ガイベル
2024-04-23 05:20:00
4399文字
Public お話
 

chill

2023.11.1

ハルバル町を後にしてから数年。

サニーはバイオリンを再開していた。
片目の視力は失ったものの、若く才能もあった彼がやる気にさえなれば、その道で食べていける程度のプロになるのも早かった。
一応はもう大人と言える年になって、母の元から巣立ち、今は郊外に居を構えている。
都会の喧騒からは少し離れた家は、緑もそれなりにあって静かで落ち着くところだ。
少し広い家に1人きりではそう思えなかったかもしれないが、今はバジルと一緒に住んでいる。

一度故郷を離れてからも色々あったけれど、今や"若き隻眼の天才バイオリニスト"だなんて、元気の良い幼馴染たちや──あるいは姉──が見たら格好のからかいの種になってしまいそうな二つ名までつけられている始末だ。
ともあれ、生きている以上は稼ぎがあって悪いことはない。ただ、公演のために各地に引っ張りだこになっており、中々自宅に帰る事もままならなくなっている現状には少し不満がある。
公演が無事終わった後の、見知らぬ人たちを交えた打ち上げと称する集まりも前ほど苦手ではなくなったが。なるべく早く帰りたいという感情が脳裏を過ぎるのは相変わらずだった。


「よおサニー、調子はどうだい」
少し酒の入った仲間がサニーを会話の渦に引き込む。悪くはないよ、などと当たり障りのない返事をして、いつものように聞き役に回る。
基本的に、みんな気のいい人たちではある。
ちびちびと目の前の料理を食べ進めながら周りの会話を聞く。今はそれぞれの家の話に花が咲いているらしい。
……最近色んなところに呼ばれっぱなしだろ。だからもうちょっと早く家に帰ってこれないのかーって言われちまって。」
「うちも子どもが起きてる時に帰れないから寝顔ばっかりさ。」
「んで、サニーのとこはどうなんだ?」
不意に発言権を渡されるとびっくりする。が、それに自分が答えるまでもなく
「サニーのトコは学生時代からラブラブだもんな〜!」
とどこからか訳知り顔のヤジが飛んでくる。あまり込み入ったことは話したことがないから出てくる情報が雑だが、どちらにせよ余計なお世話だ。ただ、自分からそういった事を話すことがないせいか、一部からは思ったよりも食いつきがくる。
「えーっそうなの?うらやましーい!」
「うちの彼氏もその一途さ見習ってほしいわー!」
「サニーくんフリーじゃないのホント残念〜」
などと特に女性陣が沸き立つ。そうすると
「なんで結局お前がモテてんだよ!」
と怒られた。自分はここまでに何も言っていないので、だいぶ理不尽だ。酒の場は黙っていても勝手に話が進む。突如酒の肴にされたこっちのことはお構いなしだ。
やっぱり早く帰りたい。

帰って、早く彼に会いたいと思った。