るいざき
2024-06-05 18:45:47
17566文字
Public AC6_ラス6_銀環
 

片翼 解√ラス6♀

⚠️不穏
・長い
・自己解釈を多分に含みオリジナル登場人物がいる(名前決めるの後回し)



『──?』
 ぼんやりと覚束無い心地、電子音は拍を刻み、低く重い空気の流れる音が頭に響く。
 ここはどこか、己は何者だったか。真っ白な部屋の隅から隅までを見回して、ふと違和感を覚えた。わたしの目の前に横たわるのは、わたしではないか?
『ラスティ』
 声が、見える。ぱちりと流れる光の筋に乗って、声はどこかへ消えた。
『エア』
 ぞわり、と周囲の光が脈打つ。祝福、歓声、なにかあたたかな拍動が身体に触れては離れて行く。
『わたしは……レイヴン』
 あるいは、第四世代強化人間、C4-621。

 わたしは波形となって、己の身体の上を揺蕩っていた。



 見覚えのない場所だ。格子窓のはめられた鉄扉には錠前と電子ロックが掛けられている。今一度ベッドの上の己を観察すると、拘束衣で首輪と手枷が固定され、その上でベッドに鎖とベルトで固定されていた。
『エア』
 いつもはすぐ傍にいるきょうだいに声を掛ける。だがこの姿が災いしてか、やわらかな声も息遣いも見つけられず、酷い焦燥と寂寥に駆られる。
 帥父ドルマヤンと計らずも交戦した身だ。この様な扱いを受けるのも納得出来るが。再教育センターでの記憶がふと過ぎると視界が激しく明滅し歪んだ。──これはいけない。取り乱すと意識の散逸を引き起こす、と理性が精神を引き戻した。
『でも、ラスティは……
 いいや、いくら戦友でも立場というものがある。彼が居るからと言って身の安全が保証される訳では無い。そう学んだのはそれこそ帥父との交戦後だ。ふつふつと湧く不安が、再び目の前を歪める様だった。
 こんな時ウォルターならどうするだろう。生きる指標は目覚めてこの方、主人の後ろ姿だけだ。まずは……手がかりを調べよう。
……これは、何』
 拘束された身体には生命維持装置以外にも、何かのチューブが頚椎に挿管されている。一見血液のようにも見えた赤は違う。これはコーラルだ。
 エアの言う散逸が起きない事は不思議だが、この輸液速度と量は致死量ギリギリだろうか。だが一度ひどいコーラル被曝を経験した身体は、耐性か何かを獲得して意識波形を形成するに至った。……と、仮説を立てることにする。

 途方に暮れ、暫くは漂うしか無かった。いやしかし、こうもしてはいられない、どうにかエアとの交信を復旧させ、脱出しなければ。身を翻して部屋を見回そうとした時、目の前には真っ白な顔があった。
『わーっ!!』
 思わず飛び退き壁に埋まる。おそるおそる、ちらりと覗くと。そこには銀髪と赤眼の少女がいた。
『だ、誰……
 その子は困ったように眉根を寄せて、ぱくぱくと口を動かした。声がぱちぱちと尾を引いて、レイヴンの目前で弾けた。
『C…………。シエル? ええと、わたしは……
 どう名乗るべきか。暫定解放戦線の牢屋ではとうに名が知られている気もするが、通り名も型番も名乗るのは憚られるような気がした。
……とりあえず、今はライカと呼んでください。』
 赤眼がぱちくりと瞬き、こくりと頷く。そうしてまた黙ってこちらを見詰めると、どんどんと眉根が寄って困り果てた表情になった。いや、何か困り事があるのかもしれない。
『わたしに出来ることはありますか?』
 おずおずと壁から抜け出し、少女の前にかがみこむ。再びぱくぱくと口が動くと、「きて」とだけ。
……身体から離れてもいいのでしょうか……
 ちらりとベッドを見遣る。しかし少女はレイヴンの手を取ってぐいぐいと引っ張ってくる。
『あ、わ、分かりました。着いていきますね』
 波形の身体は思うよりも自由に動く。目の前に銀糸の束がするりと尾を引くように舞う。宇宙空間でもないのにふわりふわりと浮く心地は、なんだか鳥にでもなったようだと思う。
 銀髪少女はふわりと体を浮かべると鉄扉の格子窓をするりと抜けていく。その先でレイヴンを待ちわびるように、赤眼を見開いてこちらを見詰めていた。
……シエルも波形でしたか』
 そうしてレイヴンはおそるおそる格子窓の隙間を抜け出した。