「今日お休みで良かったですねえ」
「ええ、本当に」
ご飯をよそいながら振り返ると、降谷さんは味噌汁を食卓に並べていた。今日はわかめと豆腐と油揚げ。我が家のスタメンである。おかずは目玉焼きとウインナーとサラダ。これぞTHE朝食。
ズボンから伸びる尻尾を見ていると、お箸を持った降谷さんが「気になりますよね」と眉を下げた。そりゃあ心配になるに決まっている。こんな夢みたいなこと起こるとは思っていなかったし、なんならまだ夢を見ている気でいる。SF
――少し不思議
――? いや、DF
――大分不思議
――だ。
お椀の左隣にご飯のお茶碗を置いて左上に目線を上げた。
「気になる、というか」
降谷さんはじっと私を見ている。瞳がゆらゆら揺れて、不安げにぴくぴくと耳が動いている。ポーカーフェイスが得意な降谷さんの心情が筒抜けだ。
「こんなこと言われると嫌かもしれないんですけど、可愛くて目が離せないんです」
朝起きてから思っていることを言うと、降谷さんは目を丸くした。
後で吸わせてください、と言うと少しだけなら、と彼は困ったように相好を崩した。いいんだ。断られると思ったのに。言ってみるものだなあ。きっとまだ降谷さんは混乱していて正常な判断ができないんだろう。私が椅子に座ると、降谷さんも座った。
気のせいか味噌汁をいつもよりゆっくりと啜る降谷さんに、猫舌って本当だったのかと観察していると、「なんですか」と上目遣いで不機嫌そうに視線を返してきた。私の考えていることなんて分かっているくせに。
「玉ねぎとかチョコレートとか食べない方がいいんですよね。献立気をつけなきゃ」
猫にとってネギ系の野菜やチョコレートは毒だ。降谷さんの身体は人間かもしれないけど、少なくとも猫の要素が入っている。影響があるかもしれない。目の前の彼はぱち、とひとつ瞬きをして目玉焼きの黄身を割った。とろりとした黄色が流れていく。うん、今日も良い半熟具合だ。
「そうかもしれませんね」
「用心に越したことはないですもん」
心なしかしょんぼりしているように見えるのは、降谷さんは食べることが好きだからだ。食事が制限されるのは嫌だろう。
ウインナーを噛じる八重歯が鋭い。あれ?
「降谷さん、口を開けて?」
ウインナーを咀嚼してから黙って口を開けた。やはり。上の八重歯が伸びて牙になっている。
「わ、牙が生えてる!」
「そう」
歯を磨いている時に気づいたそうだ。俄然猫っぽい。いや、耳と尻尾だけでも猫っぽさはMAXに近かったけど、牙が加われば百人力だ。
「間違えて下唇噛まないように気をつけてくださいね。絶対に痛いです」
椅子に腰を下ろすと、「本当だね」と降谷さんは笑って頷いた。拗ねている顔も可愛いけれど、やはり笑うと彼は一層可愛い。今日起きてから何回「可愛い」と言っただろう。あまり覚えていない。
だって私は降谷さんも猫も大好きだから仕方がない。
続:
猫の日さん
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