラとまた笑いを浮かべている。死んだ人に会う話なんてなかなかにない話題だ。目の前の男は面白がって話しているが、雑談混じりに忠告を挟んでくるあたり、手だれなのかもしれない。

 「見た所、出たばかりの新米冒険者ってとこやな。稼げるようになったら、僕の薬買ってな?薬屋「万葉」の薬はなんでも効くで?」

なんて、ちゃっかり店の宣伝もしてきた。

「まあ、がんばりや。もし、本当に助けが必要なら、命は救ってやるさかい」

ガタン、と音と共に、キャリッジはウルダハに着く。ここは交易都市国家だから、商売しにくる奴も冒険者として、稼ぐ奴も多く存在し、毎日金が動く場所だ。そう言えば、と名前を問えば

「僕?僕はな、カーミル。薬師のカーミルさ。ミルでええよ。頑張ってな、冒険者」

そう言って、目の前の男は笑って、別れをつげた。