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つきのせ さぶろく
2024-02-18 15:12:36
958文字
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さざんかの味がした
【自探SS】庭師HO1 雫 曜星の話。あれから。
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さざんかの味がした
二月二十九日が四年に一度だけでよかった。毎朝そんなことを思っている。
カラーボックスの上にはあのペンダントと遺骨がある。グラスに水を注いだだけの花瓶には、花屋で見繕った適当な花が一輪ある。名前は覚えていない。ただ、彼女に似ているような気がしたことは確かだった。
彼女はこの部屋に何度訪れただろうか。何度2人で夜を過ごしただろうか。何度言葉を交わして、何度その視線を合わせただろうか。長い年月のせいで、その回数はもうわからない。そのくらい二人でいたのだと思い込みたかった。
暗いトンネルの奥で足音がする。誰かが走っている。息も絶え絶え、震えそうな足に鞭打って走り続ける。止まりそうな呼吸を吐き出して目が覚める夜三時。天井と目が合った。
夢の残り香に反応して心臓がうるさい。その音に乗って呼吸も速い。意識すればするほど呼吸が浅くなり、目は乾いていく。もはや飛び起きるように棚の薬箱へ手を伸ばした。日付を超えたら回数はリセットされるとしていいだろうか。昨日は何回使った? もうわからない。しかし、この衝動を抑えなければならなかった。オレンジの封を切って少量の薬液を流し込む。独特な風味が、世を離れようとしていた意識に凪をもたらした。静寂に膝を折る。この時間は、車の音すら聞こえない。こんな夜に、今まで何をどうしていたんだろう。
疑問が渦巻くこの脳は、それでもまだ彼女の声を覚えていた。今はもう、花に塗れた骨となってしまった彼女の、透明な声を。また心臓が波打つ。遠くの耳鳴りが、意識を切り裂こうとしている。
そうか、遺骨。
切り裂かれんとする意識が繋がる。手を伸ばしたのは小さな巾着で、そこには彼女がいた。花の香りがするように思えるのは、彼女の最後の姿が故だろうか。
喉が鳴った。ゆっくりと口腔が乾いていく。その白いかけらを一つ手に取って、指先で撫でるとざらざらとした感触。乾いた口に唾液。緩む舌。
その時だけ、ゆっくりと息をしていた。
唾液を飲み込んで、袋の口を縛った。項垂れて見下ろした花は、夜だからか萎んで見えた。朝日はまだ来ない。
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