無窓居室
2024-01-07 15:48:06
5367文字
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Pixivブックサンタ2023

Pixivのブックサンタ2023企画に投稿したブラアカ2本です。
『金枝篇』は原作版、『Burning Heart』はアニメ版の二人を意識しました。全年齢。


Burning Heart


「店員さーん、このお菓子の家なんだけどさぁ。屋根のクッキーが割れてんだよね」
「申し訳ありません、すぐにお取り替えします」
「いや、いいって。その代わり半額にしてよ。そしたら買うからさ」
「それは売り場の責任者の判断になりますので……
「あ!?何だよ、不良品売っといてその程度の融通もきかせねえのか?この店は!!」

 クリスマス準備のための買い出しで賑わう雑貨店の特設コーナーに怒鳴り声が響き渡る。語気を荒げる中年男性の前では小柄な女性店員が必死に頭を下げていた。店員は無線でフロア管理者を呼ぼうとするが、客の方はそれを待たずにさらに詰め寄っていく。
 辺りの人が眉を顰めて囁き合いはじめたとき、二人の間に割って入る者がいた。

「やめなよ、店員さんは権限のある人を呼んでくれてるじゃないか。いい大人がそのくらいのことも待てないのか?」
「何だ、テメェ……

 客を制するように立ちはだかったのは赤い髪の少女だった。二人の間を遮る形で腕を広げ、背中に店員を庇う。客が少女の方へ矛先を向けようとしたとき、その背後から黒い服の男が声を掛けた。

「そこのアナタ、ちょっとこれをご覧いただきたいんですが」

 男が客の目の前に差し出したスマホには、客が組み立て式のヘクセンハウス用クッキーを包装の上から押し、わざとヒビを入れる様子がはっきりと映し出されていた。咄嗟に客が辺りを見回す。監視カメラの位置を把握した上で行ったつもりだったのだろう。

「ま、待ってくれ!これは何かの間違い……
「いけませんねぇ〜!!警備員さんにはご報告済みです、何か言い訳があるのならスタッフルームでどうぞ!」

 男の言葉通り、どよめく人波の向こうから紺の制服に身を包んだ警備員がやって来る。まだ何やら喚いている客を横目に、男は少女から差し出された拳に合わせる形でフィスト・バンプした。

「これが自作自演の商品破損で割引を狙うクソ客の裏側!ディスイズ炎ターテイメント!!」



「ブラック、助かったよ!あのままだったらアタシあの客に実力で対抗しなきゃならないところだったし、そしたら怪我させずに解決できてた自信ないもん」
「カカカッ!!助かったのはあのクソ客さんの方みたいですね〜、でもオレちゃんのお手柄じゃありません。カメラちゃんが妙な動きをしてる客に気付いて、録画しておいてくれたんですよ」
「そっか、カメラちゃんもありがと!お店の人達も安心しただろうし良かったな」
「じじっ!」

 混雑する店を出て、華やかなイルミネーションで飾られた街を歩きながら、アカネは何度もメモとレシートを見比べて買い忘れが無いかを確認した。
 さとしやひめ達を呼んで開くパーティーのためのお菓子や室内用のクリスマス飾り、企画に使うゲームグッズ、買い出しのあいだ編集とアップロード作業をしてくれている青鬼ちゃん用のお土産……

「アカネさん」
「わっ!?」

 急に目の前に赤い箱を差し出されてアカネは抱えていた買い物袋を落としそうになった。箱と自分の荷物を魔力で浮かせたブラックがそれを受け止める。いつもの揶揄うようなニヤニヤ笑いを浮かべたまま、箱をアカネの両手の中へ収めさせた。

「アナタにプレゼントを用意してきたんです。受け取ってくれますか?」



 休憩がてらに寄ったコーヒーショップではクリスマスソングばかり流れている。季節限定ドリンクの甘い香りが満ちる店内で、二人は並んでスツール腰掛けた。カウンターテーブルに収まりきらなかった荷物はこっそり悪魔の魔力で足元の床から離れさせて。
 ブラックは寛いだ様子で熱いコーヒーを味わっており、隣のカメラちゃんもシロップを追加したキャラメルラテの味にご満悦のようだが、アカネはそれどころではない。何しろプレゼントの箱は真っ赤なハート型で、同じ色のリボンが掛けられているのだ。

「どうしました?開けてみて下さい。日頃の感謝と、オレちゃんからアカネさんへの想いを込めて選びました」
「う、うん……

 愉しげに目を細めるブラックに促され、店内の暖房や注文したホットカフェラテとは関係なく顔が熱くなるのを感じた。掌の上で弄ばれていると分かっていても早くなる鼓動を抑えられない。
 そんなアカネの様子を満足そうに見つめてから、ブラックも己の胸を指さして笑う。

「オレちゃんの熱い気持ち……YouTuberとしてのアナタへのライバル心です!!」

 途端に体から力が抜けてしまい、アカネは危うくテーブルに突っ伏すところだった。しかし、すぐにそれこそ自分達の本来の関係だったではないかと気を取り直す。大声でライバル宣言をしても「お好きにどーぞ」などと受け流されていた頃に比べれば、相手に迫れたという嬉しさもあった。
 震えの止まった指でリボンを解き、箱を開ければ中にあったのは黒いイブニンググローブ。シルクの光沢を見たアカネがすぐそれと理解したわけではなかったが、カジュアルな雰囲気の店内に似つかわしくないその高級感に慌てて箱の蓋を閉じた。

「なっ……!なんだこれ、貰えないよこんな高そうなもの
「オレちゃんのライバルともなれば、フォーマルな場ではそのくらいの装いはして欲しいんですが。これから年始にかけてYouTuberは人前に出る機会が多くなります。正装が必要な集まりにも慣れていくべき時期ですよ」

 答えたブラックは業界の先達の顔をしていた。先ほどまでとは打って変わって、真面目に諭してくる表情にアカネの背筋も伸びる。自分の将来性を買って次のステップへ導いてくれようとしているのだと感じ、心の中に熱いものが込み上げてきた。

「そっか……ありがとな。こんな高級品は無理だけど25日にはアタシからもブラックに何かプレゼントさせてよ。ブラックの気に入るかどうかは分からないけど、アタシ頑張って選ぶからさ!」

 目元を隠して拭う仕草に気づきながら、ブラックは穏やかに頷いた。まんまとこう言い添えて。

「ブラックチャンネルの登録者50万人記念の集合写真でつけていた黒いチョーカーがあったでしょう?きっとあれにも似合うと思うんです。差し色に黒い靴とハンドバッグも良いかもですね、年末セールが始まったら買いに行きましょうか。他には黒いイヤリング、腕時計……
「うぅっ、YouTuberって物要りだな

 グローブの入った箱を大切に荷物の中へしまい込み、目を白黒させながらホットラテに口をつけるアカネは、ブラックの企みに未だ気づかない。その口元に乗せた、いかにも優しそうな微笑みの意味にも。
 
「あ、正式なパーティーでは男女ペアでの参加がマナーだったりすることもありますので、連れの方に心当たりがなければ呼んで下さい。オレちゃんもアテにさせてもらいます。オレちゃん達、ライバルでお友達ですもんね!」

 鋭い歯を見せて語る悪魔に、アカネは真顔でなるほどと頷くのだった。


 2023/12/06