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雨音
Public
安寧の灯
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【村と白神家】
村と密接な関わりを持つ白神家の記録。
初代、2代目(しろ様)、7代目(乙葉)の話。小説もどきのメモ。
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【白神
しろかみ
家当主初代・2代目】
2000年の歴史を持つ「音羽村
おとはむら
」はかつて「白神村
しろかみむら
」と呼ばれていた。
白神村は2000年の歴史のうち、たった500年の間しか呼ばれなかった。
村ができたきっかけである白神家。彼らは神に等しい一族で、人の姿をした現人神
あらひとがみ
と崇められる時代もあった。
白神村はその風潮が根強い頃の名前だ。
当時の村を統治していたのは、白神家の初代と2代目のみ。
初代は女性で、神聖で強大な人間離れした力を持っていた。2代目は初代の子どもで性別不明とされている。
現代の白神家は黒髪と青い瞳、男が優位な一族だが、大昔は白髪と青い瞳、女が優位な一族だった。
現代では男尊女卑がまかり通っているが、大昔は性別による差別は無く、生まれた子どもは天からの授かりものとして、深く強く愛されて育った。
初代が当主を務めていた頃は、村人が20人ほどしかいない小さな村で、2000年の歴史の中では最も安泰していた。
初代は慈悲深く村人の悩みを聞き入れては、日々の暮らしを豊かにしようと奔走した。彼女を本物の神と崇める村人が大多数だったが、実際は普通の人間だった。
そのため彼女は若くして病に倒れ、病床に伏せることが常となってしまった。
動けなくなった初代のかわりに、2代目は7歳という若さで白神家の当主を務めることになった。
当時の2代目が操れる言葉や知恵は少なく、村人との意思疎通や協力が上手くいかないことが多かった。それでも母親の代わりを務めようと、遊びたい気持ちを犠牲にして難しい書物を読み漁ったり、母親の具合が良いときは勉強を教えてもらうなどして日々努力した。
一年後、2代目は村人たちの願いを順に叶えることが可能になり、立派に母親の代わりを務め上げていた。2代目は毎日3回、母親の病気を少しでも良くするために癒しの術をかけていた。完全治癒はできないため、治すことは不可能だった。こんなとき、父様がいれば
……
と2代目は歯噛みしながら天を睨みつけることが多々あった。
初代の夫、2代目の父に当たる人物は正真正銘の神で、白神村の原初の土地神だった。彼の力で白神村ができ、その数十年後に自身に仕えていた巫女である初代と結ばれ子を成した。
しかし彼は2代目が4歳のときに突如消息を絶った。理由は初代にも分からない。初代は幼い我が子と村を残され、途方に暮れた。
2代目が13歳のとき。初代は亡くなった。37歳だった。
初代が亡くなっても彼女の夫は姿を現さなかった。
2代目は母親の棺桶の前で涙を流した。村人から理不尽に怒鳴られても、山の中で動物に襲われ大怪我を負っても、一切泣かなかった2代目の慟哭に村人たちもつられて涙を流した。
その日から2代目は白神家当主であると同時に、白神村の『神様』となった。
時は過ぎて、2代目が大人になった頃。
後に数百年にも及ぶ悪しき風習が、白神村にはびこることとなった。
「しろ様、捧げものをお持ちしました」
「
……
いらない。何度言わせれば分かるの?」
「あなたの力がこれからも必要なのです。その力を衰えさせないためのものですから、お願いします」
「
……
どうして、こうなってしまったの
……
」
2代目
――
しろ様は、目の前に差し出されたもの
――
村人の亡骸を見つめて涙した。
旅好きの村人が他所からある知識を仕入れてから、村は変わってしまった。
『神に供物を捧げることでその土地の安寧が保たれる』といったもの。その風習は母親や書物から見聞きしていたため、もちろん知っていた。
だがその旅好きの村人が行った場所での供物は人間だったという。
いわゆる『生贄』だ。
霊力がある者、七つまでは神のうちという言葉に倣って7歳以下の子どもなどが生贄として定期的に捧げられるようになった。しろ様は一人目の時点で、激しく抵抗し勝手に他者の命を奪う行為を禁じた。一人の村人が仕入れた知識だ。まだそこまで伝播していないはずだ。そう思っていたしろ様だが甘かった。
村人たちはしろ様の言葉に耳を貸さず、「しろ様のため」と自己中心的な善意を振りかざして村人から犠牲者を出して捧げ続けた。しろ様は「わたしの話を聞きなさい!!」と叫んだが、誰も聞き入れてくれなかった。
聞いてくれるのは無惨に命を奪われた村人の霊のみだった。しかしそんな霊たちの声も悲しみと絶望に突き落とされたしろ様の耳には届かなかった。
しろ様は次第に閉じこもるようになり、表に出ることが無くなった。村人たちは誰一人として言うことを聞いてくれない。
自身の力は他者の命を使ったところで、持続することも強化されることも無い。無意味なのだ。ただ無意味に村人の未来が奪われていくだけ。
「わたしは村を守りたいだけなのに。それなのにわたしのために犠牲者は増えるばかり。本当にごめんなさい。これ以上犠牲者を出さないために動かないといけないのに、足が動いてくれないの。扉を開けようとすると手が震えて止まらないの
……
」
虚空を見つめながら懺悔するように呟くしろ様のそばで、何人かの霊が励ますように寄り添う。
「あなたは間違っていません」「私たちはあなたを憎んでいません」
と真相を知る霊たちが口々に囁くと、しろ様は怯えた様子で耳を塞ぎ目を固く閉じた。責任感と罪悪感に強く押しつぶされたしろ様には、霊たちの真っ直ぐで優しい言葉は、批判の幻聴にしか聞こえなかった。
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