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沁月
Public
ウ教×ハ♀ 相思相愛 読み切り
映れ、心まで
MHRウ教×ハ♀。相思相愛。
微妙に本編ネタバレあり。
最近エルガドで別の女性をよく見ているウ教と、不満なハ♀。
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エルガドの人のお洋服はキラキラしていて。
長いスカートも、レースも、可愛くて。
一着くらい、あんな服があったら。
そんな話をしていた気がするが、この話をふること自体は初めてではないことを英雄『猛き炎』と呼ばれる娘は思い出していた。
だから、だろうか。
珍しく、師であり未来の夫である恋人、ウツシがぼんやりとしている。
一緒に歩いているのに、どこか上の空。
「そうだね」「うん」「いいね」など、相槌もどこか短く、曖昧で。
いつもの彼なら、こちらが話していなくても「愛弟子!」と巨大な声量の砲撃を放ってきれて、続け様に「お腹空いてない!?」「寒くない!?」と会話の前後に関係なく言葉を繋げてくるはずなのだが、今はあまりにも静かだった。
数多の人が行き交い、露店の立ち並ぶ賑やかなエルガドの船着場。
華やかな異国情緒の地を『英雄とその師』という関係ではなく、恋人同士として歩いているのに。
せっかくの時間だというのに、先程からウツシの会話の相槌は曖昧なままで、その視線はずっと何かを見ている、というより、追いかけている。
ガラスのサーバーが並んだジュースの露店の前で立ち止まった娘が、隣にいる彼の横顔を改めてじっくりと観察してみた。
(もう! さっきから何見てるんだろう
……
)
改めて声をかける前に視線の先を確かめるべく、娘がウツシと同じ方向に顔を向ける。
彼の視線は船着場を行き交う人々を捉えているようだが、適当に見ているわけではない。
よく見てみると、彼は行き交う女性の姿を見つめているようだった。
隣に自分という、仮にも将来を誓った恋人が居て、しかも一緒に歩いているという時に、彼はぼんやりと女性を目で追っている。
これを不満に思うなという方が無理があるのでは、とばかりに娘は唇を尖らせた。胸の内に封じきれない不満が、彼女の眉間に皺を寄らせる。
そんな表情のままで声をかける娘だが、ウツシは高確率で上の空。
「
……
教官?」
「
…………
」
「
……
。ウツシ教官
……
」
何度か呼んでみるが、らしくもなくウツシは無反応で、相変わらずぼんやりと何かを見ている。矛盾しているようだが、ぼんやり見ているのに凄まじい集中力だ。
また娘がその視線の先を確認すると、彼が見ていたのは、美しい身なりの王国の女性。
ハンターというわけではなさそうだ。
長い栗色の髪はウェーブがかかって、後ろで綺麗に結われている。手入れの行き届いた瑞々しい肌と、陽射しに艷めく髪、何よりとてもスタイルの良い女性。
ウツシの視線は、彼女を真っ直ぐ捉えていた。
今までもそうだった。違う人だが、同じように綺麗な服を着た美女を観察するようにじっと見つめている。
愛する人の視線を理解した瞬間、娘の胸には不満よりも鋭利で、大きく、苦く、熱い感情が込み上げた。
ドロドロに煮えたぎって纏わりついてくる熱と、忍耐や理性や思いやりなど『大人』の感情をお構い無しに全てを切り裂いていくような鋭い痛み。
これが嫉妬というものか。
ひどく悲しさもあるので、もしかしたら違うものなのかもしれないが、どちらにせよ抱いたことのない気持ち。
どうして、わたしを見てくれないの。
隣にいるのは、わたしなのに。
あなたの目に、今、わたしはいない。
気付けばそんな気持ちが巡り、けれども口にするのは嫌で。
彼女は初めて、愛する人の隣にいることが辛くなってしまった。
「
……
もう! わたし、部屋に帰ります!」
「へっ!?
……
え、あっ!? え!? 愛弟子!?」
夢から覚めたように目を瞬かせながら、我に返ったウツシが隣を見やるも、時既に遅く、そこに将来を誓った娘の姿はない。
慌ててウツシが周囲を見ると、彼女はあっという間に船着場に停まっている自分専用船に向かっていた。
つかつかと大股で、足早に、不満が足の裏からびりびりと地面に伝わっているような雰囲気で、エルガドでの自室である一等船室に閉じこもってしまう。
バタン、と扉が閉まる大きな音の後、ウツシが船室の前に駆けて来る。
彼はようやく、自分がずっと上の空だったことを自覚したようだ。
「あ、あ、あああぁ!? ま、愛弟子ぃ! ごめんよ! 違うんだ、本当にごめん! 謝るよ! だから出てきてよぉ!」
情けないウツシの大声量が響いたが、何が違うのかなど聞く気も起きず、娘は船室のベッドに突っ伏して両手で耳を塞ぎ、何も答えなかった。
やがて諦めたように、ウツシの気配が遠ざかる。
船室内のベッドの上。時間など何も関係なく、きつく枕を抱きしめながら、彼女は気持ちの赴くままに固く目を閉じ、ベッドの隅に丸まった。
(
……
ウツシ教官の、ばかばか
……
ばかぁ
……
!!)
本当はこんなことを思いたくない。なのに、胸が、心が、切り刻まれて擦り潰されそうなほど痛み、痛みがそう思わせてくる。
いつもと同じように、いつものように、自分を見ていて欲しかっただけなのに。
ただの我儘だ、と自分の中のもう一人の自分が正論を告げるが、それには耳を塞いだ。
心の悲痛が熱となって目頭に移ったような感覚がしたが、気にせず、娘はそのまま眠りについた。
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@acadine
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