月色の乙女と風の翅

【ひかり清かな】の翌日の話で、【やさしくつもる】最新話より3ヶ月ほど先の話(多分)。
本編未登場キャラがかなり出張っています。



 白い光のこぼれる隙間へ手を伸ばす。厚いカーテンの向こうに身を滑りこませるとそこは凄烈な輝きで溢れていた。
 急激な明るさに目が慣れるのをしばらく待って、カレンはそっと窓を開けた。水気の濃いそよ風がふわりと肌を撫でていく。知らず胸元を掻き合わせた手はそのまま両腕を抱き締める。ゆっくり息を吸いこめば、濡れた緑の薫りが鼻腔を満たし、生まれたばかりの清らかな息吹が身体の隅々にまで染み渡る。
 真珠色に染まる世界はやがて少しずつ色を取り戻していく。朝靄の漂う林の向こうから小鳥たちの合唱が遠く聴こえてきていた。まるでこの晴れやかな空を祝福するかのような賑やかさで。
 自然と頬は緩んでいた。少女の心は風の翼に乗り、天高くどこまでも駆けていける気がした。


 身支度を終え、厳かな気持ちで寝室の扉を開けたカレン。その視界は次の瞬間急に暗くなった。

「カレン!」
「え、――きゃっ」

 無邪気な声が聞こえた。そう思ったときには真正面から強い衝撃を受け、カレンは尻餅をついていた。何かぶつかったらしいと理解するより早く、カレンは自身の首に腕をまわして抱きつく小柄な影を認めた。

「あ、あの……?」

 困惑した声を発する。それまでぎゅうとしがみついていた人物は勢いよく顔を上げた。
 ――少女だ。それもとんでもない美少女だ。
 年は、多分カレンと同じくらい。短めの眉は元気よく山なりに、喜びに満ちた双眸は光の加減で瑠璃にも菫にも見える。頬をほんのり上気させ、桜色をした小さな唇は嬉しそうに弧を描いた。

「レーレよ! わかる?」
……レーレ?」

 カレンは目を瞬かせた。激しくこくこく頷く美少女の短い黒髪が、彼女の動きに合わせてふわふわ踊っている。
 レーレ、といえばカレンにとっては半身とも呼べるほどに大事な精霊である。普段は蝶そのままの姿をしていて、場合によっては何度か人の形をとったこともある。けれどもその姿はどこか異形で、完璧な人間のそれではなかった。何よりも彼女の身体の大きさは片手の平に乗るほどしかない。
 目の前の少女はどこからどう見ても〝人〟である。小さな隣人の面影が全くないとまでは言わない。けれどそれよりも強く連想するのは、もっと別の――

「おはようカレン。昨夜はよく眠れたかい。顔色は悪くなさそうだね」

 ウィンザール邸の離れの一室。二間続きになった居室の方にカレンが姿を見せると、ふたりの佳人が揃って笑みを浮かべた。部屋の中央に設えられた丸テーブルを陣取り談笑していたようだ。

「おはようございますアネッサさん。ディートさん。あの、私寝すぎましたか?」
「ああ違う違う、こんな朝から押しかけてあたしたちこそ悪かったね。今日はこれからちょっと付き合ってもらおうと思ってさ」
「え?」
「女子会の続きをしよう」

 カレンがきょとんと目を丸くする。どこへと尋ねる少女にアンは大輪の花を思わせる艶やかさで口角を上げた。疑問符をいくつも頭上に浮かべるカレンの手を黒髪の美少女が早く早くと引っ張った。


 前日の女子会は結局庭園に場所を移し、つつがなく終えることができた。アデレードが帰ったあともガゼボに残っていたカレンは、時間の経つのも忘れて花の香りをうっとり楽しんだ。
 やがて戻ってこいと迎えにきたのはセイルだ。その頃にはもう日はとっぷり暮れていて、星が煌めく夜空をふたりで見上げ、月が綺麗だなんだと他愛ない話をしながら邸に戻った。

 その後出迎えてくれたアンにカレンは強く引き止められた。

「部屋数だけはたくさんあるから今夜は泊まっていきな。遠慮は要らないよ」

 帰りが遅くなったのはひとえにカレンの落ち度である。が、有無を言わせずそう押し切られると断るのもなんだか申し訳なく、カレンはそのまま一晩お世話になることにしたのだった。


 手早く支度を済ませ、一行を乗せた馬車は颯爽と駆け出した。背もたれにもたれ何気なく顔を上げたカレンは次いで目を瞬かせた。車窓の向こうに見えた風景。目に留まったのは昨日みんなで見上げた一本の樹のまわり――

「どうかした?」

 降ってきた声にハッと振り向いたカレンは、隣の麗人に窓の外を指し示した。

「あそこ……。あの、きのこ、増えてませんか?」
「きのこ?」

 同じように窓の外を窺ったディートはすぐに得心顔で頷いた。

「妖精の輪が完成してるね」
……完成すると何かあるんですか」
「まあ、午後には全て終わるよ」

 彼女の口許にはどこか意味深長な笑みが浮かんでいる。

 街の中心地でもある円形広場を抜ける。目抜き通りから一本横に入った通りをしばらく走って馬車は停まった。見知った建物群のある風景を目に留めたカレンはなんとはなしに安堵の息を漏らした。ここからなら親が経営する魔術道具店は充分徒歩圏内に入っている。カレンの家もそこそこ近い。
 うちの店に何か用事があるのかしら。そんなカレンの思惑は早々に外れ、アンとディートは親しげに話しながらカレンの店とは反対方向へとスタスタ歩いていく。
 入店したのはこぢんまりした佇まいの店舗だった。店内に喫茶スペースが設けられた、様々な菓子を売る店だ。ふんわり甘い香りが漂っているが時間が早いせいかショーケースの中はやや寂しく、カレンたちの他には買い物客も見当たらない。

「この店は初めて?」

 キョロキョロと落ち着かないカレンを見かねてアンが苦笑を漏らした。

「近いので飴をよく買いにきますけど、こんなふうに中で食べるのは初めてです」
「飴? ここの人気商品?」
「そういうわけでもないんですけど……子連れのお客さまにお出しすると喜ばれるので」

 ああと合点がいったアンの瞳が柔和にほどけていく。その隣ではディートが、アンとは対照的な渋い顔を見せていた。

「レーレ。いい加減カレンから離れなさい。そんなにがっちり腕を掴んでいてはカレンの邪魔になる」
「いや。カレンの邪魔じゃない。レーレはカレンと一緒がいいの」
「食事も採るなと? カレンがお腹をすかせても、君がそれを望むと言うのだね」

 ふたりの視線が交差する。挑むようにディートを睨みつけていた黒髪の少女はやがてカレンの腕に巻きつけていた両手を渋々離した。ただし眉間にはむむむっと皺が寄せられたままだったが。
 カレンは神妙な顔でおそるおそる「ディートさん」と声をかけた。

「あの、こちらのレーレさん、私初めましてだと思うんですけど……ディートさんのご親戚、だったりしますか?」
……なぜ?」
「おふたりの雰囲気というか……なんとなく、そうかしらって。……あの、違うのでしたらごめんなさい」

 言葉を紡ぐうちにだんだん自信がなくなって、カレンは結局頭を下げた。
 髪色が同じだとか神秘的な印象を与える瞳とか、そういうこと以上にこのレーレという少女はディートとよく似た雰囲気をまとっていた。姉妹というほど似ているわけではないが、同じ血が流れているのかと感じられるほどには似た印象を受ける。

――まあ、近からず遠からずかな。今日一日預かってるからよろしくね」

 数拍おいてディートが口許を綻ばせた。否定されなかったことにカレンはほっと胸を撫で下ろす。けれど「迷惑だったらすぐに教えて」と続いたディートの言にはどう返せばよいのかわからなかった。
 言葉を探すカレンの隣で黒髪の美少女が頬を膨らませた。

「レーレが迷惑なわけないわ!」
「それはカレンが決めることだよ」
「だったら大丈夫よ。迷惑なわけない」

 レーレがにっこり破顔する。
 つられて笑みを返したカレンの腕に再び華奢な腕が伸びてきた。だがそれもディートの鋭い視線の前に断念を余儀なくされ、行き場を失った手はおとなしく少女の膝の上に落ち着いた。

 注文していた品が運ばれてきた。たっぷりのクリームに二種のベリーが添えられたパンケーキと温かいお茶が三人分。それからアイスクリームと色とりどりの果物が大きなグラスに盛りつけられたスイーツには皆が感嘆の声を上げた。

「素敵! とっても綺麗!」

 目の前に置かれたそれをきらきらした瞳で眺めていたレーレは、脇に乗せられていた花の飴細工をそうっと指でつまみ上げた。もはや芸術品の域とも言えるその精緻な造りは光に透かすと煌めいて、その場にいたみんなの目を魅了した。
 糸状の飴を幾重にも重ねて造られた薄い花びらにレーレは歯を立てる。呆気なく折れてほどけた細い針は、けれども決して口内を傷つけることはなくすぐにじんわり溶けていった。口の中に広がるやさしい蜜の味に少女の目が潤んだ。

「美味しい……!」

 顔じゅうに「幸せです」と書かれてあるのが誰のに目も見て取れる。その様を微笑ましく眺めていたカレンの脳裏に、ふとあることがよぎった。

「アネッサさん、ディートさん。あの……、レーレを知りませんか? 小さな方の」
「レーレ?」
「昨日からいないんです。あ、お昼まではいたんですけど、夜にはもういなかった……気がします。もしかしてお茶会のあとから見ていないのかしら……。いつも一緒だったから、こんなことは初めてで」

 言葉を選びながらゆっくりゆっくり口にする。思い出されるのは空の色を織りこんだ優美な翅。柔らかな花びらの上でひと休みする愛らしい姿。それから――

……レーレさんが食べてるその飴を、前にレーレも食べたがったことがあったんです」

 店の飴を切らして買いにきたとき、他の客が食べていた飴細工を見てレーレが騒いだことを思い出していた。必死に宥めるも精霊の姿は常人の目には映らないため、傍目にはカレンが独り言を言い、一人芝居を打っているようにしか見えなかっただろうけれど。

「レーレはここにいるわ」

 スプーンをくわえたまま吊り目気味の円らな瞳を更に丸くしてレーレが首を傾げる。そうではなくてと否定するカレンもどう説明したものか困り果てた。仲良くしている蝶の精霊とあなたの名前が同じで、などと言ってみたところで果たして信じてもらえるのかどうか。

 魔術道具という物が存在し間接的に精霊の恩恵を受けているこの世界。それでも大多数にとって精霊というものはこの世のどこかにいるらしいといった認知度で、一般的にあまり馴染みはない。
 不思議の力に詳しいディートの親戚ということだから、わかってもらえないことはないと思うのだけれども。

 口にしていたカップをソーサーに戻し、アンが思案気に隣を見やった。

「レーレ……確かディートが会ったんだったね」
「ええ、お茶会のあとに。――そうだな……多分、夕方までには戻ってくるのではないかな」
「そうなんですか?」

 心配はいらないよと佳人が微笑む。彼女がそう言うなら間違いないのだろう。ディートを信じることにして、カレンは温かなカップに口をつけた。
 その隣でレーレが僅かに眉を顰めたことには、誰ひとり気づくことはなかった。



 * *




「ごちそうさまでした」

 店を出た四人はのんびりした足取りで元来た道を戻っていた。
 細かくちぎった綿を優しく丸めたようなうろこ雲が、水色の空にほわほわと広がっている。そろそろ天頂に届こうかという太陽は、カレン達が食事をしていた間もずっと穏やかな陽射しを振りまいていたのだろう。気づけば朝の冷えこみが嘘のような陽気になっていた。

「正午か。カレンを送ってあたしたちも帰ろうか」

 アンが眩しそうに手を翳す。そんな彼女に是を告げ、ディートは後ろを歩く少女たちに向かって肩越しに声をかけた。

――レーレ、あなたは私たちと来ること」
「えっどうして!?」

 レーレの足がぴたりと止まった。振り向いたディートは腕組みをして少女の前に立ちはだかる。「お説教」と彼女を見据えるその目には青い炎が静かに立ち上っているように見えた。

「あの、レーレさんが何か……?」

 腕に腕を絡ませ隣を歩く少女から「どうして」という語が出てきた以上、きっとこのまま自分と一緒についてくるつもりだったのだろう。頭の片隅ではそんなことをぼんやり考えつつも、カレンはディートに疑問を投げかけていた。説教だなんて、朝からのことを振り返ってみてもこの黒髪の美少女が何かとんでもないことをした覚えは全くない。

「約束は守るもの。破るためにあるものではない。そうだろう? レーレにはもう一度ちゃんとわかってもらう必要があるようだから」
「お店で言っていたことでしたら私は迷惑ではないですし、むしろ歩くのには助かるので……
「うん。でもそれ以前の話でね」

 てっきり腕を抱えこまれていることを指しているのだと思っていたがそうではないらしい。首を傾げながら、だが違うと言うのならそれ以上カレンに追及する権利はなかった。
 さあ帰るよとディートの手が伸びてくる。

「いや!」

 少女が叫んだ。その瞬間レーレとディートの間に小さなつむじ風が巻き起こった。
 はっと目を見開いたのはどちらの方だったのか――つむじ風は一気にその力を増し、カレンは思わず両腕で顔を覆った。凄まじい勢いで吹き荒ぶ風に四肢をなぶられ、とても立っていられない。

「カレン!」

 名を呼ばれたと同時に誰かに腕を掴まれた。そのまま引っ張られて身体が傾ぐ。浮遊感を覚え、ぎゅっと目を瞑り身を竦める。
 風に、飛ばされている。
 けれど不思議と怖くはなかった。何かがぶつかったり、また怪我をするような気配もない。密度の濃い空気がカレンの身体を優しく包みこみ、高く高く持ち上げられている。

 ――しっかり手を繋いでくれているこれは、誰――

 カレンの耳元で唸っていた轟音はある瞬間を境に突然消えた。
 あらゆる方向から吹き荒れていた暴風も、時を同じくしてぴたりと止んだ。



 * *



 遠くでさらさら音がする。耳に心地いいあれはきっと川のせせらぎ。子どもの頃から馴染んできた水音。
 地面に俯せに横たわっていたカレンはおもむろに目を開けた。真っ先に視界に飛びこんできたのは美しい花畑だ。白や桃色、橙などやさしい色をした一重咲きのそれが風にそよいで咲いている。
 軽く目眩のする身体を推して起き上がれば、見える景色は更に広がる。花畑の奥にはたくさんの建物が立ち並び、その遥か向こうの丘の上には立派な邸宅が柔らかな空を背負って佇んでいた。
 ――ああこの風景には見覚えがある。知らない場所ではないと胸を撫で下ろす。

「うう……

 耳に忍びこんできた呻き声にカレンは我に返った。すぐそばに黒髪の少女が蹲っている。浅い呼吸を繰り返すその顔は真っ青で、小刻みに震える自身の身体を抱き締めている。駆け寄ってきたカレンを見上げる顔は苦しそうに歪んでいた。

「レーレさんどうしたの!?」
「カレン、聞いて……!」

 伸びてきた少女の手にハッとしてカレンも両手を伸ばす。握ろうとしたその手は、けれども掴むことができなかった。くうを切り、通り抜けてしまった自分の手とレーレの腕を代わる代わる見比べていたカレンは次の瞬間息を呑んだ。レーレの全身がうっすら透けている。

「聞いて……カレンがいたからレーレは生きてる。レーレは、カレンのお陰でここにいる。だからレーレは、カレンのために生きるの。ずっとずっと一緒よ」

 必死に訴えるその瞳に透明な雫が盛り上がった。ぽろぽろ零れるそれは地に落ちる前に光の粒子となってほどけていく。

「レーレ、さん? ううん、あなたやっぱり……レーレなの……?」
「レーレは、カレンが、……

 いつしかその身体はうっすら光っていた。真珠の色に包まれ輝く少女はその輪郭を緩やかに滲ませ、やがて静かに空気に溶けていった。
 あとに残されたのは目を見開いて座りこむカレンと、カレンの目の前に伏せている小さな――蝶。

 伸ばしかけた手は蝶に触れる直前で宙に浮いたまま止まる。
 探していた小さな隣人がなぜここに。黒髪の美少女が消えたあとに現れたということはやっぱりふたりは同一人物だったのだろうか。なんだか狐につままれたような心持ちだけれど。

「思ったより早かったかな」

 背中に届いた声にカレンは反射的に振り向いた。そこに見知った顔を認めると思わず縋りついていた。

「アネッサさん、ディートさん! あの、レーレさんが消えて、でもレーレが見つかったんです。レーレ……どうしようレーレが死んじゃう」
「大丈夫。カレン落ち着いて」

 声を震わせるカレンの背中をアンが優しく撫でる。背に伝わる熱と安堵を与える言葉の魔力にほっとして、だが涙が滲んでくるのはもはやどうしようもない。
 カレンとアンが見守る中、ディートは何の躊躇いもなくその小さな蝶を掬い上げた。

――やっと消えたようだ。本当に、帰ったらきつく叱らないと」
……どういう、ことですか……?」
「妖精の輪の話、覚えてる?」

 妖精の輪とはなんだっけ。あまり上手く働かない頭でカレンが頑張って思い出したのは今朝馬車の中から覗いた風景だった。一本の樹の周りに白いきのこが作り出した完璧な円。あのときもディートは説明してくれた。「午後には全て終わるよ」と。

「きのこも今頃みんな消えていると思う。くすぶっていた力は、レーレが全て使い切ったようだから」
「レーレが? どうして」
「つむじ風を起こすのにね。それどころか自分の力も使い果たして、疲れて眠っているのだよこれは。だからそんなに心配しなくていい」
「カレンは身体におかしなところはないかい?」

 ふたりから揃って心配そうな目を向けられ、カレンはそうっと胸元に手をやった。軽い目眩と動悸、それになんとなく身体が重い気がする。症状を聞いたディートはやはりねと嘆息した。
 カレンとレーレは一心同体。仮にカレンが心身に不調をきたせばレーレもそれに引っ張られる。逆もまた然りとなれば――お説教は更に長くなりそうだ。



「目が覚めたとき、一番におはようって言いたいんです」

 自らの半身をともに連れて帰りたい。おそるおそる進言したカレンの我儘をディートは嫌な顔ひとつせずに承諾した。
 とは言え実際にレーレを抱えているのはディートで、カレンの手はアンのそれに繋がれ帰途についている。

……そういえばアデレードさんのクッキーはどうなったかしら」

 歩きながらぽつりと独りごちる。「クッキー?」とアンの怪訝そうな声が降ってきて、カレンは僅かに顔を上げた。

「昨日お裾分けするって妖精の輪のところに置いてらしたんですけど、精霊は見にきたのかしらって思って。……あの、どうかしました?」

 言い終わらないうちにアンとディートが顔を見合わせたのを見つけ、カレンは小首を傾げた。
 微苦笑とともに「精霊は来たよ」とアンが口を開き、カレンはパッと顔を綻ばせた。そのそばでディートはもう何度目になるかわからない溜息を落とした。

……つまりね。お説教、カレンにお願いすることになるのだけど」

 砂金の混じる神秘的な瑠璃には大丈夫かと心配する色が滲んでいる。たっぷり数秒おいて、ようやくカレンがあっと声を上げた。
 その後ディートの言葉は「言うこと聞かないようならいつでも飛んでいくから」と続き、佳人を呼ばないで済みますようにとカレンはこっそり祈るのだった。



 <目次>