稲尾
2024-05-09 23:36:53
7626文字
Public 一次創作
 

【冒頭サンプル】リコとカシャロ

<あらすじ>
「桃色の毛髪」だけを残す透明人間の犯人が、連続殺人事件を起こしている街——
そんな街に住んでいるカシャロは、孤独な日々を過ごしていたが、ある時謎の少女「リコ」と出会う。
鮮やかな桃色の髪を持つ彼女は、聞けば今まで誰にも認識してもらえたことがなかったというが——?

序「犯人のいない殺人事件」


——夏真っ盛りの八月某日、新米刑事のランベールは今日もまた捜査に繰り出していた。
「あっつ……
 もはや例年恒例となった異常気象のような熱に思わずそうこぼすと、隣を歩く先輩刑事が「もっとシャキっとしろ」と言わんばかりに視線を飛ばす。突き刺すような視線にすぐ謝罪しつつ、ランベールはなんとか背筋を伸ばした。
 ……とは言ってもだ。こう進展のない捜査を続けるばかりの日々では、多少気持ちがだれてしまっても仕方ないのではないか……そういう思いが無いわけでもなかった。

 この町では、不可解な連続殺人事件が発生している。
 始まりは二○二✕年六月二日の早朝。一人の成人男性が血を流して道端に倒れているのを発見された。すぐに死亡が確認され、死亡原因は刺殺だということ、そして凶器は被害者のすぐそばに落ちていたナイフだということもわかった。現場には桃色の毛髪が数本落ちていたこともあり、解決までそう時間はかからないと思われていた。
 だが、そこまでだった。落ちていた毛髪は鑑識に回しても奇妙な結果しか弾き出さず、指紋もまた被害者の周囲の人間の誰とも一致しない。極めつけに、その場を捉えていたはずの監視カメラが器用に犯人の姿だけを映していなかった。
 捜査が難航を極めるうちに、二人目の被害者が出る。大学生になったばかりの少女が、自宅のベッドで何者かに刺殺されていた。
 凶器は少女の自宅にあった包丁。傷は背中部分に集中しており、防御創が無かったことから「親しい間柄の人間による不意を突いた犯行だったか」と思われたが、そこで再び問題になったのが現場にまた落ちていた桃色の毛髪だ。
 鑑識に出した結果、その毛髪は一件目と同じ人物のものだということはわかった。けれどそれ以上の情報は一切出ず、凶器の包丁から出た指紋も新たな情報源にはならなかった。
 
 正体のわからない殺人犯に手をこまねいているうちに、今現在の被害者は四人にまで登ってしまった。
 四人に共通点は一切なく、なんなら共通の知り合いすら存在するかわからないほど繋がりは薄い。彼らを繋ぎ合わせるのは「桃色の毛髪」を持った人間に殺されたという点だけ。
 町の人間たちは不安を募らせ、警察は焦っている。刑事であるランベールもまた焦っている人間の一人だった。

……透明人間なんじゃないですかね、犯人」
 ランベールがそう呟くと、先輩刑事――ドミニクは盛大にため息をついた。
「馬鹿なことを言うな。お前、透明人間なんてものがこの世に実在すると本気で思ってるのか?」
「いや……でももうそれぐらいしか思いつかないですよ」
「〝あなたの娘さんは透明人間に殺されました〟で、遺族が納得すると思うか?」
……思わないです」
「なら、地道に調べていくしかない。鑑識の結果を待つだけじゃなくて、自分でもできることを考えろ」
「はい……

 言い終わると、ドミニクは足早に前を歩いていく。
 ――わかっている。彼の言う事は正しい。自分が被害者の家族だったとして、そんな理由で捜査を打ち切られてはたまったものではない。
 けれど手詰まりなのも事実なのだ。

……とりあえず、手当たり次第調べていくしかないか)
 ドミニクに置いていかれないように、ランベールもまた早歩きで彼を追った。