ree_1116
2018-06-20 18:44:03
34780文字
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冬花火 (ルロー)

転生ネタ。診断さんから。R15でお願いします(^-^)




そう、俺だ。
俺が、

真上にある太陽を見上げながら、少し離れた場から聞こえてくる声に頷いていた。
俺が知っていること。
その後にあったこと。
後悔しているわけではない。どちらかというと、夢を叶えたという真実に良かったと思っている。
だって、あの時はああするしかなかった。
でもその結果、あいつに過酷としか言えない時間を与えてしまった。共に生きてきたやつらを見送り、変わることのない姿のまま、長い長い時をひとり生きていかなければならないと思っていたが、骨屋がいてくれたからこそ、あいつはひとりぼっちではなかった。家、という言葉にここが骨屋があいつの帰る場所になってくれているという事実にひどく感謝した。
だから、今。
この胸にあるのは後悔ではない。
決して、後悔ではなく。
ひとつ賭けたことが成されなかったという現実に悪いことをしたという謝罪の念だ。きっと残したものに真摯に向き合ってくれたのだろうと思う。一生かけてくれたのかもしれない。でも、成されなかったということは、俺よりあいつの方が辛かったのかもしれない。

……悪かったな」


*


どうしてそんなことをしようと思ったのか。
はっきりとは覚えてないが、いつもはこれでもかと煩い奴が静かに眠っていたからなのかもしれない。
ひとつの戦闘を終え、傷付いた体を診ていた。さっきまでああだこうだと喋ってたやつが気付けばくたんと寝ていて、そりゃあれだけ暴れれば疲れもするだろうとなんてことなく、寝入った顔を見ていた時に、不意に体の中も診てやるかと思ったのが切欠といえば切欠だった。
そして、みつけたもの。
これは駄目だと直感的に思った。今の医学では治せないもの。俺の力でもどう処置していいのかわからないもの。ジワジワと蝕むそれにこのままでは長くはないと痛感した瞬間には使っていた。禁忌のようなその能力を。
そして、瞬時に気付いてしまった。
俺、

「ああ

そうか、と。
刹那に至った答えに、

「馬鹿だな」

自分のことを笑いながらも、懸命なまでに必死に手を動かしていた。
不老手術。
その存在を知ったのは、数年前のことだ。偶々指針が示した先に、偉大な医者がいた。是非話しがしたいと会いに行って、偶々偶然オペオペの実の話しになった。確か助手はいないのかという何気な疑問に、少し前に馬鹿息子が出て行ってね。悪魔の実の能力者だから海に落ちたりしないといいんだが、と冗談半分な会話から続いたこと。
過去にその実を宿した医者を知っている。そいつは不老手術なんて馬鹿なことを、
初めて聞いたそれに、そんなことが、と思った。
自分の命と引き換えに、永遠の時を与える力。
使うんじゃないよ、と言われ、使わないと答えたってのに。
遂げたいことがあった。それを終えたとしても、俺には大切な仲間がいる。共に生きる奴等がいる。知りたいこともある。だから絶対どんなことがあってもと思ってたってのに。

「この様かよ」

永遠なんて、過酷だ。
ひとり、なんて残酷でしかない。
でも、生きていて欲しいと切実に思って勝手に植え込んでいる、命。

……好きだよ、麦わら屋。好きだ」

今しがたやっと気づくことの出来た、想い。
それを、声にしながら。
なのに、その言葉じゃ足りないと、

「愛してるよ」

なんて。
まるで、呪いをかけているかのようだ、と思いながらも何度も何度も繰り返して。
だから、生きてくれ。だから、と処置を終えた。
Dr.くれはの話しでは不老手術を行った医者は暫くは生きていたという。何処かでもうすぐという兆しを感じ、最後にあんたに叱られに来たと能力のことを伝えたと言っていた。ということは、俺にもそのうち予兆が訪れる。その前に、消えればいい。
ひとつ、置き去りに。
きっと、という希望に賭けて。


その直後からだ。
麦わら屋が俺のことを好きだと言い出したのは。
突然のことに、慌てたのは俺だ。
そんな素振り、今までなかった。確かに嫌われてはいないだろうが、それでも好きに至るようなことなんてなにひとつなかったってのに。
不意に過ぎったのは、自分の声。
好きだ、と。愛してると。
何度も何度も繰り返した、自分の声。
呪いのようだ、と思ったそれ。

「トラ男、俺」
……待て」

このタイミングでなんて、あんなことを思いながら声にしながら手術を行った所為としか思えない。

「お前のこと」
「麦わら屋それは」
「好きだ」

違う、と言おうとしたのに、出来なかった。
埋め込んだ、命。それと一緒に俺の想いが感染ったに過ぎないものでも何でも、

「うん、俺好きだ」

困惑したままの俺の手をキュッと握って、好きだ好きだというやつに、

「そうか」
「そうだ」

頷くでもなく、否定するでもなく。

……そうか」

呪われててくれと思ってしまった。
どうせ、すぐ終わることだと思ったのに。




永遠を誓わせてしまっただ、なんて。
いくら愛してるからってそんなことを、


*

後悔、というならばこっちだ。
どうしてあんなことを求めてしまったのだろうか。

……悪かったよ」

誰にも聞こえないように、二度繰り返し小さく空に告げて。
もういい加減、と立ち上がろうとしたその時。
聞こえた、声に。
現れた、人物に。
見えた、何も変わらぬ姿に。
一瞬にして陥ったのは、否定していたはずの後悔の念だった。俺の所為でと思わず、一歩下がった途端、

「うわ、」

一気に足場が崩れた。
ガラガラという音とともに、見えていた景色が一変する。前世であればどうにでもできたとしても、今の俺は落ち行く重力に逆らうことなど、出来るわけもなく。
ああ、俺このまま、でもこれでいいのかもしれないと落下する最中、思ったってのに。何処からともなく伸びて来た腕に引っ張られ、気付けば強く抱き締められていた。

トラ男」

ああ、トラ男だ。
すげぇトラ男だ。

くいと、頭を引き寄せられ、間近から聞こえてくる声に。強く痛いほど抱き締めてくる腕に。体温を通じて切実なまでに伝わってくるものに、馬鹿とその首筋に顔を埋めた。

言っただろう。
俺、言ったよな。
死ぬまででいいって。
なのに何でこんな、強く優しく抱き締めてんだ、お前は。
なんで、お前は、
なんで、俺はこんなにも、



*

あ、と不意に思い至った。
もうすぐ、と期限を何故か明確なまでに感じ取って。
先ず、と筆を取った。書き記した文面に許せと、いや許さないでくれ、と相反することを思いながらも、最後に自分の名を連ねた。
クルーたちには全てを告げた。皆が皆泣き出し、その場に崩れ落ち。そんな様子に悪いなと声にすれば、更に泣き声は大きくなって。本当に悪いな、と。こんな船長で、と嘲笑を浮かべた俺に、

「幸せなんですね」

問うてきたのは、ペンギンだった。
幸せ?
繰り返して、そうだなと。そうか、俺幸せなんだなと頷けば、わかりました、と涙を浮かべながらも笑って。
託したのは、今後のこと。俺だけの勝手な願い。
墓はいらない。海に。俺の死因は誰にも伝えるな。お前らも幸せに。

見慣れた部屋。ずっと、過ごしていた船長室。
ベッドに横たわり、空の見えない天井を見上げる。
潜水しているからこそ、窓に映るのも一面の青い世界で。
なのに、不意に重なった色は白だった。
真っ白なそこに父様母様、ラミの姿がどうしてか見えて。
もうすぐ会えると、笑っている家族に思い。
いつの間にかちらほらと降り出した雪の風景に、大好きな人を想い。
俺、自由に

……生きたよ。コラさん」

力なくふらりと、彷徨った手の先にあの日の笑顔が浮かんで。
それだけで良かったってのに。
目の前。ゆらゆらと何かを求めるかのように動く指先には、あいつの顔。

「悪いな

憎んでくれていい。恨んでくれていい。許さなくてもいい。
だから、

「生きて、くれ」

俺にとっての最高の幸せの形なんだ。
お前が生きててくれることが、

だからって、勝手にしたことは誰からしてみても、馬鹿としか言いようのないものだ。

「気まぐれってことにしておけ」

愛してると伝えてしまったことには、後悔している。
なんであんなことしてしまったのだろう、と今でも悔いている。

だから、

……死ぬまでで」

いい。
忘れてくれ。
頼むから。
あんな呪いのような、言葉。
憎んで、恨んで、罵って、俺を許すことなく。


なかったことに、



お前は自由に、




*


なのに、


「トラ男」

ただただ繰り返される、名に。
キツく痛いほど抱き締めてくる、腕に。
襲ってきたのは、

「トラ男、俺。俺な」

耳元から聞こえてくる声に、駄目だと痛感したからこそ、

「待て」
「俺、」
「待て、麦わら屋」
「お前、」
「待ってくれ」

それまでどうにもすることの出来なかった掌で、そいつの肩を強く掴めば、声は止んだ。
どうしても辛くて、更にぐっとそいつの首筋に顔を埋めた。
床が崩れ落ちる直前に見えた、顔。姿。
俺の知っているままの、記憶にある前世の麦わら屋でかないそれに。本当に今この瞬間まで、時を止めたまま生きてきたんだ、と実感した。自分が仕出かしたことだってのに。その真実にひどく、

生きててほしいと思った。
生きてくれてれば、と。
でも、こんな

……トラ男」

何処か優しさを伴った声はまた俺の名を紡ぎ、待ってくれと頼んだにも関わらず、先ず問われたのは、

「お前、俺のこと覚えてんだな」

という、確認だった。
覚えて、

「ああ、……覚えてる」


*

花を見た。
夜空に咲く、大輪の花を。


あれは初めての家族旅行でのことだった。
いつも働きっ放しの父と母に、患者さんからの感謝の形だった。懸賞に当たったとか言っていたらしいが、嘘か本当かはわからない。ほぼ休むことなく働いていた父に、偶には家族で旅行でもと、くれたという。折角の厚意を無碍にも出来ず、それじゃあ一泊で行こうかとやってきたのは、異国の地。東にある島国だ。その国は、過去鎖国をしていたので、独特な文化が残っていると聞いた。その言葉通り、住む街とは全く異なる街並みに建物に、ついた途端大喜びしたのは、ラミで。とても素敵な温泉があるみたいでね、と母さんもすごく喜んでいた。
その時、だ。
ちらほらと舞い散る雪の中に、浮かんだ花。
花火なんて今までだって見たことがあったというのに。
旅館の窓。過去。ワノ国と呼ばれていた頃の建物をそのまま使っているという一室。母さんとラミはまた露天に行ってくると父さんと二人でいた部屋の中。少し疲れたなと布団に横になってうとうととしていたけど、これから花火らしいぞというので、なんとなく起きていた。
その時。あがった、花火。
何かと重なったような気がした。
何故か自分の声が聞こえたような気がした。

……え?」

ずっと、忘れないんだろうな。

ふと過った声に連なるように、次から次へと浮かぶもの。
なんだこれは、と疑問しかなかったというのに、前世だという確信があった。
俺の前世。
俺であって俺ではない、俺の一生。
走馬灯のように駆け巡る過去に、知らずに涙が流れていた。
ああ、俺。そうか、俺。俺は、

「ロー、どうした?」
「父様

俺の様子がおかしいことに気付いた父がふと笑みを浮かべ、ゆっくりと背を撫ぜてくれて。
今生でもまた父さんの息子として生まれることが出来て良かったと思いながらも、そのまま花火を一心に見上げていた。


花を見た。
花火を見た。
あの日、あいつと二人で見たような光景の、夜空に咲く花を。




「あら、お帰りなさいロー」

戻った先、お土産持って行ってと母さんに言われやってきたのは、幼馴染の家だった。家族で旅行に行っていたことを知っていた彼女はそんな言葉で俺を出迎え、ありがとうと持ってきたものを受け取った。
何処かで深い縁でもあるのだろうか。
前世でも共に旅したことのある彼女と、幼馴染なんて。
そうして、何故か不意に太陽を見上げた俺に、

「なにかあった?」

過去。ニコ屋、と呼んでいた彼女からの問い掛け。
どうしてだ?と逆に尋ねれば、なんとなく、と。だから、別に何も、というつもりだったってのに、気付けば花火を見たと告げていた。

「花火?」
「ああすごく綺麗で」
「そう」

良かったわね、と笑む彼女はきっと前世の記憶を有してないのだろうと思った。
それもそうだ。前世なんて覚えているほうが稀だ。だからこそ、彼女にも。それから暫くして出会った黒足屋にも鼻屋にも何も問うことなく暮らしていた。夢に過去を見ながら、生きていた。

でも、ひとつ。
彼女たちに記憶があったとしたならば、確かめたいことがあった。

ずっと、確かめたいことが、


*

……全部じゃないかもしれねぇが覚えている。俺が、お前にしたことも」
「トラ男?」

肩を掴んだままの指先に力が篭ったのがわかったのか、体に巻き付いていた腕を解き、俯いたままの両の頬に掌を這わせつつ、名を呼ぶ声に、耐え切れなくなった。
どうしてお前は、

悪かった」
「え?」
「許せとは言わない。憎んでくれていい、恨んでくれて構わない。殺したいなら殺してくれ。好きにしてくれ」
「お前、何言って」

心の何処かで。
永遠なんてない、と思っていたのかもしれない。
いくら悪魔と呼ばれるものの仕業でも、不老不死なんて、と。
延命、なのだと思っていた。
なのに、当時のまま、同じ姿のまま、今を生きているだ、なんて。
残酷だ。ひでぇ。最悪だ。最低だ。気まぐれなんて言葉で済まされるわけもない。
俺はなんてことを、

……トラ男、俺な」

頬にある手を取り首に押し付け、このまま絞めてくれと懇願のように告げる俺に。その手を頭に回して、キュッと今度は柔らかく抱きしめてきたやつは、聞いたことのないほど優しい声で呼んでから、

「毎日、楽しいぞ」

ぽんぽん、とまるで子供のあやすかのようにしながら、

「色んなところに行って、色んなやつに会ってよ。毎日、楽しいんだ」

そんなことを言い始めた。
だから、気にするなと言わんばかりに。

「今回の旅でゾロに会ったんだ。あいつよ、相変わらず迷子になってたらしくてよ。修行で村飛び出したんだけど、帰れなくなったとか言ってて。一緒に食って飲んですげぇ楽しかった。その後すぐにチョッパーにも会ってさ。すげぇんだぞ、あいつトナカイじゃなかったんだ。人間でよ。いやぁ驚いたのなんのって、そこで」

ししし、と笑って告げられることは本当のことなんだろう。けど、だからって、

「麦わら屋、俺は」
……ありがとな、トラ男」
「え?」
「お前のおかげで、海賊王にもなれた」
「それは」
「俺はずっと海賊王のまま、生きてるんだ。すげぇだろ。それによ、今日はロビンにも、お前にも会えた。すげぇ嬉しい」
「っ、」
「だから、ちゃんと顔見せてくれよ」

な、と再び頬に触れてきた手にいざなわれるように、それまで見ることを怖がっていたというのに、ゆっくりと、俯いていた先があがる。そこに居たのは、

……麦わら屋」

紛れもない、その名を持つ海賊王で。
目の下の傷。黒い髪、瞳。日焼けした肌。麦わら帽子のない、背。
冬に咲く花を見たその日から、ずっと恋焦がれていた人。俺じゃない俺が、命を捨ててまで愛した人。どうしてそこまで囚われるのかとも思ったけど、ずっと心に居てずっと想い続けていた。俺の、

「愛してるよ、トラ男」

そと、掠めるように口唇を触れ合わせ、

……それは、俺が死ぬまででいいって言っただろ」
「うん。でも、今のお前は生きてるだろ」

だから、と今度はしっとりと重ねてから、

「永遠だって誓った」

あの日。あの夜。
俺が欲してしまった言葉を、

……馬鹿」

こつんと額を合わせ、やっと笑むことの出来た俺に、ししし、と変わらない顔で笑うから。
どうしてお前は、とどうしようもなくなって、

「俺も、……好きだ」
「うん」
「愛してるよ」

呪いだと思っていたもう二度と言ってはいけないと思っていた言葉が無意識のうちに声になっていた。そのまま、俺から口付ければ触れた先が、良かったと呟いた。

「良かった?」
「本当に足りなかったなと思ってよ」
「なんのことだ?」
「お前が百年じゃ足りないって言ったんだろ。永遠にしといて良かった」

なんでもなく簡単に言ってのける言葉に、浮かぶのはそれほどまでの刻を縛り付けてしまったという罪悪感でしかなく。

……悪かったよ」
「悪くねぇだろ。良かったって言ってんのによ」
「でも、お前」

わかってるのか。
今は、こうして抱き合うことが出来たとしても。
植えこんでしまったものの所為で、俺はいずれお前を置いてまた先に逝く。確実に。必ず。
また同じことを繰り返すだけだ。
変わることのない姿でこの先もお前は、

「あ、それなら大丈夫だぞ」
「大丈夫じゃねぇだろ」
「お前、抜け道みてぇなの作っておいてくれたんだろ」

そうだ。そうだけど。でもそれが叶わないからこそ、お前は今も、

「大丈夫だって。俺さ、チョッパーに会ったって言ったろ」
「トニー屋?」
「おう、そこでよ」


*

「え?本当に?」

思わず聞き返してしまった私に、骨だけの人はカタカタとその骨を鳴らしながら、笑う。
緑に囲まれたそこにぽつんと置かれていたテーブル。下の階から持ってきた紅茶と、手配書を並べて、過去のことを聞いていたその時だった。

「ルフィは不老不死じゃなくなっているの?」
「ええ。ルフィさん、髪が伸びていたじゃないですか。今の今まで完全に彼の時は止まっていたのです。髪が伸びることも爪が伸びることもなかったんですよ。それが伸びているということは、解けたということで間違いないのではないかと」
「でも、どうして」
「きっと、」

すと、彼が持ち上げたのは、一枚の手配書。

……タヌキさん?」
「いいえ、トナカイですよ。我らが船医、チョッパーさんです」
「お医者さんなのね。彼が?」
「チョッパーさんに会われたと仰っていたでしょう。彼宛のトラ男さんが残された手紙に、不老不死を解く方法も記されてあったのです」
「え?そんなことが出来るの?」
「トラ男さんもすごいお医者さんでしたからねぇどうやったのかはわかりませんが、ルフィさんの病を完全に治すことが出来ればという条件で彼の時は動くようにしておいたと。だから、チョッパーさんはずっと不治の病と呼ばれていた病気のことを調べてました。今世でそれが叶ったということなのではないでしょうかねぇ

ふ、と真っ黒な空洞でしかない瞳を空へと向けて、一言良かったですと。

……これからどうするのかしらね」
「共に生きられるのではないでしょうか」
「素敵ね」

ずっと、夢に見ていた人。
過去。前世。
出逢ってもいなかったのに好きな人。
その人と、再び巡り合って恋に落ちて、これからを一緒になんて。

「あら、この人」
「なんですか?ロビンさん」

私も幸せと思って笑ったまま、何気に手にしたテーブルに散らばっているもの。
前世で私の仲間だったという彼らのもの。
その中に見知った人の顔があって驚いた。

「サンジ?」
「ご存知なんですか?」
「ええ、私たちの住む街でカフェを営んでいるわよ。あ、こっちの彼も」
「ウソップさんもですか?」
「ウソップというのね。長鼻くんと勝手に呼んでいたわ」
「ヨホホ」
「彼女も知っているわよ」
「ナミさん?」
「お天気お姉さんね」
……そうですか」
「会いたい?」
「そうですねぇ」
「なら、ブルックも一緒に私たちの街にくればいいじゃない。きっとルフィもローと一緒に来るのだろうし」
「いえ、私は遠慮しておきます」

骨ですし、と笑うけど。

「変装すればどうにかなるのではない?」
「そうかもしれませんが」

すと、差し出したのは、手。指。骨だけの、そこ。

「以前は牛乳を飲めばあっという間に治っていたのですが、今ではなかなかひび割れが治らなくなってきているのできっと私に残された時間もあと僅かだと思うんですよねぇ」
「そんな……ずっと一人だったのでしょう?折角、巡り合えたのだもの。せめて残された時を一緒に」
「ここには鳥さんもリスさんもいますしね。友達ならたくさん出来たのですよ。それに、船長命令に従い二度目の寿命が尽きるまでここを守りたいと。……一人は慣れていますから」
「そんな淋しいこと言わないで」
「ありがとうございます、ロビンさん。でも、以前は暗い海をただ一人彷徨っていたこともありました。今はこうしてひのもとで歌を歌いながら生きていける。ヴァイオリンもありますしね。私はそれだけで充分なのです」

だから大丈夫なんですよ、というけど。
そんなこと、ルフィが許すのかしら、と何故か思っていた。
きっと彼が、とまだ出会って間もない彼がどうするのかわかっているかのように、思っていた。


*


「そ、そうか」
「おう!そうなんだ!」

ほら見ろよと、はだけられた先に知らない傷痕。
一年くらい様子見るからって入院させられてよ、と笑うやつの胸元にそと手を這わせ、本当に良かったと思わず、涙ぐんだ。
どうしても、嫌だった。
病なんかにこいつをもっていかれるのが。
だから手術を施し、その病を治す術を他の医者に託した。きっとトニー屋であれば、と。

……あいつには礼を言わないとな」

勝手に押し付けたものを果たしてくれた、医者。
人間になっているというが、今はどんな姿をしているのか。

「チョッパーもこれでトラ男に褒めてもらえるかなとか言ってたぞ」

今度会いに行こうな、というやつにふと思ったこと。

「お前、これからどうするんだ?」

今の今まで。
骨屋が言っていた通り、ずっと海を巡り旅をしてきたのだろう。
死なない体、変わらぬ姿に、一か所にとどまることなく。
でも、これからは違う。といってもこいつのことだから、ずっと海を行くんだろうな、と思いつつ。出来ればと思ってしまったからこそ、問うてみたが。

「トラ男と一緒に居る。駄目か?」

即答でしかないものに、嬉しみが溢れた。

「なら、俺の住む街に来るか?」
「うん、行く」

喜びの表情のまま、またギュギュっと抱き締めてくるやつを抱き返す。
それだけじゃ足りないと顔を傾ければ、すぐさまキスがやってくる。

「ん、」

漏れる自分の声は、なんだこれと恥ずかしくなってしまう程、甘くて。のめり込むように合わせれば、僅かに開いた先から舌が入り込んできた。
夢に見るだけで、体温なんて感じなかった。感触なんて、どこにもなかった。
いつかどこかで、とも思っていたがそんなこととも思っていた。
この前の調査でとなんでもなくいつも通りにロビンが見せてくれたもののひとつ。そこに映っていたものに、確かめたいと思った。だからこそ、今まで誰にも告げたことのない、夢物語を語った。そうして、やって来た海の真ん中にある島。確かにあった、石。もしかしたら、俺が居なくなってからトニー屋が解いてくれているかもしれないという微かな希望を抱きながらも、知った事実。俺が勝手にやったことは許されることではない。何処かで今も生きているやつに出会うことが出来たら、殺されてもいいと本気で思っていた。散々なまでに罵ってくれと思っていたのに。なのに、永遠と誓ってくれたまま、そのままでいてくれた。
そうか。そうだよな。
麦わら屋はどこまでも麦わら屋だ。

「ぁ、」

絡めるだけ絡めて、呼吸を奪われて。濃厚でしかないキスに眩暈が襲ってくる。それでももっともっと、とそれだけになっていた。上から覆いかぶさるように、しがみ付いて。離れたくないとそんなことを思っていたってのに、いつの間にか体から力が抜け、膝が崩れ、気付けばそいつのが上になっていた。支えてくれる腕の強さに、触れ合う胸元に生きていること、夢ではないことを思い知って、もっと欲しいと懸命に口を合わせていたってのに、

「ぅわ、」

ひょいと担ぎ上げられた。

「麦わら屋?」
「うん」

なんだ、と聞いたってのに、そいつは俺を抱き抱えたまま、スタスタと歩き出し、二つ並んだ扉の右側を開いた。

「ここ、」
「俺の部屋なんだ」

さほど広くもない空間にベッドがひとつ。その上にあるものに、

……俺の」

帽子?
「ペンギンがくれたんだ」

確かにそれは、俺が過去、前世でかぶっていた帽子だ。
その横、俺のに少し被さるように置かれているのは麦わら帽子。

「最初は持ち歩いてたんだけどよ、ボロボロになるってブルックに言われてよ。部屋に置いておいたんだけど、なぁんか淋しそうだから俺の帽子も一緒にお留守番してもらってたんだ」

俺をベッドに下して、帽子たちにただいまと告げたやつは麦わら帽を被ってから、俺にも被せて、

「うん、トラ男だ」

と、今更ながらに言って、距離を狭めてくる。
帽子のツバとツバが重なり、傾く。そのままとさりと落ちてしまったというのに気にするでもないやつは、また口唇を合わせ、ゆっくりと体を倒してくるから、逆らうことなく身を任せれば、二人分の体重を受け、きしりとベッドが鳴った。

「抱きたい」
……っ、」
「もっと触りてぇ」

声と同時にでかい掌が腹を撫ぜ上げる。ピクリ、と震えた俺の頬にチュッチュとキスを落としながら、服の上を行き来する熱に襲ってきたのは、期待と不安だ。

「ま、」
「いやだ」
「嫌だってお前」
「いいだろ」

俺だって、とは思う。思うけど、

「記憶はあっても経験はねぇんだ」
「ねぇのか?」
「当たり前だろ。誰がお前以外のやつになんか抱かれるか」

俺の返答にそれはもう嬉しそうに顔を寄せてくるやつを、馬鹿と押し退けた。

「大丈夫だ、俺が知ってるから」
……お前、知らないだろ」
「知ってるって。覚えてるちゃんと。お前が気持ちいいって言ったところも」
「っっ!」

ふと、今までとは違う笑みを浮かべ、ベと出した舌先が突いたのは、耳たぶで。

「あ、」
「ここも」

次いでぺろりと服の上から舐めたのは、胸元。初めてなのに知っているような不思議な感覚を抱きながらも、素直なまでに反応する体に一気に熱る。俺だってお前に触れてほしいとは思う。思うけど、だ。

「駄目だって」
「なんでだよ。気持ちいいだろ」

そのまま、舌で胸を掠め、掌は腰をなぞっている。
気持ちいい。
気持ちいいけど。でも、

……慣らしてねぇ」
「へ?」
「前ヤった時は……準備してた。少し薬も使ったし」
「薬?」

って、なんだよそれ、とそれまで体を弄っていた手を止め、少し身を起こして不思議な顔をしてるやつに、クソと思いつつも今ここで抱かれて万が一駄目だったらと思ったから、誤魔化すことなく告げた。

……いくら好きでも、体にも相性ってもんがある。抱きたいと思っても無理なことだってある。だから、」

すぐに突っ込めるよう自分で解して、途中で萎えないようにと少量の媚薬を使った。
それじゃなくても、そんな欲なんて持ち合わせていないような男に、野郎同士でなんて実際無理だと思っていた。しかも俺で興奮しろなんて到底無理だと。

「なんでそんなことしてんだよ」
「どうしても死ぬ前に一度でいいから、」

ちゃんと恋人みたいに。
愛されてみたくて。
一度だけ、に賭けた。

「クソ、」

抱かれたかった、だなんて。
何言ってんだ、と腕で顔を隠す。
こんなこと伝えるつもりなんてなかったってのに、




俺のこと好きか?
抱かれて、気持ちよくなって。
いや、ちゃんと最後まで出来たから何処かで心が緩んでしまっていたのかもしれない。少し含んだ薬の所為かもしれない。不意に、口からついて出た言葉に、何言い出してんだ俺と思ったってのに。

好きだぞ。

すぐさま返ってきた答えに、ふわふわしたまま。
連ねていた。

どのくらい。足りない。

繋げる言葉に、自分が何を欲しているのかわかってしまって。
でも、止まらなかった。
そして、もらえた永遠に、心が満たされたからこそ、もういい、と死ぬまでと告げた。
本当にそれだけで良かったんだ。その時だけのことで良かった。
もうこれで、と満足したはずだってのに気付けば俺からも誓ってて、気付けばもう一回と望んでいて自分に呆れたが、欲しがったものを与えてくれることに幸せを感じていた。

だから、許せ。

思わず声にしそうになった言葉は呑んだ。
それは望んではいけないことだとわかっていたからこそ、音にしなかった。
許されるはずなんてないと、


でも、



自ら閉ざした先を解き放ち、俺を見下ろす瞳を見つめて。

……愛してるよ、永遠に」

永遠、なんて。
今まで、ちゃんと理解してなかった。
けど、今ならわかる。

だから、

「抱けよ」

あの夜のように。
記憶にしかないものを、俺にもくれ。


*




「本当、大馬鹿野郎だ」

でも、

……出来ることなら、」

ふと、そんなことを思ったのは、雪が降っているからかもしれない。
ちらほらと、粉雪が舞い散る様をなんとなく見ていたからかもしれない。
いや、もしかしたらついさっき、ウソップから電話がかかってきた所為かもな。また作ったんだ、俺って本当天才だよななんて浮かれながら。はやくあげてぇなぁと。

「ほんとにな」

朝から降り続ける雪に、客足はぱったりだ。通りを歩いている人影も殆どなく、ぶっちゃけ暇だったからなんとなくカウンターに座り、煙草を吸っていた。

またな、サンジ。

それが最後の言葉だった。
だから、俺はその『また』を待っている。ずっとここで。
本当は、今も何処かで生きているかもしれない船長を探しに行きたいと思っているが、俺が前世を思い出したのは、この店を構えてからだった。家族の反対を押し切って、手に入れることが出来た自分の店。お前に店なんぞ無理だ、と言われまくっていたからこそ、ちゃんと出来てることを示したくて、必死だった。店をオープンした日にローが来たが、その時の俺には過去の記憶はなく。思い出したのは、なんてことない店のメニューにと作った好物弁当が切っ掛けだった。あれこれ何処かで、と並んだもんを見て、ああこれ、と最初に脳裏に蘇ったのは、他でもない雨に濡れ転んでボロボロになってた弁当を美味い美味いと食った船長の笑顔で。そこから少しずつ少しずつ、思い出した。既に常連になっていたローは相変わらず、俺を見ても顔色一つ変えないから、こいつは知らないんだなと何も問うことはなかった。でも、会わせてやりてぇとずっと思ってて、出来ることなら叶えてやりてぇと思うようになっていた。そのころ、突然店にやってきたのが、ウソップだ。すっげぇ美味いカフェがあるって聞いてよ、マスターの容姿聞いたらぜってぇお前だと思って居ても立っても居られなくなっちまって、と嬉しそうに話すやつに、俺も嬉しくなった。ウソップは俺の店の名がオールブルーと聞いて、前世の記憶があると確信していたらしい。その日はずっと二人で色々話しをした。次の日にロビンちゃんが来て、ウソップと会ったことで浮かれていた俺は、つい初対面の俺が知るはずもない名で呼んじまって。どうして知ってるの?会ったことあったかしら?と首を傾げられて滅茶苦茶に焦った。この街に住むレディのことならなんでも知ってます。貴女ほどの美しい人のことなら尚更、と適当についた嘘はどうやら信じてもらえたようで、ナンパねと笑われた。
ローと幼馴染と聞いて驚いたが、何処かで縁があるんだろうななんて思っていた。

「って、そういえば」

ここ数日、ローのやつ、店に来ないな。
ロビンちゃんは、相変わらず世界中にあるもんを探してることは知っているから、暫く姿を見せないことはあるけど。ローが来ないってのは、本当に珍しい。
どうしたんだろうなぁと口に咥えたものを吸い込みつつ、また窓の外を見る。
途端、すと隠れた影に笑った。
まぁ別にいいんだけどな、と休憩を終いにして、グラスでも磨くかと立ち上がった時、

「こんにちは、寒いわね」

入ってきたのは、ロビンちゃんで。

「いらっしゃい。結構な雪だよね」

ふふ、と笑いながらも珍しくカウンターに座り込んだ。

「コーヒー貰えるかしら」
「喜んで」

巻いていたマフラーを傍らに置き、そのまま頬杖をついて窓の外を見ている。

「あの人また来ているのね。お店に入ってくればいいのに」
「ああ、気にしないでくれ」
「お知り合い?」
「父親だ。俺がちゃんとやれてんのか見に来てるみてぇでさ」

全くと肩をあげれば、愛されているのねと言われた。

「そうなのかな?」
「そうでしょう?」

そうかなぁと思いつつ、彼女のためのコーヒーを落とす。

「なんか久し振りだね。また調査の旅に行ってたのかい?」
「ええ。今回はとても素敵な旅になったわ」
「すごい発見でもしたってこと?」
「いいえ、素敵な人に出会えたの」

え?
「ええ!!な、もしかして恋に落ちちゃったとか運命的なとかそんな」
「恋?……恋とは違うのだけど運命と言えば運命の人ね」

なっ!なんだって!?俺のロビンちゃんがって俺のじゃないんだけど、あのロビンちゃんが前世でも恋よりも優先したいことがあるのと結婚することなくだった彼女がっ!!
「あ、彼よ」

どうしてなんで、一体どんなやつが、とある意味混乱していた俺に、なんてことなく彼女が視線を流した。店の外。雪の風景。そこに、

……え、」

この季節には似合わない麦わら帽子と、見覚えのある白い帽子。
手を繋いで、歩いている。って、

……ルフィ」
「そうよ」
「そうって、もしかしてロビンちゃんも」
「残念なことに私は覚えていないの。でも、ローは覚えていて色々聞いたわ、あなたのことも」
「俺のことも?」
「仲間たちのことも沢山聞いたのよ。出来ることなら私も思い出したいわ」

だからもう隠さなくてもいいのよ、と微笑みながらも、彼女はまた運命の人と称したやつを背を眺め、

「これから二人で住むためのものを買い出しに行くんですって」
「え?ルフィもここに?」
「丁度ローが一人暮らしするために契約してた部屋があって、そこに二人で住むって」
……へぇ」

二人でってことは。
ああ、なんだよ。そうか、なんだよ。クソ、

……わかるわ、サンジ」

思わず熱くなった目頭を隠すように掌で覆った俺に、

「覚えてない私も涙が止まらなかったもの。あなたにとっても彼は唯一の人なのね」

柔らかく微笑んで、そと差し出されたのは一枚の紙。

「それでこれ、ルフィからあなたに」
「俺に?」
「ええ、ルフィの住所よ。遊びに来てくれって言ってたわ。落ち着いたらお店にも来るって」

ルフィに住所ってなんか不思議な感じだなと思いつつ、手にやってきたものにどうしても笑みが隠せない。きっとまた昔のように美味い美味いと食ってくれるだろう姿が思い浮かぶ。

「なら、大量に肉買いこまないとな」
「ブルックもいるのよ」
「え?あいつも?って、あいつって赤い歴史の本文を

守ると言い切ったことは覚えている。この命が尽きるまでここで、とゾウに残った。

「ええ、頑なに拒んでいたのだけど。ルフィがね、壊してしまったの」
「はぁ?壊した??」

あの石を??
「もっと早くこうすれば良かったんだって。悪かったなブルックって笑ってね。うちにピアノがあるって言ったら大喜びで」

捨てなくて良かったわなんて言ってるけど。
ちょっと待ってくれ。

「もしかして、あいつロビンちゃんの家に?」
「ええ、居るわよ。一日中ピアノ弾いてるわ。そのうちお店に連れてくるわね」

滅茶苦茶羨ましいなんてもんじゃないが、まぁいいか。

……いつでも待ってるって伝えてくれるかい」
「もちろんよ」

そうして二人でまた、雪に消えゆく背を見る。
揺れる麦わら帽子に、また目頭が熱くなるのを感じ、クソと目を伏せた瞬間、思い出したこと。

「あああ!そうだった!!!」
「え?なに、どうかしたの?」
「ウソップ!あいつにも」

教えてやらねぇと。
そして、その先にやっと、やっと叶う。
ずっとと思っていたことが、やっと。


*

ちらほら、と。
粉雪舞い散る坂道を二人で歩く。

「腹減ったなぁ」

ぼそりと落とした声にそういえばもう結構ないい時間だと気付いた、
既に時刻は夕暮れ刻を通り過ぎ、夜になっていた。
雪が降っているってのに、見上げた空には星が見える。

「出前でも取るか?」
「おお!」

作るのもなんだし、それなりに歩いたしと提案すれば、何頼もうかなぁと笑う顔に、幸せを感じてしまってどうしようもない。
この先に、これから二人で暮らす家がある。
ずっと、夢の中だけの存在が横に在って、手を繋いで帰路についているだなんて。
今のが、夢のようだ。

「って、トラ男。なんかあるぞ?」
「え?」

小高い丘の上にある三階建てのマンション。その一番上が俺たちの部屋だった。
扉の前。確かに何かある。何って、

「飯?」

すっげぇいい匂いするぞ!と駆けて行ったやつに、なんでこんなものがと思いつつも、ピザでも入っているのだろうでかい箱に書かれた店名に、なんだよと思う。

「メモがある。食えって?」
「黒足屋だろう」
「え!サンジ!!」

うおーすげぇー!と腹を鳴らし始めたやつに笑いながらも鍵を開ければ、荷物抱えたまま器用にドアの前に置かれていたものも持って部屋へと入っていった。

「おい、荷物片してからにしろよ」
「おー!」

わかったわかったと言ってるくせにテーブルの上に、飯を並べてるってどうなんだろうなとは思うが、まぁいいかと思っている俺も俺だ。そんな姿を横目に手にある袋から買ってきたものを取りだし、並べる。
カップに、茶わん。歯ブラシ。
ふたつ、お揃いではないが並ぶものに、なんだろうなぁと何処か擽ったく思ってる自分が本当に不思議でならない。
一人で住むはずだった部屋に、二人。
気に入ったのは、南向きの窓から見える海だった。

「トラ男、何飲む?」
「ビール」
「んじゃ俺も」
「お前酒は好まないんじゃないのか?」
「乾杯だろ」

だから、と冷蔵庫から缶ビールを取り出し、並べ終わった食事の中に置き、何処かそわそわと俺を待っているから、取り敢えずはいいかと買ってきたものを置き去りに、そわそわそわそわしているやつと向かい合ってテーブルに付いた。

「乾杯」
「ああ」

べこん、という音を鳴らし缶を合わせて、クイっと飲み込んでから、頂きますーー!とそれはもう嬉しそうに美味い美味いと飯を食い始めた。

「ロビンがサンジんとこに行ったのかな?」
「まぁそうだろうな」
「俺も行きてぇな」
「それじゃあ明日行くか?」
「え?でもトラ男、明日は仕事なんだろ」
「そうだな。多分六時には終わるから待ち合わせて」
「おお、いいなそれ」
「お前、明日はどうすんだ?」
「この街探検する。ロビンの家にも行きてぇし」

楽しみだなぁと肩を揺らすやつに、どうしても思うこと、ひとつ。

「別にここに留まることなんてねぇんだぞ」
「ん?」
「あ、いや」

ずっと海を渡ってきた、海賊王という称号を手にしたまま生きてきた男。
何処までも冒険の日々を楽しむやつだと知っているからこそ。いつかここから飛び出して海を行くんだろうなと思っていた。それでもいいと、思っているからこそ、告げたってのに。

「トラ男、俺はここに居るぞ」
……そうか」
「何処か行くならお前と一緒に行く」
……そうか?」
「そうだぞ。それよりさぁ」

パン、とひとつ。手を鳴らしたやつの前。既に空っぽになった皿。もう食い終わったやつは、ししっと笑ってから、ふたりきりだななんて言い出した。

「なんだよ?」
「いや、なんか今日からここにトラ男と二人なんだなぁって思ってよ」

然程広くない部屋。ワンルームのマンション。そこをぐるっと見廻し、ふぅと息を吐く。

「よろしくな」

そして今更のようなそんな言葉に、

「ははっ」
「なんだよ、笑うなよ」
「悪い悪い。……そうだな、よろしくな」

今日から、一つ屋根の下。二人きり。
思い出した記憶にすらない状況下に、やはり擽ったく思ってしまうのは仕方がない。
家族以外の誰かとこんなことになるなんて思ってもいなかった。
ああ、駄目だ。どうしても顔が緩んでしまう。参ったななんて、思いながら顔を隠すように覆った掌は、いつの間にか横に来ていたやつに取られていた。

「? 麦わら屋」
「うん」

何が、うん、なんだと見てればゆっくりと近付いてくるから、ああキスだと目を閉ざし掛け、覆いかぶさってくる体温に否定することなく背を倒せば、狭くなった視界の向こうに笑んだ顔が見えて、

「好きだよ」
「うん」
「ずっと、」
「俺も」

思いの丈を込めた言葉は口と口の狭間に溶けて、刹那に消えていくのと同時に聞こえた、音。
ここではない、空から降ってくるような、

「なんだ?」
「花火だ」

しんしんと降り積もる雪の音を聞きながら二人閉じ籠った、先。
南向きの窓から、打ち上げられてるのが見える。

「すげぇ花火だ」
「そうだな、花火だな」
「祭りでもあんのか?」
「いや、なかったと思うが」

どうしてこのタイミングでという疑問はあるが、重なった体温の先にいるやつが、それはもう懐かしそうに眺めているのがわかって、

……覚えてるか?」
「覚えてるよ」

粉雪舞う夜空に、咲く花。
あの日、見た。
二人で見た、花火。

「俺さ、ずっと……またお前と見たいと思ってたんだ」

だから嬉しいと口付けてくるやつに、今度こそずっと忘れないんだろうな、と思いながらも目を閉じた。


あの時は、別れの夜だった。
でも、今見えている花は別れのものではない。

始まりの、冬花火。




2018.07.12 Ree.MORITA
お付き合いありがとうございました(^-^)

ちょっと補足。
花火をあげたのはウソップとサンジくん。許可を得てないけど、サンジくんパパがこの街の有力者なので裏で色々手を回してくれるので怒られません笑
次の日、雪が降ったことでローさんたちの住む街にお天気リポートに来たナミさん(記憶あり)が街探検中のルフィさんにバッタリ会って、噂になったり。未だ迷子で点々と彷徨ってるゾロがサンジくんのお店に来たり、偶々ローさんの部屋の下の階に引っ越してきたペンギンさん(記憶あり)と出会ったり(シャチくんは近くの街でケーキ屋さん営んでる)他の石を求め調査を続けてるロビンさんはフランキーさん(記憶なし)と出会ったり、みんなでブルックさんのリサイタルに来たり、とかとか物語は続くっぽい。
あ、ちなみにウソップはトリックアートの鬼才設定。ローさんのパパは記憶あり。
ナミさんとペンギンさんは文章にしようかなと思ったんだけどすっごい短いしどうしようかなと悩み中。
このローさんは普段はルフィと呼び、エッチしてる時は麦わら屋呼びます笑
ルフィさんヒモっぽいけど、石と一緒にあった宝石を数個持って来ているので、お金は持ってますっっ