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薙屋のと
2024-06-03 12:22:01
3264文字
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トライアングラー但し二等辺三角形
恋愛シュミレーションのヒロイン二人が主人公を差し置いて仲良くなるタイプの話と似て非なるなにか。
「よお色男。美女が二人、お前さんの帰りを待ってるぜ」
酒場の入り口から偶然顔を見せた店主にそう言われてカブルーは目を丸くした。仕事を終えて家に帰った矢先の事である。
前に似たようなことを言われた時は、相手はまさかの養母だった。数多の女性の顔を脳裏に思い描くものの、あれから家の場所を教えた女性が増えたわけでもないし、まず二人というのが引っかかる。カブルーにとっての心当たりはリンシャとダイアで、その二人なら名前で言う気がするが、店主の事だから揶揄ってそのように告げただけかもしれない。二人とも種族と方向性が違えど美女には違いないし。
そう思いながら店内に入り、カウンターの方へ視線を移したカブルーはその場で固まった。
「ああ、やっと帰ってきたの」
「おかえり」
美女のうち、片方は予想の通りリンシャだった。余所行きの赤いワンピースと、椿を模した髪飾りが彼女の艶やかな黒髪に映えてよく似合っている。むすりとした顔でパフェを食べているが、これはいつもの事で別に機嫌が悪いわけではない。
もう一人の美女は
――
美女ですらなかった。
否、一般的に見れば美女に見えるかもしれない。傍から見て整った顔立ちには違いなく、華奢で小柄な美人が澄ました顔でアフォガードをつついている。だがカブルーはその人が両耳の欠けたエルフであり、逞しき男性であることを知っている。
「え
……
うわー
……
、どういう組み合わせ?」
さすがに予想外だろこれ。
夜の酒場で仲良くスイーツを食べているようにしか見えないリンシャとミスルンの姿に、カブルーは呆然と言葉を絞り出した。
曰く、リンシャとミスルンは店主と顧客の間柄である。以前に聞いた事がある。
元々はマルシルの紹介らしいが、それは別に良いと思う。リンシャの薬学の腕前は身内ながら見事なものだし、ミスルンは金払いも良く上客だろう。だが、エルフが苦手なリンシャとお世辞にも人懐こいとは言えないミスルンが一緒に出掛ける仲というのはさすがに不可解すぎる。
「前に店の前にゴロツキが居着いて迷惑したことがあったんだけど、その時助けてもらったの」
「偶々だ」
カブルーの脳内でいつか見た光景が再生される。見た目嫋やかなエルフにいとも容易くあしらわれ宙を舞うガタイの良い男たち。この人なら転移術を使わなくとも、その辺のゴロツキを打ちのめす事くらい容易いだろう。
「あと時々、迷宮探索で貴重な生薬とか採ってきてくれるし」
「こちらもリンシャの薬は出来が良くて助かっている」
「なるほど。それで仲良くなって今日は二人でデートしていたと」
「「デートではない/じゃないわよ」」
左右から同時に声を浴びて、カブルーは苦笑した。ところで女性同士の友愛の間に挟まろうとする男は死すべきと世間では定義されているらしいが、美人と美人に挟まれて座っている今の状況は大丈夫なのだろうか。不可抗力なのでどうにか大目に見ていただきたい。
「あはは、今日はどこに行ったんですか?」
「服を見にいった」
「服?」
「うん」
曰く、今度陶芸をはじめるので丈夫で汚れても良い庶民の服が欲しかったが、買える場所が分からなかったから連れて行ってもらった。なるほど、そう言えばあの時、蕎麦と一緒に陶芸が候補にあがっていたな。確かに生粋の貴族である彼本人や彼の周りの人間では庶民が訪れるような店は分からないかもしれない。リンシャはこう見えて面倒見が良くて姉御肌なところがあるから、なんだかんだ言いながら案内したのだろう。
「後、パッタドルが言っていた流行りのカフェで食事をした」
「あのトマトのガレット、悪くなかったわね」
「その後魔法書店に行った」
「ホルムに教えてもらった店なんだけど、なかなかでしょう?」
「うん。あのノーム体系の魔術書は興味深い」
書店を出た後は城下を軽く散策して、たまたま目に留まったアクセサリーショップでリンシャに似合うと思った椿の髪飾りをプレゼントした、海の見えるレストランで食事を摂り、夜も更けたので酒場にてデザートのパフェを食べながらカブルーの帰りを待っていた
――
と。なるほど、なるほど。
「
…………
やっぱりデートじゃないですか?」
「「デートではない/じゃないわよ」」
いやもうデートだろ。なんでコースの最後に俺のところに来たのか分からないレベルでデートだろ。そうじゃなかったら何だ、援助交際か。脳内の突っ込みをオブラートで三重くらいに包んだ発言は「アンタだってホルムのお姉さんとご飯食べに行ってもデートじゃないって言ってたでしょ」というリンシャの言葉で敢えなく撃墜された。確かにそれはデートじゃない。
いやでも、だって、しかし。
二人の仲が良いのは素直に喜ばしい事だと思う。リンシャは勘違いされやすいけれど繊細で、気丈に振る舞いながらもこちらを心配して支えてくれる、姉のような女性だと思っているし、ミスルンだって誤解されやすいけれど相手をよく見ている、優しい性質の人なのだと思う。ある意味似たもの同士だ。周囲からは理解されづらいところのある二人が、お互いを尊重して一緒に出掛けるまでの仲になる、素晴らしい事だと思う。カブルーは二人の良いところをたくさん知っている、どうか幸せになって欲しいと常に願っている。
だが、しかしそれでも。
「
……
そういえば、そのパフェとアイスはどうしたんです?この酒場そんなメニューありましたっけ」
アイスクリームなんて高級品を置いているような店だったかな、そう首を傾げればアイスにふやけたドライフルーツを匙で掬いながら、リンシャがことも無げに答えた。
「氷を渡したら作ってくれたわよ」
道具は前からあったけど、氷が手に入らなかったから作れなかったんですって。
「リンシャの氷術は見事だった。あれほど透明度の高い氷を作れる術者はエルフでもそういない」
「ちょっと大きかったんだけど、この人が転移術で切り取ってくれたの」
何そのチームワーク。息ぴったりすぎない?
胸の内のもやもやしたものが膨らんだ気がする。その後も術式の省略だのもっと合理的な魔法陣だのカブルーには高度すぎてついていけない類の会話が頭の上を通過していき「そうですか」と適当に相槌を打って机に突っ伏した。
二人が仲良しなことを手放しで喜びたいはずなのに、会話に入れないことが妙に寂しい。なんだそれは、ガキの嫉妬じゃあるまいし。いっそ分かりやすく拗ねて甘えてみようかな。
そのタイミングで店主がカブルーの目の前にどんと酒が並々注がれた器を置く。薄い銅製のマグから今にも泡が溢れてしまいそうなそれを、一気に半分ほど飲み干した。キンキンに冷えていて、美味しい。そういえば今日の昼間は蒸し暑いくらいで、こんな日は冷たいエールが飲みたいななんてぼんやり思ったことを思い出す。こんな普通の酒場ではぬるい酒が普通だが、高級店で時折飲める冷たいエールは暑い日に飲むと至福の心地がする。ぷはぁ、と息を吐いたタイミングでいくつかの料理が目の前に並んだ。じっくり焼いた鶏肉や、野菜を煮込んだもの。そう言えば昼はライオスと一緒に食べたけれど、夜は最近入ったばかりの文官の相談を聞いていたので摂り損ねていた。冷たい酒とほこほこと湯気をたてる料理の相性は最高で、この辺りでは珍しいスパイスの香りが鼻を抜ける。ああ美味しいなぁ、とカブルーは夢中で次々皿を平らげていく。この際二人の仲は置いておく、仲良い事が悪いわけがないのだ。別に置いてけぼりで寂しいなんて、そんな事はこれっぽっちも、いやちょっとは思ってるけど!
ふと二人が揃ってこちらを見ていることに気付いて、なに? と半目で問うた。こちらは拗ねているんですよ、と不機嫌を隠そうともしないカブルーを見て、普段は分かりづらいはずの二人が分かりやすく声を出して笑う。
それが面白くないカブルーは、残りのエールを一気に飲み干すと店主にもう一杯! とマグを突き出した。
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