2023-07-08 07:41:29
4707文字
Public 小説(pixiv公開済)
 

どちらかが嘘

つきあってる了モモ。百がシャワーを浴びる&了さんがシャツを脱ぐだけ。終盤はほぼポエム。
『夜伽話の向こう側』(https://privatter.net/p/10140226)の前日譚ならぬ前時譚です。
あちらは事後のお話、こちらは事前のお話。いちおう単体でも読めると思います。
1ページ目が百視点、2ページ目が了さん視点ですが、2ページ目はごく短い&まじポエムです。

直接の描写はありませんが、性行為を前提とした言及や言動が多く含まれます。
苦手な方はご注意ください。


 Side:Fox

 床に密着したごく低いフロアベッド。サイドボードのかわりに床置きのトレイ。足を崩して座るのがベストポジションのローテーブル。
 この部屋の家具は、総じて低いものを選んだ。
 未だしっとりとしている身体を組み敷いたまま、肩越しに振り返る。天井が高い。あの部屋よりもずっと。

 ◆     ◆     ◆

 こことは違う部屋で、かつてモモは膝を折り、床に指をついた。
 彼との五年の約束について語った夜。
 己を低みに置き、冷たい床に擦りつけられた額。

 それとも違う部屋で、かつてモモの膝を折り、縛めて床に落とした。
 僕との五年後の約束について語った夜。
 彼を低みに置き、冷たい床に擦りつけた額。

 その額に、いまは、湿り気を帯びた前髪が貼りついている。そっとかきあげてやると、くすぐったそうに小さく息を零した。
 息をしている。

 瞳がくるりと動いて、真っ直ぐに僕を見た。
 疲労と怒り、期待と苛立ちで、見目の良い表情を作ることを放棄した無防備な顔。
 その顔が、僕の下で蕩ける。弛緩し、溶けて、頬に色が射しこむ。これを見るのが、とてつもなく好きだ。
 太陽を支配したような気分になれる。
 だから、ひとりで準備なんてさせてやらない。
 放っておけばモモは、僕のために準備をする。
 嘘みたいだろう?
 嘘じゃないんだ。

 解けていくにつれて、少しずつ、陽が昇る。
 僕を見上げて、見上げるたび、瞳の中で光が弾ける。
 夜のしとねに場違いなほど、晴れやかに笑う。
 僕を見ている。
 僕だけを見ている。


 たとえ、ひとときの嘘に過ぎないとしても。


〈Fin〉