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Isa
2024-02-27 19:33:15
4070文字
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静寂の雪国(没文)
終わりはあるけど途中がないよくわからない話。多分推しに大好きな町に行ってほしかっただけの話なので、目的は達成しているのではないか。ネヴァンちゃんinメイルシオ回
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2
「──
…………
」
物音も人の声も、ひとつも聞こえてこない。
雪が降るのに音はなく、積雪が辺りの空間全てを厚い静寂で覆い尽くしてしまったように静まり返っていた。降り続ける一粒一粒は外套に落ちただけで解けてしまう頼りなさであるのに、寒さが一度訪れると、以後短い夏が訪れを告げる頃まで、町を覆う雪が完全に解けることはないのだという。
オーデンセは年中暖かく、セールンドに雪が降ったこともなかったので、天地どこに目を向けても全てのものが白く染まっている様子は、まるで別世界のように見えた。
港は流氷によって完全に封鎖されている。この町は領都から程遠く、航路が使えなくなると商人たちの訪れは極端に減ってしまう。陸路でここまで来る者はほとんどいない──が、セキレイの羽は、こうした小さな町に繋がりを持つ商人を支援するという形で、小さな町の長い冬を支えていた。支援とはすなわち、旅慣れた戦闘力を持つ者たちを護衛につけるということだ。
「人手は足りてるし、無理に着いてくる必要ないわよ」
とベルベットは言ったが、ネヴァンはその護衛の任を引き受けて、ここまでやって来た。ライフィセットが同年代の友人と遊ぶ日と予定が重なったので、ベルベットが護衛を彼抜きで引き受けたことを、ネヴァンはライフィセット当人から聞いていたからだ。
本当は一緒に行きたいけど、と複雑そうな顔をして言ったライフィセットの気持ちを、果たしてベルベットは知っているのだろうか。ネヴァンには知る由もない。ベルベットは「この世界でできた友だちだって大事にした方が良いでしょ。特にライフィセットは」と言った。特に、というのはどういう意味だろうかと思ったが、ベルベットがそれ以上何も言わずに荷解きに掛かってしまったので、ネヴァンは尋ねる機会を逸してしまった。
アイゼン、ロクロウ、スレイ、ミクリオが荷運びを、ベルベットは事務作業を手伝っている。ネヴァンは早々に追い出されてしまった──もう一人と共に。
「何じゃのもー、相も変わらず辛気臭い顔をしおってからに」
「
……
マギルゥ様?」
突如降って湧いた声、奇妙な口調に、ネヴァンは前後左右に頭を向けて声の主を探したが、その姿は見当たらなかった。「こっちじゃよ」という全く当てにならない指示に、それでも声のした方向、つまり視界上方へと視線を向けると。
にい、と片頬を持ち上げて笑う、一枚の大きな紙の上に座った、「もう一人」の姿がそこにあった。そういえば彼女は飛べるのだった、魔女の名乗りは伊達ではないらしい、と妙に感心してしまう。
マギルゥは高度を下げて地面に降りると、その紙──式神というらしい──を小さくして仕舞い込んだ。指一本を振って自在にそれを操るさまは、まるで手品を見ているようだ。マギルゥは慣れているのか雪の道をすたすたと歩きネヴァンの顔をじっと睨むように見た。思いがけず鋭い光をそこに見た気がして、ネヴァンはややたじろぐ。
「凡人にとっては命懸けの道も、お主にとってはただの気晴らしじゃろ? 少しは気も紛れたか、と聞きに来たんじゃが、その様子では全くもってダメらしいのー」
「き、気晴らし、というわけでは
……
。私はライフィセット様から話をお聞きして。ちょうど手も空いていたので、お手伝いができればと」
一瞬、図星を突かれたような気がしてネヴァンは言葉に詰まった。だがすぐに思い直して訂正しようとする。マギルゥは肩を竦めた。ネヴァンの言葉を少しも信じていないように見える。相変わらず底の読めない人だ。
珍奇な格好のほとんどは今は外套の下に隠されてはいたが、とんがり帽子だけは雪の中で鮮やかな色を示したままで十分に目立っている。落ち着きというものがかけらも感じられない格好、どこか達観したような物言い。自分より多く歳を重ねているのだろう(とは決して本人には言わないが)ことは理解できるのだが、感情の上ではそうと思えない。決して幼子のように思えるわけではないが、彼女にはいつでもどこかにちぐはぐさを感じていた。
本音を言っているのかと思えば冗談で誤魔化して、しかしそれが嘘か誠かは少し見方を変えるだけでひっくり返ってしまいそうだ。元の世界における彼女の仲間たちは、魔女の真実を見分ける手品のタネを知っているのだろうか。ネヴァンにはわからない。
「そういえば、この町はベルベット様たちの知っている町に似ているとお聞きしましたが、そうなのですか?」
「エレノアもじゃが、お主も大概、話の逸らし方が下手じゃのー」
マギルゥはにやにやと意地の悪い笑みを浮かべながらも、ネヴァンの苦し紛れに乗って「メイルシオのことじゃろうな」と答えらしい単語を返した。そのことにひとまず安堵して、メイルシオ、という聞き慣れない町の名前を舌に転がす。
「儂らが元の世界で訪れた、雪深い小さな町
……
というか、あれはほとんど村じゃったな。さらに雪原を越えると火山がある、そこから採れる鉱物資源で何とか成り立っておるような場所じゃったよ。災禍の顕主に襲われて、住民らはいなくなってしまったが」
「災禍の顕主、って」
それは確か、元の世界でベルベットに付けられた呼び名だ。穢れと呼ばれる、人の負の感情に似たものが帯びる、呪いのような力を多くまとう者。人の世を混乱に陥れる「悪」がそう呼ばれるようになると聞く──が、ベルベットがそれほどの人間には見えない。詳しいところを聞いたわけではないが、彼女もまた、奥底には優しい心を持っているのだ。何かの事情があったのだろう。たとえばネヴァンの主人が、煽動された人々から悪魔と呼ばれたように。
「そう、ベルベットじゃよ。あの時のあやつは面白かったのう。鳩真似も恥じらう乙女が悪の魔王の真似事とは
……
思い出しても面白いわい」
「魔王
……
」
「魔女の座は譲れんからのー」
マギルゥの表情はあくまで楽しげだ。仲間であるはずのベルベットがそのように呼ばれることを面白がっているような表現は、ネヴァンにとって好ましいものとは言えなかったが、自分の感情が他の誰にでも当てはまると思い込むのは健全な思考ではないだろう。魔女を名乗るマギルゥに、ネヴァンの考えは及ばない。それだけの話だ。
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