梶間
2024-03-25 00:42:12
5009文字
Public カブライ
 

悪食王のフレッシュゴーレム

副題: 遠くから見ていた推しに爆イケ彼氏ができて牽制されたNTRASMRで鬱勃⚪︎が止まらねえ。一応カブライとモブ→→→ライ

「なあ、カブルー」
「なんですか」
「最近雇ったって画家?彫刻家?芸術家がいるだろ」
「あの人器用でなんでも出来る芸術家だそうですよ」
「へー、それはすごいな。で、その芸術家なんだけど」
「はい」
「俺を見てくるときの目がすごい怖い」
「あーま、まあ画を描くには観察が大切らしいですし?仕方ないんじゃないですか」
「いや、それが終わった後もずっと見てくるし、描いてるときにまったく瞬きしなくて」
「観察と集中してるんじゃないですか。人間集中してると瞬き忘れるそうですよ」
「いやうーんそういうのとは少し違うようなあの芸術家どこから見つけてきたんだ?」
「あの人はですね、」
ここに来て言葉を詰まらせるカブルー。目線を左右に往復すること三度、普通の人間なら明らかになにかあるだろうと思わせる沈黙の時間も、ライオスはなにか言葉をじっくり選んでるなあ、くらいに思ってじっと次の発言を待っていた。
「あなたの熱心なファンだそうですよ」
「そうなのか」
ニコッ!と場を誤魔化すための怪しい笑顔も、配下に対しては全幅の信頼を置いている王にとっては一安心する笑顔でしかない。
「俺にファンかなんか照れくさいな」
「今描いている肖像画が終わったら次は胸像に取り組むそうです」
「へー、本当になんでもできるんだな。完成を楽しみにしているって伝えておいて欲しい」
その言葉を最後にお互い手を振り交わして別れる。
ライオスから自分の姿が完全に見えなくなる距離になってから、カブルーはにこやかな笑顔を消して足早に歩いた。
城の人間に断りを入れてからやってきたのは、先ほど話題に上がった芸術家の住居。
ここまでくる道中、カブルーは芸術家と出会うきっかけになった出来事を思い返していた。

***

「城下の歓楽街で王に似た人物が男娼をしている……
雇った”鼠”や”雀”が小遣い稼ぎにあれこれ集めてくれた話の中にどうにも気になる噂があった。歓楽街の端々で王様に似た男娼がいる、と一部の口の端に上っているらしい。
今までもそういった噂がなかった訳ではないが、どれも背格好の似た金髪の男性が男娼をしていたというだけで、似ても似つかない人物ばかりだった。髪色がアッシュブロンドなだけの男を並べて営利を貪っていた店は取り潰したが、その後も同様の店が現れては名誉毀損で取り潰すのを繰り返していた。初めはこれも同じような話だろうと思ったが、実際行ったという客の話を歓楽街近くの酒場で聞いてみたところ、男娼の容姿について実に微に入り細に入り話すのだ。その内容からは実際に本人を間近で見ないと出ないような表現が言葉の端々から伺えた。
勿論本物の王は歓楽街には一歩たりとも踏み入らず、今日も呑気に土産の魔物を眺めたり疲れた顔で政の勉強をしている。
間違いなく本人ではないが、限りなく似ている人間が現れた可能性はあるだろう。本当に似ていたら影武者に取り立てるのもいいかもしれない。

宰相のヤアドと、他信頼出来る何人かに話を通してから数日後の夜、カブルーは件の店を調査するべく歓楽街へと足を踏み入れた。
「獲れたて新鮮フレッシュドールの快楽肉店」
目的の店はすぐに見つかった。あまりに馬鹿げた店名で思わず口に出してしまった。
酒場で聴いた話で大仰な看板を堂々と掲げているとは聴いていたが、わざわざ文字だけ光るように作りを凝らして魔法をかけてある。魔法の光はそんなに長い時間光らないから、定期的にかけなおしているのだろうか。随分と無駄なところに技術と労力を割いている。
「話が通じるといいな……
ただの勘だが、こういう無駄な労力を割ける人間は大抵がまだ言っていることが分かる変人か極度に自分の世界へと飛んだ変態だ。あまりあたって欲しくないな、と思いながら店へと足を踏み入れた。


結論。極度の変態だった。
店主が受付も兼ねていて、自分の作った人形を客に抱かせるという趣旨の店だった。店の利用は初めてで人伝に聞いた、と告げると粘ついた笑みと声で説明し始めた。
曰く、店主はゴーレムの作成方法を修めた魔術師であるらしい。
曰く、生肉を使用したフレッシュゴーレムを作るのに特化しているらしい。
曰く、悪食王に謁見した際に一目惚れし、尊顔を再現することに生き甲斐を見つけたらしい。
他にも魔術を学んだところではフレッシュゴーレムの偏見がすごかったから流れ流れてここまできただの、ゴーレム作成の学舎を開く許可を得るために謁見したときの衝撃だの、店主の半生と共に怒涛の勢いで王の賛美を聴かされる。
フレッシュゴーレムは好きな首と身体をそれぞれ選び、店主が仕上げに首と身体を繋げて核を入れて動かすらしい。
あまり滑らかに動くことは出来ず、ぎこちない動きと姿勢を固定させるので精一杯だとか。表情も変えられないので好きな表情をした首を選んでつけるのだとか。
首は本当に毛の一本一本にいたるまで精巧な出来栄えで、ライオス本人の生首に錯覚するほどで薄気味悪い。
棚一面に並んだ生首を見せられた時はさすがにぎょっとした。
首は本当に毛の一本一本にいたるまで精巧な出来栄えで、ライオス本人の生首に錯覚するほどで薄気味悪い。それが棚一面にずらりと並んでいるのだ。蕩けた笑顔、真っ赤な苦悶の表情、あらぬ方向に視線が飛んだ表情、物憂げに目を伏せた顔、等々が出来の悪い悪夢のように鎮座させられている。
しかし精巧な造型であることには間違いないため、会話の取っ掛かりとして顔の出来を褒めると店主の舌がよく回る。
似た色の毛や皮を手に入れるのに苦労しただのなんだの、睫毛の長さに苦労しただの目の色彩が硝子で表現仕切れないのが悔しいだの。
それでも本人の威光を再現するには力が足りない、と項垂れながら身体の紹介が始まった。
人体まるまる一人分の生肉を包めるだけのなめし皮を手に入れるのは難しいのでつぎはぎだらけだが勘弁して欲しいと前置きされる。痩せ型から筋肉質、脂肪多めの太めの体型など無駄に多種多様だ。聞いてないのに渾身の一作をお勧めされる。
生肉を使用しているので体温はなく、ひんやりとした使い心地なのでそれが受けている客もいるが初めてなら使う前は温めた香油を使えだのなんだの説明を受ける。
ここまで長らく時間がかかり、ようやく店主の口が止まった。
「どの王様にします!!??」


その場で店主を気絶させて違法ゴーレム作成罪で即日牢屋に叩き込んだ。
牢屋の中でぼくのかわいい王様が……としくしく泣き続けるのが鬱陶しかった。
店の押収、解体が終わってから店主に宮廷画家にならないか、と誘いをかけた。こういう極度の変態は野に離しても再度同じことをやるだろうし、死罪にするには少し罪状が軽い。目に入る範囲で飼うのが、まあ気苦労は増えるだろうが多分まだ安心だ。それに手先は器用そうだし。
「毎日王様のご尊顔が見られるんですか!!??やります!!画家でもなんでも任せてください!!!」

実際描かせてみたら宰相絶賛の腕前で、以前黄金城にいた宮廷画家以上の画力だと褒めていた。

***

ここに至るまでの顛末を振り返りながら、だからまあ、ライオスを見る目が少しアレなのは致し方ないとして。羽目を外さないよういまのうち釘を刺しておくことは大切だろう。
店主もとい芸術家の住居の扉をノックすると、爛々とした眼の男が顔を出した。目の下の隈がすごい。
息も絶え絶えの幽鬼のような元店主に中へと招かれる。訪れた旨を問われたので完結に告げるとしよう。
「王のこと見過ぎです。怯えてたんでもう少し抑えて。それとなく見てください。情熱は作品だけにぶつけて」
王が怯えている、と告げると元店主には効果覿面だったようでかすれた声で次からは気をつけます、と呟いた。
少し効き過ぎただろうか。
「王も完成を楽しみにしていましたよ」
そう告げると今度は天を仰ぎ祈りを捧げ始めた。次の瞬間には何事か叫びながらキャンバスに向かう元店主。
不安定だが注意喚起と意欲の維持としてはこのくらいが丁度いい塩梅だろうか。さっさっと退去しようと思ったが、最後にもう一つ釘を刺しておこう。
キャンバスの肖像画へ一心不乱になっている現芸術家の背中へ一言。
「あの人の脚の付け根にはほくろがあるんですよ。あんたじゃ一生見られないようなところにね」
芸術家の手が止まり筆が落ちる。全然動かなくなったので外に出て扉を閉めた辺りで絶叫が聞こえた。
これで筆を折るならそれも良し、逆に発奮して作成に励んでくれるならなお良しだ。



後年、悪食王の肖像画や彫像は精巧にして緻密な世紀の逸品だと褒め称えられ世界中の美術館を賑わせた。長らく隆盛を誇った国だったので、数多の芸術家を抱えていたに違いないと思われていたが、その多くは一人の芸術家が産み出したものということが判明してからは芸術史に大きな衝撃を刻んだという。