ななき
2023-11-02 15:55:00
7002文字
Public 吸死
 

ネコもマジロも金魚もくわない

(ドラロナ)ロナルド君(また)家出したらしいよからはじまる話。
ジョン頑張る編/ロナルド解答編。
p.3はあとがきでもないですが、タイトルについてのメモ書きです。お話としては読まなくていいページです。

※注意※
書いている人の解釈として、ドラルクとジョンが100%何でもは共有していません。

マジロ反逆編


 ジョンの大事な弟分であり現在の城の家主であるはずの青年、ロナルドが、出ていった。ほんの少しの身の回りのものだけ入れたスポーツバッグを持って。いつかの冬の、家出のような衝動的なものではない。新しい家も決まっているというのだから『引っ越し』である。
 主人の腕で抱き上げられてしまったジョンは、あんぐりと口を開けて見送るしかできなかった。
「出ていけ!」「ここは私の城だ!」「ヌー」「あっジョンはずっといていいよ!」……というのは最近少なくなったけれどお決まりのやりとりだった。まさかロナルドの方が出て行くなんて。それにジョンはとっくに知っている。ロナルドとドラルク、ふたりがお互いを好いていること。甘くてふわふわのこそばゆい空気が時々流れるから、そろそろかと楽しみにしていたのに、どうして!
 ショックで死んでしまうのではと見やったドラルクは、しかし、無言で立っていた。見たことのない、穏やかなのに寂しい不思議な微笑が口元に張り付いていて、ジョンは黙ってしまったのだ。

 なぜか事務所は移さなかったので、ロナルドは昼に事務所を開けて、仕事が終われば駅向こうに借りたらしい自宅へ帰る。退治依頼で留守のことも多いし、執筆は自宅でしているのか、本当に最低限の時間しか事務所にいない。住居側にもあまり入ってこなくなった。入ってきても居心地悪そうにして、たいていはカップにティーバッグを放り込み、お湯をいれたら事務所へ戻ってしまう。食卓を囲むことも、もちろんない。隣の部屋にいるのに顔をみせない日すらある。
 一方のドラルクも、暇さえあれば仕掛けていたイタズラを一切やめた。事務所にあまり出なくなった。コンビの相方として呼ばれれば顔を出すが、仕事についていくことも著しく減った。部屋での暮らしは、埼玉のお城の頃のように静かだ。

 とはいえ、共に暮らさなくなっても、騒ぎに事欠かないこの街のこと。ちょっとでも外に出れば巻き込まれる。そこに退治人が、つまりはロナルドが居合わせることは良くある。そうやって外で顔を合わせれば煽って殺して大騒ぎ。引っ越したことを他の退治人になんと言ったのかジョンは知らないが、外でのふたりは以前と変わりない。

 だが、代わりにジョンは家の中を知っている。
 ドラルクがジョンの食事を作りながら、またはゲームの最中だって、時折呆けたように手が止まること。ロナルドが昼間にインスタントコーヒーを淹れに来て、そっと棺桶を撫でていったこと。そういうことを知っている。
 何かがふたりの間であったのだろう。そして、ジョンの予想が当たっているなら、どちらかが、もしくはふたりして、大馬鹿な決断をしたのだ。

 こうなった理由は、もちろん尋ねた。するとふたりとも迷子のような顔をする。ロナルドは「ごめんな」としか言わない。ドラルクは「大丈夫だよ」としか言わない。それでも主人を問い詰めたら、「本当に今だけだから大丈夫なんだよ」。ぎゅうとジョンを抱きしめて、「ちゃんと帰ってくるよ」と。いつもよりずっとずっと細い声だった。だから、ドラルクが自覚してなくたって、ジョンにはその不安がわかってしまったのだ。

 ふたりが、なによりドラルクが納得しているなら、とジョンはロナルドの家出を受け入れたのだ。しかし自分達で決めたくせにどこか不本意そうな寂しい顔をするふたりをみるうちに、だんだん腹がたってきた。お腹がグツグツしてそれはだんだんどんどん大きくなってくる。マジロの本気オコ、マジオコである。
 ジョンはドラルクのものだ。永久を誓い、約束してもらった唯一だ。ドラルクの決断ならなんだって肯定する。応援もする。でも、ドラルクが悲しいのはイヤだ。そして、大事な昼の子が苦しいのもイヤ。それがドラルクを悲しませることなら尚更、絶対絶対、イヤなのだ。
 そうだ、ジョンに何も言わず、大事なことを決めてしまったふたりにわからせなくてはならない。特にドラルク様!イエローカード!!

 だから、わがままになることにした。それはもう滅茶苦茶わがままになってやることにしたのだ。甘やかされのプロである主人の下で磨いた、百年もののわがまま術に慄くがいい。



 ジョンは昼でも活動できる。早めに寝て、午後、ロナルドが事務所を開けている間に起きる。ジョンは事務所の経理なのだから、ちゃんと毎日、ホウ・レン・ソウしてもらわないと。何してるかわからない日なんて作らせない。これ以上勝手にどこかへ飛んでいくなんてさせない。

 おやつの時間になったら、主人手製の菓子を差し出して、一緒に食べたいとねだる。引っ越したってジョンに甘いロナルドは断らない。
 菓子は毎日変わる。クッキー、バナナマフィン、シフォンケーキ、ドーナツ。ジョンだけの分にしては、どうみたって量が多い(もちろん、ひと玉占めもやぶさかでないが!)。「 ヌンヌヌヌヌウヌ? 全部食べちゃうよ?」と言ったら「おむにになるから誰かとわけなさい」だって。誰かなんて決まってるのに素直じゃない。
 その誰かと半分こ、またはヒナイチともさんぶんこして毎日一緒に食べる。誰かさんに「やっぱうめぇな……」と言わせたら勝利だ。

 今日は依頼人も来ないのに夕方遅くまでロナルドが事務所にいるらしい。チャンスだ。決め台詞はこれ。『ロナルドくん、先月の領収書なんだけど』。泣きべそかきながら紙切れを整理する姿は可哀そうだけれど、許してなんかあげない。
 そうしている間に主人が起きてきたので、お茶をロナルドくんにだしてあげたいと今度はドラルクにおねだりする。そうすれば、ほら。「紅茶を淹れたから呼んでおいで」。顔も見せずに帰してなんかやるものか。

 今度はなんと、夜遅くまでロナルドが居る。ゲームに誘おう。もう事務所は閉める時間でしょ? 帰る前にゲーム付き合ってほしいヌ。と主張する。ゲームしていれば主人が寄ってこないわけがない。
 ゲームはヴァリカーがいい。白熱して帰りが遅くなるのを狙おう。「え、ジョンご飯まだなの?」そうそういい感じ。もう一押ししよう。『一緒に食べたいヌ』「ジョンのついでだ、……食べるなら食べていけ」「……ジョンがそう言うなら」

 主人は時々、ジョンのわがままに何か言いたそうな顔をするけれど、口を開いては閉じて、結局何も言わない。普段は遠慮なんてものから程遠い性質のくせに、大事なところだけ飲み込んでしまうのだ、ジョンの大事な主人は。
 だからジョンは、このわがままを止めるつもりは全くない。

 そうやってわがままを積み重ねていけばロナルドの事務所滞在時間が長くなってきた。よって、もっとわがままをする。ヴァリカーしていたのに突然眠くなったり、お茶の途中で町内フットサルチームの練習を思い出したりする。
 初めの何回かはロナルドが、じゃあ俺も、と帰ってしまっていたが、回数が重なればなんとなく居残ってくれるようになった。ジョンが居ない間のことは聞いたりしないけれど、おはなしして欲しい。ふたりで。

 突然眠くなった、何度目かのこと。ソファ横、自分の寝床で目をつむって本当に眠くなるのを待っていた。……おかしい、いつまでもコース選択画面の音楽が終わらない。そろっと片目を開けて窺うと、ロナルドの頬に恐る恐る触れるドラルクと、じっとその手を受け入れるロナルドがいた。ソファはふたりの世界である。
 ヌャン、と目を閉じなおす。見ていたいのだけれど、馬に蹴られたくはない。それに多分、あそこから動きもない。ロナルドをハムカツだのモテないだのと煽りはするが、ジョンの主人だって百戦錬磨にはほど遠い。ああやってふたりで湯気を出して見つめ合うのがせいぜいだろう。口づけまで進むかどうかに明日のおやつを賭けろと言われたら、外れたらいいなと願いつつ進まないに賭ける。

 ああでも、やっとだ。
 ここまできたら、次のわがままはロナルドを攻めてみてもいいかも。『お部屋見てみたいヌ』と部屋に入れて貰って、ちょっとずつジョンとドラルクのための物を増やす。きっとふたりは喧嘩するだろう。持って帰れとか邪魔だとか面倒だから置かせろとかいっそもう一つ買えだとか。この部屋で、暮らし始めた時のように。

 その頃までには、ふたりとも諦めがついているといい。やっぱりいつでも一緒の方が楽しくて、幸せで、離れることなんかできないと。

 ◇

 後日。帰ってきたロナルドと主人の二人から聞かされた顛末。確かに大馬鹿な決断をふたりしてしていたが、ジョンの予想とはかなり方向性が違っていた。
 もう最初っから犬もマジロも金魚もデータも喰わない話だったのだ! ジョンは三日間、拗ね倒し甘え倒しヒラヒラを吸い倒した。たった三日で許したのだから寛大だとジョンは思っている。