【東ツヅ】孟冬の温もり

東雲さんのお相手が女性の場合衣服絡みのお話と「元気が出る写真を送ってほしい」ネタの二本立て。🍮👓編。 ※この二人付き合ってないでーす。

【東ツヅ】孟冬の温もり




すっかり水仕事が堪える季節に冷え濡れた手をタオルで拭う。
ほんの少しだけだし、なんて横着せずガス給湯器を点火させ、お湯で洗えばいいのを怠ったがためツヅミは冷えてしまった手を揉んだ。僅かな熱をかき集め指先を温める。
だけど、中々温まらないのでツヅミは自身の首元に冷えた両手を添えた。
「つめたっ」
手の冷たさがツヅミの肩を竦めさせ、後からじんわり広がる首元の熱に緊張が解けていく。
よく外から帰ってきた東雲にやられる悪戯染みた行為をよもやセルフでやるとは、なんて思いつつ首元の熱を冷たい手に移していった。
やっと冷たさが無くなる頃、ツヅミは自分一人しかいない404号室を見渡した。
東雲は昼食を食べ終わるなり外に出かけ、有希に至っては朝食を食べた後ずっと自室に籠りっぱなしで顔を見ていない。芸術は爆発だ、ではないが創作意欲に熱が入り没頭しているのだろう。
そして、お腹を空かせいつ来ても大丈夫なように有希の分の昼食はラップ掛け冷蔵庫に入れてある。
「洗濯機今のうちに回しておかないと」
世間一般な部屋の間取りは決して広いとは言い切れぬものの、やはり一人きりの時は変に広く感じると共に小さな寂しさがツヅミの心に灯る。それだけ誰かの気配や音のない時期をすぐ思い出せないくらい賑やかな生活に慣れたということだろう。
洗濯籠に溜まった洗濯物を慣れた手つきで仕分けをして先に回す分を洗濯機の中に放り込む。
常々東雲は一緒くたに洗って構わないと言うけれど、如何にもこうにもツヅミは種類、色、汚れ具合等々を分けて洗いたかった。
「せめて最低限汚れが酷いのと、柄物白物は分けたい……っ」
ツヅミ心からの叫びは喉奥から絞り出され静かな室内に溶けていく。
仕分け終わり第一陣で洗濯機の電源を入れる前に、一応念のためツヅミは今留守にしている部屋主の寝室に足を踏み入れた。案の定というべきか何というべきか。無造作に脱ぎ捨てられた東雲の上着がベッドを占領しては、寝室に入ってきたツヅミを出迎える。
「あっ! また脱いだものをそのままにして、もうっ!」
誠に遺憾な気持ちを抑えず、ツヅミがベッドに近付き脱ぎ捨てられていた上着を拾い上げた。
両手で持ち眼前に上着を広げ睨む。汚れらしい汚れは見当たらない、前後裏返し確認するツヅミの目はまさに主婦そのもの。東雲からの”ママ”呼びは伊達じゃない。
沸々と沸き立つ苛立ちを溜息ひとつで宥めたツヅミが上着を持ち、洗濯機の中へ放り込まなくてはと思った矢先──。
ふと、手に持った東雲の上着の大きさに目が留まった。
「改めて見ると東雲さんの上着やっぱり私のより大きい」
見慣れた東雲の上着は彼女が着るからこそ丁度いい大きさなのでありツヅミが羽織るとなれば、ぶかぶかに袖が余り裾も長くなってしまっている。
実際羽織ってみれば簡単に手が隠れるくらい袖は長く、裾もまた太腿近くまで伸びていた。同じものを着たからこそ分かる身長差。子供と大人の差を如実に物語ってくる。
「前借りたスウェットもそうだけど袖余っちゃう」
心霊番組のオープニングやお化け屋敷入口に描かれている柳下に佇む女性の幽霊よろしくだらりと垂れる袖。袖を捲れば厚い皺が出来るほど弛み、前を閉めれば丈の短いワンピースとしてもギリギリ着れなくもない裾の長さを見下ろした。
……何やってんでしょうね」
どさくさに紛れてではないが、東雲の上着を羽織ったツヅミは自身の行動の幼稚さにこめかみを押さえる。
ちょっと気になったから。背伸びしてみたいから。そんなこと大人が着ているものを着る子供と大差がない。上着の持ち主が戻ってくる前に脱いで洗濯機で洗ってしまおう。
いそいそ上着を脱ぎ始めたツヅミは、ふと鼻腔を擽る香りに手を止めた。
「そういえば煙草の匂い全くしないって当たり前か」
東雲は住人達に散々煙草臭いと言われ、市松をマンションを入居に誘った日を境にぱったり煙草を吸わなくなっていた。お陰で東雲の衣類に纏わりつくヤニ臭さは根絶された。
つとツヅミは東雲が煙草を止めた理由をそれとなく聞いた事があった。もしや受動喫煙を気にしているのかも、なんてツヅミは思っていたが東雲はツヅミから視線を逸らし「さぁね」と笑って誤魔化したのだった。
「(結局理由は訊けず仕舞い)」
目を閉じ物思いに耽っていたツヅミは、いつの間にか帰宅した東雲の気配に気付けないどころか。
「帰ったぞー、って何してんの」
寝室に顔を出した東雲に声を掛けられるまで、意識を少し前の記憶の海に漂わせ続けていた。
驚きから閉じていた瞼を開け数センチ浮くツヅミの体。バクバクする心臓を手で押さえ振り返った先、目を数回瞬かせる東雲の様子にツヅミも瞬き返すが、すわ現状を思い出し恥ずかしさから顔を真っ赤にした。
「えっ!? これは、その!!」
恥ずかしすぎて顔から火が出る勢い。忙しなくあたふた両腕を動かすツヅミは、自分自身と東雲双方納得させる理由を急いで探す。
されど、言葉になり損ねた声しか口から出て来ず、それが更にツヅミを焦らせ追い詰めていく。

「欲しいならやるぜ。私のお下がりだけどよ。でも、洗ってから着ろよな」

だが、傍から見ても怪しいツヅミの素振りを怪しむことなく、東雲はツヅミが自分の上着が欲しいから羽織ったのだと結論付けた。
ひらひら手を振り寝室から出て行く東雲を目で追っていたツヅミは一気に脱力し深い溜息を零した。
「(誤魔化せた? 誤魔化し切れた? それともあえて触れないようにしてくれた?)」
後を追い弁明するのも考えたが、ついぞ実行するには至らなかった。
意図せず自分のものになった東雲の上着を徐に脱いだツヅミはそっと口元に弧を描き上着を抱き締めたのだった。