戌丸アット
2022-05-29 23:36:27
3232文字
Public Fate
 

その兵、曰く付き

槍弓





瞬間、ランサーは相棒の赤き槍を構えるとすぐに右上からの斬撃を反転しながら薙ぎ払う。
全く可愛げも礼儀もない挨拶である。
しかし挨拶されて返すのは礼儀なので、すかさず槍を叩き込む。
常人であれば頭も割れているだろうが、さして力を込めた一撃でも無い為、フードの男は漆黒の剣を見せつけるかのようにその刀身で弾いてみせ、オマケの一閃で距離を取られた。
久しぶりだ、とランサーは緩む頬に抗わずニヤけながら地を蹴る。
速さには自信があるのだ、フードの男よりも1歩早く跳躍し、今度は先程よりも力を込めた。
すると男は刀身で防御姿勢を切り替え、回避すると何処から出したのか矢が飛んでくる。
どうやらこの男は然程、力が無いらしい。
眉間、首、肩を狙った矢を背後へと流すと土煙が立ち込めた。
羽織っているマントで手元は見えなかったが、槍からの感触と背後へ流した時の威力共に普通の矢ではない。
これから王から頼まれた魔術師のお迎えの任務だったのだが、これは良い獲物に出会ったものだと槍を構え直した時だった。

「アーチャー!ストップ!」

その可愛らしくもしっかりと通る声により呆気なく終わりを告げられた。

「ごめんなさいね、この辺りは物騒だから傭兵に守らせてたの」
「傭兵?アレでか?」
「様子を見ていたと思えば言う事がそれとは王国随一の騎士からすれば私の太刀筋は有象無象と変わらないと?これはまた見下げられたものだ」
「アーチャーは黙ってて」
………

ランサーのティーカップに紅茶を丁寧に注ぎながら、これまた丁寧に皮肉を突きつけてくる。
しかしカチンと来る前にピシャリと少女に言われて押し黙る従者のように少女の背後に立つ褐色の男と、何でもないように紅茶を啜る少女に思わず頬が引き攣った。
少女と言えど、契約者と言う事なのだろう。
しかし勘違いされたままと言うのも気持ちの悪いものなので、とりあえず物申しておく。

「そういう意味じゃねぇよ、傭兵にしては腕が良かったんでな、魔術師の使い魔か何かかと思ったんだが?」
「ま、似たようなものね」
「はぁ、似たようなもんねぇ」

カップをソーサーに置いてから机に置く動作をゆったりと動いたかと思うと、少女はスカートの端を摘んで少し膝を曲げて挨拶してきた。
切り替えが早い。

「改めまして槍の騎士よ、私はこの森に住まう魔術師の凛と申します。この度の従者の無礼をお許し下さい」
「おいおい、急に畏まるなよ!さっきの口調で良いって」
「騎士様のご要件は分かっております。以前から再三とアーサー王から直々にお手紙を頂き光栄の至りで御座います」

そう、ランサーこと王国随一の槍使いと言っても過言ではない男、クーフーリンの用事とは目の前の魔術師を迎えに来る事だった。
アーサー王ことアルトリア直々に頼まれ、最初こそ気乗りしないと断ったのだが何度も頼まれて、最終的には家までアルトリアに押しかけられては断れないと渋々、魔術師の元へと訪ねてきたのだ。

その日飲んでいたラム酒を王の盃に満たした時だった。
王、曰く

東の森には黒髪の少女が居るのです
その少女は魔術師なのですが、少女と言われる年齢で既に一流だと断言出来る実力を持っているのですよ
風の噂で最近、従者を置き出したそうで
ますます近隣の者達は近寄れないとの事
ですが私としては少女を殺すのではなく、仲間として迎え入れたい
出来れば従者と共に

何故、アルトリアが少女の事を知っていたのかは知らないし、知る必要も無い。
アルトリアの横顔が何処か遠い記憶を目に写していたのは、すぐに分かったが、それに触れて良いのは思い出の人物だけだ。
だからランサーは、アルトリアの願いを命令として頷いた。
ありがとう、光の御子よとアルトリアは笑った
その時のアルトリアは、いつもの王ではなく何処か無垢な少女を思わせた。

しかしまさか中々の無理難題だとは思わなかった。

「直々のお手紙を頂いたので城へは赴く事は出来ますが、私にお仕えする気は御座いませんわアーチャー持ってきて」

つかつかと何やら男がランサーの右隣に立ったかと思うと、机に騎士王と名高きアーサー王直筆の手紙が入っているであろう封筒を叩きつけられた。
実は凛と名乗った少女、もとい森の魔術師は去年の冬からずっとアルトリアの誘いを断り続けていた。

「これは?」
「今までの手紙だ、折角来たのだついでに持って帰ってくれ」
「こりゃまた、あからさまに歓迎されてねぇみたいだなったく、紅茶も飲んでねぇってのに早々に追い出すのかよ」
「ならさっさと飲んで、さっさと出てって行って貰おうか、クーフーリン」

気付けば少女は居なくなっていたがランサーは敢えて気にせず、背もたれに寄りかかってリラックスしたように腕を背もたれにかけ見せつけるように深く座り直す。
そんなランサーの態度にピクリと眉を動かしたが表情を変える事もなく、先程交えた黒い刀身をランサーの首元へとかざして来る。
クーフーリン、と低く落ち着き払った声で真名まで呼んでおきながら、安い挑発である。
然程、この従者も本気ではないのが伺えた。
それよりも先程、魔力の波を感じた方が気になった。
この従者が持っているのは魔術の類なのかと腕を取って従者の腕ごと剣を眺める。

「っ何をする!」
「そういや、これどうやってんだ?転移と言える程の魔力は感じなかったが帯刀して無かったろ」
離せ、君に話すべき事は無い、とっとと帰ってせいぜいアルトリアに頭を下げるのだな」
「あ?」

従者の台詞にランサーは目を見開いた。
それは怒りからではなく、驚きによるものだ。
この国にアーサー王をアルトリアと呼ぶのは親しき仲でも一部の人間だけだ。

「貴様、何者だ」
「なんだ?怒ったのか?見上げた忠誠心だ、意外だよ」
「良いから答えな」
「残念ながら、ただの傭兵だ………はぁ、いい加減その手を離したまえ」

なんとも愛想の欠片も無い答えである。
極めつけは思っていなくとも客に対して、剣を向けておいて掴むと離せと指を払おうと腕を引くのが伝わって来た。
別に男の腕力程度で離れる程、ランサーの力は弱くは無かったが、ランサーからするとその態度にカチンと来た。
ランサーとて何でもかんでも噛み付くように怒る沸点の低い男では無かったが、どうやら自分は傭兵と主張する男は、ランサーの心に刺激を与えるのが上手いらしい。

「ただの傭兵がアルトリア・ペンドラゴンの名を気安く口にするものか!しらばっくれるならコッチにも考えってもんがあるぜ?」
「何、を!?」

ランサーは掴んでいない手の方でソファーにルーン文字を描いた。
木材で出来た家ならば良く燃えてくれるであろう炎を思い浮かべながら。




この後、2人で仲良く水を引っ掛けられて凛ちゃんさんに怒られます。
燃やしちゃアカンね(´ω`)





ーーあとがきーー
戦闘シーンシンドイ、もう書かんorz
ちなみにUBWのプロローグ戦闘を参考にしました。雰囲気zeroだけど
出会っただけなんで槍弓と言えませんが気持ちは槍弓なのでタグ付けました。
問題があるようなら外します。
楽しんで頂けたでしょうか?
ここまで読んで下さり、ありがとうございました!