しか野
2024-05-02 20:42:40
28976文字
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Dusk(スミイサ/複座)

※pixivの加筆修正版をご覧ください。



 イサミ。恋しいその名を呼びながら、スミスは目を開ける。
……あの子は、あの女の子は、何て名前だっただろうか……
 スミスは首を振りながら体を起こした。冷たく無機質で、柔らかさの欠片もない壁が目に入った。ここは薄汚れた基地、漂うのは血と硝煙の匂い、耳に入るのは悲鳴と怒号と泣き声だけ。
 そうだ、ここは美しい海の上などではない。穏やかな波の音も、そばで笑ってくれる愛しい人もいない。
……あいつは、イサミはもういない。死んでしまった)
 俺が殺した。俺がこの手で、あいつを殺したんだ。
 なんて残酷な夢なんだろう。叶うならば二度と目を覚ましたくなかった。あの幸せなぬくもりと波の音の中で、ずっと揺蕩っていたかった。

 オルトスは跡形もなく吹き飛び、もう存在しない。実験機であったためにあの1台きりだった。そもそも、コー・パイロットの適合者はイサミ・アオただ1人だったのだから、彼の亡い今、あんなものがあっても仕方がない。無用の長物だ。

 スミスは傷だらけのライノスに乗り換えて、戦い続ける。後ろに彼はもういない。スミス、と厳しく、ときに優しく呼んで導いてくれる声は永久に失われてしまった。
(俺はいったい、何のために戦っているんだろう?)
『あんたはヒーローだよ、スミス』
 幻の声が耳元でささやき、スミスを叱咤する。
 だが、スミスは彼が一緒だから戦っていた、戦えていたのだ。
 彼を愛していた。そう伝える前に、あの優しく寂しい男は手の届かぬ遠い所へ行ってしまった。先に散っていった仲間たちには会えただろうか、彼はそこで笑っているだろうか。そうだといい、スミスはただそれだけを祈った。

 ほんの一瞬、意識が遠のく。スミス、と柔らかく呼ぶ声がする。
 瞬間、目の前に敵機が迫った。紫色の輝き、そして容赦なく放たれる光線。
(これで、あいつのもとにいける)
 確実に迫りくる死に、スミスは幸福そうな微笑みを浮かべた。