戌丸アット
2022-05-29 23:35:28
4030文字
Public その他
 

出会い妄想

マナー違反者(蹴煙)







ある日、空に大穴が空いて異世界と人々が暮らす世界が繋がった事により人々の中に明らかに異種であろう人や異形頭の人々が増えて闊歩するようになって数十年。
もはや教科書の出来事となった頃には人々の高い順応性の賜物なのか、話の主人公であるキッカーが出歩いても好奇の目は向けられない。
キッカーとは足が長い所から付けられた昔から付けられる彼の愛称で、面倒臭がりの彼はそのまま流されて使っている。

「えっと12時30分からか

キッカーの唯一の趣味と言っても良い事は映画の視聴だ。
正確には映画館が目的であり、映画館のスクリーンで映像を見るのが好きなのだ。
なので余程、趣味に合わない限りは家事を終えて暇があれば映画館へと訪れていた。
今日は平日のお昼頃と言う時間の為か、人は疎らであった。
しかしお目当てはスクリーンなので、そそくさとお目当ての映画のチケットとジュースを購入して、適当に選んだ座席へと座る。

「あ、今日はアクションかー」

値段が比較的安い物を選んだだけなので内容をうっすらしか覚えておらず、改めて始まってから気付き、ノンビリと見ながらジュースを飲もうと動いた時だった。

「っう!」
「あ」

愛称の由来にもなった長い足は組んでいた足を外しただけで前の席を蹴り上げてしまった。
しかも中々の勢いで。

「す、すいません!」
「あー……大丈夫っす」

慌てて覗くように前かがみになると大丈夫だと言う前席の人物は、豆腐のような四角い異形頭の男性であった。
蹴りが強めだったのか、男性はしかめっ面である。
しかし男性はキッカーの謝罪で気が済んだのか映画が見たかったのか、すぐに前に向き直ってしまった。
その様子に内心、冷や汗だったキッカーもゴタゴタにならず済んで良かった、と思い直してスクリーンへと集中しようと向き直った。
今度は足に注意を払いながら足を組む。

そして上映が始まり少し経った頃に突然、前席の異形頭の男性は立ち上がったかと思うと出入口へと歩いて行ってしまった。
突然、前を遮られキッカーはギョッとしたが、男性は早歩きで立ち去るのでスクリーンはすぐに見られたがキッカーは見ていなかった。
今から面白くなるのに退室する男性の事が不思議だったからだ。
だが他人事だと思い直すとスクリーンへと再び集中すると、キッカーは上映が終わるまでスクリーンに釘付けとなった。

「んんーっ!結構面白かったー!」

バラバラとエンドロールを背に場内の人が出ていくのを横目に腕を伸ばしながら、キッカーもそれに習うように廊下に出ていき、ちょっとした空腹感に何か食べようかと考えながら喫煙所を横切った時だった。
蹴り上げた前席に座っていた異形頭の男性が穏やかな表情で白い煙に埋れるように煙草を1人吸っていたのだ。
その姿を見ていて、キッカーは気付いた。
蹴り上げた前席の彼は出て行ったっきり、戻って来なかった事に。
料金も払っている筈なのに出て行った事が不思議に思ったキッカーは、気付けば喫煙所へと入っていた。

「っげほ! ごはっ!」
「あー……大丈夫か?」
「あ、はいっ、大丈夫、ですっ! ごほ!」
「その様子だと喫煙者じゃないだろ、アンタ」
「やっぱり分かります?」
「まぁね」

まさか相手の方から話しかけられるとは思っておらず、更に副流煙によって咳き込みながらもキッカーはそのまま男性の隣に自然と座っていた。
男性と言えば特に気にする様子もなく、穏やかに煙草を吸っている。

「で? アンタは、なんで吸わないのに喫煙所に?」
「え?あー……ちょっと貴方が気になって……
………は?」
「あ、すいません! 気持ち悪い事言って! 変な意味はないんです! ただ映画の途中で出たっきり戻って来てなかった様なんで何故かな?と思ったんですっ!」
「そ、そう……あー……別にアンタ足蹴りのせいじゃないぜ? 俺さ、見ての通りのヘビースモーカーだからニコチン切れて煙草吸ってたら終わってたんだ」
「えぇ!? そんなにずっと吸ってたんですか!?」

どうやら男性はキッカーが気にしていると思ったらしく、小さく微笑みながらヘビースモーカーだと話したが、キッカーの体感的には1時間半くらいはずっと吸っていた事になる。
そんな話は喫煙をしないキッカーからすれば驚くばかりで思わず、男性に向かって前のめりになった。
するとオーバーな反応のキッカーに目を見開いて驚きながらも、すぐに男性は苦笑いをしながらも頷く。

「ま、そういう事だからアンタは気にすんな、な?わざとじゃないのも分かってるよ」
「あ、はい、ありがとうございます」

ーグーッ、キュルルルー
そんな時、キッカーのお腹がハッキリと空腹を主張してきた。

「っぶ!!!っはは!」
「う、わっ!!! すいません!!!」

あまりに空気を読まないお腹の音に恥ずかしさを覚えて思わず、キッカーはお腹を抱えるような態勢になりながら俯く。
隣の様子を見る限り、思いっきり音も聞かれているのは明白だ。
それが更に恥ずかしさを濃くさせる。
そんなキッカーの隣で軽く笑っていた男性が突然、食事に誘ってきた。

「なぁ、此処で会ったのも何かの縁だ、飯食わねぇか? アンタの腹の音を聞いたら俺も腹減ったわ!」
「え、でも……
「なんだ? アンタ意外と人見知りか?」
「いえ、僕で良いのかと思って」
「こっちが誘ってんだ、それに見なかった、さっきの映画の結末でも教えてくれよ」
「じゃあ、この先のファミレスとかどうですか?」
「いいぜ、丁度、煙草も十分吸えたしな」

煙草の火を消しながらコロコロと笑い、最初に見たしかめっ面とは違う印象に驚きながらもキッカーは彼に悪い印象は無く、受け入れられた。
それからは軽く雑談をしながら、映画館の中にあったファミレスへと入ると二人で商品を頼み、会計は別々としっかりと店員に確認をしながら食事をしていると、いつの間にか、映画の話に夢中になっていた。

「へぇー! ならあの場面から既に伏線を張ってた訳か!」
「そうなんですよ! 僕も見てて思わず声を上げちゃいました!」
「結構、安めの値段だったから期待してなかったが煙草吸わなくても見れたかもなぁ、惜しい事したぜ」

苦笑いを浮かべてセットになっているスパゲティを食べる男性に自然と打ち解け始めていたキッカーは、思わず微笑みながら自分の分のハンバーグを切って食べていく。
かなり映画が面白かったのはあるが、必死に話すキッカーの話を男性は時々、返事を加えて上手く聞いてくれるのだ。
それが最初は多少、緊張していたキッカーも自然と笑いながら談笑できるようになっていた。
出会ったばかりだがキッカーは男性と相性の良さと、男性に対して自然と好感を持っていた。
そして一通りストーリーを話した後、思い出したような表情になった男性から切り出してきた。

「あ、そういえばさ、アンタ敬語じゃなくてイイぜ?」
「えぇ!? いやいや! そんないきなりは!」
「俺が敬語苦手なんだよ、俺の為だと思ってやめてくれないか?」
「そう、かな?じゃあ……僕なりに喋りやすい感じで喋ってみるよ」
「あぁ、それで頼むわ、それと……そうだな、愛称のスモーカーとでも呼んでくれ」
「なら僕も愛称のキッカーで」
「はは! キッカーってピッタリだな、アンタ!」
「えぇ!? そう?」

敬語を辞めたせいか、スモーカー自身の性格の賜物なのかもしれないが一気に2人は距離を詰めていき、冗談や茶化しを加えてながら話せるようになっていた。
それからは、また映画の話へと戻り、DVDが出るのではないかと話したり他に見た映画の話になった。
しかし時間は有限なもので、そろそろお開きにしようと言う事になりファミレスを2人で出ていた。
会計を済ませて外に出ながらキッカーは直感的に、このまま2度と会えなくなるのは寂しいと思えるほどにスモーカーに多少、心を許せる程になっていた。
ふっと不安が過ぎったキッカーは、気付けば別れようする背中に声をかけていた。

「あ、あのさ!!!」
「ん、なんだ?」
「えーっと……またこの映画館で会ったら話してくれる?」
「なんだそりゃあ……?」
「あ……やっぱり、変、かな?」
「かなりな」
「うぅ……

突然のキッカーの申し出に目を丸くしながら咥えていて煙草を胸ポケットにしまいながらスモーカーは振り向く。
当然のスモーカーの言葉に不安に押しつぶされそうな気分になる。
しかし次にスモーカーから言われたのは拒否ではなく、照れたような返事だった。

「でも、ま、その……なんだ、俺で良いなら話し相手くらいにはなってやるよ」
「え、じゃあ、お願いします!」
「おい、敬語」
「あ、うん! ならまた会おう!」
「ははっ! ……おう、またな!」

特に約束はしなかった。
約束のような事をするのは無粋に感じたキッカーは、次は連絡先でも聞こうかと考えながら晴れやかな気分で自宅へと帰って行った。
明日からは、また仕事だったが、これからまたスモーカーに会って話せるのだと考えるだけで気分は軽かったのだ。
こうして不思議な映画館で出来た友人が、今後の親友、果てには恋人になるとはキッカーも分かっていなかった。





ーーあとがきーー
考えついた末に名前ではなく皆、愛称って事にしましたw
曖昧な感じで進めるの難しいですが楽しかったです!読みづらかったら、すいません(´・ω・`)
余談ですがここ数年、私は映画館に行った事がないので変な所があったら、すいません