無窓居室
2024-01-07 15:48:06
5367文字
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Pixivブックサンタ2023

Pixivのブックサンタ2023企画に投稿したブラアカ2本です。
『金枝篇』は原作版、『Burning Heart』はアニメ版の二人を意識しました。全年齢。

金枝篇


 いつものように動画のネタ出しと称して自分のアイデアを馬鹿にし尽くしたブラックが、いつもとは違う身支度を始めたので、さとしは子ども部屋のカレンダーの日付を確認した。
 クリスマスにはまだ日がある。しかし雰囲気を楽しむデートには頃合いの晩だろう。YouTuberともなれば25日当日には特別動画のアップで忙しいし、夜にはさとしの同級生や異世界の主人公達を招いたパーティーがある。となれば今のうちに意中の人の退路を断って本番に備えようというのは、狡知な悪魔がいかにも考えそうなことではあった。

 パーティーの晩にブラックと腕を組んで現れる、その想い人の姿を想像しようとして頭を振る。さとしの想像の中では彼女のドレスも口紅も、どうしても血の赤でしか思い浮かべられないのだ。いくら魔界最強の悪魔といえども、これは分の悪い挑戦ではないだろうか?

……行くのか、死ぬなよ。ブラック」

 香辛料を使った菓子のような干し果物を蜂蜜で煮たような香りの、季節ものの香水をつけた頸をマフラーで隠したブラックを、さとしは悲壮な表情で見つめた。まるで戦場へ向かう友に対するように。
 振り向いた目がさとしを小馬鹿にしている。丸い瞳の中に滅びの予感すら嬉しがる、陶然とした悦びの色を見て、さとしはそれ以上の言葉を飲み込んだ。自分だってひめへの気持ちを誰にも止められたくはない。
 唇を噛み、ことによると骨も残らないだろう友人の翼のある背中を見送りながら、しかしさとしはこうも考えていた。

(ブラックなら骨ごと蘇ってきそうなんだよな……何度食べられてもさ……



 きさらぎ駅の森は雪だった。落葉し黒い枝を露わにした森の地面を綿のような新雪が覆っている。
 パーカーのポケットに手を突っ込みながら、肌を出した服装は変わらない鬼のリーダー・アカネは、ブラックを見るなり顔を顰めた。

「臭い」
「アカネさんに気に入られたくて選んだフレグランスですよ」
「せっかくの肉が台無しだ。食欲が失せたから帰る」
「肉料理にも使うスパイスの香りなんですがねぇ。フルーツと蜂蜜のソースも、この間ご馳走したときは好きな味だと言ってくれたじゃありませんか」
「岩塩でも擦り込んで来い」
「そこはせめて海塩で」

 いつしか二人は同じような歩調で歩きはじめていた。ブラックの答えにアカネが片眉を上げる。

「擦り込む感触に違いでもあるのか?」
「海へ行けるかと。あなたの水着を見ながら食べられたいです」
……夏まで生きてられるよう精々頑張るんだな、この季節に水着もないだろ」
「鬼さんもそういう風情は大事にして下さるんですねぇ」

 状況と悪魔の肉の味どちらを想像したのか、アカネがほんの少し笑った。会話の過程と相手の笑顔。戦いの興奮だけで繋がっていた関係が、今はではそれ以外のものを楽しむように変化している。その実感は互いにあった。
 しかしそれが何かは分からず、分からないのでブラックは仮に恋愛ということにして、人間界のあらゆるラブ・アフェアを模倣する。その一挙一動にアカネは怒りや食欲や、ごくたまにそれ以外のものを掻き立てられるのだ。
 二人は歩く。行き先は知らない。

 森の奥で一際目立つ大木の前でブラックが立ち止まった。広く張り出した枝の下で手招きされてアカネは疑わしそうな顔をする。しかし可愛いものを見るような表情で「怖くないですよ」と煽られては傍へ寄らないわけにもいかない。
 裸の枝にところどころ、鳥の巣が絡まったような不自然に丸みを帯びた枝葉の固まりがあり、そこだけが常緑を保っていた。ブラックはその真下に位置取り、アカネが来るのを待っている。

「ヤドリギじゃないか、これがどうした」

 この森ではありふれた植物だが、魔界では珍しいものなのかもしれない。動画のネタにでもなるのだろうかとアカネは思った。しかしブラックが撮影している様子も無い。

「聖夜にヤドリギの枝の下でキスした男女は結ばれる。知りませんか?……まあ、この地域の伝承ではありませんからね。もっと北の国ではヤドリギは聖なる木なんですよ、地にも水にも根ざさないので四大元素の外にある存在とされ、不死身のはずの光の神をも殺したと言われています。少し前まで人間さんもよくまじないに使っていました」

 神殺しの木の枝がなぜ別の神の子が生まれた日に男女の結びつきの呪具になるのか、アカネには理解しかねたが、ブラックの滑らかな語り口にかかると危うく丸め込まれそうになる。
 どうにか「25日は今夜じゃないだろう」と言ってやると、悪魔は獰猛な笑みをすぐ近くまで寄せてきた。

「ええ!!そんなまじないに頼らなくてもオレちゃん達にはお互いしかいませんからね!こんなものは遊びですよ、全部ただの真似事です!!」

 全部、というのが先ほどからのヤドリギについての講釈なのか、今夜の逢瀬のことなのか、自分との関係全てを指すのか、アカネには分からない。

「それとも……キスしたかったですか?25日にまた来ます?ここへ、二人で??」

 急にひそめた声で耳元へ囁かれる。甘い口調とは裏腹に、悪魔の笑顔はより危険な影をはらみつつあった。

「アカネさん、もしも──」

 アカネは星明かりに照らされたヤドリギの枝を見上げ、次にブラックを見つめた。そして甘い匂いを放つマフラーを引きちぎるように手繰り寄せ、よく回る口を自分の唇で深く塞いだ。



 クリスマスパーティー本番。ブラックは五体満足で宴を催し、隣にはアカネを伴っていた。すっかり型通りのパートナー気取りで幸せそうだ。ただ、いつになく言葉少なだった。
 ちらちらとアカネを伺う視線が、らしくもない奥ゆかしさを孕んでいるように傍目にも映る。アカネに振り向かれると照れくさそうに顔を伏せさえした。
 不思議そうに様子を伺うさとしをよそに、アカネは悠然と、メイン料理のドラゴンの肉へその美しい唇でかぶりつくばかりだった。


 2023/12/06