あけみ
2024-05-19 13:53:54
2850文字
Public YYH
 

【YYH】芽生えた感情に名を付けるなら 後編【蔵幽】

まだ全然途中なんだけど、とりあえずこんな感じで書いてるぞ!という気持ち。
前編→https://privatter.me/page/66498669decd4

   

芽生えた感情に名を付けるなら 後編





 魔界で盗賊をしていた時、胴体が離れた血生臭い死体を見下ろしながら「つまらないな」と、常日頃感じていた。千年生きても得られるものは少なかった。死体になった妖怪は盗賊の仲間だった。嫉妬心か畏怖の念にとらわれたからか、不意打ちに妖狐蔵馬の首を狙った者の末路だ。
 魔界で名を上げる手っ取り早い方法は盗賊だ。とはいえ、効率的にことを運ぶにはやはり頭数はいる。統一された組織だ。魔界で信頼という言葉は存在しない。裏切っては裏切られ、だまし討ちも日常的だ。それでも、力さえあれば統一された組織はできる。魔界では力が全てだからだ。力がある者についていく。それが一時的なものであっても。
 中には気の合う仲間ができることもある。血なまぐさい魔界の中でも居心地が良い場所は見つけられる。
 だが、それも昔のことだ。
 千年生きてきた運命か。妖力は霊界が定めるところのA級になり、霊界の追っ手が仕向けられる頻度も増えた。妖怪が、霊界に妖怪を売る。そんな取り引きも行われていた。妖狐蔵馬が霊界の特防隊に深手を負った所以は仲間の裏切りだった。主犯格を粛清した後、妖狐蔵馬は長らく単独で行動を続けていたが、一度漏れた妖狐蔵馬の足取りは霊界の情報網から逃れられなかった。
 つまらない死に方だと過るも、憤怒していたのかもしれない。最後の悪あがきに転生を選んだのはその先を期待していたからか。復讐のためか。そんなことも忘れてしまった。
 人間界で興味深い人間に会えば、千年の月日など些細な事と思える。再び妖狐蔵馬の姿に変貌した蔵馬は、気も高揚としていた。暗黒武術会の決勝戦を目前に人間界で妖力を抑えることも忘れてしまうほどに。

 トキタダレの実の効果を検証するために、蔵馬は首縊島の森で何度か妖狐蔵馬の姿に戻る感覚を慣らしていた。妖狐の姿を維持できる時間と副作用の効果を確認するために。その日は、決勝戦前夜であったからか、いつもより妖気が高ぶっていたのだろう。同じく、外で精神統一し霊気の放出コントロールをしていた幽助の感覚を鈍らせるほどに妖気が漏れていた。
「蔵馬……?」
 声をかけられたことで、自身の妖気が霊界が定める人間界で認定している妖怪の階級から大きく超えていることに気付いた。妖気を鎮めた蔵馬は幽助に振り返る。
……浦飯幽助」
 妖狐の姿で幽助を見たのは初めてだった。南野秀一の身体で見ていた時と違い、彼の霊気の揺らめきとしなやかな身体の曲線も鮮明に映し出される。妖狐蔵馬から見たら、幽助は人間の子どもでまだ未熟で恐ろしく霊気が美しいことが分かる。唾を飲み込んで喉を震わせた自分の仕草に驚いた。
 蔵馬は「マズいな」と眉根を寄せる。
「その姿が昔の妖狐蔵馬ってわけか?」
 蔵馬の動揺に気付きもしない幽助は無邪気に言い放つ。警戒していたのは最初だけで、今は好奇心旺盛な子どもの瞳を輝かせていた。
「なんか、思っていたのと違った」
 妖狐の耳から尾に視線を向けた幽助が首を傾げて呟くと、蔵馬も眉根を寄せる。
「どういうのを想像していた?」
「もっと、獣っぽいのかと思ってた。狐の姿で妖獣っぽいやつ。前に狸の奴に会ったことがあるから」
……人間界にいる妖怪とでは環境が違う。魔界ではこっちの方が都合が良い」
 狸の妖怪と一緒にされることに対して、苛立ちを覚える蔵馬は妖狐の姿でいる時の好戦的な情緒の変化に気付いた。明け透けに警戒心もなく妖狐蔵馬に馴れ馴れしく言葉を投げかける幽助は、蔵馬にとって理解不能な存在に映る。飛影が「不可解だ」と言った心情が今なら分かる。本当に奇妙でこちらが警戒してしまうほどに理解できないのだ。
(子猫が足元に擦り寄ってきて動けなくなるような感覚に近い……
 蔵馬は幽助から放たれる「背すげぇ高けぇな」「しっぽの毛並み良!」「あと、すごい美形だな」「さっきの妖気すごかったな」などの言葉を聞き流していた。そうして、腕を伸ばせばすぐそこにいる幽助の存在から妖狐の好奇心がくすぐられる動悸を懸命に押し隠す。
……味見をしていたい)
 欲望に忠実な言動が出てしまうほどに、妖狐蔵馬にとっても幽助は魅力的だった。妖狐は元々色香に精通していた。好みの者を見つけ同衾することもあった。子どもは範囲外だったが、蔵馬は目を細める。
 幽助の前髪は下ろされ胴着は着ているが、決戦前なので身体を柔軟にしていたのだろう霊気が一定の量で身体を包み込んでいる。光の揺らぎが穏やかで手を伸ばしたくなる。
 蔵馬はゆっくりと腕を上げ、幽助の頬に指を添えた。
……蔵馬?」
 鋭い爪が頬を掠めても幽助は無抵抗に蔵馬を見つめるだけだった。あまりにも無垢すぎる瞳に射貫かれ、蔵馬は苦渋に表情を歪ませる。
「ここまでくると、俺は心配で不安になるぞ浦飯幽助」
「え?」
「俺をどう認識している?」
「蔵馬だろ?」
 キョトンとする幽助の返答に、予想通りとはいえ蔵馬は肩が重くなる感覚を味わう。同時に大きなため息も出た。
「あー、確かに姿かたちは変わってるし、言動も違うけど、もしかして、性格もちょっと違うのか?」
……そうだな」
「けど、蔵馬は蔵馬だろ!」
 幽助の頬を撫でていた指を下ろした蔵馬は彼から一歩距離を置いた。子どもを騙しているようで居心地が悪くなったのだ。丁度、妖狐の姿から南野秀一に戻ろうとしていた。蔵馬は息をついて顔を上げる。そこにはニッコリ笑った幽助の表情があったので思わず苦笑する。
「ほら、どっちの姿でも蔵馬だな」
 それは、君の前だけだよ。
 蔵馬は黙したまま微笑んだ。


 暗黒武術会の決勝戦は波乱の連続で、戸愚呂弟が会場の全ての魂を喰いつくそうする暴挙に出たため、その場にいた妖怪たちが我が命欲しさに幽助を応援し出す事態になった。背後で幽助を罵倒していた声が途端に声援に変わる様を蔵馬は覚めた目で見つめる。
……蔵馬……顔、怖えぇよ」
 戸愚呂弟に胸を突かれ死んだ振りをしていた桑原も思わず呟いてしまった。地面に仰向けに倒れている桑原は薄目で蔵馬の様子を窺う。蔵馬の苛立ちの沸点は妖狐化したことも関係あるのか随分と低くなっていた。
……自分たちの命が係わるなら手の平を返す輩は妖怪だけではなく人間も大多数いる。分かってはいるんですけどね」
 幽助のことになると、蔵馬は情緒をかき乱される。己に妖力が残っているのなら、背後にいる下品な文句で幽助の名を叫ぶ妖怪どもを皆殺しにしたいと思うほどに。他の妖怪たちに幽助の名を口にして欲しくない、という拗らせ方もしているので不味い感情だと自覚している。
「俺、相当、重症かもしれません」
 額を撫でる蔵馬は心底、困り果てていた。
 これは、日に追うごと深刻になる。暗黒武術会後、日常に戻った状況で不意打ちにくる。
 人間界に蔓延る妖怪たちの動きが随分と大人しくなったと、気付いた時だ。




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