【イヅライ】何故知っている

イヅツミとライオスで悪食王とピンポイントで気持ち良い場所を当てられてしまう猫のお話。
※それっぽい雰囲気になりかけますが未遂で終わります。
前っぽいの→ https://privatter.me/page/663b69e025543

唐突だがライオスは我慢していた。
ソファに半ば強引に座らされ自分の膝の上に我が物顔で圧し掛かるイヅツミの頭を極々人の頭を撫でるように撫でているが、正直チルチャックに口酸っぱく注意された触り方で撫でたいと沸き立つ衝動を抑え込んでいた。
「(触りたい、すっごく触りたい。触れる箇所、触り方によってどんな反応を示すのか詳しく知りたい)」
変質者的な意味ではない純粋な探求心として知りたい気持ちがライオスの表情を顰めさせる。
上機嫌に鳴らすイヅツミの喉の振動が嘲笑うかの如くライオスのなけなしの良心を削り取っていく。そもそも最近イヅツミからの身体的接触が多い。以前であれば殆ど無かったのに何故か王になった途端、ここぞとばかりに膝上に圧し掛かっては懐いているような素振りを見せる。
「(ただ恥ずかしいのか俺がひとりの時にだけやるんだよなあ)」
誰かが執務室の扉を開ける前に許可なく入って来た窓から素早い身のこなしで出て行くイヅツミの姿を思い出す。
掌から伝わる艶やかな髪質。マルシル程ではないが、ブラッシングをしたくなる感触にライオスが手櫛で彼女の頭髪を梳いた。時折実家の犬たちにしていたように指先で掻いてやると、心地が良いのかイヅツミが首を上げ頭をライオスの手に押し付ける。
「(この反応、やはり犬猫に近い)」
冷静に観察するライオスは言葉で言わずとも何となくイヅツミが掻いて欲しそうな箇所を探り当てた。これはもう長年の経験からである。
大きくつり上がった目を細め、空気を震わせん勢いで喉を鳴らす光景にライオスの頭の中から喧しく注意し続けていたチルチャックの影が消え去ってしまった。
頭を撫でていたライオスの手が離れてしまい、もっと撫でろの抗議を含めイヅツミが閉じていた目を開け彼を睨む前に太く長い指先が彼女の喉をうりうり撫でだした。
心地よいのか爆音で鳴り出すイヅツミの喉に気を良くしたライオスの手持ち無沙汰にしていたもう片方の手を使い不快にならない程度に彼女の身体を撫でた。喉、頬、うなじ、背中とわしゃわしゃと実家の犬たちや近所の猫たちが撫でて喜んでいた箇所を撫でていく。
「あっ、あっ、あ~~~~~……
イヅツミの口から漏れ間延びする声の語尾は掠れ。その反応を観察しつつライオスの指先が的確にイヅツミの表情を蕩けさせる。柔らかい身体をさらにくねらせる光景はまさに猫。もしこれが犬であればへそ天必須な雰囲気にライオスのテンションも上がっていった。

が。

俄かに呼吸音が荒くなったイヅツミの縦にキュッと窄まっていた瞳孔が広がるや否や体全身を駆け巡る正体不明の衝動が彼女の身体を突き動かした。
ソファにライオスを押し倒し馬乗りになったイヅツミがフーッフーッと息を荒げ眼下にいるライオスを紅潮した顔で睨みつけた。
「悪かった悪かった、もうしない」
そんな彼女に対してライオスはやる意思はないと示す為、イヅツミを撫でていた手を離し肩付近に寄せ掌を彼女に見せるかたちで上げた。継続的に齎されていた感触が消えた事でイヅツミの中に滾る何かが収まるかと思いきやそんな事は無く、それどころか離れた事でより一層滾り出してしまっていた。
全身の毛が立ち、変に速く打ち鳴らす鼓動。零れ落ちそうなくらい瞳孔が開いている瞳は潤いを帯びている。
……いい。撫でろ」
イヅツミの声は何かに耐え忍び戦慄いるのにライオスが躊躇う。それを見越してかイヅツミが分厚い胸板に身を預けた。指先を丸めた両手の間に顎を収め止めていた喉を控えめに鳴らす。
「(これはもう逃げられないな)」
引っ掛かれ噛み付かれるのはいいとして、問題はこれがバレた時のチルチャックをはじめとするお説教である。暫し考えた後諸々覚悟を決めたライオスが深く息を吐けば、彼の胸の上に乗っかっているイヅツミも上下に動いた。心なしか期待に満ちたイヅツミの視線に答えるようにライオスの指が緩やかに先程撫でていた箇所に伸ばされる。
「(体温が上昇している)」
「そこもっと、撫でろ……
イヅツミに言われた通り望む場所をライオスが撫でれば、彼女の猫耳が垂れ短く息が弾む。尻尾の先端だけがクイクイ動くのを見るに不快には感じていないようだ。
多少加減して頭を撫でていたライオスの手をむんずと掴んだイヅツミが徐に口元に寄せ牙が食い込まない程度の力で甘嚙みしては舌を這わせ舐め始めた。
これ以上興奮させるのは良くない。いよいよもって止める頃合いだろうとライオスが思い始めた矢先、イヅツミの真っ暗に開いていた瞳孔が縦に窄まり、ぎょろりとライオスを睨む。その鋭い眼光はライオスの眉根を頼りなく垂れ下げた顔というより、後ろに隠れているうなじを狙っている気配にライオスの額に嫌な汗が滲む。
「イヅツミ、待て待てだっ」
「待たない。先に仕掛けたのは──、お前だ」
咄嗟に防御態勢で動かすライオスの腕を素早く掴んだイヅツミが勢いよく興奮冷めやらぬ顔をぶつかる寸前まで距離を縮め掠れ声で囁いた。
「諦めろ」
奥歯が見える程開けたイヅツミの口がライオスのうなじ目掛け降下していく。
だが、いくら上から圧し掛かっているとはいえ甘い拘束の隙を突いたライオスがイヅツミの身体を自分の頭の方向へ向かって投げ飛ばすも、柔軟な身体を持つイヅツミは空中で態勢を整え静かに床に着地した。
「これは俺が悪い。きみをしたくもない気にさせてしまい本当に申し訳ない」
ライオスが紡ぐ謝罪の言葉を聞いてもイヅツミは縦に割れた瞳孔で彼を見続け、自分の中でようやく見付けた感情を言葉に変えた。
「──私が獲物を持ってき続けていた意味をお前なら分かるんじゃないか」
「・・・。え!? それってそういう、」
イヅツミに言われ彼女のこれまでの行動を振り返り思い出したライオスが驚愕するのと同時にイヅツミの猫耳がこの部屋に近付いてくる足音を拾う。
身軽な身のこなしで窓の縁に飛び乗り、大きな目をスッと細めライオスを見遣る。
「次来た時は止めないからな」
扉が開けるのに合わせ部屋に残されたイヅツミの宣言。それをひとり聞いたライオスが唸り目頭を押さえている姿を部屋に入って来たマルシルがぎょっとした顔で見るなり、ススっと扉に体を隠して数分の間様子を窺ったという。