沁月
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MHRマイハン♀のこと

MHRのマイハン♀の詳細設定。

こちらに投稿されているマイハン♀はこのキャラクターのことになります。
2ページ目にマイハン♀の両親に纏わる昔のお話。



ボク、いや、わたしは里の生まれ。幼い頃から母は病気がちで、父は家を空けることの多かった上位ハンター。

母の病は、不治に近かった。それでも父は諦めなくて、治療法と奇跡の薬を探し求めた。
やがて見つけた奇跡を実現させるためには、桁違いのお金が必要で。

父はハンター稼業に集中するため、カムラの里を出て、狩猟や採取などあらゆるクエストで稼ぎ、仕送りを送ってくるようになった。
母が病なのに、前よりも家に居ない父を、私は良く思っていなかったけれど、母はいつも穏やかだった。

「お父さんは、家族のために身を粉にして頑張ってくれている」
「家から離れて頑張るなんて凄いこと。感謝しないとね」

そんなお決まりの言葉と一緒に、いつも私に微笑んでくれた。
病でも、母は明るく優しかった。明るく優しき者の持つ力、その強さの何たるかを母はよく知り、備えていた。
普段の様子からは病であることなど全く分からないほどで、私自身、母は元気なのだと勘違いしそうになるほどだった。
何度も再発を繰り返していたが、母は逞しく穏やかに、優しく、いつも笑っていた。

このまま母に何事もなければと思っていた時、重い再発が起きた。ゼンチ先生に「時間がない」と言われた時、幼い私にもその言葉の意味が分かった。

父に手紙でそれを伝えると、今までとは比べ物にならないような法外なお金が送られてくるようになった。

そのお金で、薬は買えた。

けれど、母は助からなかった。

『笑顔を、忘れないで』
『何も、誰も恨まないで。楽しく過ごしてね』

母は、そう遺して逝った。

私を抱きしめてくれる親は、近くには誰もいなくて。
なのに、泣けなかった。我慢していたわけではない、本当に泣けなかった。泣きたかったはずだと思う。

幼い私を支えてくれたのは、カムラの里のみんな。ヒノエ姉、ミノト姉、里長、ゴコクさま、ゼンチ先生、コガラシさん、カゲロウさん。そして、ウツシ教官。
教官はずっと一緒に居てくれた。眠れない私に一晩中付き添ってくれた。私と一緒にごはんを食べて、楽しい話をたくさんして、笑わせようとしてくれた。
優しい家族は、優しいあなたは、私の傍にいてくれた。

私の血を分けた父は、数ヶ月経っても帰ってこなかった。母が死んだのに、お金は送られてきた。法外なお金。もう不要なお金だ。
手紙を送っても父から返事はなかった。それでも、お金だけが送られてきた。
お金の出処が分からず、里長はウツシ教官に父を探すように言ってくれた。

そこからぱったりと、誰も父の話をしなくなった。聞いても、誰も答えてくれなかった。

でも、私は知っている。里長とウツシ教官の話をこっそり盗み聞きしてしまったから。
父は違法に手を染めていた。密猟、盗み、ギルドから指名手配されてしまうほどに、あらゆる違法、悪徳に手を染めていた事を。

お母さん。それでも、感謝は必要ですか? 恨んではいけませんか?

それを知った数年後、わたしの前に、父は現れた。その手には、また大金の入っている、でこぼこに膨らんだ薄汚れた革袋が握られていて「やっとまとまった金額になった」と、父は譫言うわごとのように繰り返した。
母は死んだと伝えても、金があれば助けられると、そればかり。

その時、私はようやく分かった。母の病が蝕んでいたのは、母の命だけではなかったのだ。おぞましいあれは、父の心をも蝕んでいた。
父の心は、母の死によって壊れてしまった。

気付けば私は、両親を失っていたのだ。その時、私はやっと泣き叫べた。
私が泣いた時、抱きしめてくれたのは父ではなく、ウツシ教官だった。

父は金の袋を持って立ちすくんだまま、光の失せた双眸で私を見つめながら、茫然ぼうぜんとしていて。
ウツシ教官は私を抱きしめて、父にこう言った。

『一体、どうしてしまったんだ!?』
『聞こえないのか!? この子の声が、この子の叫びが!!』

あの時のウツシ教官の声は、よく覚えている。とても低くて、いつもより怖い声で、けれど、今にも泣きそうな声のような気がした。
私は教官に抱きしめられて、教官の腕の中でずっと泣いていたから、父がどんな顔をして、どんな言葉を返したのか、そしてどんな行動を取ったのかは、分からない。これも、誰に聞いても教えてくれない。
ウツシ教官が教えてくれたのは、一つだけ。

『お父さんは、また里を出るそうだ』
『大丈夫、必ずまた会えるよ。何も心配しないで』

その日から、父からの法外なお金の仕送りは途絶えた。母の命日、母の墓前に私の持ってきたものではない花が、供えられるようになった。

その花を見た時、これで良いんだ、と思った。母が逝った時、父に抱きしめていてほしかったのにと願った気持ちは、花風の中に溶けていって。

きっと、母も喜んでいると思った。私は誰も、何も恨んでいない。私は、笑顔を忘れずにいられた。

それは全て里のみんなの、家族の、ウツシ教官のおかげ。だから強くなって、守りたいと思った。大切な家族の生きる、家族との思い出に満ちたこの里を。

母の墓前に、私は誓った。

そして次の日、私はハンター修行のための弟子入りを、ウツシ教官に志願する。あの人は、快く引き受けてくれた。

私は、教官にも約束した。母のように明るく、逞しく、優しい人に。そして、父よりも強く、正しいハンターになると。

家族の生きる愛する里を、何があろうと、必ず守ってみせると。



@acadine