ree_1116
2018-06-20 18:44:03
34780文字
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冬花火 (ルロー)

転生ネタ。診断さんから。R15でお願いします(^-^)

「ああ

そうか、と。
刹那に至った答えに、



『冬花火』




「俺のこと好きか?」

突然の問い掛けに、思わず下にいるやつを見た。
未だ汗ばんだ額に掛かった前髪に触れて来る指先は、いつもより動きが鈍く。
億劫そうだってのに、シーツに沈むことなくずっと触れていて。
マジマジ見た先には逸らされることなく見上げる、金色。
僅かに揺れているように思えるのは、きっと俺のせいだと思うと折角静まったものが蘇ってきそうになる。
けど、堪えた。
だって、聞かれた。
こんなこと、初めてだ。

「好きだぞ」

何度も伝えたってのに、そうかと頷くだけだったから。今の今まで、今日まで返事らしきものはなかった。ちゃんと伝わってるのかすら分からなかったってのに。
宴の最中。
不意に手を引かれ、来いと誘われての今、だ。
改めてという感じでもない。
なんだろうな思ったけど真っ直ぐに声にした。

……どのくらい?」
「どのくらいってお前」

すす、と額にあった掌が頬までやって来て、掠めるようになぞる。なぁ、と枕を下にしたまま、首を傾げるからどのくらいってどう答えればいいのかと考えながらも口から出たのは、

「百年先もお前のこと好きだ」

という答えとして合ってるのかわからないもんだったけど。
きょと、とした後、くくっと笑い出したからこれで良かったのかなと思ったってのに、

「足りねぇよ」

なんて言い出した。
足りない?

「んじゃ、ずっとずっとだ!」
「ずっと?」
「おう!ずっと未来永劫お前のこと、愛してる。誓うよ」

言い切れば、またきょとっとしてから見たことない顔で笑みを浮かべ、

……うん」

それはもう何とも言えない顔で、声で。
いいなそれ、と頷く。
なのに、

「悪いな」

って、なんだよ。

「悪くなんかねぇだろ」
……俺が、」

何言ってんだよと続けようとした口唇は頬にあった手で封じられ、代わりに告げられたのは、

「死ぬまででいい」

だからよ、なんだってんだそれ。

「お前が死んでもずっと愛してるって」
「馬鹿だな」
「誓うって言ったろ」

口元にある掌に口付ければ、擽ってぇよと笑ってから、そうだな、とひとつ置いて、

「俺も愛してるよ。だから」

声と同時に素の肌に引き寄せられ、結局、だからからの言葉は聞こえなかった。

「トラ男、」
……もう一回」

誘う声に、実際喜びしかない。
だって、本当に今の今までなかった。いつも曖昧にされてた。好きだと言っても、答えなんかなかったってのに。言葉を欲しがって、俺を欲しがってくれている今がとてつもないものに思えて。

「ずっとお前だけ」

思いの丈を込めた言葉は口と口の狭間に溶けて、刹那に消えていくのと同時に聞こえた、音。
ここではない、空から降ってくるような、

「なんだ?」
「花火だ」

宴の音を聞きながら二人篭った、先。
祝砲でござると準備していたものが打ち上げられてるのが見える。
額を触れ合わせたまま、ずっと忘れないんだろうな、と粉雪舞う夜空に咲いた花に腕の中のやつは淡く微笑んだ。





『俺のこと、好きか?』

問われた声はずっと心にある。
どうしてあんなことを聞いて来たのか知ったのは、それから少し経ってのことだった。
全てを知ったのも、あいつがいなくなってからのことだった。

「馬鹿だな


だから、許せ。


聞こえなかったはずの声が、何処かから聞こえたような気がして。

「誓ったからには絶対だ」

と、知らない奴らに囲まれながら、夜空に咲いてない花を思った。


*


私には幼馴染がいる。
同性の友人より何故か彼といる方が落ち着けた。だから、気付けばそれなりに一緒にいることが多くなっていた。
ただ、それだけのこと。
特に何を話すわけでもなくにも関わらず、もう二十年も近くにある。だからなのだろう。よく恋人と間違えられていた。もちろん、そんな関係ではない。聞かれるたびに否定していたけど、ふと思った。私がこれほどまでに聞かれるということは、彼もなのではと至ってそれとなく尋ねてみた。
迷惑じゃないかしら、と。
私が何を言いたいのか察しただろう彼は、んなことねぇよと素っ気なく答え、俺もお前がいてくれる方が楽だ、と続けた。ローはモテるものね、と本当のことを言った私に、ロビンほどでもねぇと少し笑ってたけど。でも、

「好きな人はいないの?」

想う相手が居たならば、矢張り迷惑になるのではないかと今まで聞いたことも話題に上ったこともないことを聞けば、

「お前は?」

逆に問われた。

「残念なことに居ないわ」
「そうか」

恋や愛よりも、やりたいことがある。だからこそ日々その夢に向かって学んでいた。わかっている彼は頷き、どうしてか遠くを眺めていて。
そんな横顔に思い出したこと、ひとつ。
もう何年も前のことだった。
不意に雰囲気が変わったような気がした。
知っているのに知らないような。
なのに、何処か懐かしいような。
だから、何かあった?と問うてみた。家族と旅行に行っていたことは知っていた。その時に何かあったのかしらと、なんとなくの問い掛け。それに対して彼は一言。花火を見た、とだけ返して来た。その時の横顔と似通った表情が今目の前にある。

「ねぇ、ローは?」
……好きな人か?」
「ええ」

あの時も感じた。
愛も恋も知らない私が、感じたこと。
もしかして、と。
だから一度は流された質問を重ねてみれば、

……居る」
「なら、」
「いや、いいんだ。居るだけだ」
「好きなのでしょう?」
「まぁな」
「伝えないの?」
「伝えるも何も、……出逢ってねぇ」
「え?」
「だから気にすることはねぇよ。それより、」

出逢ってない好きな人。
不思議な答えに、更に問い掛けようと思ったけれど、彼は話しを切るようにトントンとテーブルに置かれた一枚の写真を突いた。

「これなんだが」
「ええ」

四角の中に映し出されたものは、石。巨大な、石。

……赤い、な」
「素晴らしいでしょう。私もこんな色のものには今まで出会ったことがなくて」

世界に点在している不思議な石。それに記されている文字。私が追っているもの。

「何処にあったんだ、こんなもん」
「東の果ての国よ。沢山の島々が浮かぶ海に」
「海底に沈んでたってたのか?」
「ええ。写真を撮るのも大変だったわ」
「へぇ

調査を終え、つい数日前にこの地に戻って来た。今日この後から記されてる文字の解読に入ることになっている。その前にランチをと思って立ち寄った店。そこに居た、彼。

「どうやら、道標のようなの。まだ全てを読み解いたわけではないのだけれど」

素敵でしょうと微笑めば、いつもより難しい顔が返ってきた。

……多分、これと同じもんは後みっつある」
「え?」
「いや、……違うかもしれねぇ」
「ロー?」

なんでもないと額に手を当て表情を隠し、何度か首を振っているけど。

「何か知っているの?」

問い掛けた私に何故か何処か困ったように、知らねぇと連ねたというのに、彼からの声は続いた。

……くじら」
「くじら?」
「くじらみてぇな木とか知らないか?真っ白い大きな」
白い」

大木、と声を文字として頭の中で並べて思い出したのは、ここから南にある島。
でもあれは、

「くじらの形はなしてないけど双子山のような真っ白な大木はあるわよ」

それが?と首を傾げれば、やはり困ったような彼。

「笑うなよ」
「笑わないわよ」

そこから告げられたことは、ある意味信じ難く、でも浪漫に満ち溢れた話だった。
過去。前世。多分、前世。
ローは海賊で海を渡っているときに、この石に出逢ったのだという。赤い歴史の本文と呼ばれたもの。その石が示す先に、夢の島があると。

……夢に見る。ずっとテメェの中で勝手に創り上げた世界なんだと思ってた」
「何故?」
「登場人物に知ってる奴が多くてな。ロビンもいる」
「あら?私はお仲間?」
「同盟相手のクルーだった。考古学者で」
「素敵」
「ここの店主もいるし」
「サンジのこと?」
「名前知ってんのか?」
「ええ、ナンパされたの」
「全くこの店の客や、何故かお天気お姉さんまでいる」
「お天気?」
「ナミっていう」
「ああ、よく当たるという子ね」
「だから空想なのかと思ってた」
「けど、赤い石が実在していたのね」
……出来れば、確かめてぇ」

最近では夢と現実がごっちゃになって今自分がいるのはどっちの世界なのかわからなくなる。白昼夢のように突然その世界に陥ることもあって、とまた困り顔。相談するにも、頭がおかしくなったとでも言われそうでなんてことまで言い出した。ということは、そこまで追い詰められているということなのだろう。夢に見ると言っていた、世界。過去。前世。

「くじらの木にその石の一つがあった。隠し扉の奥に置かれてたんだ」
「なら、一緒に確かめに行きましょう」
……悪いな」

その記憶が確かならば、見ている夢も現実にあったことになる。

「悪いことなんて何一つないわ。私としても石に辿り着けるならこの上ない幸せなことだし」

ふ、とそこでやっと困った顔が解かれ、斜め上、太陽を見上げた。
また重なった、横顔。
もしかして、ああそういうことなのね。

「出逢ってない好きな人も夢に見る人なのね」
…………まぁ」

そういうことだ、となんともいえない目をする。
それに、会いたいのねと極々自然なまま声になったのだけど、

「会いたいいや、会いたくねぇのかもしれない」
「どうして?好きなのでしょう?」
「もしかしたらあいつ、」

言いかけた声はそこで切られた。


*

残されたのは、一通の手紙だった。
ルフィ宛ではない、もの。
最初の一文は謝罪。そこから、現状、今後のことが連ねられて、悪いが頼むという懇願に近しい言葉が続いた。
最後の一文は、名。
トラファルガー・ロー、という彼の名だった。


不意にそんなことを思い出したのは、きっとそいつを見たからなんだろう。
声を掛けようとしてやめた。
覚えてない可能性の方が高い。俺を見ても表情ひとつ変えず、だったからだ。
でも、その横顔に立て続けに思い出したこと。
雪降る中、見上げた先には大輪の花。無数の花が飛び、散る。
手紙を受け取った後、冬島にやって来た。当たり前に雪が降っていて、その中に浮かび上がる様に、そういえばと旅立ちの日をなぞりながら、ふと俺の横に並び、口を開けて見上げている船長を見て、心が痛んだ。
時折、見せる表情がある。今のもそれ、だ。きっと思い出してんだろうな、と心の中で思ったことは、そいつから間違っていないことを聞かされた。
一緒に見たという。
忘れないんだろうな、って。
ぽろ、ぽろ、と。
ひとつひとつ、大切そうに落とされる言の葉はきっと俺に向けてのものじゃない。独り言のようなもんだ。無意識に声になってるようなそんな、音。
もう一度、一緒に。
連ねられた、願い。
胸が苦しくなった。出来れば、と思ったこともあったがそれはもう無理なことだ。わかっているからこそ、苦しい。思って苦しくなる。俺が苦しくなってもどうにもならないってのに。
でも出来れば叶えてやりたいと、思っていた。
何処かに居るのであれば、いつの日か。
想いは出会えた一人に伝え、なら俺が、と引き受けてくれたけど、そのいつの日かはまだやって来ない。

……何処かに居るんだろう?」

それとも、もう居ないのか?

「なぁ、ルフィ」

冬という季節に、ただ一人を思い浮かべ、空を見上げる。
太陽。
ずっと照らすその存在に、ただただ祈るように願った。


*

「わぁ!ロビンさん!!」

お久し振りですと扉を開けてくれたのは、ラミちゃんだった。
あの後、結局言い掛けた先は告げられることなく、いつにする?という問い掛けがやって来た。俺の方はいつでもと言うので、ならと提案したのは今週末。金曜日。それから色々調べて手配をして、至った出立の日。迎えに来たのはもちろんローの家だった。

「久し振り。可愛い制服ね」
「でしょ?」
「よく似合うわ」
「ありがとう」

コロコロと花のように笑うのはローの妹さん。高校生になったとは聞いていたけどこうしてローの家に来ることも滅多にないし、私は調査の為に海外に行っていることが多いから言葉通り、彼女とは久し振りだった。

「お兄様が旅行だなんて言うから誰とかなぁと思ってたら、ロビンさんだったのね」

教えてくれないんだもん、と彼女が振り返った先にはロー。荷物を抱えて階段を降りてきている。

……ねぇやっぱりロビンさんとお兄様って恋人なの?二人で旅行なんて」
「ふふ、残念なことに違うわよ」
「え?そうなの?」
「ええ」

内緒話のようにこそこそと問われた事に否定をしつつ、改めて久し振りになる家を眺めた。
彼の家は、病院だ。彼自身もお医者さん。今は父親の病院でその手伝いをしていると聞いた。ご両親に、妹さん。手本になるようなとても素敵なご家族だった。

「なんだぁそうなのかぁお兄様あんなに格好良いのに全然そういう話しなくてね。学生の頃はまだしも、今じゃ殆ど家にいるし。偶に出掛けるにしても本屋さんと図書館とお気に入りのカフェくらいで。だからお母様に一人暮らしでもしてみればって言われてたの」
「そう」
「ずっと家族で暮らしたいって言ってたんだけど少し前にねやっと頷いたから、もしかしていい人出来たのかなって。今回の旅行は絶対その人と行くと思ってたのに」

ぷぅと可愛らしく頬を膨らました彼女に、後ろから軽くぽこんと頭を叩いたのはそのお兄様だ。

「こら、ラミ。余計なこと言うな」
「へへへ、ごめんなさいお兄様」
「待たせたな、ロビン」
「いいえ」

行こうと靴を履き出て行く彼ににこやかにいってらっしゃいと手を振ったのは、ラミちゃんといつの間にかその横に並んでいた母親で。お土産忘れないでね、という声に軽く手を上げ、彼は扉を閉めた。

そこから向かったのは、港。
船で二日揺られた先に、目的の島はあった。この世界で一番広い海の真ん中に位置している、不思議な島。辺りには他の島や大陸は存在せず、まるで大海の孤島。地学的にこの位置に島があるのは不自然でしかないという。故に調査に訪れる学者もいるようだけど、今では有名な観光地になっていた。島中心には私たちが目指す双子山のような、白い大木。その廻りを深い森が囲む、まだまだ未開の土地。島の南東部には美しい砂浜が続き、そこがバカンスの地になっていると聞いた。そのおかげで私たちもこうして簡単に来ることが出来た。

「素敵なところね」
……暑いな」

私たちの住む街は冬の装いだったが、ここまで南下してくるとさすがに気候が違う。羽織っていたものを脱ぎ、ホテルに荷物を置き、現地のガイドさんの案内で辿り着いたのは木々が生い茂る、場所。道はそこで途絶えていた。その位置からも目指す白い大木は見える。

「本当に大きいわね」

言われてみれば、どことなくくじらのようにも思えた。

「ここらは全くと言っていいほど人の手が入ってないんだ。開拓するにも出来ないらしくて」
「あら?何故」

問うて返って来たのは、呪われるからさという答えだった。

「呪われる?」
「実際はどうなのかわからないが、どうやらこの先に進むと突然おかしなことが起こるってんで依頼されて調査に来た学者たちも殆ど何も調べずに島を出て行っちまうってさ」
「おかしなことって何かしら?」
「突然身も凍るような寒さに見舞われたり、いきなり倒れたり、変な歌声が聞こえて来たりって話だ」
「ですって、ロー」
……へぇ」
「面白そうね」
「って、お嬢さん……あんたらも危険を感じたらすぐさま引き返せよ。案内したやつになんかあったら俺が嫌だ」
「ふふ。わかったわ。ここまでありがとう」

お金を渡し、気を付けてなと手を振る彼は来た道を。私たちは先へと。
ジャングルのような道なき道だというのに、ローは迷うことなく進む。辺りの生物は見たこともないようなものばかりで目を引いたけど、置いて行かれるわけにもいかないので、帰りでいいわと今は置き去りに、ただただ彼の後をついていけば、突然拓けた。そこに見えたのは、遺跡だ。

……素敵」

城壁なのだろう。それはもう立派な。
でも、それより気になったのは、

「不思議な感じがするわ」

一歩、踏み出す毎に今まで歩いてきた感触とは違う、大地。

「ここは、巨大なゾウの背に栄えた土地だ」
「え?ゾウって、象?」
「ああ。ゾウは大昔に罪を犯し、ただ歩くことしか許されてなく命令に従い歩き続けていると言っていたらしい。きっとその命令、なんらかの役目を終え、ここで果てたんだろうな」

そうして、長い年月を掛けその亡骸は島になったということなのだろうか。だからこそ、広大な海の真ん中。ぽつんとひとつ、孤島のように存在しているのかもしれない。

……すごいわね」
「以前来た時よりも歩きやすいな硬くなったのか」
「そうなの?」
「といっても、夢かもしれねぇけどな」

はは、とどうでもよく笑ってまた彼は進み始めた。もちろん、見える巨大な木へと向かってだ。
夢。
夢と言い続けているけど、ここに至るまでの過程を思えばもう確定なのではとは思うのだけど。決定的なものが欲しいのだろう。今立っている場が象である証拠は実際ないに等しい。だからこそ、赤い石をと先を急いでいるのがわかって、また小走りに彼の後を追う。ここも興味を引くものばかりだけど、後でいい。彼の用事が済んでからでもいいもの。
城壁を潜り、まっすぐ進む。朽ちた街並みを通り、ジャングルのような森を抜け、巨大木の根元までやってきたはいいが、ここからどうするのかしらと思えば、不意に冷気。

「なに?寒いわ?」
「呪いってやつなんじゃねぇか?」

そういえば、忘れていた。余りの風景に心奪われていたからなんだろうけど。
確かに呪われるとガイドさんが言っていた。

「前来たときはなかったの?」
「ああ」

なかったな、と不自然な冷気に臆することなく彼はさらに進む。どうするのかしら、と見ていれば、蔦を渡っていくという。

「道順さえ覚えていれば頂上に行ける」
「覚えているの?」
「多分な」

そう言いながらも彼は悩むことすらなく、蔦を渡る。

「結構脆くなってるな。気をつけろ、ニコ屋」

ニコ屋?

「ええ、わかったわ」

振り返ることなくの声に、そんな風に呼ばれたことなどないのに、と彼の背を見る。
きっとここにきて、さらに強くなっているのかもしれない。夢に見るということ。どちらの世界にいるのかわからなくなると言っていた。彼は今のこの世界ではなく、過去の世界を強く感じているのだろう。
そして、

……ここだ」

かなり登った先、これ以上は進むことのできないある意味行き止まったところで彼は足を止めた。

「何もないわよ?」
「隠し扉が

確かここに、と巨大な幹を彼の手が押した途端、ギギという音をわずかに立てて開いた先には、長い階段。下るもの。

「すごいわ」
「階段は長い。気をつけろ」
「ええ」

胸が高鳴る。
この先に、あの赤い石がある。きっとある。そう思うとどうしても急く私を軽く制し、二人で階段を下っていたのだけど、

…………また」

襲ってきたのは、冷気だ。
寒いと両手で体を抱き締めるけど、それだけでは塞ぎ切れないような、寒さ。下っている先から流れてきているのかと思ったけどそうでもないらしい。一体この冷気はどこからと、辺りを見回しながら一段一段、下りて行くけど、また行く手を阻むように聞こえてきたのは、声だった。歌声。

「え、」
「聞くな、ニコ屋」

ローの声に耳を塞いだけど、それでも鼓膜を通る音に不意に体がぐらついた。このままでは、と至ったのは眠ってしまうということで。どうして、と振り切るよう頭を振ってみたけど、

「骨屋!骨屋なんだろう!」

連なる階段。それなりの広さがあるそこに、聞いたこともない大声で叫んだのは、もちろんローだ。ほねや?ほねって、と沈み込む寸前のところでなんとか意識を保っていたけど、その声にこたえるように、聞こえていた音は止んだ。

……トラ男さん、ですか?」

ゆらり、と。
どこからともなく現れたのは、怪火なのだろうか。よく漫画の世界で描かれる魂のような、

「ああ、俺だ」

そうして、気付けばその炎のようなものはひとつの形を成していた。骸骨。確かに骨ねと何処かで在りえない光景を見ながらも納得していた。

「あああああ、お懐かしい!私のこと覚えてって、ロビンさんじゃないですか!!!」
「私を知っているの?」
骨屋。ニコ屋は覚えてねぇんだ」
「そうなんですか。それは失礼致しました。私は死んで骨だけ、ブルックと申します」
「ブルックさんね」
「ブルックで結構ですよ。まさか、お二人に会えるとは思ってもみませんでした。私もう嬉しくて嬉しくて!」

駆け寄ってきて手を握り、ブンブンと降っている。
本当に不思議。骨だけの人が、ボロボロだけどお洋服を着て、話して動いている。

「俺もお前がここにいるとは思ってなかったよ」
「まぁまぁこんなところで立ち話もなんですからどうぞこちらへ。旦那と侯爵の許可を得てフランキーさんとウソップさんが作って下さった部屋があるんですよ」

紅茶でもいかがですか、とブルックと名乗った骸骨さんに連れられてやってきたのは、階段をすべて下った先だった。そこに、

……素敵」

巨大な木の中。空洞になったそこにあったのは、私が求めていたもの。ここに来た、目的。その周りには金銀財宝が所狭しと置かれていたけど、ただただ魅入ったのは、赤い石だった。覆い被った布で文字の確認は出来ないけど、確かにあった石。

「もしかして、赤い歴史の本文を求めて此処に?」
「ええ、そうなの。見せてもらっても」

高鳴る鼓動を懸命に抑えながら一歩前に出たけれど、

……申し訳ないのですがそれは出来ません」
「え?」

どうして、と目が離せなくなっていた先から視線を向ければ、すいませんと頭をひとつ下げ、

「我らが船長の命令でして」

その声に、息を呑んだのはローだ。

「どうかしたの、ロー?」
……いや、」

なんでも、というがどう見ても顔色が悪い。視線が泳いでいる。
すっかり石の存在に気を取られて、彼の目的を忘れていた。
夢に見る先を確かめたい。
石は確かにあった。隠された扉や蔦の道順も、間違っていなかった。骨屋と彼が呼ぶ、夢の世界の存在も実在していた。ということは、彼が見た先は紛れもない、真実。実際にあった、過去。前世ということになる。果たされた、目的。なのに、どう見てもさっきよりも動揺しているように思える。どうしてそんな、

……ロビンさん」
「なに?」

私と同じようにローをただ黙ってみていてブルックが静かに声を出す。

「私とあなたは、同じ船に乗っていました」

そこから語られたのは、私は覚えていない前世のこと。

「なので、あなたがこの石を求められる心はわかります。が、これは今後誰にも見せるなと我らが船長から仰せつかっているのです」

船長。
私が乗っていた船の、船長。

「何故?」
「この石は道標です。その先にとある島が存在します」

聞いた。その話はローから聞いた。石が示す先に夢の島があると。

「私たちはそこに辿り着くことが出来ました」

ゆっくりと懐かしむように告げた声を、確認するかのように繰り返したのは、ローだった。

……行けたのか、ラフテルに」
「ええ、行けたのです」
「それじゃあ、海賊王に」
「はい」
「そ、そうか」

ぐ、と。どうしてか顔を歪め、その表情を隠すように手の甲で隠し、何かを堪えるように俯いてしまう。海賊王って、

「そして、判断したのです。この島の存在はもう誰にも知られるべきではないと。彼は、島を沈めました。それでも、これから先の未来、その存在を知り辿り着く者が出てくるかもしれないと道標になるこの石すらも封印することにしたのです。私は彼からこの石を守るよう、言われました。赤い石はこの世に四つ存在しています。そのひとつでも欠ければ、ラフテルに辿り着くことは出来ません。だからこそ、一番発見することが困難であろうこの地を私が引き受けたのです。一度死んで骨だけになった私の寿命はとても長い。私が受けるべき命令だと」

そ、と布の上から石をなぞる手は、紛れも無い骨だ。
その話しが何年前のことなのかはわからないが、彼は今に至るまでこの場でひとり、船長命令に背くことなく、守っているという事実。
どうして封印するに至ったのか。その島に一体何があったのかは、語られなかった。ということは、口にはしないということなのだろう。過去の世界で仲間であった私にすら、秘密なこと。それほどまでの何かが、

……ええ、わかったわ。その石のことは忘れる」
「ありがとうございます、ロビンさん」
「その代わりと言ってはなんだけど」
「なんでしょうか?ああ、この財宝ですか?これならいくらでも持ち帰って下さい」
「いいえ、違うわ。私は宝石には興味はないの」
「遺跡の調査ですか?」
「それは気になるけど」

興味が沸いたのは、別のこと。
聞いてからずっと、気にはなっていたけど何故か彼からは聞いてはいけないような気がして、今まで何も問うことはなかったけど。

……前世のことを知りたいわ」

ふふっと笑みを浮かべて告げたことに、ブルックはカタカタと骨を鳴らした。何からにしましょうか、と。

「そうですねでは、我らの船のことからにしましょう。私たちは麦わらの一味」
「麦わら?」
「はい。船長の名は、モンキー・D・ルフィ」
……ルフィ」

繰り返した途端、何かがハラと落ちた。
何かって、

「え、」

戸惑ったのは、私自身だ。どうして、と目元を押さえても何故か溢れ出る、涙。

「ヨホホ」

ハラハラ、と幾多も連なって落ちるもの。

「どうしたのかしら、私

名前を聞いただけだというのに。何かが込み上げて、

「どこかで覚えていらっしゃるのかもしれませんね。わかりますよ、ロビンさん。私たちにとって、彼はどこまでも船長なのです。大切な唯一の」

止まることなく流れ落ちる雫に、未だ顔すらも知らない彼を知りたいと切実に感じた。出来ることなら、

「会いたいわ」

名を聞いただけだというのに、私がこんなになってしまうなんて。
一体、彼はどんな表情で笑いどんな声で私を呼ぶのだろう。
極々自然なまま浮かんだ感情に素直な声が出た。でも、それは叶わないことだともわかっていた。だって、そうでしょう。過去。前世。何処かで私たちのように生まれ変わりはいるかもしれないけど、その時代の彼はもうどこにも、いない。出来ることなら、海賊の王となった彼に会いたいなんて、

……無理よね」

馬鹿なこと言ったわと笑った私に、いえ、と骨だけの彼が答える。
そして、告げられたことは信じられないことだった。

「彼は存命しております」
「え」
「今もこの海を自由に思うがまま渡り、冒険の日々です」

嘘、と言い掛けた途端、横に並んでいた影が沈んだ。
かくり、と膝を崩しその場に倒れ込むから慌てて、抱き留めた。

「ロー、どうしたの?」

わなわなと震えているのが触れてなくてもわかるほど。さっきより、顔面蒼白になっている。駄目だったのかと弱弱しく口元を押さえ、ギュッと苦しげに目を閉ざし。駄目だったって何が、

……大丈夫ですか、トラ男さん」

声を掛けても返事はない。どうしたのかしら、と彼を腕に抱えたまま、覗き込んできた骨の彼を見上げれば、表情などわからないというのに何処か困ったように笑ったような気がした。

「ああ、そうでした。立ち話もなんですからと誘っておいて結局立ったままでしたね。トラ男さんも少し休んだほうがいいご様子ですし。当初の予定通り、フランキーさんたちが作って下さった部屋へ案内させて頂きますね」

どうぞこちらへ、と私からローを受け取った彼が向かったのは、本当に部屋だった。

「幹を掘って作って下さったんですよ。あ、フランキーさんとウソップさんも私たちの仲間です。フランキーさんは船大工、ウソップさんは砲撃手なのですが手先がとても器用でして」

石が置かれていた空間。その片隅にひっそりと入り口があった。入り込んだ先は、マンションの一室のような場所で。リビングの先には、大きな窓。南向きなのだろう、日差しが差し込んでいる。その先には、ベランダ。キッチンもある。ドアは二つ。端には階段も見えた。

「素敵ね」
「ありがとうございます」

紅茶でも淹れますね、とキッチン、コンロの上に置いてあるヤカンに火をかける。そんな背に、やっぱり不思議ねとその存在を見た。骨。死んで骨だけと言っていたけど、本当に骨だけなのね。でも、その真実を驚くでもなく受け入れている自分がいる。そう考えるとさっき彼が言ったように、私も何処かで覚えているのかもしれない。思い出せてないだけで。
頬杖をついたまま、きっと前世にもこんなことがあったのかもしれないわねとただ彼を見ていたのだけど、カタンという音。

「ロー」
……少し、涼んでくる」

まだどこか顔色の悪い彼は、椅子を持って光差し込む窓際へと向かった。

「あ、トラ男さん。そこらへんはちょっと脆くなっているので気を付けてくださいね」
……ああ」

わかったと言いつつも、何処か気もそぞろ、だ。
こんなローも珍しいというか、初めて見た。
夢に見ていた世界が現実だったと知って困惑しているのかしら。でも、確かめたいといったのは、彼だ。何か気になることでもあるのだろうか。過去の世界に?それとも、

「どうぞ。美味しく淹れれたと思います」

いやぁ誰かに紅茶を振る舞うなんて何年振りかでちょっと緊張してしまいました、と笑いながらも私の正面に座り、瞳のない目がローの方を見る。

「何か知っているのでしょう?」
「さすがですね、ロビンさん」

あからさまにおかしいローに対して、彼は何も問わない。大丈夫かとは聞いていたけど、どうしてそうなっているのかという問い掛けはないからこそ、ローがああなってしまっている原因を知っているのでは、と尋ねてみれば案の定だった。

「トラ男さんは全てを覚えていらっしゃるんですよね?」
「どこまでかはわからないわ。でも、今居る時代と前世がわからなくなると言っていたからきっと」
「そうですか……多分彼は、後悔しているのかもしれませんね。ご自身がなされたことに対して
「後悔って何を?前世の彼が何か罪を犯したとでもいうの?」
「罪罪ではありません。けど、信じ難いことではあります。多分、言っても信じてもらえないような、不思議な力」
「不思議な力と言えば、あなたが死んで骨だけというのも信じ難いことよね」
「ヨホホ。そうですね。ずっと昔の世界には悪魔の実というものが存在していたのです。今の世では、その存在が何処にいってしまったのかわかりませんが、過去には確かにあった摩訶不思議な実です。私はヨミヨミの実というものを食べました。甦り、です。一度死んで魂が抜け、彷徨って彷徨って見つけた私の体は既に白骨化してましてねぇそこに戻ってしまったので死んで骨だけなのです。ロビンさんは、ハナハナの実ですよ」
「私?」
「ええ、好きなところに花のようにご自身の体を咲かせることが出来るという力です。我らが船長はゴムゴムの実の能力者でした」
「ゴムってあのゴム?」
「はい。全身ゴム人間です」
「伸びるということ?」
「ええ、そうです。そして、彼トラ男さんはオペオペの実の能力をお持ちでした」
「オペ手術ということかしら?」
「そうですね。改造自在と仰っていたと。生きたままの心臓を抜き取ったり、人格を移動させたりとそれはもう」
「その力を使って何か後悔をしているということなの?」
…………後悔、なのでしょうか。わかりませんが、それでも彼はきっと」

窓際に椅子を置き、何処か遠くを、いえ太陽を見上げているのであろう彼の横顔は、虚無のように思えた。何も考えたくないのか。それとも、何かを深く思い過ぎて表情を失っているのか。わからないけど、

「きっとどうしていいのかわからないのでしょうねルフィさんが生きているという事実に」
「それは、悪魔の実というものの所為でってこと?」

ブルックあなたのように、と問うた私に、ええ、と頷く。
ということは、

「ローが、彼を」

私の声に、骨だけの彼は一息つくようにゆっくりと紅茶を口に含み、また窓際にいるローを見た。手にしていたカップをかちゃり、と音をたてて置いてから、

「私たちがそのことを知ったのは、彼が亡くなってからのことでした」

語り始めた、過去にあった本当のこと。

「手紙が一通届きましてねそこで全てを知ったのです」

全て、


*


それはとても晴れた日のことだった。
ナミさんが風が全くなくて船が動かないと地団駄を踏んでいたことを覚えてる。
何処からともなくクーが飛んで来て、新聞を運んで来たのかと思えば違っていた。
届いたのは、封書。
トニー・トニー・チョッパー様、という宛名。
その名に彼の故郷からなのだろうとなんてことなく渡ったものに書かれていたことに誰しもが驚きを隠せなかった。
書き出しは、今まで黙っていて、悪かったという謝罪。
そして、勝手なことをして済まないと更に謝罪が続き、許してくれと、

……嘘、」
「あいつが冗談でこんなことすると思うか?」
「ゾロ。だって、これって」

ナミさんが息を呑む。いや、手紙を受け取ったやつを囲んで、実際皆が言葉を失っていた。
そんな最中、淡々と静かに宛名の人物は書かれた文字を音にして連ねた。

『ワノ国に入ってから、気付いた。でも、それは今の医学では到底治すことのできないものだ。いつ命が尽きてもおかしくない状況だった。だからお前たちに、本人にすら無断で勝手に俺の能力を使った。不老手術という不老不死にする力だ。』

「不老不死って」

記された文面に、一斉に皆が見たのはそんな体になっているだろう船長で。
そいつは信じられないように自分の手を見ていた。

……取り敢えず、ルフィ。体診せてもらってもいいか?」
「ああ」

俺たちはそこから先、書かれた詳しい内容は知らないまま。
ルフィの今の状態と今後のこと。最後に、そんな手紙を送ってきたやつの名があったことだけを船医から聞いたに過ぎなかった。


その後だ。
真偽を確かめにそいつを探しに探して、もういないことを知ったのは。
既に過去同盟を組んでいた海賊団は解散し、船は亡骸と共に海に沈めたのだと、聞いた。
墓はいらないから海に、という遺言だったらしい。
その言葉とチョッパー宛の手紙を残して息を引き取ったのだという。
一体、どうしてと死因を尋ねたがそれには首を振るだけで。結局分からずだった。
形見分けだとルフィが受け取ったのは、帽子だった。これ以上のことはこれで勘弁してくれということだったのだろう。
それからも俺たちは旅を続け、ずっと言葉にしてきた夢を叶え、その島を海に沈めたやつは海賊王になった。そうして向かったのはサクラ王国だ。未だルフィの体内には治せないと死の外科医が言い切った病を宿しているから、ドクトリーヌに相談したいと船医が懇願したからだ。歓迎なのだろう、やって来た海賊王の船に花火が打ち上げられた。
そこで、真実を知った。
既に百歳をゆうに超えた女性から。
不老不死になったという言葉にワイン瓶を片手に、そうかい不老手術かい馬鹿だね、と真剣な顔で告げられたことに、絶句した。
そうか、だからあいつ。
いつもより低い声でしぼり出すように落とした声は何を指しているのだろうか。
そっか俺、
続け様に発し、うん、と頷き。
愛されてたんだな、と見たこともない笑みを浮かべた。


そうだな、愛してたんだな。
全然そんな素振りなかったってのに。
好きだ、好きだ、と声にも態度にもしてたのはルフィだけだったにも関わらず。
曖昧に躱してくせに。
自分の命を捨ててまで。
それほどまでに、愛してたんだろう。
なのにどうして、何も告げずに別れを選んだんだよ、お前。
なぁ、ロー。
カイドウを倒し、宴を終えた次の朝にはいなくなっていた。
さよならも、何もなくいなくなりやがって。
それで良かったのかよ、お前?これで、良かったのか?本当に?

綴られた、言葉。手紙。
それはもう丁寧な綺麗な文字で記された最初は、謝罪だった。
それが全てなんだろうな。
でもよ、お前わかってないな。
悪いことをしたと思ってたのか?許されないとでも?
本当に大馬鹿野郎だ。


*

始まりと同じように、かちゃりと音をたてカップを手に取り、ズズっと紅茶を飲み込み、話しは終わった。

……そう」

私たちの声はきこえているだろうけど、こちらを見るでもなく。ただじっと空を見上げている彼。
彼からの言葉。
出逢っていない、好きな人。
そう、そういうことだったのね。だから、あんなことを、

「彼は」

会いたくないのかも、と言っていたのね。
でも、かも、と曖昧に濁した。だからきっと、

「今、何処に?」

会いたいのだろうと思ったから、問うたけど。

「わかりません」
そうなの?」
「ええ、先程も言いましたが彼は今でも海を宝を探して冒険を続けているのです」
「ここに、あなたの元に来ることは?」
「前回ここに寄られたのはもうそうですね。三年程前でしょうか」
「三年」
「一応、ここが彼の家でもあるのですがね。自由奔放な方なのでいつ戻って来られるのかは」

わからないと首を振る。

「でも、何処かにいるのよね」
「はい」

どうしてか、どうしてもローと彼を会わせなくてはと思っていた。
ローが、確かめたいと言っていたのはきっと夢見る先が本当にあった前世なのかどうかということではなく、彼に会って確かめたいことがあるのではないのかと。だからどうしても、

「ねぇ、彼の写真とかそういったものはないの?」

この世界の何処かにいるのであれば、各国を渡り歩いている私が探し出せるかもしれない。だから、何か彼の手掛かりになるものをと尋ねれば、

「ああ、それなら手配書が」

ぽん、と骨の手を叩き、席を立ち近くの棚から数枚の紙を取り出したから、これで探し出すことが出来る良かったと思った、その時。

「ブルックーー!!!」

突然、後ろから聞こえた、声。
誰?と振り返ると同時に開いた、扉。
そこから飛び込んで来たのは、

……あ、」

瞬間、目の前が一気に霞んだ。

「ルフィさん!!お帰りなさい!!」

ルフィ。
ルフィって、

「おお。あああ!!ロビンじゃねぇか」

なっつかしいな、と私を見て、私の名を呼んだ、人。

「おお、どした?おい?」

はらはらとさっきよりも涙が溢れ出る。
ああ、この人が私の、

「あ、ブルック。これ、土産だ」
「牛乳じゃないですか!」
「美味いって聞いてよ」
「ありがとうございます。ってルフィさん、髪伸びましたね」
「そうなんだ。後で切ってくれ」
「ええ、いいですよ。今回の旅はいかがでした?」
「滅茶苦茶美味い肉食ってよ。あ、チョッパーにも会ったんだ俺」
「それはすごいですね」
「後、……え、」

なんだよ、ロビンとポンポン肩を叩きながら、そんな他愛もない会話をしていたけど。ガタリ、という音に声は止んだ。それまで、ただ空を見ていた人が椅子を倒し立ち上がり、信じられない目でこちらを見ている。

……トラ男」
「む、ぎわら屋、」

無意識なのだろう。
一歩、ローが後ずさった、途端。

「うわ、」

その足元が崩れ、バラバラとベランダ共々、あっという間に落ちて、

「あ!」
「ロー!!」

届くわけもないのに伸ばした手。
その私の手の横。
長く長く伸びているのは、ルフィの手だ。

「伸びたわ!」
「ゴムですからね」

ヨホホ、と慌てることなく笑ったブルックに、本当にゴムなのねとここに来て何度目かになる不思議な光景を目にしながらも、良かったと思っていた。
伸ばした手によって引き上げられた人は、ぐるぐるに巻きつけられた腕によってきつくしっかりと抱き締められている。トラ男、と彼の頭に手を回して更に引き寄せ、ああ、トラ男だと繰り返す。
そんな姿にまた涙が流れた。
きっと私は、この風景を見たかったのかもしれない。
記憶にはない過去の、前世の私が見たかったものなのかもしれない。
だからこんなにも、

「ロビンさん上に行きませんか?ガーデニングあるんです。是非とも見て頂きたい
ええ、私も見たいわ」

そうね。二人きりにってことね。
涙を拭い、もう一度だけ抱き締めあっている二人を見て、お邪魔しちゃ駄目よねとカタカタ微笑みながら階段を上って行く骸骨な彼の後に続いた。



2018.06.19 Ree.MORITA
後編頑張ります!