フリーゲーム「Trustia ~トラスティア~ Last Reincarnation」 二次創作
ルナリアがクルスに告白する話
・クルス×ルナリア
・ノーマルエンドの道中ネタバレ
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憧れの女子会はエストレイアで話題のカフェで始めることになった。オシャレなお店に憧れるリリーナちゃんと、素敵な女の子と過ごしたい私。意見は合致、シチュエーションもばっちりで、話も膨らみに膨らんだ。
そんな折、ふとリリーナちゃんが振ってきた問いかけがきっかけだった。
「そうそう、私不思議だったんです。ルナリアさんってそんなに薄着で寒くないのかなって」
私の唇は少しだけ緊張した。
答えるには、故郷という単語を使わなくてはいけなかったから。
その質問はギルドに入ってから色んな人に何度か訊かれたことだった。いつもならうまく矛先を逃がす。「フレッドだって薄着じゃない?」「リリーナちゃんみたいにかわいい子の傍にいるとすぐ身体が熱くなっちゃうの」そんなふうに。
でもリリーナちゃんはもう私達の過去全てを知っている。ずっと隠してきた覆いは取り払われた。それでも改めて今までの隠し事を誰かに、クルスじゃない誰かに明らかにしていくことはとても必要な工程に思えた。
リリーナちゃんは人の機微を丁寧に拾い上げてくれる良い子で、答えを急かすことはしないでいてくれた。代わりにマグカップに息を吹きかける。温かいココアの湯気がふわりとこちらへ漂って、届く前に消える。カフェの窓から入り込む夜風は心地良い。
「
……エストレイアは私の故郷に比べてずいぶん暖かいから」
気づけばするりと声が出た。喉のつっかえがようやく取れてくれた気分だった。
首都に来て初めの一年、必死でこらえ続けてきた言葉。故郷。昔。小さい頃。うっかり零れ落ちそうになって口を噤むことが多かった。私のことを探られるのは良くても、糸続きでクルスの暗いところを探られるのは許せなかった。
これまでの私は小賢しく話題を逸らし、クルスは正面から壁を張り、互いにぎこちなく誤魔化し続けてきた。お互いで話すことだってほとんどなかった、暗がりの痛み。でももう淀みに溜めていく必要はない。
「すごく、寒かったですもんね」
リリーナちゃんは微笑んで頷いてくれた。その笑顔ですっかり体の芯が温められるようだった。
「あれ? でもクルスさんはけっこう厚着ですよね?」
冬生まれでも寒がりはいるのか、なんて問いかけ。リリーナちゃんの丸い瞳がくりくりと私を見つめ返す。なんだか小リスみたい。
「あれはね
――」
可愛らしいリリーナちゃんを見ていると、避けてきた思い出も自然と穏やかに語れる気がした。
遠い昔、五年前に想いを馳せる────
◆
────雪が波に飲まれていく光景を間近で見るのは初めてだった。遠くの空は明るく、だんだんと空の色に合わせて気候が変わり、住む地域が変わり、私達の生活が変わっていくことを予感させた。
故郷から追い出された日。次の船便が来るまでを森の中で耐え忍ぶ間も船に乗り込んだ後も、クルスの言葉数は少なかった。人一倍優しい彼は、人一倍繊細だ。
だから私はそんなクルスの気晴らしになればと思い、彼の籠る船室に足を向けた。
「ねえクルス、そろそろ雪が止みそう
……よ」
そして扉を開けた途端。目の前に広がるのは小規模な工具場だった。煤けた手入れ用品、巷では見かけない形の金具、袋一杯に詰められた空薬莢。私はぽかんと言葉を落とすしかなかった。
「ああ
……」
クルスは私の言葉に応えながらも一切こちらを見ず、ひたすらに手元を動かしていた。元々手先が器用なことは知っていたけれど、揺れる船中で銃器の手入れなんて。一切指先のブレを感じさせないその動きは技巧がどうというより何かに憑かれているというほうが近かった。眉間の皺は深く、熱中というよりは苦行を強いられているようだった。
「なに、してるの?」
尋常じゃない気迫に躊躇いながらも尋ねずにはいられなかった。クルスは硬い声のまま答えた。
「
……銃だけではきっとやっていけない。首都といっても口径の合う弾が売ってるとは限らないからな。だから、改造してる」
「改造って
……」
クルスの愛用していた猟銃は見事に解体されていた。あんなに毎日手入れしていたのに。けれど、よく見ればそれは自暴自棄での思い付きではないようだった。銃は内部の部品をこぼすことなく丁寧に横たえられていた。
「銃身だけでも取り回せて攻撃できるように、元々準備はしてたんだ。あいつにナイフを貰ってから────」
クルスは急に言葉を切った。口から零れ出た言葉はまだ気安く話題に出せるほど軽いものではなかった。でも出た言葉を拾い直すことはできず、言い難い沈黙が残った。
作業をしていれば忘れられる、なんてことすら許してくれないあの男。雪の名残がまだじっとりと私達の身に沁みついていた。
また黙って銃を弄り始めるクルスの瞳に、せめてどこか別のものを映してほしくて、私は口を開いた。
「陸についてからにしましょうよ」
「ん
……」
それでもクルスの暗い瞳は外を映したがらない。だから私は隣に座った。クルスの肩がぴくりと反応した。
「私にできること、ある?」
「ああ
……いや」
クルスは口を開きかけてすぐ閉じた。いつもだったら気楽に言ってくれたのに。クルスの周りのピリピリした空気が、気軽に頼るわけにはいかないなんていう刺々しい義務感を放っていた。
悔しかった。私なんかじゃクルスの何にもなれないんだと言われているようだった。そう考えてしまう時点で私にも拭い切れない闇がこびりついていたことはわかってた。
「手伝わせてくれない?」
なるべく普段の調子で言えるようお腹に力を込めた。もっともっと子どもの頃が頭によぎっていた。男二人に女一人、置いてけぼりにならないよう踏ん張っていたあの頃。そんな頃があったのに結局私だけ、ゼノの狂気にもクルスの凶行にも気づけなかった。
比べれば今のほうが焦りを隠す技は上手くなっていたはずなのに、この時ばかりはクルスでも見破れるくらい下手だったらしい。
「
……上着の裏地にポケットを増やそうと考えてたんだ。
頼んでも、いいか?」
おそらくは無理にせずとも構わない仕事だった。
新天地の気候に合わせて、最先端の衣服を揃える選択肢だって彼にはあったはずだ。
どれほど闇に憑かれていたって彼の性根が柔らかなのは変わりがなく、
「ええ。任せて」
「まかせた」
そのぎこちない四文字にどれだけ私が救われたか、きっとクルスは知らない。
◆
「だから、アイツの上着は一種の装備品ってわけ」
一通り話し終えてコーヒーを啜る。もうカップから湯気は出ていなかったけれどリリーナちゃんも美味しそうにココアに口をつけた。
「へえ
……じゃあクルスさんの上着はある意味、ルナリアさんのお手製なんですね」
「まあね。でも、自分の上着がそこそこ重たくなってるのに自覚がないみたいで。『寒いだろう』って言って人の肩に乗せてくるのよ? 肩が抉れるかと思ったわ」
「あはは」
クルスは初めこそ最低限の弾丸だけ上着に詰めていたはずが、気づけば手入れ道具から財布、魔物の戦利品に至るまで何でも上着から出てくるようになっていた。夢中になってポケットを増やしすぎた私も悪かったかもしれないけれど、それにしても。男ってなんで鞄とか持ち歩こうとしないのかしら。
ふと、リリーナちゃんが悪戯っぽい眼差しを向けてくる。
「けど内心、嬉しかったんじゃないですか?」
「
……否定できないのが苦しいところかしら」
「ルナリアさん、かわいい」
「リリーナちゃんのほうが百倍、いいえ、比べ物にならないくらいには可愛いわよ?」
誤魔化してみたのにリリーナちゃんはにこにこ微笑んだまま。すっかり強くなったリリーナちゃんは、したたかにもなりつつある気がする。隣人にも隠してきた気持ちをこうして年下の子に見透かされてしまうのは、少し気恥ずかしい。
コーヒーカップへ手を伸ばす。中身はすでに空だった。気づけば夜も濃くなっている。
そろそろ席を立つべきかしら、と思って腰を上げかけたところで、カフェの扉が騒がしく開いた。
見慣れた小柄な茶髪がちらりと見える。
「おうリリーナ、いるかー?」
「もう、フレッド! 見ればわかるでしょ」
リリーナちゃんは立ち上がってフレッドに駆け寄ると、騒音を気にするようにきょろきょろと見回す。
幸い他の客はおらず、店員が微笑ましそうに二人を見返していた。
遅れてクルスも入ってくる。どうやら私達と同じく男連中もそっちはそっちで過ごしていたらしい。
「おっなんだ、ルナリアもいたのか」
「なによ、居たら悪い?」
「はは、そうは言ってないさ」
クルスは私の小言を受け流して、リリーナちゃんと入れ替わりで向かいの席に着いた。代わりの客が来たとみるに、店員がカップを下げていく。流れで解散する気でいたけれど、仲睦まじく言い合うリリーナちゃん達を見ていたら気が変わった。
「ねえクルス、ちょっと付き合いなさいよ」
「はいはい。閉店時間大丈夫か?」
「ええ。まだあと数時間あるもの。いいわよね?」
来た店員の子に目を向ければ、にこやかに追加注文を受けてくれた。ぱたぱたとカウンターへ注文を告げる姿をつい目で追ってしまう。エプロンドレスがふんわり舞って、コーヒー二つを頼む声は可憐で、笑顔だって飛び切りかわいい。やっぱり女の子って素敵。ついこちらも顔が緩んでしまう。
「さすがに店員には絡むなよ?」
「私のこと節操なしだと勘違いしてない?」
「初対面のリリーナちゃんに抱き着いたのどこのどいつだよ
……」
「あの時は明らかにギルドの新人ってわかったもの。新人ちゃんとは友好関係を築かないと」
「そこまで考えてなかっただろうに
……まったく」
図星を突かれて肩をすくめる。確かにちょっと、勢いで抱き着いたところはあるけれど。
「だってしょうがないじゃない、何年経ったって女の子ってだけでやっぱり珍しく感じちゃうんだもの」
言ってクルスのほうへ向き直ると、きょとんとした顔がそこにはあった。それでうっかり口が滑ってしまったことを悟る。
雪に閉ざされた、老人と大人ばかりの私達の故郷。私とクルスとアイツが一緒につるんでいたのも、同性や同年代の少なさがあってのものだった。きっとこの首都のようにあらゆる人が行き交う場所で生まれ育ったなら、私達は別々の道を進んでいたのだろう。
だから、年下の女の子を始めて見た時はついはしゃいでしまって、それが続きに続いて今に至っていた。
でも、こんな故郷に触れる話をクルスに振るなんてこと、ここ数年はやらかしていなかったはずなのに。
上手い言葉を見つける前に、クルスの表情が変わる。昔によくやってしまった、傷に触れる瞬間の鋭い空気や、苦々しさを噛み締める表情を覚悟する。けれど、
「俺もそういえば、フレッド達と初めて話した時は色々新鮮だったよ」
意外にも、クルスの顔は穏やかに和らいだ。今度は私がきょとんとした表情をするほうだった。それもつかの間、遠くからリリーナちゃんの声がする。
「ルナリアさん、私これからフレッドのご飯作りに行きますけど
……どうしますか?」
「とっても羨ましいけど、次の機会にさせてもらってもいいかしら」
「ふふ、わかりました」
リリーナちゃんは全てわかっていると言いたげな表情で、自分のぶんのコーヒー代だけ机に置いていく。気を遣わなくても、と言いかけたけど、それを留めるようにすぐリリーナちゃんは身を翻してしまった。そして待ちきれないとばかりにすでにカフェから出ているフレッドを追いかけていく。もう見えないフレッドの背にクルスが大声で呼びかける。
「フレッド! 俺もちょっとルナリアと話していくから、解散な!」
「へいへーい」
入口のベルが鳴り、ようやくカフェは元の落ち着いた夜を取り戻す。
なんとなく空いた間の中、クルスと目を合わせると、自然と頬が緩んだ。どちらからともなく口を開いて、元気な後輩達の話が盛り上がる。
「今日はフレッドと狩り? あなたもなかなか世話焼きよねぇ」
「俺達も、って言い換えたほうがいいんじゃないか?」
「ふふ、私が女の子を見守るのは趣味みたいなものだから」
「あのなあ
……」
言っている間にコーヒーが運ばれてくる。「騒がしくてごめんなさいね」と言えばにこやかに返してくれた。ギルド連中が常連の店だけあって慣れっこらしい。
コーヒーを手に、ふう、と二人ため息をつく。同じタイミングだったことにまた笑みが漏れる。だから、
「リリーナちゃんと何話してたんだ?」
そんな質問をされても身を固くすることはもうなかった。
「私達の故郷の思い出話よ」
「
…………だろうとは思った」
クルスの瞳が遠くを見る。そこにあった故郷を眺め見るように。
「もう五年なんだな」
「そうね、五年経ってやっと
……話せるようになったの」
積雪に頭まで埋もれてしまうほどだった子どもの頃、五年間はとても長かった。早くあんな、私の友人を貶める村からは出たいと思っていた。なのに、積もる雪から足を引き抜いたとたん、時の流れは早回しになってしまった。気づけば数年なんてすぐさま過ぎていて、ずいぶん進んだと思っていた私達はまだ足踏みをしていただけだったと気づかされて。
「リリーナちゃん達はやっぱり凄いわよね。この五年間、私はずっと立ち止まっていただけなのに」
夜より優しい色をしたコーヒーが私の顔を映す。吹っ切れた、でもちょっと未練がましく歪む口元。今日の私はちょっとらしくない。首を横に振って改めて視線を上げる。
「違うぞルナリア」
私がクルスと向き合うタイミングを計っていたかのように、クルスはきっぱりと否定した。
「確かにリリーナちゃんもフレッドにも感謝してる
……しきれない。
でも、ルナリアがいたから俺はここまでやっていけたんだ。
それは忘れないでほしい」
落ち込みかけていた気持ちが、ぱっと一気に浮上する。私だってクルスに支えられている。いつでも誠実なのが、クルスの、クルスらしいところだった。
「
……ふふっ。普段はさんざんなこと言ってくるくせに」
「うっ。仕方ないだろ。
……そうでも言わないと
…………」
冗談めかした口調が、ふっと引き締まる。クルスもなんとなく感じているようだった。この時を逃せばまた、少し臆病な私達は見ないふりを続けてしまうことを。
「白状するよ。
……昔からルナリアを俺に付き合わせるわけにはいかないと思ってたんだ、ずっと。だからわざと距離を置いてた時期もあった」
察してはいた。けれど、言葉にされるとまた違った気持ちが沸き起こった。横っ面をはたいてやりたいような、叩いたその手で私自身も殴りつけてやりたいような、想いの掛け違いを正せずにいた五年間の無為を感じさせられる時間だった。
黙っていた私の反応をどう取ったのか、クルスは俯く。
「情けなくて、悪い」
本当、律義な男!
「
……知ってたわよそんなこと」
「えっ」
顔を上げたクルスの顔にはありありと「嘘だろ」と書かれていた。彼と言えば本当に鈍感で、でも、それに甘えて色々なことを隠したままでいようとした私だって、情けない女だった。
「私もね、クルスのこと避けてる時があったから。他の街への出向を積極的に受けてたのもそう。
……向き合う自信がなかったのね」
「
……ああ」
私とクルスは銃と弓。近距離のサポート役と組むことも多かったし、初めの頃は同郷として一緒にいたけれど、二人揃って依頼をこなす回数は次第に減っていった。ある意味良いことでもあった。クルスの付属品としてじゃなく、彼に頼りきりでもない、私の人生を私が作っていっている実感があった。
それに何よりクルスは人より少し優しすぎるから。私がベタベタと悪い意味でずっと傍にいたって気にしないだろうし、ゼノに引きずられたみたいに、ちょっと困った方向で離れがたくなってしまうかもしれない。そう思うと自然と距離を取らざるを得なかった。
私の感情がクルスの手足を絡めとるなんて!
そんな気持ちだって私の身勝手で、結局は見ないふりだったんだと思い知った。
「だから、今、向き合うわ」
「うん?」
息を吸い込む。心臓が早鐘を打つ。
リリーナちゃんとの会話が後押しになる。
五年間の足踏みからの一歩を今、始めたい。
自然と言葉が零れ出る。
「私、クルスのこと好きよ。あなたの支えになりたいの。これからもずっと」
「ルナリア
……」
なんだかとても、びっくりするくらい、よくある言葉に収まった。
でも本当にこれが全てで、ありのままを切り出した言葉だった。
クルスは私の名前を呼んでそのまま、言葉を探していた。
細いけれどきちんと男性の形をした喉がこくりと動く。
「俺も、ルナリアが辛いときは支えたい。分かち合いたい。
助けてもらったからじゃなくて、ルナリアと一緒に居たいって俺が思うから────
────ルナリアが好きだから」
「クルス────!」
ずっと、ずっと、ずっとずっとずっと!
隠した裏で待ち望んでいた言葉が聞けた。嘘じゃない。身体が熱い。あなたにそうやって、言って欲しかった!
思わず抱き着きたくなる気持ちを先んじて留めるように、クルスの唇が動く。
「もちろんフレッドも、リリーナちゃんもそうだ」
「えっ?」
カクっ、と身体が傾ぐ。
もしかして、
もしかしなくとも、
この鈍感男は、本気で?
「あ」
「あ?」
「呆れた!」
「なんだよ急に!?」
その反応で確信した。
クルスは演技でも誤魔化しでも知らんふりでもなく本気で、あれだけのムードがあってなお、気づいてない!
それならいっそ直球に言ってやろうと思って口を開く。罵倒じゃなくて誤魔化しでもなくて、本気の、ちゃんと伝わる、恋愛の
……。
恋愛、の。
「ルナリア?」
クルスの呼びかけが私の頭を冷やしてくれる。
すぅっと、勢いが止まる。吸った息はそのまま吐息になって消える。
伝えたかったあの言葉は本当に全てだった。恋愛じゃなくたっていい、そんな形を当てはめることすら必要ないくらい、クルスと支え合っていたい。そういう意味では間違いなく正しい形で、余すところなく伝わってはいた。
むしろ肝心なのはそっちのほうで、今、言い直して誤解されるのはもっと噛み合わなくなる気もした。だから私は大きく深呼吸をして切り替える。
「いいわよ。クルスがそういう男だっていうのはわかってたことだもの」
「だから何なんだよ
……」
「
……クルスがクルスである限り、見損なうなんてことあり得ないから、安心しなさいってことよ」
言ったら気持ちが楽になる。
あなたの鈍感なところもそのくせ人には優しいところも時折暗く落ち込むところも、全部ひっくるめて、クルスが好き。そういうことだって伝わっていれば今はそれでいい。
クルスは面映ゆいとばかりに冗談めかして、それでも爽やかに笑いかけてくれる。
「ははは。そりゃ大きく出たもんだ。
……ありがとうな、ルナリア」
それはこっちのセリフ、なんてこと。
言うに言えずにコーヒーを飲む。少しの苦みが心地いい。上手くいかなくたって構わない。確かに一歩は進んだのだから。
夜風が窓から入り込み、私の身体を軽く撫でる。身震いして時計を見れば、針は予想以上に先を示していた。
「寒いか? そろそろ俺達も帰るか」
「ええ」
二人で席を立つ。会計を済ませて外に出ると、夜風がことさら身に染みた。また懲りずに上着を貸そうとしてくれるクルスを留めて、早足で自分たちの住処へ帰る。
自分の居場所が確かにある、それだけで私達はやっていける。
「私だって」
「ん?」
「私だって、感謝してるわ。
……傍にいてくれて、ありがとう」
「
……ああ。俺もだ」
いつもなら「明日は槍が降るな」なんて軽口が飛んでくるはずだったのに。
クルスは優しくうなずく。頬が熱くなる。
こういう時の空気は察せるのも不思議なところだった。
夜で良かった。照れた顔なんて見せられない、まだ。
隣を見ればクルスがいる。柔らかい街灯の傍で、穏やかに笑んでいる。
夜の暗さも底冷えする寒さも何一つおそろしくはなかった。
寒さに震えていた日々が、雪解けを迎えた合図だった。
~END~