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豆炭々炬燵
5094文字
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訳アリ心霊マンション
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【スズ東】秋日が素っ気ない
東雲さんのお相手が男性の場合季節絡みのお話と「元気が出る写真を送ってほしい」ネタの二本立て。🔔🍮編。 ※この二人付き合ってないでーす。コミック三巻未収録の要素ありますご注意。
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【スズ東】秋日が素っ気ない
濃く立ち込めた霧が遠くの景色を有無を言わさず塗り隠し、手前に広がる赤く燃える木々たちの色でさえ不明慮にさせる。
険しい山岳一面を彩る紅葉の一角、大凡人や獣が寄り付かない穿たれた巨大な洞穴を覗き込めば不釣り合い過ぎる人工物たちが出迎える。
剥き出しの岩壁ではないアーチ状に整備された天井。両端の壁にはシャッターが閉められた店々が建ち並び、店の入り口に掲げられた看板と幟には意味不明な文字列が素知らぬ顔をして書かれていた。
明滅することなく天井にはめ込まれた照明の電力は一体何処から供給されているのか定かではない。
特に自然物と人工物の境目、律儀に点字ブロックが地面に敷かれ始めている箇所から先には紅葉がただの一枚も落ちていないのが薄気味悪い事この上ない。
「(風は絶えず入り口から奥に吹いてるってのにな)」
照明で照らされているにもかかわらず、奥に伸びる道は途中から真っ暗闇に包まれている。
あんぐり口を開けた巨大な生き物が息でも吸っているかのよう。背中から前に吹く風が東雲の髪を靡かせ続けている、隣。
「くっそ
…
! ババア遅すぎんだろ
…
!!」
二の腕を擦り、その場足踏みをし続けている眼鏡をかけたスズを横目で見遣った。
山の天気は変わりやすい。幾ら天気予報で快晴を謳っていようが、鈍色に染まった空から冷たい雨が降り注ぎ周囲一帯の気温を情け容赦なく下げていく。
周囲を満たす濡れた地面の香り。サーっと静かに降る雨の所為で、本来洞穴前で待機する予定がものの見事に洞穴手前に入り雨宿りしなくてはならなくなってしまった。雨に直接濡れないが、地面を這う冷たい濃霧と常時吹き込む風がお洒落は気合でするものと豪語するスズの体温を問答無用で奪っていく。山の天気の変わり具合を舐め腐っている薄着の恰好に対し、東雲は急に冷えてきても大丈夫なようにダウンジャケット、長ズボン、ブーツと珍しく完全防備の姿である。
「(上からの調査命令だのなんなのって、人様のお家事情ながら大変だねェ
……
)」
数日前何の前触れもなく現れた人工物。スズの前に複数人調査に派遣されるも悉く行方不明になり、唯一重傷を負い逃げ帰った者は鸚鵡の様に「駅が
…
奥に無人の、駅が
……
」と同じ言葉を繰り返すばかりで意思疎通が出来なかった。
如何考えてもヤバい案件。スズに半ば強引に引きずられ同行しているが、ツヅミには内緒にした上で彼女の身の回り及びマンションの護衛をカミキリに家賃一ヶ月分で頼むと東雲が手を合わせ願うも。
──そんな事シなくて大丈夫
──大家さン帰ってくル場所、ちゃンと守って待ってル
──でも、コレ肌身離さズ付けてテ
言うや否や東雲の手首に白いミサンガをカミキリが付け固く結ぶ。
お守りか何かか。東雲の問いにカミキリにしては珍しく言葉を濁すも、東雲はとかく問い詰める事はしなかった。
「
……
さみぃ
……
」
白いミサンガを巻かれた手首から再び視線と意識を隣にいるスズに向ける。体を縮こませ歯の音が合わないのかカチカチ鳴らしていた。
まだ偵察から帰って来そうのない気配に東雲はダウンジャケットのファスナーを下ろしつつスズの背後に忍び寄り、冷たい外気に曝される前にスズの体をすっぽりダウンジャケットで包み込んだ。
「は?」
まさかの出来事に鳩が豆鉄砲を食ったような顔でスズが首を捻り振り返る。
一体何が目的なのか分からないが東雲が背後に立った事で風除けになっている上、冷え強張っていた体が東雲の体温で温められたダウンジャケットの熱で解け融けていった。
じんわり広がる熱の温かさに一瞬流されそうになるが、ハッと我に返ったスズが東雲から離れようとするも悲しいかな完全にパワー負けている為、ダウンジャケットから出る事が出来なかった。
「テメーッ、なにしてんだよ!?」
「なにって寒がってるから温めてやってんじゃん」
「お、大きなお世話だッ! はなせええぇええぇぇ!」
「暴れんな。ダウンジャケット破れたらどうすんだ」
ジタバタ暴れるスズの腕を抑え込むかたちで東雲の腕がスズの体を抱き締め自身のもとに引き寄せる。
否応なしに背中から伝わる柔らかな温もりにスズの顔が違う意味で熱くなった。
「あんまりくっ付くなって
…
ッ」
「それだと寒くね?」
「いいッ、いいからッ
……
」
「そ~お?」
暴れなくなったスズに東雲は自身のもとに引き寄せていた力を緩めた。微かに空いた隙間。だが、温かな空気は我が物顔で隙間に居座るだけではなく、スズの背中にもう触れていない柔らかさを感じさせる。
「(
……
でも、あったけ
……
)」
いつの間にか体の震えが消え、歯も鳴らなくなった。
視線は相変わらず奥の闇を見続け警戒心を解かないが背中から暢気さが伝染したスズは瞼を半分近くまで下ろした。
「おばあちゃん戻って来なくね?」
スズと東雲の耳に届くのは風鳴と反響する自分たちの声ばかり。それ以外の音はおろか気配すら感じさせない静寂さ。
あまりの静けさに耳鳴りが聞こえて来そうになった矢先、東雲の鼓膜が小さく鼻を啜る音を拾った。
「(変に隙間空けてっから)」
スズが断固として背中を預けないので、僅かな隙間から冷たい風が吹き込み徐々に熱を攫って行く。東雲としても折角温まった熱が無くなって寒くなるのは嫌な為、──器用にスズの体を自分と向かい合わすかたちで回し抱き寄せた。
「・・・は?」
本日二度目の鳩が豆鉄砲を食ったような顔でスズが固まる。
「ふぃ~、あったかあったか」
胸部はおろか、腹部とくに下腹部に至るまで柔らかな感触と熱がスズに襲い掛かる。
「なっ、なっなっなっ!?!?」
脳の処理が追い付かず、何か言いたくても言葉らしい言葉が出て来ない。そんなスズを余所に東雲はどんどんスズを自身の胸の内側に招き入れる。
「っぱ、こっちの方があったけえよな。どっちもさ」
完全に湯たんぽかつ、異性としてこれっぽちも見ていない東雲にスズは赤く染まった顔で奥歯を噛み締めた。
スズなりに持っている男の矜持を悉く折ってくる腹立たしさ。変に柔らかいだの、匂いが近いだの意識するのは自分ばかりで更に惨めになっていく。
「ほら、お前も私の背中に腕回せって」
うぐぐ。眉間と鼻の上に皺を思いきり寄せ渋い顔でスズはダウンジャケットの下から東雲の背中に腕を回した。
嫌なら嫌で腕なんか回さなければいい。そんな考えを”東雲薫に言われたからしょうがなくやった”と言い訳にして目を逸らす。
腕を巻き付けた背中の温もり、体の正面から伝わる温かと柔らかさ、鼻腔を擽る匂いに根負けしたスズが東雲の肩口に火照った顔を寄せる。純粋に温かい、人肌の温もりに抱き締められる感覚が心地よい。
無意識に自ら体を摺り寄せるスズの不器用に甘える姿を──、こっそり物陰から偵察をし終わった老婆の霊が覗き応援していた。
「(ファイトです、坊ちゃん
……
ッ)」
グッと拳を握りしめガッツポーズをしていれば、突如天井にはめ込まれた照明が不規則に明滅した後、フッと一斉に息絶えた。
それを皮切りに大口を開けた喉奥から轟く低い唸り声染みた強風が吹き荒ぶ。風の強さに東雲の前髪が捲り上がり、目が乾かぬよう目を細めた。
刹那、闇の奥から勢いよく何かが東雲の顔面目掛け飛んできた。咄嗟に右手で東雲が受け止めれば、それは古臭い電車の模型だった。
何故こんなものが飛んでくる。そんな疑問を抱く前に東雲はスズを抱きかかえたまま、横に飛び退き洞窟一杯に犇きあう巨大な物体との衝突を免れた。
耳を劈くけたたましい警笛。湿った空気と固い床を震わせる車輪と駆動音。違和感しかない見慣れた物体が速度を落とさず通過する。
東雲の視界に映り込む無数の窓枠。光源を背負い東雲とスズを見詰める何ものかの影たちがざわめき蠢いては、表情が逆光で見えないというのに皆一様に嗤っているのをスズも眼鏡越しで捉えた。
「”楽”の表情ッ! いや”愛”か!?」
身の毛がよだつ悍ましさにスズが息を飲む。記憶に新しい嫌な映像がスズの頭を埋め尽くす寸前、東雲は騒がしい窓枠の一角にスズに憑いているおばあちゃんの姿を見付け──。
「嫌がってんだろうがっ!」
スズを抱えた状態で体を捻り、その勢いのまま回し蹴りを何だかよく分からないデカブツに食らわせた。
鈍い音を立て東雲の強烈な蹴りがめり込むのに合わせ、強烈な断末魔が洞穴内に響き渡る。一切の加減なく振り抜いた蹴りの衝撃で窓枠から老婆の霊が飛び出し、巨大な体をした何かが豪快に壁にぶつかった。東雲がフッと息を吐くのに合わせ、巨大な体をした何かが音もなく消え去り、洞穴内を包み込んでいた不釣り合いな人工物も消え失せごくごく普通の洞穴内に戻っていた。
「ったくよ。おばあちゃん大丈夫?」
怒涛の展開に完全に置いてけぼりを食らったスズは口をあんぐり開け「お前の力、言霊だけじゃないのかよ
……
」とドン引きした。
「──結局、東雲薫の言霊使いの力がどれだけ影響したのかも分からないで終わっちまったぜ」
その後、東雲が持っていた電車の模型が伍段階の悪霊の憑代と分かりスズは厳重に厳重を重ね封印を施した。
さらにさらに後日、東雲と共に留守を守ってくれていたカミキリにお礼を言いに行けば。
「僕ノ力、使わずに済んでヨカッタ」
自分の預かり知らぬ間のやり取りをカミキリと東雲から聞いたスズは改めて眼鏡越しに東雲の手首を確認するも何も見えず、一応念のため力が発動した場合どうなるのか恐る恐る尋ねると。
「大家サん傷付けた時点で相手の体と魂、元に戻れないクらい細かくナる」
これまた屈託のない笑顔で言うので、スズひとりゾッと背筋が寒くなると同時に自分がお仕えする相手は人知を遥かに超えた神なのだと改めて思い知り。
そして、自分の隣で怖がるどころかカミキリの頭を雑撫でしつつ「すっげーのなカミキリさん」とカンラカンラと笑う東雲を見ては違う意味でドン引きしたのだった。
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