番外編.A-2

一ページ目必読
※MHパロ


王国を象徴する城、その内部。ハンターであるヒロは城内を兵士に案内され、目的の部屋に辿り着く。本日は禁忌の黒龍、ミラボレアス討伐作戦会議を行う日。それぞれの地区の職人や狩人などから代表者が選ばれ、今後の対策について話し合うのである。どんな人物が来るのだろうと少し緊張しつつ、ヒロは案内役の兵士に感謝と別れを告げて部屋を開ける。


「よっ! 久しぶりだなサクタ!」


ヒロは部屋に入ってすぐ、高価そうな椅子に座っている男に声をかけられる。長机の片側面、そこに位置した彼は笑う。明るく人懐っこい笑顔を浮かべる男イザリに対して、ヒロは苦虫を噛み潰したような表情をする。


「何だよその顔」

……来ると思っていたが、そんなに笑顔だとは思わなかった」

「そりゃ笑顔にもなるって! 御伽噺の伝説に関われるんだぜ?」


栄華を極めたシュレイド王国を、一晩にして滅ぼした龍。全ての始祖、伝承の王、そして古龍を超越した自然界の神。実在を確信する者は極めて少ない、御伽噺の黒い龍。ミラボレアスという名すら“破滅の呼び声になる”と言われ、徹底的に秘匿しその真実を隠してきた。しかし、それも今は以前のこと。ミラボレアスが二度目の進撃を始める予兆が出た以上、無理に秘匿する意味も無い。

ヒロは確かに、黒龍という伝説と縁を結んだことに心が弾んだ時もある。根っからのハンターが持つ、変えられない性質というやつだ。極上の獲物を見つけた狩人が、歓喜に震えない理由など無い。その獲物がどんなに凶悪な怪物でも、自然の神と呼ばれていたとしても、胸の高鳴りは止まらない。

ただ、イザリの歓喜はヒロのそれとは違う。彼はただ純粋に、この危機的状況を“面白がっている”。
ヒロはハンターだが、イザリはハンター教官である。狩猟に出ることはあれども、それを主軸にしているわけではない。彼の本業は見習いハンターを育て導くことにある。その性質上、彼は多くの子供(彼いわく可愛い生徒)が倒れ挫け死ぬところを知覚してきた。しかしイザリはその光景に苦しむこと無く、むしろ味わっている節がある。ヒロは彼の“そういうところ”が苦手なのだ。


「禁忌の存在を話しているわりに、随分と楽しそうだな」


ふと、二人の背後から声が投げられる。振り返れば、木苺色の髪をした大柄な男が立っている。左頬に痛々しい縫い目があるその男は、大量の紙束を抱えて平然と話す。


「オレは王国XX地区ガーディアン代表、ラズベラだ。アンタがXX地区ハンター代表のサクタで、そっちはXX地区ハンター教官代表のイザリだな」

「おう! よろしくなラズベラさん!」

「よろしく。そんな大層なハンターじゃないが、今回の件に少しでも力になれるように頑張るよ」


ラズベラは一つ頷くと、持っていた大量の紙束を長机に広げる。席の前に配って歩き、黙々と仕事をこなす。イザリは座ったままそれを眺め、ヒロもしばらく手伝うかを悩んでから割り振られた席に座る。下手に手伝ってラズベラの配布手順を狂わせるより、大人しく待っていたほうが良いとヒロは判断したのだ。やがて暇を持て余し始めたイザリは、ヒロに雑談を持ちかける。


「サクタはもうG級には戻らないのか?」

「やりたいことは今のままでもできてる」

「へぇ! やりたいことって?」

「この作戦が無事に終わったら話しても良いぜ」

「え〜? 今でもいいじゃん! な! ちょっとだけ!」


そろそろ無視しようかヒロが悩み始めた頃、ふとラズベラがこちらを見ていることに気が付く。怪訝そうな、しかし意外そうな表情。彼は自分が元G級であることを知らなかったのだろうと思い、ヒロは気まずそうに笑う。


元G級ということは、古龍と対峙したことがあるのか」

「あー、さすがにソロでは無いぞ。色々アクシデントが重なった結果ってのはあるが」

「でもサクタ、こないだバルファルク討伐したんだろ?」

「あれは異例中の異例だ」


奇しき赫耀のバルファルクを討伐した戦績から、上位ハンターであるヒロとカンジにはG級昇格試験の案内が届いていた。カンジはひとまず保留しているらしいが、ヒロはすっぱりと断っている。かつてG級だった頃が楽しくなかったと言えば嘘になるが、今の方が好ましいとヒロは感じるのだ。

実質的なハンター職の最高位であるG級は、人類に尊敬または畏怖される存在である。その数は大陸規模で見ても限られた数しか存在せず、ラズベラがG級ハンターだったヒロに興味を持つのも理解できる。


「勿体ねぇなぁ。うちの生徒たちは皆G級ハンター目指して頑張ってんのに」

「上位ハンターを目指すなら応援するが、進んで“厄災殺し”を担おうとするのは一旦止めてやれよ」

「可愛い生徒の夢は応援したいじゃん?」

「道中で何があってもか」

「そこらへんは自己責任だからな!」


ワハハと笑うイザリを、ラズベラが訝しげに見ている。言いたいことは分かるぞと、ヒロは内心ラズベラに同意する。イザリという教官は、どうにも人間の常識から外れた感性を持っているらしい。ヒロは出会って数日で会話に滲む違和感からそれを察したが、ラズベラは出会って数分で理解したようだ。

ガチャリ
扉の開く音で、会話が途切れる。そこには重厚な武具に身を包んだ、左半分の顔が焼け爛れている男が立っている。一流ハンターの気配と以前出会った時の乱舞を思い出し、ヒロは納得する。なるほど、彼がアルドアが、『禁忌へ会いに征く』候補なのだと。


「サクタはこないだ会ったばかりだが、そっちの二人は初対面だったか?」

「はじめまして。オレはラズベラ、アンタはアルドアだな。よろしく頼む」

「よろしくなアルドアさん! オレはイザリ!」

「前はありがとう。今回もよろしく、アルドアさん」

「ああ、よろしく」


形式上の挨拶を終えれば、アルドアはそのまま歩み割り振られた席に座る。配られたばかりの書類を眺めながら、イザリとは違う種類の笑みをうっすらと浮かべ会議の開始を待っている。
彼もまた、どうしようもないほどの“探索者Investigator”である。未知なる恐怖に挑み、そして勝利を奪い取ってきた。歴戦のハンターである彼は今、どれほどの興奮を抱えているのだろうか。ヒロは考えるが、無粋なことだとすぐ思考を打ち止める。


その後、集まった各地区代表者たちによる『ミラボレアス討伐クエスト』の具体的な作戦が練られた。これはただモンスターを狩猟するだけの依頼、作戦ではない。人類の存続を賭けた、文字通り神との戦いなのだ。決戦の地として長い会議の末に選ばれたのは、かつてミラボレアスに滅ぼされた国の跡地。

他モンスターを跡地から隔離する部隊、物資を補給する部隊、狩猟環境を整地する部隊、固定砲台や竜撃砲を設置する部隊……計画を練れば練るほど、人材と物資の必要量は増えていく。ガーディアンであるラズベラが会議の議題と提案を示し、ヒロはその作戦を上位ハンター視点で語り、イザリはハンター教官として育成と実力を見極めた部隊配置を行う。アルドアといえば、最後の議題まではほとんど口を開かなかった。


そうして進んだ会議。最後の議題は、狩猟する部隊の選別。神と対峙し、それを狩る重大で恐ろしい役目。しかしこの題は、数分とかからずに結論が出された。他に候補が居なかった訳では無いし、彼らである必要性は高くない。しかしそれでも、彼らは自ら名乗りを上げ笑ったのだ。立ち上がり、手を掲げ、武器を握り、旗を背負って、こう告げる。そうした以上、他の者たちが反対することはできない。




「蹂躙するのは、オレたちだ」