夜明 奈央
2024-05-06 11:07:59
2389文字
Public 中太SS
 

大晦日

大晦日を過ごす中太 クリスマスカウントダウン のその後
2022年12月30日初出

「年末年始、どうする?」と言い出したのは中也だった。特にこだわりのない太宰は「言ってくれれば合わせるよ」と答えた。
 そうすると少し考えてから「やっぱり年越しは神社だろ」と言い始めた。面倒だなあとは思ったが、たまにはそういう世間一般の行事に乗っかってみるのも悪くない気がして了承した。

 それが、1週間前の話。
 大晦日の夜。こたつに入って普段よりは少し豪勢な鍋をつつく。出汁が効いていてシンプルな味付けでも十分に美味い。
 太宰が買った日本酒は高級品だっただけあって、芳醇な甘味が鼻の奥に抜けていく。飲み慣れていない中也も気に入ったようだ。それでも「除夜の鐘を聞きながら初詣に行く」と言い出した張本人は、だいぶ抑えている。太宰の方は、このくらいの量ならその頃には抜けているだろうと目算して次々と盃を乾していった。
 やがて瓶の中身も鍋の具材もお互いの胃袋へと消え去った。腹は十分に満たされて、頭は心地よい酩酊に揺れている。部屋は暖かいし、こたつに入っていると暑いぐらいだ。満たされた心と火照った身体が本能のように中也を求めている。
 目の前に座る中也を見つめる。酒精で頬を赤く染めてはいるが、酔い潰れてはいない。しばらくすると視線に気づいて機嫌よく笑みを作った。それを見ると我慢するのが馬鹿馬鹿しいような気がしてきて、見てもいないのに流しっぱなしになっていた年末特番を消した。
 中也は不思議そうにするが、見ていないのは同じだったので、それだけだ。こたつの中で中也の足に自分の足を絡める。スウェットの先から足先を侵入させ、ふくらはぎをするりと撫で上げた。
 中也は身構えるように一瞬身体を強ばらせる。
 本当はもっと先へと侵入したかったが、それ以上は足がつっかえて入らない。仕方なくスウェットの中から出して、今度は内腿をそろそろと辿っていく。
「おい」
 中也が咎める声を上げるが、逃げる気配はない。けれどまだ乗り気ではないようだ。
「この後初詣行くんだろ」
「うん、でもまだ4時間はあるし」
 中也がちらりと時計に目をやった。まだ20時を回ったところだった。1度や2度事に及んでも、十分年越しには間に合う。
中也の心が揺れ動くのが手に取るようにわかる。
 足先が股の間に到達したが、まだ何の反応も示していない。そのまま刺激を与えようとすると、あっさりと引き剥がされて面食らう。
「どうせヤったら疲れただの面倒だの言うだろうが手前はっ!」
 悪戯していた足を押しやられて、こたつから出て行ってしまった。冷蔵庫から冷たい水を取り出してごくごくと喉を鳴らすのを恨みがましい目で見つめるが、黙殺される。しかも、戻ってくるかと思いきや、少し離れたソファに座ってしまった。
 普段ならなんだかんだ流されてくれるのに、今日はそうではないらしい。
寂しい気持ちになるが、その後出かけるのが面倒になるのは確かだった。
 ぱたりと後ろに倒れ込む。天井を見上げると、酒精の所為で意識がふわふわとしている。
「美味しいごはんにお酒ときたら、あとは中也とのえっちがあれば最高の幸せなのに」
 けれどそんなに初詣に行きたいのなら、仕方ない。半分以上諦めの気持ちでごろりと寝返りを打つ。どうせできないなら、ともう1度リモコンを手に取った。
 しかし、せっかく諦めたというのに中也が近くに膝をつくのが見えた。顔を向けると、キスが落とされる。すぐに離れていくかと思っていたが、唇を割って舌が侵入してくる。拒む理由はないのでされるがままに舌を絡めると、軽く歯を立てられた。舌を吸われながら耳を撫でられ、背筋にぞくぞくと快感が走る。
 熱い吐息を漏らすと唇が離されて、至近距離で目が合った。先程とは違ってすっかりその気になっている。
……なんで急にヤる気になってるの?」
「うっせ。手前が誘ったんだろ」
 腕を掴んで引っ張られたので、それに従って起き上がる。促されるままに寝室へと向かいながら問いかける。
「何に反応したの?」
「誰が教えるか」
「えー、教えた方が盛り上がるよ」
「初詣行くんだろうが」
「ああ、そっか。そうだったね」
「忘れてんじゃねぇよ」
 広いとはいえ同じ家の中だ。すぐに寝台へと到達する。自ら乗り上げて迎え入れると、甘い口づけが降ってきた。今度はすぐに離れて押し倒される。服を脱がそうとする中也を制止して、その前にぎゅっと抱きしめた。
 できるだけ甘えた声を作る。
「幸せだね」
 改めてそんなことを言うのは少しだけ恥ずかしかった。先程はほとんど無意識で言った言葉だったし、中也が反応したのはこれではないかもしれない。でも、急にその気になった理由なんてこのくらいしか思い浮かばなかった。
 結果、賭けは成功。目論見通り中也は過剰に反応を示して、太宰は内心でほくそ笑んだ。

◇◇◇

 結局2人して大いに盛り上がって、落ち着いた頃には年越しまであと数分に迫っていた。
「あー、くっそ! 予定立てた意味ねぇ!」
 毒づきはするが、太宰を責めはしない。1度や2度で止まれなかったのは中也も同じであったので。
「別にいいんじゃない? こんな時ぐらいしか2人して休みのことなんてないんだから、だらだらしようよ」
「手前はいつだってだらだらしてんだろうが。正月ぐらいしゃきっとしやがれ」
 そう言う中也だって今は太宰の隣でだらりと横になっている。軽く汗を拭いはしたが、シャワーを浴びに行く程の元気はないようだ。気怠い空気をもう少し堪能していたいので、太宰としては願ったり叶ったりだ。
「そうは言ってもさあ、私神様とか信じてないし。私の信じる神様は荒覇吐 中也だけだよ」
 にっこり笑ってみせると、中也はそれをじっと見つめ返す。
「手前、ほんとは初詣行きたくねぇんだろ」
「あ、バレた?」


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