いまち
2024-02-21 21:01:09
12748文字
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右大将殿とおんなのこと時々ワニちゃん

モブ隊員(インプっぽいやつ)の右大将と不審者の観察記録(途中)。サブタイはそのうちちゃんとつけます。たぶん。


#2 ……おや!? 右大将殿のようすが……

 あれからずっと娘は人懐こい笑顔で我々の後をついてまわっている。互いに蟠りが解けたせいか、以前よりずっと朗らかな様子だった。。
 貸し与えた外套を羽織り、ぴょこぴょこついて回る娘はすっかり隊に馴染んでおり、見ていて実に心が和んだ。

「すみません、マントまで借りちゃって」
「構わない。お嬢さんの服はいささか目立つからね、着ていてくれた方が助かるんだ。それに――
「それに?」
……あぁ、なんだ。人間の女性は身体を温めなければならないそうじゃないか。しっかり着込んで暖かくしてくれ」
「えへへー、お気遣いありがとうございます」

 いつもと変わらぬ笑顔を見せてくれた娘に安堵した。危うく口を滑らせるところだった。
 娘に外套を渡したのは身を隠すのに役立つからではあるが、もう一つ理由があった。
 どうやら銀の梟に彼女の存在がそれとなく漏れているらしい。それだけであれば、我々としても隠しているつもりはないのだからどうということはない。
 しかし、鉄の者の中には娘に対し、邪な思いを抱いている者がいるとのことだった。彼奴等がそんな話をしていたから全員川に放り込んで砦に返してやった、と、斥候から戻った猪の者が鼻息荒く騒いでいたのはついさっきのこと。
 我々の感覚では娘は赤子のように感じるが、娘曰く自身は成人した女性だそう。だから、そういった目で見られてもおかしくないのかもしれない。ひとしきり騒いだ後、思い出しても悍ましい言い草だった、と、猪の者は言っていた。
 一体どれほどの雑言を吐いていたのだろう。知ろうとは思わないが。

「? どうかしたんですか?」
「いや、なんでもない」

 娘自身の強さは知っているから、守る必要は恐らくない。けれど、鉄の者の汚らわしい欲望に晒されてこの愛らしい笑顔が曇るところは見たくない。そう思いかぶりを振った。

……ふぅん」

 猪の者から報告を受けたリリア様は、ちらりとこちらを見ると、不快そうに顔をしかめた。

+++++

 行動を共にするうち、始めは娘を警戒していた右大将殿も、最近では打ち解けてきたらしい。
「おいガキ」
「ガキじゃないです、大人です」
「はっ! んなこたァ俺の歳越してから言ってみろってんだ」
「無茶言わないでくださいよぅ」
「ならガキじゃねぇか」
「うー……
 だからだろう。こんな、たわいないやりとりを見ることも増えてきた。
 リリア様と言葉を交わす間の娘は普段以上に幼気だった。リリア様とはまるで友人のように接していて、それがまた実に愛らしかった。
 そんな姿に我らは心を温めていたが、バウルは思うことがあるのか、リリア様と人間が話をしているところをじっと睨んでは眉間に皺を寄せていた。
「おい人間! 右大将殿の回りをウロチョロするんじゃない!! 弁えろ!!」
「うえぇ!?」
 そう怒鳴ることもあった。我々にはリリア様が人間にちょっかいをかけているようにしか見えないのだが、バウルにはそうは見えないらしい。
 しかし、リリア様と娘との間について思わないことがないわけではない。リリア様は娘に対している間はちょっかいをかけているようではあるが、料理や薬を作っている間なぞは物陰から覗いては険しい顔をしていた。
 もしかすれば、我々に言わぬだけで気懸りでもあるのかもしれない。
 そう思い娘が狩りに出ている間にリリア様に問うてみても「怪しい動きがないか見ているだけ」と言う。ならば我々が見張りに着くかと伝えてみての、不要とあっさり言い捨てられてしまった。
 ならばきっと、リリア様なりにお考えがあってのことなんだろう。

 そうであるなら、我々にできるのは邪魔をしないだけだ。リリア様の警戒している様を気取られぬよう、いつも通り娘に手を貸し、喜びそうな物を与えるようにした。
 恐らく、これで間違いはないはずだ。娘が我らに気を取られていれば監視もしやすいはず。なのに、リリア様は我らに対し「ガキに現抜かしやがって」などと呟いていた。……現を抜かしているつもりはないのだが。

+++++

 娘の動向を見張るにしても我々だけではいささか心許ない。リリア様が人間を気に掛けているらしいことをバウルにも伝え、対策をとることとした。
 が、バウルもまた、我々があの娘に対し甘すぎるのどうのとちくちく言ってきた。事実とはいえ、改めて言葉にされると胸が痛む。だって本当にあの娘はかわいらしいのだから、愛でるなと言う方が無理がある。……と、思う。
 バウルはじっと眉間に皺を寄せ、思案する様子を見せるとおもむろに口を開いた。
「だが、たかが人間ごときに右大将殿の手を煩わせるわけにはいかないのは確かだ。なら……
 そして右大将殿だけに見張らせるわけにはいかないと、就寝時の人間のことはバウルが見ることとなった。元は好きな所に寝かせていたが、それではリリア様もゆっくり休めないやもしれぬ。なんせ、リリア様は四六時中気を張っている身、眠る間だけでも充分に休んでいただきたい。そう考えてのことだ。

「はァ!?」
 しかし提案すると、リリア様はまたも顔をしかめた。勝手に決めたのはよくなかったのだろうか。しかし、我々としてはリリア様の身体が第一だ。
「そりゃあどうなんだ? ガキっつっても嫁入り前の女だろうが」
「右大将殿の手を煩わせるわけには参りません、私が責任もってこの不埒な人間を監視いたします」
 キリッと言い切ったバウルに両隣から感嘆のため息が漏れるのが聞こえてきた。やはり、バウルは頼りになる。娘に骨抜きにされかけてる我らとは大違いだ。そんなバウルをリリア様はじぃっと見つめ、ついで、娘に目を向けた。
「オメーはどうなんだ?」
「えぇと、皆さんが安心できるならそれでイイです。やっぱり私、アヤシイですからね」
 娘はのほほんとした顔でそう言うと、カエル入りのスープをもぐもぐと頬張った。
「はァ!? そもそも、なんでバウルなんだ?」
「えと、妥当だと思いますよ?」
「理由は?」
「バウルさんが一番私に興味がないからです」
 それはそうかもしれない。何の根拠があるのか、この娘はバウル殿が己に対し一切の興味や好意を持っていないと思っているらしい。バウルの態度からすれば、そう思ってしまうのは仕方がないだろう。
 けれど、態度こそ冷たくはあるものの、バウル自身は娘の料理の腕も戦闘技術も認めていることを暗にこぼしていた。聞き覚えがあるだけに、すれ違いが少し侘しく思えた。
 かと言って、我々では人間に与してしまいそうではあるから、娘の判断は非常に正しい。情けない話であるが。
 我々の、娘の判断をリリア様はどう取るだろうか。リリア様はしばしの間顔のしかめると、やがて「勝手にしろ」と吐き捨てると顔を背けた。
「右大将殿」
「好きにしろっつってんだ。ただし! 問題は起こすんじゃねえ、いいな!」
「ハッ!!」
「はい!」
 ……やはり、勝手に決めたのはよくなかったのかもしれない。あまり態度に出さないようしているのだろうが、リリア様は明らかに機嫌を損ねていた。

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