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夜明 奈央
2024-05-06 13:10:44
2759文字
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中太SS
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全てが裏目
中也16歳の誕生日 数年後の太宰の誕生日
特別じゃない日に
2023年4月29日初出
中也は朝からずっと、違和感を覚えていた。あまりにも平和すぎるのだ。
ここ最近の中也の生活は、朝起きた瞬間から太宰の芸術的な嫌がらせに怒鳴り散らすところから始まっていた。いつの間にかアラームが止められていて起きた時には既に遅刻が確定していたなんていうのは可愛いもので、着替えた服のポケットにカブトムシの幼虫が入っていたとか、朝食に飲もうとした牛乳が中身だけ腐ったものに取り替えられていたとか、それはもう様々な被害に合っていた。
数々の嫌がらせにより最近の中也はあらゆるものに最大限に警戒を示し、正直なところ自室が最も心が休まらない場所になっていた。当たり前だが太宰に自室の鍵など渡していないから全て不法侵入である。
にも関わらず、今朝は何もなかった。「そんな馬鹿な」と思っていたが、結局身支度を整えて家を出るまでの間に今までのような嫌がらせにはひとつも遭遇しなかった。本部へ出向いても、いつもは意気揚々と嫌がらせの反応を確認しにくるくせに、今日は姿を見せなかった。
流石に飽きたのか、体調でも悪いのか、と悶々と考えを巡らせながら、一方で平和なのはいいことだろうと冷静な部分がツッコミを入れる。その通りだ。その通りなのだが、いつも通りが崩れるというのは、こんなことでさえ気になるものらしい。かといって「何故嫌がらせに来ないんだ」などと言って期待しているように取られてはたまったものではない。どうしたものかと思いつつも、しばらくは静観を決め込んでいた。
それが崩れたのは、部下からのある報告がきっかけだった。
「その案件は、昨晩主犯が特定され、今朝太宰さんの部隊により討伐が終了したそうです」
「は? なんで?」
「申し訳ありません。理由まではわかりかねます」
「あ、いや、そうだよな」
部下を下がらせ、怒りのままに太宰に電話を掛けるが、コール音が鳴るばかりでちっとも繋がらなかった。
さらに、おかしなことはそれだけではなかった。長らく情報を吐かせるのに手こずっていた捕虜から情報を引き出すのに成功しただとか、調査中だった案件について知る重要人物が「匿ってくれるなら何でも話す」と自ら出頭してきたとか、次々と中也の抱えていた仕事が進んだ。裏に誰がいるのか明確にわかるものは少なかったが、おそらく太宰の仕業であろうことはわかった。
部下から報告が上がる度に怒りの電話を掛け、メールを送り、執務室に押し掛けたが、太宰はそのどれもに応答がなかった。
結局太宰と連絡を取ることは叶わず、中也は抱えていた数々の仕事を突然失って、その日は早々に本部を後にした。元から早めに仕事を終えるつもりではあったのだ。今日は中也の誕生日で、旗会のメンバーが祝宴を開いてくれるという話であったので。
***
どんちゃん騒ぎを終えて帰宅した時には、とうに日付は変わっていた。夜風に当たって多少酔いは冷めていたが、それでも完全とはいえなかった。
だからリビングの扉を開けてソファに座っている太宰を目にした時には、驚いて息を呑んでしまった。視認して初めて、そういえば玄関に太宰のらしき靴があったなと思い出したのだ。侵入者に敵意があれば流石に気づいただろうけれど。
酔って乱暴に開いたはずの扉の音にも、太宰は反応を示さなかった。そっと近づくと、どうやら眠っているらしいとわかる。
そのあまりに無防備な寝顔を見ると、今日1日の怒りなんて一瞬で頭の片隅へと追いやられてしまう。もっとよく見たくて、1歩、2歩と近づいた。手を伸ばせば届く距離まで近づいたところで、太宰が小さな身動ぎと共に目を開いた。
「ああ、おかえり」
くありと小さく欠伸を溢して、中也の返事を待たずに言葉を続けた。
「誕生日おめでとう。僕からのお祝い、どうだった?」
「は?」
「あれ、気づいてない? いっつも『手前の顔なんて見たくねぇ』って言うから、叶えてあげたつもりだったんだけど。
……
気に入らなかった?」
その顔はまだ眠そうではあったが、それでも確かに笑っていた。いつものムカつく笑みではなくて、とっておきの秘密を母親にだけ打ち明ける幼子のようなそれだった。けれど中也の反応が芳しくないのに気づいて、その顔がだんだんと曇っていった。
太宰にとっては本当にとっておきのプレゼントのつもりだったのかもしれない。それでも、中也にとっては喜ばしいものではなかった。嫌がらせは、ないに越したことはない。手柄を立てて昇進するのが目標だから、仕事を横取りされたのは腹が立った。けれど、そんなことよりずっと。
「嫌がらせがなかったのは良かったけど」
「うん」
「誕生祝いっつーなら、直接祝いに来いよ」
「うん?」
きょとんとした顔で首を傾げる様は歳相応で可愛らしい。たまにこういう顔が見られると、得した気分になる。それがどういう意味かなんて、まだちゃんと考えたくはないけれど。
「君、それ、どういう意味で言ってるわけ?」
「誕生日こそ手前に会いてぇって言ってるつもりだけど」
それを聞くと、太宰はぴしりと固まった。見つめていると、その顔はじわじわと赤く染まっていって、それに呼応するように顔がどんどん俯いていく。
「帰る」
絞り出すような声と同時に立ち上がった太宰を、腕を掴んで慌てて引き留める。いくら夜はマフィアの時間とはいっても、部下も連れていないこいつは銃を持っただけのただの餓鬼だ。
「こんな時間だし泊まってけよ」
「は!?」
「寝台使っていいから。俺ソファで寝るし」
腕に力を込めると、引かれるままにこちらへ一歩近づいた。そのまま引っ張ると、躊躇いつつも大きな抵抗はせずに寝室へとついてくる。寝台の前で促すと、それに従って大人しく座った。
「ほら、ここ好きに使っていいから」
手を離してソファに戻ろうとすると、上着の裾をつんと引かれて振り返る。太宰は俯いていて、その顔は窺えない。
「ここは『一緒に寝よう』って言うところじゃないの?」
「一緒に寝てぇの?」
「別にそうは言ってないけど」
「じゃあ我儘言ってねぇでさっさと寝ろよ。それともシャワーとか使うか?」
「いい」
不服そうに睨まれるが、それ以上引き留められはしなかった。座っている太宰はいつもとは違って中也より目線が下だ。それになんとなく気分が良くなって、ちょうど良い位置にある頭に手を伸ばした。
「じゃあな、おやすみ」
部屋を出て扉を閉めると、ぼすんと布団に勢いよく倒れ込んだような音が聞こえたが、気にしなかった。
翌朝シャツの襟にべったりと口紅が付けられているのを発見して、またも朝から怒鳴り散らすことになったのはまた別の話である。洗っても取れなかったシャツは結局捨てた。
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