みたむら
2024-02-29 14:36:34
6422文字
Public 同人誌発行物まとめ
 

「姉の山姥切長義に恋をしました。」サンプル

刀剣乱舞・長義さに本4冊目です。


「姉の山姥切長義に恋をしました。」本文サンプル


プロローグ

 車の中で、私は通り過ぎていく風景をただ楽しそうに窓から見ていた。隣には姉、助手席には母と運転手は父だ。
 今日は、いつも忙しい父が有給が取れたというので、久しぶりの家族旅行に行こうと父が提案し、車で移動中だ。
 前では夫婦で楽しそうに会話している。私と姉は、後ろで行く先で何をするかとか、窓から見える景色の感想を言ったりしていた。
 そんな時、私たち家族に悲劇が起こった。

 ――走っていた車が、急ブレーキを掛けたのだ。

 そして、くぐもった悲鳴の声があちらこちら聞こえていた。
「え? どうしたのこれ?」
「火災だ。火が燃え移ってる!」
「え?!」
 窓から覗いて上を見る。確かに、高層ビルがメラメラと火で覆われている。空には黒い煙が上昇する。
 通行人は叫びながら走って逃げていき、車などは渋滞に巻き込まれ、身動きが取れなかった。
「私たちだけでも逃げましょう!」
「そうだな。走って逃げるぞ!」
 中々前に進まない、かといって後ろの車が引く様子もない。このままでは全滅だ。両親の指示に従って、着用していたシートベルトを外すのだが、私は震えて中々外せない。
「貸して。私が外してあげる」
「うん、ありがとう。お姉ちゃん」
 お姉ちゃんは、「いいわよ」と言って冷静に私のシートベルトを外してくれる。そして、簡単に外すことができた。
「早くしなさい。火がこっちに移ってくる!」
 父が血相を変えて言ってくる。お姉ちゃんは「今行くわ!」と言って、私の手を握る。その暖かい手が心配しなくていいと励ましてくれているように思えた。
 ぎゅっとお姉ちゃんの手を握って、今度こそ車から出る。
 だが、爆風が私たちを襲った。
 気がついたら両親に守られていた為、無事だった。だが、両親はやられてしまったのか、小さく熱いとか痛い、とか呟いている。
「よし、逃げるぞ!」
「でも、お父さん」
「いいから、まずはここから避難だ――
 そうお父さんが言ったとき、まるで時が止まったかのように言葉が止まった。私たちの前に突き出された刃物――これは刀だろうか。時代劇を好む父に教えてもらったことがある。
 お侍さんは、あの刀を持って悪い奴を倒すんだ、と。その刀と同じものが、お父さんの体を貫いていた。
 お母さんは、「あなた……!」と私とお姉ちゃんの肩を抱きしめながら、涙を零している。
「にげ、ろ……!」
「お父さん!!」
 私たちはお父さんの名前を言う。お父さんは、何かを口で呟くも、声にならず何を言ったのか分からない。お父さんは、その場に倒れてしまった。
 呆然とする私は、お母さんの手がぎゅっと私の手を握る。お母さんは私とお姉ちゃんを守るために、逃げることを決めたようだ。
 お母さんの「走るわよ!」という合図に、私たちは必死に走った。お父さんを殺した人は見えなかった。だけど、何となく怖いと思ってしまった。
 時代劇やドラマのように人が人を殺した、そんなものの方がマシかもしれない。人間じゃない何かのような気がした。と言っても、犬や猫の類いかというとそれも違う、と私は思った。
 お父さんを殺した――敵は私たちを追いかけてくる。そのため、私たちはどこかの建物に隠れながら街を離れようと方針を決める。だが、それは少しの時間で破られることになる。
 彼らは、嗅覚も優れているのかすぐに私たちの居場所が特定できた。
「どうか、この子たちだけは……!」
「お母さん、怖いよ!」
 私は、お母さんに抱きつく。慰めるように後ろからお姉ちゃんが肩を抱きしめる。
 敵は巨大だった。そして人型だけど、人間じゃない。例えば――そう、鬼。鬼のようなものが刀を持っている。
 敵は刀を振りかぶって私たちを襲いかかる。
 私はお母さんを抱きしめるも、お母さんは即座に強く、私たち姉妹を突き放した。そしてお母さんは言った。
 
 ――早く逃げなさい。そして生きるのよ!

「お母さん!」
 私が叫ぶと、お姉ちゃんが手を握って、こっちだと引っ張る。当時小さかった私は、気が動転していてお母さんの無事しか集中できなかった。
「お父さんとお母さんは私たちを生かすために庇ってくれたの。お父さんとお母さんのためにも今は逃げよう」
「お姉ちゃん、でも……!」
「後で、お父さんとお母さんを探しに行こう」
……うん」
 私は零れる涙を腕で拭うと、お姉ちゃんの手を握り返して、今度こそ私たちは走って逃げていく。
 それでもなお敵は追いかけてくる。私たちは子どもということもあって身軽だ。それに対して、敵はでかいせいで足は少し遅いようだ。
 隠れていれば、きっと撒ける――そう思った時、私たちは何かにぶつかった。
 それは、さっき追いかけて来た敵とは違う、でもおそらく同じ敵の仲間が目の前に立ちはだかっていた。
(駄目だ……このままじゃ、私たちも)
 足がすくんでその場に腰を落としてしまう。お姉ちゃんも同じようで、握っていた手が少し緩んでいた。
……!!」
 立ちはだかる敵が刀を振り落とす。私たちは、痛みがやってこないように深く目を瞑る。

 しかし、痛みがやってくることはなかった。その代わり、敵の声だろうか、悲鳴を上げていた。
 恐る恐る目を開けると、私たちの前には若いお兄さんが彼らと同じ刀を構えて敵と対峙していた。
 見つけたらしい追いかけていた敵が後ろからやってくるのが分かる。それにも即座に察知したのか、お兄さんが回り込み、敵に斬り込み始める。
「これで終いだ!」
 そう言うと同時に、敵が倒れた。倒れた二体の敵の様子を見るも、動く気配はなく次第に彼らの体が消滅していくのが分かる。
 そして、お兄さんはこちらに歩いてくる。
(この人は私たちの敵なの? 私たちを殺す気なの?)
 何か体が重い。目で辿ると、お姉ちゃんは疲労が積み重なったのか、私の肩にもたれかかっていた。息はしているので、死んでいないことが幸いだ。
(私がお姉ちゃんを守らなくちゃ)
 そう思って、お姉ちゃんをぎゅっと抱きしめながら、やってくるお兄さんを睨みつける。
 そして、お兄さんはこちらに来るなり、中腰になって話しかける。
「怪我はないか?」
「え?」
「俺はそう――警察からの要請で避難している者を探していたんだ。他に生存者は?」
「お父さんと、お母さんがいたけど……あの怖い人たちに」
……そうか。よく頑張ったな」
 そう言ってお兄さんは、私たちの頭を撫でた。私は何かが切れて、お兄さんに抱きついて泣き叫んでしまう。
 お兄さんは驚きつつも、よしよしと背中をぽんぽん叩いて慰めてくれる。
「もう大丈夫だ。安全な所まで君たちを送ろう」
 その何気ない一言が、私にとって生きていられたのだと確信したのだ。
 私とお姉ちゃんはお兄さんに連れられて、街を後にした。
 お兄さんは、気を失っているお姉ちゃんをお兄ちゃんがおんぶして運んでいた。私は、横で彼に付いていくだけ。
 あの後、役所らしい場所に連れられ、職員たちが私たちを保護してくれた。役人のお姉さんが手配をしてくれたベッドで、「今はゆっくり休んでね」と言われて、安心して眠ってしまった。

 ――それが、私が覚えている記憶だ。
 
 あの時、あの助けてくれた人がいなかったら今頃生きていなかっただろう。だからこそ、もしどこかで会うことがあれば、お礼を言いたい。
 目を覚まして、助けてくれたお兄さんを探しても見つからなかった。手がかりもなく、両親を失った私たち姉妹は、役所に預けられ、次第に別の施設にお世話になることになった。
 それが後の、〝時の政府〟に引き取られた。

* * * 中 略 * * * 

 異変が起きたのは、少し後のこと。
 破局事件のことをまだ終わらせたくないという主の命により、俺たちは調査を続行した。反対したのは彼女だけだが、渋々彼女も協力してくれるようだ。
 万屋の喫茶店で彼女と一服する。
 万屋はもうバレンタインの装いはなくなり、店内は少しずつホワイトデーの装いに切り替わりつつあった。
「はぁ、今日も収穫ないね」
「そうだな」
 注文した紅茶を飲みつつ、彼女の会話に参加する。彼女の言うとおり、迷信で終わったのかもしれない。だが、以前偽者君と出会わせた審神者と破壊された刀剣男士との騒動が、どこかで頭をよぎるのだ。あの刀剣男士も言っていた。『主は悪くない』と。
 その主は何者かに操られていた可能性。それは目の前に美味しそうにケーキを頬張る彼女も同じだった。
 彼女の中には、誰がいるのだ。どうしたら本当の彼女を助けられるのか。
「長義さん? どうかしました?」
「いや、美味しそうに食べるなと思ってね」
「だって美味しいから」
 そう言ってもう一口食べる彼女。彼女がもし、陽気な性格だったならこうだったのだろうか。
 頬にクリームが付いている。俺は声をかける。
「頬にクリームが付いてる」
「本当? じゃあ分からないから長義さんが取ってくれますか?」
 そうやって、普段の彼女とはあり得ない言動を、今の彼女は発する。そして毎回俺は驚かれるばかりだ。
 俺は自然と、彼女の頬に手を近づいていく。彼女はじっと俺の顔を見ている。そしてそれは一瞬だけ、別の――彼女じゃない女性の表情が垣間見えた気がした。
「? どうかしたました?」
「あ……いや、何でもない。じっとしていてくれ」
「んー」
 彼女はじっとクリームが取れるのを待っている。それに俺はゆっくりと手を伸ばす。そんなことは小さい頃にいくらでもやっていたじゃないか。なのに、今ではあの頃のように触れることが難しく感じる。
 それだけに、彼女が大事だからだ。自分が彼女に触れたら、彼女がどう感じ、どう反応するのかを見たいのだ。見かけだけの彼女ではなく、素の彼女を。
 もうすぐ触れるといったところで、人影が見えた。
 横を見ると、いつだったか彼女に喧嘩をふっかけていた女審神者が機嫌が悪そうに俺たちを見つめていた。
 ある意味助かったかもしれない。俺は慌てて手を引っ込んだ。
「あら、ここで会うなんて偶然ね。またお姉さんの刀剣男士を盗んで優雅にお茶ですか。随分とまぁ……
……
 女審神者の言動に、彼女はぐっと押し黙った。甘い雰囲気が急に冷たい雰囲気に切り替わったかのようだ。
「盗んでなんかないわ。姉さんから許可を下りて連れてきてもらってるの」
……そうなの?」
「ああ」
 今度は俺をじっと睨みつけるので、答える。決して盗まれた訳ではない。名目上、破局調査で万屋に来ており、一休みしていただけだ。
「さっきから貴女たちのこと観察させてもらっていたのだけど。貴方たちは付き合ってるの?」
「それは――
「だったら何です?」
……この際言っておきますけどね! 刀剣男士と結ばれていいのは審神者か政府職員だけなのよ! それが、アンタみたいな一般人が恋をするなんてあり得ない!」
 貴方のためを思って言っているの、と言わんばかりに女審神者は告げる。
 実際、審神者か政府職員としか刀剣男士と契りを交わすことは聞いたことがない。聞いたことがないということは、普通の人間との恋愛沙汰は見たことがないだけであり、してはいけないという規定はない。そのため、普通の人間と刀剣男士が付き合ったらどうなるのか、というのは時の政府側にとってもデータが欲しいところだろう。
「言いたいことはそれだけですか?」
「! まだ分からないの? 刀剣男士は審神者の所有物なの。彼はお姉さんの刀剣男士でしょう? それを付き合うっていうのは、お姉さんの刀を物色しているようなものなのよ!」
 女審神者が怒りにまかせてそう告げる。喫茶店は賑やかだったのに、俺たちのおかげで静まり返っていた。
「やっぱり、小さい頃に両親を亡くしたからそういう教育が行き通っていなかったのかもしれないわね。可哀想に……人の物を盗んだら犯罪なのよ」
 女審神者が声高に言うので、周囲は彼女が例の事件の生き残りだと知り噂話をするのが分かる。そして、姉が審神者で妹は一般人だという人物が、彼女だと知る。
 この場をどうにか収めないといけない。俺が声をかけようとする前に、彼女が声を上げる。
……刀剣男士が政府職員と審神者じゃないと一緒にいてはいけないって誰が決めたの?」
「何ですって」
「どうして人間と刀剣男士が一緒にいたらだめなの?」
……貴女」
 女審神者も、以前の彼女とは様子が違うことは分かったのか、しどろもどろになっている。一歩後ろに下がっている。
「それを決めるのは本人達でしょう。審神者も政府の職員も元を正せば人間なのは変わらない。何よ、普通の人間より審神者の能力があるからって!」
「ふ、ふん! それが実力者だもの。貴女だって『審神者にならない』んじゃなくて、『審神者になれない』んじゃなくて?」
「もうこれ以上は」
「何よ。貴方もこの際はっきりこの子に言ってやりなさいよ」
 今度は俺に怒りをぶつけてくる。視線が痛いので、辿ってみると悔し涙が流れそうになっている彼女の姿だ。
 いけない、どちらも感情に流されている。今は冷静さを取り戻さなければ。
「そうだ、審神者も政府の職員もその前にただの人間だ。そして俺たちは付喪神。もちろん、主の刀だからといって愛する者は主しかあり得ないことはないよ」
「な! だって、これまでそんな話は!」
「付喪神も人間とそう変わらないのかもしれない。貴女の知らないところで、人間と刀剣男士が愛し合っている者がいるのかもしれない」
 そこは自分自身のことは隠した。この際告白してもいいが、やはり彼女が元の姿に戻ってからの方がしっくりくるからだ。
「何も、審神者と刀剣男士の関係は一蓮托生というわけではない。兄弟がいて、片一方に愛を注ぎ、もう一方に愛を注がない家庭があるのと同じように」
 兄弟同じくらい愛を注げられたらどれだけいいか。どこかで愛情の歪が生まれる。妬み、羨み、嫉妬など。だから、子を育てるのも恋人を愛することも簡単なようで難しい。


*製本版を購入の上、お楽しみください。*