ちょち
2024-03-22 07:31:16
1443文字
Public 狂聡
 

安普請セカンドバージン 1

タイトルでネタバレしているプチ連載のプロローグ

次→https://privatter.me/page/66049b9760d94

 目覚めると、窓の外は真っ暗になっていた。

「!!」
 驚いてガバッと起き上がった狂児に、そばにいた聡実がびっくりしてちょっと跳ねる。
「お、おはよ。起きたん」
「え!? 今何時!?」
「ええと……
 聡実が、スマホを取り出す。
「10時前」
「うっそやん……最悪や……
 頭を抱える狂児に聡実がちょっと焦って腰を上げた。
「えっ何!? 今日帰るんやったん!?」
「そう」
 まだ寝起きの顔で、狂児がぼりぼりと頭を掻きむしる。
「明日急ぎの仕事あって」
「マジかごめん……起こせば良かった、あんまり気持ち良さそうに寝とるから疲れてるんやなと思って……
「いや言うとかへんかった俺が悪いし気にせんとってー。それはええんやけど……
 狂児が自分のスマホを取り出して、慌ててタプタプと操作し始めた。
「アカン、当たり前にやこばももうない」
「でかいおじさんにやこばキツない?」
 脚も無駄に長いし……というのはなんとなく腹が立つので心の中に留めておく。
「背に腹はかえられん……いやどっちみちもうないんやけど……
 必死にスマホで検索する狂児の横顔を見ながら、聡実はふう……と息を吐いた。
 狂児に初めて抱かれてから、あのあとまだ特に何もない。別に抱いたらイマイチだった……とかそんなことはたぶんないと思う。こう見えて聡実は基本的に自意識も高く意外と自信家なので、初めてでいっぱいいっぱいの中でも狂児が必死で自分を抱いていたことは知っている。
 ただ単に、物理的に予定が合わないのだ。
 聡実は平日は授業があるし、以前ほどの頻度ではないものの深夜にバイトも入れている。狂児もなんだかんだ忙しそうにしているので……結構こんな風に家に来ることも増えたし、デートは重ねているが、そういう雰囲気になるタイミングどころか夜に予定が合う機会がない。たまに狂児が夜遅くまでいる時も、大体都内のどこかに泊まって翌朝帰っていた。だから今日もそんな感じなのだと思って、まだ終電でもないからと起こさなかったのだが。
「アカンな……ちょっと遅刻なるけどこれ明日始発で帰るしかないな……ホテル探すわ」
「えっホテル? ……ああ」
 ホテルという単語にちょっとびっくりしてしまったが、狂児が今晩泊まるとこ探すってことやんな、とすぐに気付いて聡実は勝手に赤くなった。狂児も明日始発で帰らないといけないみたいだし、聡実も一限から授業があるので、泊まりになったとはいえ今夜もやはり予定が合わない。
 どこがええんかな……と検索している狂児に、聡実がぽつりと言った。
「東京駅前やないと嫌とかある」
「え、別にないけどまあ電車一本くらいで行ける方がええな……なに? おすすめある?」
「うち泊まってったらええんちゃうと思って」
……え」
 狂児がスマホから顔を上げて、固まる。
「いや、狂児さんも僕も朝早いしアレやで、ほんまに泊まるだけやで。でも今の時間からどっか泊まるとこ探して移動するんやったらここで寝て行ったらええんちゃうって……ここからやったら30分1本で東京駅出れるし」
「それはありがたいけど、ええの」
「ボロアパートやし、狂児さんが嫌じゃなかったら。シャワーしてきたら?」
「お、おん、ありがとう、助かるわ!」
……ああ、ただ……
「ん?」
 聡実は少し赤くなって口元に拳を当て、顔を逸らしながら言った。
「布団、一組しかないけど……

 成田狂児は、思った。
 地獄の夜が始まる……と。