あけみ
2024-05-12 11:42:33
3986文字
Public SPN(小説)
 

そして廻る天の旅路⑯【冒頭のみ】

S10のファンフィクション回から。冒頭のみ。
①はこちらから→https://privatter.me/page/657cca85934f7
⑮はこちらから→https://privatter.me/page/657cca8605639

 小道具にしては手が込んでいる。銃の玩具から魔女の呪い袋、ディーンが以前サムから貰ったアミュレットに似せた木彫り(舞台上ではサミュレットと呼ばれている)、ルビーのナイフは段ボールで出来ていたが、どれもが「好き」で作った代物ばかりだった。舞台に目をやると、生徒たちがディーンやサム、カスティエルの衣装を身にまとい台詞の読み合わせをしている。
 ディーンはマリーに手渡された台本をめくりながら眉を寄せた。チャックが書いた「スーパーナチュラル」をミュージカルにアレンジし、文化祭で公演する高校生たちの舞台で奇妙な事件が起こったので狩りの調査をしていたが、ミュージカルの内容に解釈違いをおこした。台本に事件の原因がある可能性も否定できず、ディーンは先ほど読み終えたが作中、怪訝に顔を歪めてしまう表現が多数見受けられた。
ディーンは顔を上げ、台本にある一行を指さしながらマリーに声をかける。
「おい、この、キャスと俺の……キャスとディーンのシーンの演出はまるで恋愛じみた茶番みたいだぞ」
 原作には書かれていない距離の近さと創作された添い寝のシーンが描かれているが、添い寝は現実のカスティエルとディーンも行ったので全てが嘘ではないのが文句を言いづらい所だ。ディーンが言いたいのは、原作はここまで描かれていないことを何故マリーが全て想像だけで創作(現実に近いことを)できたのかということだった。
 マリーは少し頬を赤らめ興奮したように言い放つ。
「まさにその茶番みたいな密な恋心が描きたかったの! 確かに、原作はそこまで描かれてないけど……行間を読めば分かる」
……行間を……読む」
「そう! カスティエルはディーンに対して献身的な態度を示してる。最初に登場した「Lazarus Rising」の時と随分と変化した。威圧的な天使の兵士から人間に恋した為に堕ちた哀れな天使になった。恋い焦がれる辛さも愛おしさも処理しきれないのは当たり前でしょ!」
「人間に恋した……って、この二人の関係は友人だろ?」
 マリーはディーンを見やって「信じられない」というような表情で訝しむ。
「あなた、本当にディーン・ウィンチェスターみたいね! ただの友人が天界を捨ててたった一人の人間を救う? ただの友人があんな熱心に見つめる? 彼らが見つめ合うことを「eye fuck」って原作に書かれてるんだから!」
「アイ……ファッ……?、そんなこと書いてないだろ!?」
 ディーンは思わず声を上げた。チャックが書いた本を全て読んだわけではないが、カスティエルとの場面は目を通したから分かる。マリーは言い過ぎたと思ったのか口元を押さえた。そして、視線を背け、「あー、」と言葉を濁す。
「たぶん、昨夜読んだファンフィクにそう書いてあったかも」
「ファンフィク……おい、待て。他にもキャスとディーンのファンフィクションが書かれてるのか?」
 嫌な予感に表情を曇らせる。マリーの瞳が突然輝いたからだ。
「気になる? たくさんあるよ! だって、Destielはファンフィクサイトでも一番人気のshipだから。後でそのサイトのURL教えてあげるね!」
「デスティエル……シップ……
 いやいやいや、そこまで教えなくても良い、と断りを入れるもマリーの押しつけがましさに負けディーンはこの事件の後、マリーから例のサイトのURLをメールで受け取った。


 バンカーに戻ったサムとディーンは重たい扉を開け階段を降りる。すぐ下の階の広間にカスティエルがいるのに気付き、ディーンはギクリと胸を高鳴らせた。足取りが遅くなるディーンを無視したサムはカスティエルに笑いかけ挨拶する。
「キャス、来てたのか」
「ああ……、君たちは狩りから帰ったところか?」
「そうだよ。比較的、簡単な事件だった」
 ディーンは、サムの言葉に眉を寄せる。
「簡単な事件なんかじゃない。へんてこな奇妙な事件だった」
 唇を尖がらせるディーンにカスティエルが首を傾げた。サムは笑って、「キャスもいたらもっと楽しかっただろうね」と言い放つからディーンは余計に苛立つ。
「どんな事件だったんだ?」
 カスティエルが興味を示したことでディーンは溜息をつく。
「熱狂的なファンが「スーパーナチュラル」をミュージカルにして好き勝手に演じてカリオペから生徒たちを救ったんだ」
……文芸の女神か。珍しいな」
 ディーンの説明にまだ怪訝に眉を寄せていたカスティエルだったが、出てきた女神の名前に関心を持つ。
「珍しい?」
 サムはカスティエルの言い分にすぐに興味を示す。
「カリオペはよほどの強い情熱下にある舞台でなければ寄り付かない」
「ああ、まぁ、確かに彼女たちの情熱は僕たちも圧倒されたよ」
 笑って答えるサムはチラリとディーンに視線を向け笑う。なぜこちらを見て笑うのか、サムを睨んだディーンは「こっちを見るな」と愚痴をこぼす。
「そうそう、キャスも出てたよ。ディーンとキャスの場面はデスティエルって言って」
「サム! 余計なことを言うな」
 言葉を遮るディーンは不貞腐れ、廊下を歩いた。サムとカスティエルから離れようとしたディーンは駆け寄ったカスティエルに止められる。腕を掴まれ、ビクリと肩を揺らした自身の反応に舌打ちしそうになった。
「ディーン、誰も死なずにすんだのか?」
……ああ、皆無事で終わったよ」
「そうか、それなら良かった」
 そう言って微笑んだカスティエルの顔を気付いたらずっと見つめていた。ディーンはすぐに赤らめた頬を見せないように、腕を振りほどきその場から逃げるように立ち去る。小さく背後から「ディーン、」と名を呼ばれたが、それも無視した。最近、こういうことが多く、カスティエルとディーンの間にある気まずさは以前よりますます深くなった。主に原因は自身にあるとディーンは分かっていたが、悪魔になっていた時にカスティエルとセックスしたことを時たま思い出し、まともに顔を見ていられなくてカスティエルと二人っきりになる場を避けていた。
(キャスとセックスしたんだよな……
 悪魔になっていたとはいえ、アレは正真正銘のディーンだった。自覚もあったし、あの時の記憶も状況もしっかり覚えている。悪魔になったディーンは全てがどうでも良くなっていた。だからカスティエルとの関係が壊れても気にしなかった。素面ではできないことをした。カスティエルが自身に好意を寄せているのはずっと前から知っていたから誘ってその気にさせて、一度でいいからあの凛々しい腕に抱かれたいと思っていたのだ。
 欲望のまま抱かれ嫉妬に狂ったカスティエルを眺めながらイクのは高揚した。あんなのは、正気ではできない。
 その後、サムに浄化され本音を全て吐き出し本気で殺そうと追い回して。ディーンの魂は限界に近かった。
 しかし、カスティエルが背後から迫り、羽交い締めされたことで、抵抗できなくなっていた。首筋にかかるカスティエルの熱い息を感じ、ディーンの体は硬直する。どうやってもカスティエルから抗えない。流し込まれた恩寵と関係しているようだ。天使とセックスした悪魔はそうはいない。
 浄化は成功した。カスティエルは濁った魂は元の輝きを取り戻したと安堵し、サムも悪魔の時に放った言葉や行動は本当のディーンではないと、言った。だが、思い返せばあれはディーンの本心だ。サムに言った酷い言葉もカスティエルとセックスした時に感じたことも。感情の抑揚はなかったが、ディーンだった。だから、今もなおカスティエルとどんな顔して会えばいいのか分からない。サムとは違う。兄弟の蟠りは今までにもあったし魂を無くした時、サムもディーンに酷い仕打ちをした。だが、カスティエルは――
 ディーンはまたドキドキし、顔に熱がこもるのを止められなかった。

× × ×

 最初は本当に興味本位だった。送られたURLは良心的にもマリーの説明付きで紹介されていた。全年齢対象であることと、どこのシーズンのものか、シチュエーションが書かれていた。実に丁寧な説明で紹介されていたので、マリーはディーンにも興味を持ってもらおうと布教じみた魂胆があったのに違いない。
「実は本人なんだけどな」
 ディーンはこっそり呟きながらバンカーにある自室でラックトップを開いて紹介されたURLをクリックした。人が勝手に想像して描かれた自身の物語は、最初奇妙な感じがしたが内容は思っていたものより酷くなかった。ディーンやカスティエルとサムの日常を切り取ったものが多く、中には狩りの描写がある内容もあったが執筆したファンは「スーパーナチュラル」の原作を隅々まで調べあげているのが分かる。いくつか読んだ中で、ディーンはファンフィクションのある共通点に気付いた。それは、作中のディーンとカスティエルはすれ違いながらも最後はキスとハグとイチャイチャでハッピーエンドだ。マリーが選んだカスティエル/ディーンのタグをクリックし、読みやすく過激な性描写がない物のうち、ディーンが気に入った作品はいくつかあり興味深いことに執筆者が同じだと気付く。ハンドルネームはangel&hunter_918だ。ふざけた名前だが、狩りの描写も上手く知識は本物とはいえないが、それでもただのファンが執筆したとは思えないほどにリアルだった。読み込むうちに、ディーンは羨む気持ちが溢れ出ることに戸惑った。ファンフィクションの中のカスティエルとディーンはお互いの気持ちを理解し、慈しみ合い幸せそうだ。現実は、今も気まずい関係にあることを脳裏に過り、ディーンは溜息をつく。
(現実はフィクションほどうまくいかない)
 ディーンはラックトップの画面を閉じた。


× × ×




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